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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十章:学園~一年の終わり~
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第388話:因縁の対決?

誤字報告感謝です。

合同授業は、何も他の学年とばかり行われるわけではなく、同じ学年の他クラスとも行われた。


武闘祭ではライバルであった他クラスの生徒も、武闘祭が終われば同じ学園で勉強する同じ年齢の仲間でしかない。

最近では、中庭での鍛錬を通じて交流を深めている事もあり、合同授業も特に揉める事なく行われた。


「き、貴様はっ!」

「・・・誰だっけ?」


多少、因縁のある相手もいるようだ。


「くっ、忘れたとは言わせんぞ」

「えっと・・・」

「レキ様、サマクさんです。

 ほら、入学試験の時の」

「・・・?」


何せ一年近くも前の話。

直接剣を交えた事も無い為か、レキの記憶には残っていなかったようだ。


今日の合同授業は一年生中位クラスとである。

中庭で顔を合わせた事のある生徒も多く、中には武闘祭の予選で見知った、あるいは戦った生徒も何名かいた。

負けた生徒は己に勝った生徒を脳裏に刻み、勝った生徒は次がある為かあまり覚えていない場合が多い。


だが、そこはさすが最上位クラス。

中位クラスの生徒と戦い勝利した者達は、対戦相手の事をちゃんと覚えている。


「なっ!

 貴様はレキっ!」

「えっと・・・」

「レキ様、ほら、光の祝祭日の宴で王宮に行った時の・・・」


反面、武闘祭とは違う場所でいろいろと因縁を作った生徒は、誰もレキの記憶に残っていなかった。


――――――――――


「意外と顔広いんだな、レキって」

「顔というかなんというか・・・」


有名かどうかで言えば間違いなくレキは有名である。

学園やその関係者に限れば、それこそフロイオニア王国の王女であるフランより知られているといって良い。


平民出身の生徒は自国の貴族の顔を知らない場合が多い。

精々が、自分の住む領地の領主くらいである。

直接関係ないからか、国王を始め王族の顔を知らない者も決して少なくないのだ。


もちろん直接会った事のあるフランやルミニアなどは、王侯貴族関係なく知っている。

そしてそれ以上に、自分の学年の代表であり学園最強の生徒であるレキの事は、身分に関係なく誰もが知っているのだ。


どちらかと言えば好意的な感情を向けられる事の多いレキだが、敵意を抱く者も中にはいる。

入学試験でひたすら驚かされた者や、中庭や王宮での鍛錬中に絡んできた者。

どちらもレキを平民と見下し、侮った愚か者達である。

一方的に絡んできたという事と、手合わせなどでは瞬殺した事もあり、レキの記憶には残っていない。

そもそもレキが彼等の顔を覚える必要などどこにも無く、覚えていたところで好意的に接する必要も無い。

レキからすれば、実にどうでも良い相手なのだ。


「ごめん、うちのクラスの奴が」

「うん、大丈夫」


そんな彼等の態度が気になったのだろう。

彼等に代わり中位クラスの纏め役をしている生徒が頭を下げた。


最上位クラスと違い、纏め役は基本的には実力が最も高い者がなる場合が多い。

何かあった場合、物理的に止める事が出来るからと言うのが最大の理由である。


分かり易く言えば貴族の横暴に実力で対抗できる者。


元々権威の通用しない学園ではあるが、貴族出身の子供は幼少の頃より鍛錬をしている場合が多い。

権威を使わずとも暴力で、という生徒もいる為、実力の高い者がなるのに越した事はないのだ。

もちろんそれは貴族に限った話ではなく、要は口で言っても聞かない場合は物理的に止めるしかないという事なのである。


それもまた横暴に聞こえるかも知れない。

だが、仮に最上位クラスの纏め役がファラスアルムだったとしたら・・・。

誰にも強く出られず、流されるまま好き勝手にされるに違いない。


「あ~」

「だろうな」

「うぅ・・・」


もちろん、実力があれば良いと言う話でもない。

仮に、最上位クラスの纏め役がレキだったとしたら・・・。

訳も分からず深くも考えず、まあいいやで適当に突き進むに違いない。


「あ~」

「だろうな」

「え~・・・」


実力があり、皆からの信頼も厚く、フランやレキにもいう事を聞かせられるルミニアのような存在はある意味貴重なのだ。

そんなルミニアが纏め役を務める最上位クラスでは、今のところ他クラスの様な揉め事もあまり起きていない。


「個人戦だっ!」

「チーム戦の方がいいに決まってるっ!」

「ね~、基礎鍛錬は?」

「素振りなどいつでもできるっ!」

「そうだっ!

