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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第40話:料理と冒険者と

「ふっふ~ん」

「嬉しそうじゃな、レキ」

「へへ~、いいでしょ」

「う~む、わらわには良く分からんのじゃ」

「え~、でも綺麗だよ?」

「うむ、それは分かるのじゃ」

「でしょ」


憧れのミスリルの剣を手に入れたレキはご機嫌である。

女の子だからなのか、それとも剣に興味がないからか、フランにはいまいちその良さが伝わらないようだが、レキが嬉しそうにしているのだけは分かった。


「レキ君も男の子なのですね」

「いや、剣士なら分からんでもないな」

「どうせなら杖も買えば良かった」


そんなレキを見守る三人。

それぞれ思うところはあるが、それでも喜ぶレキを温かく見守っている。


「次はどうする?」

「そうですね、あと必要な物は・・・」

「食料、天幕、毛布、薬、地図・・・」

「お腹空いたのじゃ」

「あ、オレもっ!」


これまでも、決して不必要な行動を取っていたわけでは無い。

ただ、レキが予想以上に食いついたりちょっとしたトラブルに見舞われたりと、ここまで予想以上に時間を取られてしまっていた。

時刻は間もなく夕方。

お子様二人がお腹を空かせてしまっているようだ。


「そうですね。

 時間も時間ですし、今日はこの辺にしておきましょうか」

「天幕や毛布なんかは明日、馬車を入手してからの方が買いやすいしな」

「食料も明日で問題ない」


「「じゃあ!」」

「ええ、食事にしましょうか」

「「やった~!」」


飢えた子供二人が両手を上げて喜び、リーニャ達大人が思わず笑顔になった。


そうしてやってきたのは、どこにでもあるような料理屋だった。

ギルドの傍や歓楽街にあるような酒を中心とした居酒屋ではなく、純粋に料理を味わう店。

ここにいるのはお子様二人と女性が三人。

ミリスはあまり酒を好まず、フィルニイリスは酒より菓子を好む。

唯一リーニャだけが酒を好み、またその強さも尋常では無いのだが・・・今日は止めておくそうだ。


「フランやレキ君の前で酔うわけにはいきませんからね」


とはリーニャの台詞。


店内は、食事時をわずかに過ぎていたからだろう、客は少なかった。

それでももっと人がいても良さそうなものだが、そんな疑問が顔に出ていたのだろうか?

尋ねるより前に、店員がこんな事を言う。


「夜はどうしても料理店より居酒屋の方が混みますからね。

 何よりここはエラスの街ですので・・・」


要するに、日が沈み始めたこの時間は酔っぱらいが誕生する時間であり、この店のような純粋な料理屋は昼に比べて夜の客はどうしても少なくなるらしい。

あわせて、エラスという人の出入りの少ない街では新たな客も滅多に訪れず、夜の料理屋はどうしてもガランとするとの事。


「落ち着いて食事が出来るのは良い事ですよ」

「居酒屋の喧騒も嫌いではないが、静かに食べるのも悪くはない」

「私はこの方が良い」


「お腹空いたのじゃ」

「オレも」


リーニャ達のフォローをよそに、腹を空かしたお子様二人が足早に席に着いては早く食べたいと訴えてくる。

そんな子供達の素直な行動こそが、何よりのフォローになったようだ。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「えっとね」

