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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第41話:エラス恋物語

誤字報告感謝です。

夜。

はしゃぎすぎたレキとフランが仲良く眠りについた頃。

リーニャとミリス、フィルニイリスの三人はギルドで調べた情報を元に話し合っていた。


なお、久しぶりの布団とベッドにレキが感激し、潜ったり飛び込んだり飛び跳ねたり忙しかったが、その分余計に疲れたのかフランより先に眠りに落ちていた。


「フラン様もレキ君も、すっかり眠りましたね」

「よほど疲れたのだろうな、姫様などいつもより早いんじゃないか?」

「それを言うならレキこそ早い」


幸せそうな寝顔を浮かべ、寄り添うように眠るレキとフランの姿に、三人は思わず笑顔を浮かべた。

だが、いつまでも眺めていても仕方ないと、話し合いを始める。


「まず、このエラスの街の状況から確認していきましょうか」

「お願い」

「王都で聞いていた街の状況や雰囲気とは大きく異るが、何か理由が?」

「はい、ギルドの方にお聞きしました」


冒険者ギルドでそれぞれ情報を集めたリーニャとミリス。

リーニャは街の様子について、ミリスは護衛らしく周辺の魔物や依頼の状況などについてだ。

集めた情報を整理し、話し合う事で明日以降の行動に繋げるのである。


「ちなみに、王都で聞いていたエラスの状況とは?」

「エラスは最果ての街。

 魔の森に最も近く、人の生活圏の最果てにある街。

 常に魔物の脅威に晒され、訪れる者は少なく、逃げ出す者は多いが定住する者はよほどの物好きか理由のある者だけ」

「理由とは?」

「他の街を追われたり逃げ出した者達だろう」

「吹き溜まりの街、それが王都で聞いたエラスの街」


街を追われたり逃げ出した者が最終的に行き着く場所、最果ての街エラス。

魔の森と、そこに続く平原。

それらと街を分けるかのような高い壁に守られているとはいえ、一歩外に出ればそこは危険な魔物の領域となるこの街は、常に死と隣り合わせである。

そんな街に好んで移住したがる者など普通はおらず、いてもそれはよほどの物好きか訳ありの住人。

エラスの街にはそんな訳ありの住人が多く集まっている・・・ハズであった。


「西側はともかく東側はそんな雰囲気すらありませんね」

「西側とてそれほど殺伐とはしていなかったぞ?」

「歓楽街として整備されていた。

 スラムの雰囲気は薄い」


事前に聞いていたエラスの街の状況と、実際に見た街の差異について三人は確認しあう。

そこにリーニャが聞いたエラスの街の状況を加える事で、この街の実態が浮き彫りになっていく。


「ギルドで聞いた所、この街が今のようになりつつあるのは領主が代わった事に起因するそうです」

「領主の交代?」

「ええ、二年ほど前だそうです」


リーニャの集めた情報によれば・・・。


エラスの街は、少なくとも二年ほど前までは聞いていた通りの街だったそうだ。

西や東の区別なく街全体がスラムのような雰囲気で、訳アリな住民と物好きな住民、後ろ暗い住民がやりたい放題過ごしていた。

かろうじて冒険者ギルドや居酒屋、素材屋に武具屋はあったが、どの店も冒険者を対象としていた為か、街の住人や商人などは見向きもしなかったらしい。


