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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十一章:学園~二年目の始まり~
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第410話:ルーシャの想いと選択授業について

他者を羨む事なく、ただ己の努力不足を嘆いていたルーシャ。

そんな悶々とした想いは、続くレキの魔術を見て抱えいていた悩みが晴れた気になった。


最上位クラス一の魔術の使い手にして黄金の魔力を持つ光の精霊の申し子レキ。


今回の授業の目的は、現時点での実力を見せる事。

つまり今使える最高の魔術を放つ事にある。

四系統全てにおいて上位系統へと至っているレキは、現時点で自分が使える最高の魔術を行使した。


「えいっ!」

「きゃっ!」


最初に放ったのは青系統の上位である紺碧系統のアズル・ランス。

レキのかざした手の上に生まれた氷の槍が、魔木の的の中心に突き刺さりその全てを凍てつかせた。


「えいっ!」


続けて放たれるのは赤系統の上位、真紅系統のグリム・ランス。

炎によって形成された槍が、先ほど凍らせた魔木の的を燃やし尽くす。


「えいっ!」


的が完全に燃え尽きた事を確認したレキが、大地に手をつき魔術を行使する。

先ほどまで的があった黒く焦げた場所から生まれたのは、黄系統の上位である雄黄系統のオプリ・ランス。

石で出来た槍が地面から生まれ、雄々しく聳え立った。


「えいっ!」


そして最後、天を指さしたレキが魔術を行使する。

緑系統の上位、深緑系統のダルク・ランス。

空に発生した雷の槍が、狙い過たずオプリ・ランスで生まれた石の槍を穿ち、粉々にした。


「・・・ふぅ」

「ファラ~!」


神々しいまでの黄金の魔力に身を包み、上位系統の魔術を次々に無詠唱で行使するレキ。

いつも通りファラスアルムが感激で気絶する中、ルーシャはその一部始終を食い入るように見ていた。


放心していたとも言う。


レキの魔力と魔術は、そして何より魔術を行使するレキの姿は、確かにファイナや教皇が熱く語るほどに神々しかった。

あの姿を見て光の精霊の申し子だと思わないライカウン教国の住人はいないだろう。

ファイナがあれほど心酔するのも当然だった。

何故なら、ルーシャもまたレキに対し心からの崇敬の念が今まさに生まれたからだ。


レキを光の精霊の申し子様と称したのはファイナ達に言われたから。

黄金の魔力はおろかレキ本人すらも見た事のないルーシャが、それでもレキに対して敬意を抱いていたのは、ライカウン学園での教えがあったから。


孤児院で見た神話の絵本、あるいは孤児院に飾られていた創生神や精霊達の絵画。

あるいはライカウン学園で学んだ精霊学。

それら全てがルーシャの信仰心の元である。


だが、そんなルーシャの学んできただけの信仰心ではなく、心からの信仰心が生まれるほどに、レキの姿はルーシャに神々しく映った。

黄金の魔力を纏うレキの姿は、ライカウン教国に伝わる光の精霊の申し子そのものだった。


ルーシャはライカウン学園で一年間精霊学を学んできた。

この世界の成り立ちからそれぞれの精霊が果たした役割。