「わらわはコレっ!」

「またそんな甘い物を・・・」

「店のおすすめを」

「モツ煮」


席に着き、レキ達は思い思いに注文する。

フランは普段なかなか食べられないお菓子系を、そんなフランに小言を言いつつリーニャは定食とサラダを頼んだ。

ミリスは店のおすすめであるダークホーンの肉野菜いためを、フィルニイリスはモツの煮込み料理、最後まで悩んだレキはリーニャ達の意見に従い焼肉を大盛りで頼んだ。


「そんなに食べれるのか?」

「大丈夫っ!」


注文を終え、料理が来るまでの間街でのあれこれを楽しく語り合う五人。

レキは街へ来たこと自体初めてであり、冒険者ギルドにミスリルの剣という憧れていた事に触れたり手に入れたりで、今までにないくらいご機嫌だった。

今日のように自由に街を散策したことのないフランも、レキに負けずとご機嫌だ。


「おまたせいたしました」


楽しくおしゃべりしていれば、料理を待つ時間などあっという間。

レキ達のテーブルに料理が運ばれてきた。


「お~・・・」

「美味しそうじゃな」

「デザートを食べる前に私の定食とサラダも少し食べなさいね」

「わ、わかっておるのじゃ」

「ダークホーンは一昨日も食べたよね?」

「うん、まぁいいじゃないか」

「・・・ハツは入ってる?」


目の前の料理から漂う美味しそうな匂いに、レキ達の意識は食事へと移行していった。


「早速いただきましょう」

「うん!」

「・・・いただきます」

「いただきますなのじゃ!」


フランが早速とばかりにデザートに手を伸ばそうとし、それをリーニャが防ぎつつ取り分けた定食とサラダをフランの前に置く。

不満そうな顔をリーニャに向けるフランだが、リーニャのどこか恐ろしさを感じさせる笑顔に負け、仕方なしに定食を口にした。

そんなフランに今度は普通の笑顔を向け、リーニャも食べ始める。


ミリスは頼んだダークホーンの肉野菜炒めをガツガツと食べ始めた。

どうやらダークホーンの肉はミリスの好物らしい。

後で聞いたら自分の故郷でもよく食べていたそうだ。

少し懐かしそうに、でもモリモリ食べているのはそのせいだろう。


ミリスの横では、フィルニイリスがマイペースに料理をつついている。

「ホルモン・・・ミノ・・・」などといちいち確かめながらも、顔は満足げである。

森の小屋でもオークの内臓を食べていたので、おそらく好みなのだろう。

一つ一つゆっくりと口に入れつつ、その顔は終始笑顔であった。


レキはというと・・・。


「お~・・・」


目の前に置かれた料理をしばらく見続けた後、ゆっくりと先の割れた匙で肉を食べる。


「・・・」


無言で咀嚼していたレキが、ごくんと口の中の物を飲み込む。

今まであれほど騒がしかったレキが急に一言も発しなくなったことに、フラン達が何事かとレキの顔を見た。


「レキ君?」

「レキ?」

「ど、どうしたのじゃ?」

「・・・レキ?」


「・・・お」

「「「「お?」」」」

「おいしいっ!!」


カッと目を開き、匙を片手にレキが叫んだ。

よほどその料理が気に入ったのだろう、以降はただひたすらに料理を口に運んでいった。


村を野盗に襲われ、逃げ延びた魔の森で一人生きてきたレキである。

食べていたものと言えば、森で狩ったさまざまな魔物の肉と森の木の実や野草、あと小屋の裏手に生えている野菜(毒草)。

肉は焼いて、木の実や野草、野菜(毒草)は軽く洗ったり切ったりするだけで、基本的にはそのまま食べていた。

それらは十分美味しくはあったが、そのまま焼いた肉と何も手を加えていない木の実などは結局素材の味そのまま、料理とは呼べない。

