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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第39話:武具屋へ行こう!

「助かりはしたが、流石にあれはやりすぎだ」

「あの程度の男ども、私達だけで十分」

「護衛は私達の役目なのだ。

 レキが手をだす必要はないんだぞ」

「ルエ・ボールを選んだのは良い。

 でもあれはもはやルエ・ボールではない」


あの後、レキ達は急いで店の前から離れた。

ある程度移動したところで、ミリスとフィルニイリスがレキに説教を始めた。


「何故手を出した?」

「え、えっと・・・」

「私達では頼りない?」

「ち、違っ・・・」

「じゃあ何故だ?」

「それはその・・・」


レキが手を出した理由、それは・・・


「・・・で、出ちゃった」

「「・・・」」


二人を助けようとしたのではない。

フィルニイリスの真似をしたら、うっかり魔術が発動してしまったのだ。

通常なら呪文の詠唱と魔力を練る必要があるが、レキはその膨大な魔力により呪文の詠唱も魔力を練る必要も無く魔術を行使出来てしまう。

ただ何となく真似をするだけで、有り余る魔力が勝手に魔術を発動してしまうのだ。


なお、レキが魔術を使いたいと思わなければ発動しない。

初めて見た初級魔術に、つい自分も使ってみたいと思ってしまったのが原因だった。


その答えを聞かされたミリスとフィルニイリスは・・・。


「「・・・はぁ~~~」」


若干長めのため息と共に、怒りとも呆れとも言えない感情を吐き出した。


「助かった事に変わりはない。

 だが、レキはもう少し手加減を学ぶ必要があるな」

「う、うん」

「レキの魔力ならもっと強力な魔術も使える。

 でも今のままでは危なくて教えられない」


その後、なんとか気持ちを落ち着かせたミリスとフィルニイリスは、レキに注意やら今後についての意見やらを告げた。

レキが放った魔術は、下手をすれば大惨事を引き起こしかねなかった。

二人の言葉を、レキはしっかりと聞いた。


「見ろリーニャ、道がすっかり綺麗になったのじゃ!」

「ええ、本当に・・・。

 先程まであったゴミも男の方達も綺麗に洗い流されましたね」

「うむ、見違えるようじゃ」

「ええ、本当に・・・。

 先程まであった汚い寝床や汚物も見事に洗い流されましたね」


男達がやって来た方。

スラムのような場所は、レキの生み出したバカでかい水球によりきれいさっぱり洗い流されてしまった。

幸い、人的被害は絡んできた男達以外にはなく、その男達も水球でおぼれかけた程度。

傷もなく、命に別状もない。

結果だけを見れば、実に穏便に終わったと言えるかも知れない。


その余波で洗い流された、スラムの一角にさえ目をつぶればだが。


洗い流された寝床はただ茣蓙を引いただけの、ごみと間違われてもおかしくない代物。

汚物などは、むしろ洗い流した方が良いだろう。

放置すれば病原菌の温床にもなりかねず、良い事をしたと言える・・・かも知れない。


「まあ、衛兵から逃げるはめになりましたけどね」

「悪いのはあやつらじゃというのに、全く」


流石にこれだけの騒ぎを起こせば衛兵が飛んで来る。

捕まれば事情を説明する必要があり、その際レキの力やフランの身分などを明かす事になるからと、こうして逃げてきたのだ。


「レキ」

「・・・ごめんなさい」

「よろしい」


悪いのは絡んできた男達。

それでもレキはやり過ぎた。


軽い気持ちで使用した魔術、それがこれだけの被害を出してしまったのだ。

いくら恩人とはいえ、反省させる必要はある。

あえて強い口調で説教したのもレキに反省させる為。


普段は温厚で、レキの行動に驚いたり呆れるだけのミリスやフィルニイリスがこれほど怒った事で、レキもさすがに理解したようだ。


この世界で最強と思われるほどの力をもっているとはいえ、中身はまだ子供。

世の中にはやって良い事と悪い事があるのである。


――――――――――


素材屋を出て、絡まれた場所から早々に逃げ出したレキ達が続いて向かったのは武具屋だった。


目的はミリスの武具。

特に鎧は魔の森の小屋においてきた為、代わりとなる鎧が必要だった。

ミリスほどの実力なら鎧など無くとも支障はないが、一応は護衛という役目を果たす為、見た目も大事なのである。

先ほどの男達に絡まれた理由の一つに、ミリスの見た目が護衛に見えなかったからと言うのもあるのかも知れない。


「単純に酔っ払っていただけだと思いますけど」

「みんな綺麗だからじゃない?」

「わらわも?