 レキに復讐するのが先だっ!」


今起きている揉め事も、内容としてはありきたりなもの。


一人一人順番に戦い、己の実力を確かめたいと希望する者。

武闘祭でレキ達や他の学年との練度の差を目の当たりにし、奮起し、そして頑張った成果をぶつけたいと考える者。

合同授業だろうといつも通り鍛錬すべきだと主張する者と、合同授業だからこそいつもと違う事をやりたがる者。

そしてレキに仕返ししたいと考える者。


授業をスムーズに行う為、その日の授業内容は基本的に授業前に決める事になっている。

最上位クラスでは皆の意見をルミニアが纏めつつ、なるべく文句が無いよう話し合いで決めているが。


合同授業ではなかなかそうもいかない。

特に他学年との合同授業は、事前に顔を合わせる機会も無い為どうしても授業の最初に決めなければならない。


反面、同学年他クラスとの合同授業なら、例えば前日中庭で顔をあわせた時に決めるなども出来た。

実際、ルミニアは中位クラスの纏め役の生徒と事前に話し合い、本日の授業内容を決めたはずだったのだが・・・。


普段は多数決で決めている中位クラスの生徒達。

今回も事前に決を取り、ルミニアに話を通したはずだったのだが、当日になり突然意見を述べる者が出てきてしまったようだ。


普段ならこのような事は無く、多数決に参加しなかった者が当日に文句を言うことも無かった。

ただ、今回に限りこうして文句を言う者が出てきてしまったのだ。


ただでさえ最上位クラスより人数の多い他クラス。

話し合いではなかなか決まらない為に選んだ多数決方式だったが、これほど揉めた事は無かったそうだ。

二年生ならカム=ガが、四年生ならティグ=ギが勝手に授業内容を決めていたが、誰も反発しなかった辺りある意味クラスの総意だったのだろう。

反面、中位クラスの意見は見事にバラバラで、意見が纏まるまでもう少しかかりそうだ。


仕方なく、レキ達は中位クラスの話し合いが終わるまで基礎鍛錬をする事にした。


――――――――――


「・・・決まりました」

「授業前に説得しておいて欲しかったです」

「うっ、それは申し訳ない」


爵位は関係ないとはいえ、ルミニアは最上位クラスの纏め役である。

実力に優れ、頭も良い。

ついでに見目も麗しい。

そんなルミニアに注意され、中位クラスの纏め役の生徒は恐縮するしかなかった。


そんなこんなで本日の授業内容はチーム戦となった。

個人戦を行うには時間的に少々厳しく、レキへの仕返しなどするだけ無駄。

第一、実力ならチーム戦でも多少は見せられるはずである。


十人しかいないレキ達は二チームに。

中位クラスは三十人いる為、五人ずつの六チームに分かれた。


「なあ、あいつ・・・」

「ああ」


レキ達の実力は言うまでもない。

六学園合同で行われた大武闘祭で一年生ながらに優勝した話は、当然ながら他クラスにも伝えられている。

その付き添いでプレーター獣国に行ったフラン達もまた、武闘祭の予選で準優勝し、四年生チーム相手に善戦している姿を誰もが見ていた。

いくら武闘祭以降頑張ったとはいえ、中位クラスの生徒では勝つのは厳しいだろう。


だがそれはチーム全体で見た話。


最上位クラスの生徒とはいえ、個々の実力には当然ながら差がある。

レキは格が違う。

フランやルミニア、ミームなども一年生の範疇を超えているだろう。

ユミやカルク、ユーリなども例年なら優勝してもおかしくない程度には実力がある。

ガージュ、ガドも最上位クラスに相応しい実力はある。


ただ、ファラスアルムだけは、一年生全体から見ても大した事は無いように思われていた。


正確には「武術の」実力は、だが。


――――――――――


チーム戦を提案したのは中位クラス側であるが、レキ達に否は無い。

レキ達は中位クラスの生徒達に正しく胸を貸す立場なのだ。

武闘祭、大武闘祭共に優勝したレキ達のチームと戦える事は、ある意味光栄な事なのである。


とは言え、素直にそう思える者などそうはいない。

特に、同じ学園、同じ一年生である中位クラスの面々は、ただ少しばかり今の自分達より強いだけの、それ以外は何も変わらず同じ生徒であるという認識でいる生徒も少なくないのだ。