生きとし生けるものを正しく導く精霊達は、高名な画家が残したという絵画と共にライカウン教国に伝わっている。

もちろん実際に創生神や精霊の姿を見た事のある者はいない。

それでも、画家の残した創生神や精霊達の絵姿は、一年間学んだ精霊学も手伝いこれこそが創生神、精霊様のお姿であると思えた。


その絵画に描かれている精霊。

男とも女とも、純人とも森人とも分からない姿ではあるが、黄金の魔力を纏い人々を導かんとするその姿が、魔力を纏い魔術を行使するレキの姿に重なって見えた。


あれがレキ様。

あれが光の申し子様。


気が付けば、ルーシャはいつかのファイナ達同様、その場に跪いて祈りを捧げていた。


――――――――――


「あなたは一人ではありません。

 精霊様が常に見守って下さっています」


孤児院の子供達はそう言われて育ってきた。

親に捨てられた子供、魔物や野盗に親を殺され天涯孤独となった子供。

親に捨てられ、あるいは亡くした子供達は、この世界に放り出された孤児である。

だが、そんな子供達を光の精霊様が親に代わり見守って下さっている。


そう言われて素直に信じられる子供などそうはいない。

特に、親に愛され、そして失った子供などは「だったらなぜお父さんやお母さんを助けてくれなかったの!」と精霊に恨み言をぶつける事すらあった。

そんな子供達に対し、親に代わり愛情を持って接してくれたのは、精霊ではなく各孤児院を運営する職員達だった。


最初は絶望に嘆き悲しんだ子供達も、愛情を持って接してくれる職員達に次第に心を開いていく。

孤児院の子供達はそんな職員を父や母の様に慕うようになり、やがて孤児院は一つの家族のようになっていく。

年上の子供を兄や姉のように慕い、年下の子供を弟や妹の様に面倒を見る。

そして、新たな家族をくれた精霊に感謝をするようになるのだ。


ルーシャの親は、近くの街へ買い出しに行く途中魔物に襲われ命を落としている。

まだ幼かったルーシャは、その日は隣家に預けられていた。


数日程度なら預かる事も出来るのだろう。

だが、親を失った幼子を育てられるほど隣家も裕福では無く、ルーシャは物心がつくより前に孤児院に預けられたのだ。


幼かったが故に自分がなぜ孤児院に預けられたのかを理解できず、ただ親がいない事に泣きくれていたルーシャ。

彼女もまた、精霊を最初は恨んでいた子供の一人だった。

姉の様に慕うファイナや優しい孤児院の大人達。

ルーシャを慕う年下の子供達に囲まれて過ごすうち、ルーシャもまた己の境遇を受け入れ、そして精霊に感謝するようになった。


実の両親は亡くなった。

それでも優しい姉や孤児院の大人達、可愛い弟や妹に出会わせてくれた事に感謝していた。


そんな孤児院には、ライカウン教国に伝わる創生神や精霊の絵画が飾られていた。


――――――――――


レキは光の精霊ではない。

ルーシャが孤児院で暮らしていた頃、レキは今は無い村か魔の森か、あるいはフロイオニアの王宮にいた。

当然ルーシャを見守っていた事も無ければ、ルーシャの事など知るはずも無かった。


それでもレキの黄金の魔力はルーシャが孤児院でよく見ていた光の精霊を彷彿とさせるには十分で、彼女の胸には初めて孤児院に来た日から今日までの様々な思い出が蘇っていた。


