第409話:ルーシャと最上位クラス
「・・・」
ルーシャは言葉を発する事が出来ないでいた。
先程のルミニアとの戦いですら、レキの実力はルーシャの予想以上だった。
さすがは申し子様。
姉様達の言う通りでした。
などと勝手に分かったつもりでいた。
レキの実力はルーシャの予想など及ばないほどだった。
ルミニアを含めた八人で挑んでもかすり傷一つ付けられない。
それでもレキは全力ではない。
ルミニアとの試合中にも聞こえていた、あれで全力では無いと言う言葉。
指南や稽古という形に見えた試合は、確かに全力では無かったのだろう。
だが、八人を相手にしてもまだ指南や稽古という形に見えるのだから、レキの全力とはいったいどれほどの物なのだろうか・・・。
戦闘には興味の無いルーシャですら、レキの全力には興味が沸いてしまう。
「・・・そういえば」
ふと、フロイオニア学園に来る前、ファイナに聞かされた言葉を思い出した。
ファイナを始めとしたライカウン教国の人が、思わず跪き、頭を垂れて祈りを捧げたくなったその理由。
黄金に輝く魔力。
「黄金の魔力を纏い戦う様子は、まさに光の精霊の申し子様とお呼びするに相応しいお姿でした」
「魔力を纏う」というのはすなわち魔力による身体強化の事に違いない。
普通、魔力は人の目には見えないが、レキの魔力だけは例外である。
それこそが光の申し子たるゆえんらしいが、実際は人の目にも見えるほどの高密度だからだ。
レキの全身から溢れ出す黄金の魔力。
それがファイナ達には神々しく見えたのだろう。
その光景を思い出したのか、ルーシャに語るファイナは実に恍惚とした表情をしていた。
どれほど素晴らしかったのでしょうか。
見れなかった事を悔しく思い、だからこそ編入枠を勝ち取れた時は心から喜んだ。
ライカウン教国に住まう全ての人が、ファイナや教皇ほど創生神や光の精霊を崇敬しているわけではない。
創生神や光の精霊への信仰心を抱いている者は多いが、その度合いには当然個人差がある。
跪き、頭を垂れ、感涙し、レキを差し置いて優先枠に選ばれた程度で愕然とする者などライカウン教国でも一握り・・・以上はいるが全員ではないのだ。
だが、ルーシャはライカウン教国で生まれ、ライカウン学園に首席で合格し、以降もずっと首席の座を維持し続けられるほど優秀であり、つまりはライカウン学園の教えをしっかりと理解している生徒。
何よりライカウンの教会が運営する孤児院で育った、生粋の信者である。
当然、創生神や光の精霊に対する造詣も深く、信仰心もまた過分に抱いている。
編入枠を勝ち取れるほどの信仰心を抱いていたのはファイナの影響かも知れないが。
加えて、レキは一年生にして大武闘祭で優勝を果たしている。
武術なら他種族を圧倒するプレーター学園の代表を圧倒し、魔術で秀でるフォレサージ学園の四年生をその魔術で圧倒した。
しかも、無詠唱と言う森人ですら扱える者の少ない魔術を造作も無く扱い、たった一人で五人の森人の生徒を完封して見せたというのだ。
黄金の魔力を抜きにしても、尊敬するには十分な理由だろう。
レキの黄金の魔力を直に見る前ですらこんな状態なのだ。
森人がレキ様と讃え、ライカウン教国の人が光の申し子様と頭を垂れる最大の理由であるレキの黄金の魔力。
それを見たルーシャがどうなるか・・・。
武術の次はいよいよ魔術の授業である。
――――――――――
魔術の授業も武術同様、現段階でのお互いの実力を見せ合う事から始まった。
もちろんレキ達はこれまでの授業や試験でみんなの魔術の実力は知っているが、編入生であるルーシャの魔術は誰も見た事が無く、ルーシャもまたレキ達の魔術を見た事が無い。
ある意味では、これもまた自己紹介の一環なのだ。
「・・・ふぅ」
「ファラ~!」
魔術の実力は以下の通り。
レキ
フラン
ルミニア
ユミ
ファラスアルム
ガージュ
ユーリ
ルーシャ
カルク
ミーム
の順。
ライカウン教国で一番力を入れているのは座学である
特に、精霊学はライカウン教国が中心となって発展した学問である。