 わらわもか?」

「え、うん」


レキの素直な言葉に若干照れつつ、やってきた武具屋。

店に入った途端、またもや目を輝かせるレキであった。


「らっしゃい。

 今日はどういった御用で?」

「ああ、旅の途中鎧を失ってしまったのでな。

 何か代用出来る物があればと思ったのだが・・・」

「代用、ってことは急ぎかい?」

「ああ、早ければ明日には出る」

「そうか、じゃあ仕方ねぇな」


代用と言われて気分を悪くする事もなく、店主はこちらの事情を察したようだ。

剣や盾と違い、体に直接身に着ける鎧は使用者に合ったサイズでなければ動きを阻害してしまう。

本来なら数日かけて調整する必要があるのだが、今回はその余裕が無い為、あくまで代用品、間に合わせの鎧を注文したのだ。


「となると革になるがいいか?」

「ああ、問題ない」


革鎧なら調整もし易く、なんならそのまま着て帰れる。

店主と相談しながらミリスが革鎧を選ぶ中、レキは店に並ぶ剣に夢中になっていた。


「決まったら教えてくれ。

 で、坊主は剣欲しいのか?」

「うん!」

「そうかそうか。

 だが坊主にゃちと早ぇんじゃねぇか?」

「そんなこと無いよ?

 ほら!」


鎧を見るミリスに一声かけたのち、店主がレキにも声をかける。

そんな店主に、レキは腰に差した二本の剣を見せた。


「ほ~、その年で一端の剣士かい」


などと軽口を叩きつつ、店主がレキから渡された二本の剣を見る。


「・・・こりゃあ」


剣の刃を見て顔色を変えた。


「坊主、この剣はどこで買った?」

「ん?