いつの間にか、ルーシャの目から涙が零れていた。


神々しいまでの魔力を前に、これまでの日々が脳裏に蘇る。


隣家で両親を待っていた。

帰ってこない親をそれでも待っていた。


孤児院に連れられ、最初はそこで親が待っているのだと思った。


いつまでも迎えに来ない親。

幼いルーシャも気づく。

気づき、泣き、嘆き、悲嘆にくれ・・・。


そんなルーシャの傍には孤児院の大人達が、同じ境遇の子供達がいた。

ルーシャが気付かないだけで、ルーシャは独りでは無かった。


温かさすら感じる魔力を受け、自分の中にある魔力が震えていた。

ファラスアルムが気を失うのも当然だろう。

ルーシャだって、この心の奥からこみ上げてくる想い抑えるのに必死で、気を抜けばファラスアルム同様意識を無くしてしまいそうだった。


光の精霊は本当にいた。

亡き両親に代わり、私の事を見守って下さっていた。

何故なら、その申し子であるレキ様が目の前におられるのだから。


自分の今までの努力や苦労は今日この日の為にあったのでは・・・。

そんな想いすら浮かんでくるルーシャである。


ルーシャが我を取り戻したのは、魔術の授業が終わる直前だった。


――――――――――


他国の者からすれば、ライカウン教国の信仰心は異様に映るかも知れない。

だが、ライカウン教国の者達は神学や精霊学を通じ、創生神や精霊を信仰し、何よりその存在を信じてきた者達。

そんな者達からすれば、創世神話に語られる輝くばかりの黄金の魔力を纏ったレキの存在は、信じてきた存在が目の前に降臨したようなもの。


憧れの存在に出会えた喜び。


それはミリスに憧れる女性に似ている。

だが、ミリスは実在の人物であり、見知った者も言葉を交わした者も、剣を交えた者すらいる。

対して、創生神や精霊と出逢った事があるという者はこの世界にはいない。

過去にはそう言って人を騙そうとした者もいたが、騙された者は皆無だった。


ミリスに憧れ騎士を目指し、晴れて騎士となった女性がミリスと出逢い感激に打ち震える。

騎士になればミリスに会えるという確証があるのと違い、創生神や精霊はどれだけ憧れようとも会う事は出来ない。

創世神話や信仰の中の存在なのだ。

それでも信仰を捧げてきたのは、その存在を信じてきたから。


見返りを求めた訳では無い。

信仰を捧げ続ければ会えると考えていた訳でもない。

それでも会えるなら・・・そう考える者は少なくなかった。


中には、自分がこれほどまでに信仰を捧げているのになぜ応えて下さらないのか!