領主自身、王都から遠いのを良い事にやりたい放題だったそうだ。

税は高く、払えない店には独自に雇ったならず者をけしかけ、店自体を奪う事すらあった。

街では諍いが絶えず、毎日のように死傷者が出る始末。

冒険者ですら、必要がなければ寄り付かない街であった。


ある意味聞いてた以上の惨状に、ミリスとフィルニイリスも黙り込む。

そんな二人を横目にリーニャの話は続いた。


街の状況が変わり始めたのは三年前。


それまで好き勝手していた領主が、とある事件をきっかけに引退する事にしたそうだ。

領主に息子はおらず、いたのは高齢になってから生まれた一人娘のみ。

街では好き勝手に振る舞う領主もこの一人娘に対しては良い父親だったそうで、街の治安も考え屋敷で大切に育てられた娘は、それはもう素直で美しい箱入り娘に育っていた。

領主は娘を溺愛するものの、そんな娘をこんな街の跡継ぎにできるはずもない。

かと言って折角ここまで好き勝手して来た街を手放すのも惜しいと考えた領主は、娘に婿を取らせて跡継ぎとし、自分は実権を握ったまま引退しようと画策したのだ。


「娘を溺愛していたくせに、よく婿を取らせる気になったな」

「それだけ引退したかった、と言うこと?」

「婿を取らせる決意をしたのは、むしろ娘の方が懇願したからみたいですよ?」


それは領主が引退を決意する更に前。


ある日、領主は所用で街を離れる事になった。

偶然にも同じ日に一人娘も遠方に居る友人宅に招かれた。

本来なら娘の護衛の為、自分が最も信頼する配下と共に自分も付き添うのだが、今回は自分も所用の為に遠方へ赴かなければならず、また信頼できる配下も自分と娘に分けるほどいなかった。

考えた挙句、領主はエラスの街の冒険者ギルドに娘の護衛を手配した。

条件は銀ランク以上。

加えて女性か、見た目の悪い男。


「・・・リーニャ?」

「いえ、本当らしいですよ?」


銀ランク以上としたのはまだしも、性別や容姿も条件に加えたのは何故か?

娘の護衛に同性を当てるのは分かる。

だが、見た目の悪い男というのは・・・。


「万が一にも娘が惚れない為、だったそうです」

「親バカ?」

「まぁ、目に入れても痛くないと豪語していたそうですから」


そうしてやってきたのは、身長は2m以上、全身を革製の鎧でつつみ、一振りの大剣を背負った禿頭の男。

鎧の隙間から見える体は筋肉で覆われ、ところどころ傷も負っていた。

一言で言えば歴戦の戦士と表現出来るその男は、領主の望んだ通り銀ランクの厳つい冒険者だった。


「なんか想像出来るのだが・・・」


想像できるのはおそらく・・・昼間に何度か見たからだろう。


それはさておき、現れた男に一人娘は驚き、怯えて泣きそうにすらなったそうだ。

娘の反応に、これなら万が一もありえまいと思った領主は、男に娘の護衛を頼み意気揚々と出かけた。

もちろんその男が娘を襲わないとも限らない為、自身の配下からも数名娘の護衛に付けたが。


こうして領主が所用に向かい、娘も泣く泣く冒険者の男を護衛に遠方の友人宅へと向かった。


道中、冒険者の男はその見た目と裏腹に実に気さくで、しかも銀ランクにふさわしい実力と知識を有しており、魔物が襲ってきては軽々と撃退しつつ冒険者の仕事で見知った様々な出来事を面白おかしく娘に語ったそうだ。