日によって狩る魔物を変えたり木の実や野草、毒草(野菜)の組み合わせを変えはするものの、素材以上の味は無くただただ単調だった。


だからだろう。

数年ぶりに食べた"料理"にこれほどまでに感動したのは。


一噛みごとに出てくる様々な味。

口の中で暴れるのは肉の味と上にかかっているソースの味。

肉そのものの味が薄いせいか少し濃い目のソースは、様々な果実と野菜の味が調和した素晴らしいものであった。


ソースの味に隠れてはいるが、肉の味もしっかりと感じられた。

ただ焼いただけでは決して味わえない、さっぱりとしつつ下味も付けられた、つまり調理された肉。

それが絡めたソースと一緒になって口の中に広がった。


ここ数年間味わったことのない複雑な味がレキの口の中に広がり、思い出させられたのは村で食べていた母親の料理。


毎日泥だらけになるまで外で遊び、狩りから戻った父親と共に体を洗い、そして母親が作った料理を食べていたあの頃。

ただ焼いただけじゃない肉料理は、父親が狩って母親が料理した、素朴ながらも美味しいレキの大好物だった。

たまにレキの嫌いな苦い野菜も混ざっていたりしたが、涙目になりながらも食べれば父親も母親も誉めてくれた。


もう二度と味わうことの出来ない母親の料理を思い出しつつ、レキは笑顔で料理をほうばった。


――――――――――


「レキ君・・・」

「レキ・・・」

「レキ」


目じりに光る涙に気付いたリーニャ達が見つめる中、レキは笑顔で食事を続ける。

一口目は噛みしめるように、二口目からはミリスに負けないくらい元気にモリモリと。

頬がパンパンになるくらい口に含んでは、モグモグと口を動かし、ごくんと飲み込んではまたモリモリ口に含んでいく。


「おかわりっ!」

「ぬあっ、レキ早いのじゃ!」

「へへ~ん」


レキの食べっぷりに対抗心を抱いたフランと、そんなフランに笑顔を見せながらレキは食事を続ける。

そんなレキにホッとしながら、三人も食事を続けた。


その後はまた賑やかな食事が続いた。

レキに対抗したフランが同じものを頼んだり、ミリスが次はホーンラビットの串焼きを頼んだり(コレも故郷でよく食べたそうだ)、フィルニイリスが「ハツが入ってなかった・・・」などと言いながらも食べきったり、そんな四人をリーニャが笑顔で見守ったり。


「おかわりっ!」

「よ~食うな坊主」


レキが何度目かのおかわりをしたその時、料理店の入り口から冒険者ギルドにいた男が入店してきた。


「よっ!」と、軽い感じで店内に入ってきた男。

いかにも偶然を装った風の挨拶ではあったが、フィルニイリスはしっかりと男を警戒した。


店員が言った通り、この時間帯なら居酒屋の方に人が集まる。

酒と情報の集まる居酒屋ではなく、人も酒も少ないこの料理屋に冒険者の男が一人でやってきた理由。

おそらくは、自分達に用があるのだろう。


「何か用?」


それを察したフィルニイリスが先回りして男に問いかける。

余計な探り合いはなし、というフィルニイリスの問いかけに、男が苦笑交じりに口を開いた。


「あ~、いや用っちゃ用なんだけどな」

「なんじゃ、はっきりせんのう」

「そういう嬢ちゃんはズバッと来るな」

「わらわは回りくどいのは苦手じゃ」


体格に見合わず口ごもる男にフランが早く言えと催促した。

そんなフランに苦笑をしつつ、男がようやく要件を言った。


「嬢ちゃん達は王都まで行くんだろ?」

「うむ、そうじゃな」

「で、護衛は雇ったのか?」

「護衛?」

「そう、護衛だ」


護衛。

依頼を出して冒険者を雇う。

このエラスの街から王都までは長い。

十日以上かかる道のりを女と子供だけで行くのは、普通に考えれば非常に困難である。


「つまり売り込み?