 拾った」

「ど、どこで!?」

「私達を襲ってきたゴブリンから手に入れた剣だが、何か問題でも?」


身を乗り出す店主にレキが首を傾げる中、フィルニイリスが間に入った。


レキの言う拾ったという事も、ゴブリンが落としたという事は間違いではない。

ただ、襲われたのがレキという事と、拾った時期が相当前だという事。

何よりその場所が魔の森である事は、店主には内緒である。


「いや、問題も何も・・・」

「ん?」

「こりゃ、魔剣だ」

「まけん?」

「ほう」


店主の言葉にレキは首を傾げてばかり。

ただ、鎧を選んでいたミリスが感心したような声を上げた。


魔剣。

特別な力を持った剣の総称。

主に持つ者の魔力を消費する事で様々な効果を発揮する剣の事をさす。

効果は様々で、単に切れ味が増すだけの物から、炎を発生させたり風の刃を飛ばす物まで様々。

強力な魔剣は至宝とまで言われ、物によっては国宝にすらなり得る。


一流の冒険者の中には魔剣を有している者もいるが、扱いきれない魔剣はその身を滅ぼしかねず、魔剣を使いこなせる事自体が一流の証とも言える。


「え~、でもそれ拾った奴だよ?」


説明を受けても、レキ良く分かっていないようだ。

その剣は魔の森で倒したゴブリンが持っていた物。

見た目や切れ味など関係なく、とりあえず使っているだけの粗末な剣なのだ。


そのゴブリンとて最初から武器を持っていたわけではない。

元をたどれば、村人や冒険者が持っていた武器なのである。

その人達を襲い、武器を奪ったゴブリンをレキが倒し、今も使っている。

あるいはその武器が、たまたま魔剣だっただけかも知れない。


「炎とか風とか出ないし、普通の剣だよ?」


レキいわく、その剣は本当になんの力もないただの剣なのだそうだ。

それこそ昔父親に持たせてもらった、今は母親の形見の杖とともに大地に刺さっている形見の剣の方が見た目も切れ味も上である。

父親の剣に比べれば、レキの持っている剣など粗末も良いところだ。


事実、その剣はどこにでもあるただの鉄の剣。

そんな剣ではオーガを切れない事を、レキは知らない。


「いや、確かにこの剣は魔力を帯びてる。

 そんじょそこらの魔剣とは比べ物にならんくらいだ。

 素材の時点で違ってるくらいだな」

「ちなみにどんな力を持っている?」

「・・・分からん」

「?」


フィルニイリスの問いかけに、店主はそう答えた。


「いやすまねぇ。

 魔力を帯びてるってのは分かるんだが、どんな効果なのかまではわかんねぇんだ。

 かろうじて見た目以上の切れ味を持ってるってのは分かるんだがよ・・・」

「それ以外で分かることは?」

「・・・そうだな。

 見た目以上に激戦をくぐり抜けてるってのは分かるな。

 それもとっくに寿命を迎えてもいいくらいの、な」


店主の言葉に、フィルニイリスはレキの戦いぶりを思い出した。

魔の森で仕留めたオーガ、森から街までの間に倒した大量の魔物。

全ての魔物を、レキはその剣で仕留めている。


それ以前から、レキは三年もの間魔の森で狩りをしていた。

一体どれだけの魔物をその剣で倒してきたのだろうか。

フィルニイリスの想像もつかない程、レキはその剣を振るってきたに違いない。


なお、レキは別にその剣だけで三年間狩りをしていたわけではなく、これまで何本もの剣を持ち替えている。

ゴブリンが持っていた剣などどれも粗末な物ばかり。

使っている内に折れるのは当然だろう。

三年の間で少しずつ剣の腕が上がったのか、今の剣はそれなりに長いこと使ってはいるが、それでも元が粗雑な剣である。

店主の言う通り、いつ寿命が来てもおかしくなかった。


「つまりその剣は魔剣。

 効果は切れ味の上昇と強度を上げる程度、ということ?」

「分かる範囲ではその程度だな。

 っつか分かんねぇ方が多そうだ」

「なるほど。

 それで、どうするレキ?」

「ん?」


店主の話を聞いたフィルニイリスがレキに問う。


「その剣を売って新しい剣を買う?」

「売れるの?」

「売るのかよっ!?」


その問いかけに、むしろ店主の方が驚いていた。


レキが売ろうとしているのは魔剣である。

どんな効果を有しているか分からずとも、魔剣というだけで価値がある。


分かる範囲での効果は切れ味と硬度の上昇。

魔力によって切れ味が上がる剣は、魔術を苦手とする剣士にはとても重宝する武器である。

切れ味が上がれば硬い魔物にも太刀打ちでき、硬度が上がるという事は戦闘中に折れないという事だ。

剣士にとってこれ以上ないほど信頼出来る武器となるだろう。


レキの持つ剣は、レキが思う以上に価値があった。


「切れ味も硬度もレキならあまり意味は無いだろう。

 むしろそれを売って、新しいもっと綺麗な剣を買った方が良いのではないか?」

「う~ん・・・」

「まだ寿命ではないとはいえ、その剣も大分くたびれてきている。

 どうせなら今のうちに買い換えたほうが良い」

「う~ん・・・」


「いや、ちょっとねぇちゃん」


「それにホラ」

「ん?」

「あの剣。

 魔銀ミスリルでできている。

 一流を目指す冒険者にとって憧れの剣。

 その剣を売ればあれが買える」

「ホントっ!?」

「本当」


フィルニイリスの言葉にレキが強く反応した。


魔銀ミスリル

この世界における金属の一つ。

鋼より強く、銀より美しい希少性の高い金属であり、銀鉱山の奥深くに偶然出来た魔素溜まりからとれるそれは、すなわち魔素によって変質した銀である。

元々銀はそれほど硬くない金属だが、魔素により変質した銀は元の銀とは比べ物にならないほどの硬度を有する。

魔力との親和性も上がり、杖などに用いれば魔術の威力や精度を向上させる効果を持つ万能の金属。

加工には高度な技術が必要となり、金属そのものの希少性も加わる為魔銀ミスリル製の武器は非常に高価である。


一流の剣士は魔銀ミスリルの剣を振るう。


と言われるくらい、魔銀ミスリル製の武器は信頼と性能においてこの世界では非常に高く、憧れの武器でもあるのだ。

当然レキもその名前は聞いた事があった。

なにより父親が使っていた剣もまた、魔銀ミスリル製なのだ。

父親は墓に埋める物が何もなかった為、母親の形見の杖と共に大地に刺してきたが、憧れなかった訳ではない。


父さんと同じ剣・・・。

長さは違うが同じ魔銀ミスリル製の剣を前に、レキの目がキラキラと輝いた。

レキの剣もそれなりに価値のあるものだが、レキにとってはゴブリンが落とした剣でしかなく、父親が持っていたのと同じ憧れの魔銀ミスリルの剣と比べられるはずも無い。


「売るっ!

 それであの剣買うっ!!」

「いいのかよっ!?」


ちなみに、金額は魔銀ミスリルの剣の方が若干高かった。

魔剣とは言え効果が不明である点と、今まで酷使して来た点がその理由だった。

足りない分はリーニャに預けた金から出してもらった。

元はレキの金である為文句は無いのだが、預けた傍から使うのは良くないとリーニャには小言を貰った。


購入した魔銀ミスリルの剣は二本。

これは今までの双剣というスタイルをレキが固持した結果だ。


ミリスも革鎧を購入し、調整も済ませた後、一行は武具屋を後にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女魔術師くそやろうかよ 剣士にとっては綺麗な武器より使い慣れた武器だろ そんなんだから野盗に負けんだよ
[一言] 能力のわからない魔剣をここで売ってしまうのがよくわからないな、と思いました。 レキがミスリルの剣欲しがるのはわからなく無いんですが、店員以外が売るのを躊躇わないのは不自然に思えました。
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