最初こそ見た目に怯えていた娘も、魔物を軽々しく撃退するその姿に恐怖ではなく心強さを感じ、気さくに話す内に怖い人から楽しい人へと認識を改めた。

そして・・・。


友人宅で楽しい一時を過ごした娘は、帰りの道中で運悪くアースタイガーと遭遇してしまった。


アースタイガーは冒険者ランクで言えば銀の上、魔銀ミスリルランクの冒険者が数人でどうにか撃退出来る程の魔物である。

魔銀ミスリルランクと言えば冒険者の中でも一握りの存在。

一人前を超えた一流の冒険者である。

そんな冒険者が数名でどうにか対処できるほどの、むしろ街の衛兵や王都の騎士団が討伐に向かうような魔物。

たかが銀ランクの冒険者が一人で相手に出来る魔物ではない。


自らの不利を悟った冒険者の男は、娘を一緒にいた領主の配下にまかせて自分は囮になるべくアースタイガーに向かい合った。


これまでの道中ですっかり仲良くなった娘は、涙を流しながら男を引き止めた。

行かないでと、一緒に逃げましょうと、男にすがりついて必死に。


しかも、娘を任せたはずの配下の者達すら、自分達も一緒に戦うと言い出したそうだ。

一人より皆で戦う方が生き残る確率が上がりますから、などと言って。


冒険者の男はそんな者達に対し、ふざけるな、冒険者が護衛対象を危険に晒すわけがねぇだろ、お前らが死んじまったらオレは冒険者失格だ、どうせ死ぬなら冒険者として死なせてくれ、などと言いながら娘と配下をなんとか逃がそうとした。


結局は間に合わず、冒険者の男はその背に娘と配下の者達をかばいながらアースタイガーと激突した。


戦いは熾烈を極めた。

本来なら銀ランクの冒険者では到底かなわない魔物である。

だが、男は銀ランクの中でも選りすぐりの猛者であり、実力なら既に魔銀ミスリルランクに達していた。

それでも相手はアースタイガー。

魔銀ミスリルランクの冒険者とて一人では到底勝てない魔物である。

男は傷つき、全身は血まみれであった。

それでもなんとか戦えていたのは、領主の配下の者達が魔術で援護し、領主の娘もまた治癒魔術で男を癒し続けていたからだろう。

戦うこと数時間、左目や頬に新たな傷を作った男の捨て身の一振りがアースタイガーの胴を切り裂き、それが決定打となりアースタイガーは地に伏せた。

男もまた、その一振りで力尽きたのかアースタイガーが崩れ落ちるのを確認した直後、同じように倒れたそうだ。


「銀ランクの冒険者がアースタイガーを・・・」

「それが本当なら勲章もの」

「ええ、実際その功績を讃えられて、試験も無しにランクが上がったそうですよ」


倒れた男に娘が泣きながら駆け寄った。

配下の者達も全力を出し切ってはいたものの、援護に徹したおかげで傷らしい傷もなかった為、すぐさま男を馬車に乗せ急ぎエラスの街へと帰還した。

馬車の中でも街に着いてからも、娘は男を治療し続けた。

配下の者達も領主の許可を取らず男を屋敷へと連れて行き、屋敷の治癒魔術士を総動員して男を治療した。

そうして治療し続けること三日、男は一命を取り留めたそうだ。


「・・・まさに英雄譚だな」

「それに王道の恋愛譚でもある」

「ふふっ、まさにその通りです」


その後、男は治療してくれた娘や配下の男、屋敷の治癒魔術士達に礼を言い、屋敷を後にした。

だが・・・その時既に、娘は男にぞっこんであった。


「まぁそうだろうな」

「まさに王道」


男はその後もエラスの街で冒険者を続け、娘もまた何かあれば男に依頼を出しては逢瀬を重ねた。

そしてしばらくの後、引退を考えた領主がたわむれに娘に誰か良い男はいないのかと聞いた所、喜々として紹介されたのがその冒険者の男であった。


「よくその領主が認めたな」

「見た目は悪くとも人柄に問題は無く、実力もあります。

 アースタイガーの一件で魔銀ミスリルランクになっていますし、何よりその英雄譚は街中に広まっていました。

 娘の恩人でもありますし、なにより娘さんの方がぞっこんでしたので」

「領主の配下の働きかけもあったのでは?」

「はい、その通りです」


命がけで娘を救った男。

実力は言うまでもなく、娘どころか領主の配下からも信頼されており、その人柄に申し分は無い。

エラスの街を拠点として活動し続けているようで、街の事情にも明るく顔も広い。

そして何より・・・溺愛する娘がどうしてもと望んだ男。

この方じゃなければ結婚しません、むしろ親子の縁を切ってでも嫁ぎに行きます!

などと熱弁され、最終的には縁を切られるくらいならと、領主は娘と男の結婚を認めたそうだ。


「めでたしめでたし、だな」

「違う、本題はこれから」

「ええ、その通りです」

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