魔術もまた、精霊に繋がる技術という事でフォレサージ学園に次いで力を入れている。
故に自信があった。
無詠唱魔術は使えずとも、詠唱魔術ならフロイオニア学園でも十分通用すると。
だからこそ、魔術の順位を聞かされた時は信じられなかった。
武術の時以上に驚いてしまった。
順位が下の生徒から順番に魔術を放っていく。
ミームはもう少しで基礎魔術が発動しそうだった。
カルクは相変わらず初級魔術だが、それでも的にはしっかりと当てて見せた。
八位のルーシャは基本に忠実に、ライカウン学園の同学年では一番速度も威力も高い魔術を放った。
青系統と黄系統、二系統の魔術が使えるルーシャは純人族では間違いなく優秀な部類である。
詠唱魔術と言う括りで見れば上位だろう。
そんなルーシャより速度も威力も高い魔術を、七位のユーリと六位のガージュは放って見せた。
ユーリは緑系統、ガージュは赤系統。
得意な系統こそ違えど、その速度も威力も間違いなくルーシャより上だった。
「・・・凄い」
順位を聞かされた時は信じられなかった。
武術の事もあり、多分そうなのだろうと納得しようとはしたが、感情がそれを拒んだ。
あるいはライカウン学園首席と言う自負や矜持が残っていたのだろうか。
それでも、実際に目の当たりにすれば認めざるを得なかった。
レキは仕方ない。
光の申し子様たるレキ様に勝てる者などこの世界に居るはずが無い。
輝ける黄金の魔力で放たれる魔術など、それこそ創世神話に描かれた魔術に相違ないのだから。
フランやルミニアもまだ良い。
二人は学園に入る前からレキと共に、フィルニイリスというこの世界でも有数の魔術士の下で研鑽に務めてきたのだ。
優秀な師と最高の手本があれば、あれくらいの実力を身に付けるのも当然だろう。
ユミも分からなくはない。
レキに救われ、レキの魔術をお手本に頑張ったと言うのは、同じくファイナを目標に頑張ってきた自分にも共通している。
想いが強ければ強いほど、鍛錬にも力が入ると言うものだ。
ファラスアルムなら納得がいく。
彼女は森人であり、魔術に対する適性は純人であるルーシャより高い。
レキ様達に置いて行かれないよう必死に努力した結果なら、素直に称賛もできる。
カルクの魔術はこう言ってはなんだか拙く、実際魔術はあまり得意ではないらしい。
言い訳にも聞こえるが、彼の戦い方を見るに魔術を撃つより剣で切った方が早いという考えを持っているのかも知れない。
というか頭を使うのは苦手っぽい。
ミームに関しては、種族の特性上仕方ない。
それでもちゃんと魔術の練習をしているらしく、好感を持てた。
ルーシャが驚いたのは残る二人。
ガージュとユーリ。
二人も貴族の出だと言うが、入学前は魔術の基礎しか習っていなかったと言う。
話を聞く限り、同じく入学前からファイナに教わっていた自分の方が、入学した時点では上だったはず。
だが、彼等はこの一年で魔術の実力を飛躍的に伸ばしていた。
発動速度、威力、制度、どれも今のルーシャを上回っていた。
それどころかあと少しで無詠唱に至れるほどだと言うのだ。
その理由はもちろんレキ。
レキ様の魔術を毎日のように見て、手本にし、時にはアドバイスすら貰い鍛錬してきた。
おまけに講師はフィルニイリス。
腕が上がるのも当然だった。
言ってみれば環境の違い。
ライカウン学園には、彼女と競い合う者はいてもお手本となるような者が同学年にはいなかった。
同学年で一番優秀だったのがルーシャなのだ。
環境は人を育てる。
努力を怠ったつもりは無いが、遥か高みを知らなかった事がガージュ達との差なのだろう。
そんなルーシャに追い打ちをかけるかのように、ファラスアルム、ユミ、ルミニア、フランが無詠唱で魔術を放っていく。
無詠唱に関してはルーシャも聞き及んでいる。
ライカウン学園でも、ルーシャが入学した時には既に魔術の授業で教えるようになっていた。
と言っても広まり始めたのはルーシャが入学する一年前の話。
学園はおろか、ライカウン教国内でも無詠唱に至れた魔術士は一人もいなかった。
