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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十一章:学園~二年目の始まり~
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第416話:野外演習に向けて

ルーシャが最上位クラスに馴染んだ頃、二年生最初のイベントがやって来た。

昨年も行われた野外演習である。


昨年は学園から徒歩二日ほどの距離にある森にクラスごとに向かい、森の中心にある湖のほとりで一泊して帰ってくる。

と言うのが表向きの内容だった。

実際は、森にいるゴブリンと遭遇させ、魔物の恐怖を理解させるのと同時に、学園に慣れ緩みがちな生徒の気を引き締めると言う、荒療治的なイベントである。


昨年を経験した二年生達は、森にゴブリンがいる事を既に知っている。

レキ達最上位クラスに至っては、逃げずに立ち向かい何匹か倒してすらいるのだ。

今更ゴブリン程度、臆する者はいない。


「うぅ・・・」


ファラスアルム以外は。


「えっと・・・本当にですか?」


その話を聞かされ、ルーシャは半信半疑だった。


ライカウン学園では野外演習という行事自体無かったらしい。

考えてみれば当然である。

魔物討伐も視野に入れ、一年生の頃から武術にもそれなりに力を入れてきたフロイオニア学園と、あくまで自衛の為最低限の武術しか習わないライカウン学園。

魔術に関しても、フロイオニア学園は純粋に戦う力を身に付ける為に鍛錬しているが、ライカウン学園は精霊に通じているという理由で習っている。

魔物を倒す為に習っているわけでは無いのだ。


そんなライカウン学園で、魔物と遭遇する可能性のある野外演習など行うはずが無い。

仮に遭遇しても、ルーシャを始めとしたライカウン生徒の多くは戦う術もなく殺されてしまうかも知れない。

何より、ライカウン学園は規律を重んじており、フロイオニア学園の様に気が緩むと言う事も無い。

野外演習を行う必要が無いのだ。


ルーシャが、野外演習と言う荒療治イベントをいぶかしむのも当然だろう。


なお、ルーシャが半信半疑だったのは野外演習の真の目的についてであり、イベント自体は理解している。

ついでに、レキ達がゴブリンを倒していると言う事もだ。

入学して以降レキ達の実力は直に感じている。

レキ達なら、ゴブリンの数匹くらい倒せるだろうとも。


野外演習は強制参加である。

期間も目的地も昨年と同じ森。

ただし、今年の野外演習はゴブリン討伐が目的である。

遭遇しなければただ行って帰るだけの楽しいピクニックのような行事になるが、そんな甘い考えが通じるほど森も、フロイオニア学園も甘くは無い。


昨年の野外演習からおよそ一年。

その間、生き残ったゴブリン達はその数を順調に増やし、今では森のいたるところを闊歩している事だろう。

ゴブリンの繁殖力は人のそれを遥かに凌駕し、数だけならどんな魔物よりも多いとすら言われているほど。


森に入り、ゴブリンに遭遇する事無く中央の湖までたどり着くなど、一流の冒険者でも難しい。

適当に相手をしながらの方がまだ楽とすら語る者もいる。


レキ達だって昨年は何匹か倒している。

とはいえ、昨年のレキ達は、いやレキ以外の生徒は何とか撃退できた程度で、若干二名ほどは殺されかけもいる。

まだまだ油断できる相手ではなく、もちろん油断をするつもりは誰も無い。

約二名、昨年のリベンジに燃えてすらいる。


「う~ん」

「うぅ・・・」

「えっと・・・本当にですか?」


なお、ファラスアルムはやはり尻込みし、ルーシャは学生でありながら魔物の討伐に行く事にいぶかしみ、レキは何故か首をかしげていた。


――――――――――


「では早速野外演習について話し合いをいたしましょう」


今年の野外演習は昨年といろいろと異なる。

まず、今年は二年生全体で一度に行われる点。

二年生全百名で森に向かい、到着後はクラスごとに分かれて森へ入ると言うのだ。


チーム編成については各クラス内で行われる。

実力差や日頃の連携などを考え、慣れない他のクラスといきなり組ませてもまともに戦えないだろうからだ。


レキ達最上位クラスは十人。

十人程度なら一緒に行動してもさほど支障はないのだが、森の地形や木々の密集具合によっては五人ずつ二チームに分かれて行動した方が良い。

あるいはレキと他九人という分け方も無くは無いが、レキも手加減や連携にも慣れてきている事から今年は一緒に戦う事になった。