 自分を雇えと?」

「あ~、いや。

 普通は、ってかいつもはそうなんだがよ」


男の要件を察したフィルニイリスが確認するも、男はまたもや言い辛そうに口ごもった。


「売り込みで無いとするなら何?」

「いや、それがな・・・」


フィルニイリスの追求し、ようやく男が内容を話しだした。


「本来ならオレが護衛に付きてぇとこなんだがよ。

 あいにくと別件で手が離せなくてな。

 だからと言って女子供だけを護衛も無しに王都に向かわせるのもあれでよ」

「あれ?」

「あ~、まぁ単純に気になるっつ~かなんつ~か」

「なんじゃ、はっきりせんのう」

「護衛も無しに王都へ向かうのは無謀だから誰か雇えと?」

「まぁそういうこった」


要はお節介だった。


冒険者ギルドでも感じた事だが、この男は実に人が良いらしい。

新人の面倒を見るのは冒険者の務めだなどと言っていたが、そもそもレキもフランも冒険者ですら無いただの子供。

それでも冒険者についてあれこれ説明してくれたこの男は、面倒見の良すぎる親切なおっさんなのだ。


「あるいは子供好き?」

「ぅおい!」


フィルニイリスのつぶやきに大きく反応する目の前の男。

これはもしかして・・・


「いや、だから違ぇっての!」


とは言え、男の目的は売り込みではなく護衛の有無の確認なので、例えレキやフランに目を付けたところで一緒に来る事は無さそうだ。


「いや、だからな・・・」

「それで、要件は護衛の確認だけ?」

「お、おぉ、いや確認だけじゃなくて、まだだってんなら良い護衛を紹介してやろうと思ってよ」

「?」


どうやら確認や売り込みだけでなく、斡旋もしてくれるようだ。


何故そこまでしてくれるのだろうか?

むしろ何故そこまで面倒を見ようとするのだろうか。


コレはやはりレキやフランに目を・・・


「おい、そこ」

「幼児愛好家?」

「だからちげぇって!」

「では何故?」


冗談(?)を混ぜつつフィルニイリスが男の真意を読み取ろうとする。

だが、結局男は善意で護衛を紹介しようと思っただけで、それ以上は無いらしい。


「しいて言えば、オレが紹介した護衛が役に立てば、次もまた頼ってもらえんだろ?

 今回はダメだったが次ならオレが護衛できるかも知れねぇしな」

「結局は売り込み?」

「まぁそんなとこだ」


これ以上問い詰めても何も出てきそうに無いと感じたフィルニイリスがリーニャに目配せをした。

そして


「折角のご好意、大変ありがたく思います。

 ですが、私たちに護衛は必要ありませんので」

「そうか、ならいいんだ。

 縁があったらよろしくな!」


断りを入れたリーニャに、男はあっさりと引き下がった。

そのあまりの潔さにフランが驚くも、男は既に店を出た後だった。


「あそこで食いついて悪い印象を与えるより、あっさり引いて次に繋げる方が賢い」

「そういうもんかのう・・・」

「おかわりっ!」

「って、レキはまだ食べてたのか!」


その後、レキが焼肉の大盛りを十回ほどおかわりし、ついでにフランとお菓子を分け合って、食堂をでた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。


――――――――――


「お腹いっぱい!」

「わらわももう食べれんのじゃ」

「アレだけ食べればな・・・」

「フランはともかくレキ君は明らかに食べ過ぎだと思うのですが・・・」

「食事は失われた魔力や体力を回復させるために必要な行為。

 レキの食事量が多いのはおそらく魔力のせい」


満腹の腹を抱え、幸せそうなレキとフランを先頭に一行は宿へ戻った。

三年ぶりの料理に感激しつつ、猛然と食べ続けたレキ。

途中で乱入した冒険者の男にも気づかなかったほどだ。


賑やかな一行が宿屋へ着くと、受付を担当した男が出迎えてくれた。

愛想は少々足りていない気もするが、馬車店でレキを侮蔑した男に比べれば大分マシだろう。

明らかに服装の変わったレキに動じる事なく(単純に気づかなかっただけかも知れないが)、ついでに受付時にレキを人数に数えなかったことすら忘れたかのように、自然にレキも含めて部屋へと案内した。

リーニャやミリス、フィルニイリスという、非常に整った容姿の女性三人を前にしても普段道りに振る舞う男はある意味信頼出来るのだろう。

レキに対しても別段無礼を働いたわけでもなかったので、リーニャも特に何も言わなかった。


「あ~、楽しかったっ!」

「うむっ!」

「ふふっ、レキ君もフランもはしゃぎ過ぎですよ」

「冒険者ギルド見れたっ!」

「魔物の牙とは本当に売れるのじゃな」

「ミスリルの剣っ!」

「あらあら」


街であったあれこれを、レキとフランが代わる代わる楽しそうに語る。

仲の良い兄妹の様で、話を聞くリーニャ達も自然と笑顔になった。


レキが生まれて初めて訪れた街、エラスの一日はこうして賑やかに終わろうとしていた。

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