――――――――――
努力が足りなかった。
言ってしまえばそれだけなのかも知れない。
無詠唱は何も特別な魔術ではない。
ただ呪文を詠唱せずに魔術を放つだけ。
その際、イメージをより明確にする事と、今まで以上の魔力を練る必要があるだけ。
そう言われて、すぐ出来るなら苦労は無い。
ライカウン学園の魔術講師曰く。
自分を含めて無詠唱に至れないのは、それまでの詠唱魔術が足を引っ張っているかららしい。
「正しい呪文を詠唱すれば魔術は発動する」
そう思い込んでいるからこそ、呪文に頼らないで魔術を放つイメージが出来ないのだと。
呪文を詠唱しなくても魔術は発動するのだと、心から信じる。
そうする事で無詠唱に至れるのだと、ライカウン学園の講師は言っていた。
ついでに、だからこそ既存の詠唱魔術に慣れ切っている魔術士達には習得が困難なのだとも。
魔術士としての経験が長く、詠唱魔術を使い続けている者ほど無詠唱魔術の習得には時間がかかるらしい。
その話を聞き、ルーシャは自分の今までの努力が否定された気がした。
詠唱魔術を使えば使うほど、その経験が長いほどに無詠唱魔術の習得が困難になる。
入学前、ファイナに魔術を教わっていたルーシャは、だからこそ無詠唱魔術に至れないのだと考えてしまった。
それはある意味では正しい。
レキは別として、まだ幼く魔術の勉強をあまりしていなかったフラン、ルミニア。
レキ達に出会うまでろくに魔術を見た事すら無かったユミ。
この三人が入学前の時点で無詠唱魔術に至れたのは、呪文を唱えずとも魔術は発動できる事を事実として知っていたからであり、そのお手本であるレキの魔術を見ていたから。
詠唱魔術に慣れるより前にレキと出会い、無詠唱魔術に触れていたからこそ、フラン達もまた無詠唱魔術に至れたのだ。
それはある意味才能ではなく幸運によるもの。
この世界に運命と言う物があるなら、まさしくその運命がもたらした結果だろう。
嫉妬しないと言えば嘘になる。
だが、レキとの出会いがきっかけとは言え、フランもルミニアもユミも、己の弱さを変えるべく努力したからこそこれほどの実力を身に付ける事が出来たのだ。
何も出来ない無力な自分、そんな自分を守るべく倒れていく護衛の騎士達。
もう少し自分に力があればと願い、王女でありながらも努力したフラン。
敬愛するフランが自分を見舞った為に命を落としかけた。
もう二度と、自分の弱さのせいでフランに危機が訪れないよう努力したルミニア。
命と村を救ってもらったにもかかわらず、お礼もせずレキを追い出した村人達。
そんな村人たちの後悔をも背負い、もう一度レキに逢う為努力したユミ。
彼女達の努力は、あるいは想いすらもルーシャ以上。
故に、彼女達に嫉妬するのはお門違いなのかも知れない。
それに、才能や幸運だけで至れるわけでは無い事を、もう一人の生徒が証明してくれた。
ファラスアルム。
彼女は元々詠唱魔術を使っていた。
従来の魔術を身に付けていたのだ。
そんな彼女が無詠唱に至れたのは、ひとえに彼女の努力の賜物である。
森人であるが故に、詠唱魔術への慣れはルーシャ以上。
落ちこぼれと称されたが故に、彼女はルーシャより努力し、それでも報われずフロイオニア学園へとやって来た。
そんな彼女が一年にも満たない間に無詠唱へと至ったのは、それだけ彼女が努力したから。
落ちこぼれだと、一系統しか使えないからと諦めず、レキやフラン達に置いて行かれぬ様努力したからこそ、フロイオニア学園に入学して初めて無詠唱魔術へと至った生徒となった。
自分を諦めなかった結果なのだ。
彼女の努力もまたルーシャ以上である。
フランやルミニア、ユミ。
三人も含めて、無詠唱魔術に至れたのは彼女達が努力したから。
故に、彼女達の努力には敬意を抱く事が出来た。
ルーシャは優秀である。
だが、彼女より優秀な者がいない訳ではない。
ルーシャは努力してきた。
だが、彼女より努力してきた者がこの学園にはいる。
その結果が無詠唱魔術なら、やはりルーシャの努力が足りなかったのだろう。