中にはどうやってレキに一泡吹かせようかという邪な思いを抱く者もいた。


彼等とてレキの実力は知っている。

自分達では逆立ちしても勝てない事もだ。

それでも一泡吹かせようと考えた結果、彼等はレキではなくその仲間にターゲットを絞った。


フラン、ルミニアは爵位が上である。

いくら爵位が関係ないとはいえ、それはあくまで学園内での話。

卒業までまたずとも、次の光の祝祭日の休暇には嫌でも貴族として対面しなければならず、不興を買うわけには行かない。

何より実力で勝てない。


ミームは平民で他種族だが、武闘祭で準優勝した猛者だ。

レキ同様、自分達では勝てないだろう。

魔術ありで戦ったところで、彼等の魔術の実力ではミームに当てる事すら叶わない。


ユミは入学時点でそれなりの実力を有していた。

一年生でも比較的低い身長でありながら大剣を振るい、更にはレキ達同様無詠唱で魔術も扱う。

武闘祭でもその実力をいかんなく発揮し、個人戦ではブロック優勝、準決勝でもミームと互角に戦っていた。

まず勝てないだろう。


ガージュ達男子については、レキと共に武闘祭、大武闘祭で優勝したという事で自動的にターゲットから外れた。


故に、彼等のターゲットは必然的に、あるいは消去法でファラスアルムに決まったのだった。


――――――――――


とはいえあからさまにファラスアルムを狙うわけにもいかなかった。

武術が不得意であろう彼女に、始めから武術で挑んでしまえば、彼等の邪な、あるいは情けない考えをばらしているようなものだ。

赤子相手に勝ち誇る事の空しさ情けなさとでも言おうか。

彼等にもプライドのような物があるのかも知れない。


チーム戦なら、後衛であるファラスアルムを先に倒すと言うのは立派な戦術となる。

残る四人に勝てずとも、最上位クラスの一人を倒せたなら十分な戦果として誇る事も出来るかも知れない。


「どうせなら五対十、いや十五ずつではどうだ?」


そんな彼等の邪な考えを後押しするような提案が、武術講師であるゴーズからもたらされた。


――――――――――


もちろん実力差を考えての提案である。


フラン、ルミニア、ミーム、ユミ。

彼女達四人なら、一人で中位クラスの生徒二~三人を同時に相手出来るだろう。

後衛、魔術に専念すればファラスアルムだって問題ない。


そもそもフラン達とて武闘祭予選の準優勝チームである。

五対五の戦いでは結果など目に見えているのだ。

中位クラスには強者と戦う事で得る物があるが、フラン達には無い。

つまりはフラン達とて胸を貸す立場であるという事だ。


異議を唱える者はいた。

いくら中位クラスとて、そこまで侮られては怒りの一つも覚えるというものだ。


武闘祭以降、彼等とて真面目に鍛錬してきた。

ちゃんと鍛錬してきたのだから、最上位クラスとの差も少しは縮まっているはず。

今までの鍛錬の成果を試そうと意気込み、いざ合同授業に臨んでみれば「お前らは弱いのだから三倍の人数で戦え」と言われた。


中位クラスの闘志は、これまでにないほど燃え上った。


彼等は気付かない。

中位クラスが努力したのと同様、フラン達もまた努力しているという事に。

大武闘祭が開催されている間、移動を含めて約一月の間、フラン達と顔を合わせていなかったのもその理由だろう。


実力者同士の鍛錬に加え、レキという強者との手合わせで得られる経験値は多く、その差は縮まるどころか離される一方なのだが、当然ながら彼等が知る由もない。

勝てるかも知れない、少しくらいは善戦できるはずだとやる気を漲らせる中位クラスの面々。


それもまた、ゴーズの狙いであった。

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