もちろんやり過ぎないよう注意はされているが。


「やったっ!」


昨年はみんなと戦えなかった事に寂しさを感じていたレキである。

レイラスからの許可に、大変喜んでいた。


持ち物に関しては昨年とほぼ同じ。

昨年は念の為という名目で持っていった武具を、今年は明確な理由で持っていく。

人によっては持ち物も増えるだろう。

弓矢を用いて戦う者なら矢は多い方が良い。

怪我をする事も想定すれば医療道具もあった方が良いだろう。

治癒魔術もあるが、魔力は節約するに越したことはない。


食事に関しては、こればかりはどうしても保存食に頼らねばならない。

レキに頼めばどこからともなく魔物を狩ってきてくれるだろうが、それでは生徒の為にならないからと狩りは禁止である。

その代わり、森の中では恵みである木の実や野草などは自由に採って良い事になっている。


目的地は昨年と同じ森。

いるのはゴブリンくらいで、強敵となるような魔物もいなければ、レキの食料になるような魔物もいない。

一応ゴブリンも食べられない事は無いのだが、毒もあるし何より不味い。

レキですら食料に困らなければ食べないという魔物だ。

フラン達に食べさせるような魔物ではない。


「ってか食べたのか!?」

「うん、美味しくなかった」


なお、干し肉にすれば美味しいかもと思い作ってみた結果は・・・毒と不味さを凝縮するだけだったそうだ。


「ああ、それとクラスの纏め役だが・・・ルミニア=イオシスでいいか」


昨年も大体この時期に纏め役を決めていた。

とは言えルーシャ以外代わり映えの無いクラスである。

ルミニアが引き続きなるのに誰も文句は言わなかった。


「ルーシャさんは良かったですか?」

「はい、もちろんです」


まだ一月も経っていないが、ルーシャの人となりは分かっている。

穏やかで優しく、今のところ自己主張もあまりしていない。

レキに対してのみ、一時は強引にお世話をしようとしていたが、ここ数日でそれも治まっている。

朝の鍛錬を通じてクラスのみんなとも仲良くなったようだし、クラスの輪を乱すような真似はしないだろう。


「んで、チームはどうすんだ?」

「そうですね・・・」


思えば、初めてレキ達がチームを組んで戦ったのも昨年の野外演習の時だった。

十人で固まって戦うより男子と女子で別れて戦った方が連携も取りやすいからと、女子はルミニアを中心に、男子はガージュを指揮官に置いてゴブリンと対峙した。


レキは強すぎる為単独行動している。


今回の野外演習、一応十人で行動する前提で計画を練ってはいるが、場合によっては分かれて行動する事もあるだろう。

いざという時を考えれば、今のうちにチームを考えておいた方が良いはずだ。


昨年は男子と女子がちょうど五人ずつだった為、単純に男女で分かれる事が出来たが・・・。


「男子四人と女子六人・・・」

「実力的にはむしろ」

「いや、六人では・・・」

「そうですね、武闘祭の事もありますし・・・」


チームは五人、というのはあくまで武闘祭のルールである。

野外演習に限って言えば、何も五人ずつに分かれる必要はない。


何より、野外演習で行われるのは実戦であり命のやり取りである。

敵は群れをなす魔物ゴブリン。


昨年より若干早い時期に行われるこの野外演習は、後に行う一年生が少しでも安全に終えられるようゴブリンの数を間引きする為でもある。

故にチームの人数を意識する必要は本来無い。

ただ、あまりチームの人数が多いと指揮が出来ず連携が乱れ、余計な被害が出る恐れがある。

ただでさえ戦いづらい森での戦闘だ。

ルミニアとガージュという指揮官を中心に、あらかじめ二チームの編成を考えておくべきだろう。


「戦力的に分けるなら・・・」

「レキと他九人とか?」

「えっ!?」


元々、最上位クラスは二年生でも上位の生徒の集まりである。

その実力は他のクラスに比べても高く、どう組み合わせてもそれほど差は出ないだろう。

しいて言うなら、レキがいるかいないかくらい。

そのレキ以外の生徒も昨年から大きく実力も伸ばしており、ゴブリン相手だろうと簡単には負けないはずだ。


もちろん油断は禁物。

だが、昨年と違い今度はレキも一緒に戦う為、万が一の事態も起こらないだろうという安心感が、ルミニア達にはあった。


「試合で決めれば?」

「いえ、まずは希望を取りましょう」


よって、チーム分けは実力などより本人の希望を聞いて決める事にした。

野外演習は当然、その先の武闘祭なども見据えた上での提案であった。

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