などと筋違いな恨みを抱いた者もいただろう。

幼い頃のルーシャの様に、なぜ助けて下さらなかったと恨みを抱いた者もいただろう。


精霊は何も応えない。

それでも信仰を捧げてきたのは、存在を信じてきたから。


その信仰は確かに届いた。

創生神や光の精霊のごとき黄金の魔力が実在した。

つまりレキは、創生神や光の精霊が存在すると言う確かな証明なのだ。


幼い頃から信じてやまなかった存在。

それが証明された事に対する歓喜と涙。

自分達の今日までの信仰が、信じてきた存在が確かに実在していたという証明。


他国の者には異様に映るかも知れない。

それでも、ライカウン教国の者達の信仰心は本物であり、他国の者には分からずとも歓喜に打ち震えずにはいられないのだ。


――――――――――


心を落ち着かせつつ演習用の服から着替えたルーシャは、フラン達と一緒に教室へと戻ってきた。

意識を失っていたファラスアルムは、数分もしない内に意識を取り戻している。

意識を失うのも、取り戻すのも慣れているようだ。


わいわいと賑やかに教室に戻ったレキ達は、本日最後の授業である座学を受けた。

二年生からは選択授業が始まるが、初日の今日はその説明と各自どの授業を受ける事になったかの通達である。

一人が受ける科目は三つ。

それを日替わりで受けるのが、この学園の選択授業である。


「詳しくは今から配る用紙に書いてあるので確認するように」


順番に配られた用紙を確認するレキ達。

用紙には各自が受ける科目名と、授業が行われる教室が記載してあった。


「魔物学ってここなんだ」

「え?」

「僕もそうだね」


一年生の学舎と違い、二年生の学舎には使われていない教室も多い。

通常の座学で使用されない部屋は、選択授業で使用されるようだ。


「俺、別の部屋なんだけど」

「あ、あたしも」


選択した生徒数の多い科目については、教室の広さの関係上二~三部屋に分かれて行われる事になっている。

一部屋で受けられる生徒の最大人数は三十人。

部屋割りは、クラスに関係なく座学の成績順であった。


レキの成績は一年生全体で見ればそこそこだが悪くはなく、魔物学はどうやらフラン達と同じ部屋で受けられるようだ。

残念ながらカルクとミームはレキ達と同じ教室で受けられる成績では無かったようだが。


「「そんな~・・・」」

「これに懲りたら真面目に勉強する事だな」


ガージュの小言も耳に入らず、二人は仲良く肩を落とした。

その分、植物学はカルクとミームもレキと同じ教室で受けられるようだ。

なお、これは植物学を選考する生徒が少なかっただけであり、希望者が多ければ魔物学同様別の教室になっただろう。


「む~、分かってはおったが」

「仕方ありません。

 私達には学ばなければならない事がありますから」


自由に決められるとは言え、フランやルミニアと言った高位の貴族にとって帝王学は避けて通れない授業である。

王族であるフラン、公爵家の子女であるルミニアは、将来国を支える一員となる。

学ばない訳には行かなかった。


必然的にこの科目ではレキとフラン達は分かれる事になるが、選択科目はあと一つある。

将来の為に自信に有益な授業を選ぶか、想いを優先しレキと同じ授業を選ぶか。


ルミニアが選んだのは、将来の為になると同時にレキと同じ授業でもある地理学だった。


「植物じゃないの?」

「迷ったのですが・・・」


ルミニアの母親は体が弱く、数年前までは良く寝込んでいた。

その原因は体内で生成される魔力量が極端に少なかった事。

自然消費される魔力と生成される魔力量がほぼ等しく、魔力を使いすぎると回復するまで時間がかかってしまうからだった。


原因も判明し、魔素を多く含む野草や木の実を中心に食事を摂る事により、今ではルミニアの母親もすっかり良くなった。

もし、ルミニアに野草や木の実などの知識があったなら、もっと早く母親は回復したかもしれない。

今からでも植物学を学べば、あるいは母親のような存在を救う事が出来るかも知れない。


母親の件もあり、ルミニアも随分と迷った。

だが、植物学を学びたいと言うのはルミニアの後悔から来る想いなのかもしれない。

そう考え、ルミニアは地理学を選んだのだ。


ルミニアは将来フランを補佐し、更にはレキをも補佐するつもりでいる。

広いフロイオニア王国を治め、外交なども担うであろうフランと、この大陸を渡り歩くであろうレキを補佐する為、地理学は必須だと考えたのだ。

レキも地理学を取っている為、ルミニアは選択授業の内二つの科目でレキと一緒になった。


なお、フランもルミニア同様地理学を選択している。

一応自分で考えた上での選択ではあるが、ルミニアと一緒が良いと言う考えも大きかった。


他のクラスメイトは以下の通り。


ユミは魔物学と植物学、そして商学。

ミームもユミと同じ三科目を選んでいる。

ファラスアルムは魔物学、精霊学、植物学。

ルーシャは魔物学、精霊学、商学。

ガージュとユーリは魔物学、帝王学、商学を。

カルクは魔物学と植物学、そして鍛冶を希望した。


「ミームが商学?」

「なによ」


父親の影響なのだろうか。

あるいは母親が以前狩った魔物の素材を二束三文で買いたたかれていたと言う過去を知り、そうならない為に選択したのかも知れない。


ユミが選んだのは、少しでも領主様の役に立ちたいが為だ。


「ファラさんも神霊学を」

「は、はい」


森人だからか、ファラスアルムはルーシャと同じく神霊学を選んでいる。

レキという光の精霊の申し子と見紛う存在が身近にいるからか、最近では精霊への興味も尽きないようだ。


「は~、ガドと一緒だと思ったんだけどな~」

「カルク・・・」

「あ、すまねぇ」


カルクが鍛冶を選んだのは、冒険者として活動中簡単な武器の手入れくらい自分で出来るようになった方が良いと考えたから。

正確には、そうガドに助言を受けたからだ。

分からない事があれば教えてくれよなとガドに頼み、ガドも「む」と頷いてくれた。

だからこそ、カルクは鍛冶を選んだのだ。

ガドと一緒ならと。


ガドがいなくなった事は割り切ったつもりだ。

ガドの将来の為、引き留めるのではなく応援する為に、レキ達は心の整理を付けた。


だがそれでも。


一年間共に学び、寝食を共にし、共に泣き、笑い、戦った仲間のガド。

いるのが当たり前だった仲間がいなくなった事に慣れるのは、まだまだ時間が必要だった。

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