第383話:試験
誤字報告感謝です。
「むむむ・・・」
六学園合同で行われた大武闘祭。
学園の代表として大武闘祭に出場したレキは、一年生にして見事優勝を果たした。
一年生が優勝するのは大会史上初めての事だった。
レキの実力は他の学園の生徒のみならず、王や代表者を通じ他国にも広く伝わった事だろう。
武術で獣人を圧倒し、魔術で森人を寄せ付けないほどの実力を持つレキ。
そんなレキも、決して万能ではない。
レキとて人の子。
時には苦難に見舞われる事もある。
というか、現在絶賛苦戦中だった。
一年生ながらにして大武闘祭で優勝を果たしたレキ。
そんなレキが苦戦する相手とは・・・。
「それまでっ
皆、筆をおけ」
「「「ふいぃ~・・・」」」
学園は今、座学の評価を決める為の、試験の真っ最中だった。
――――――――――
フロイオニア学園は純人族の学園である。
獣人族の国にあるプレーター学園が武術を、森人族の国にあるフォレサージ学園が魔術の評価を重要視するように、フロイオニア学園では座学こそが最も重要視される。
獣人は魔術が不得手で、森人は身体能力が低い。
それでも努力すれば獣人でも魔術を使えるし、森人でも武術で獣人と互角に渡り合える。
とはいえ種族の特性というのは無視できる物では無く、生まれ持った才能以上に影響し易い。
武術や魔術では公平な評価を付けるのは難しいのだ。
反面、知識なら誰でも勉強すれば身に付く。
苦手な者、頭の芳しくない者はいるだろうが、そこに種族の違いは無い。
獣人には頭の芳しくない者が多い傾向にあるが、それは「頭を使うより殴った方が早い」と考える者が多いだけで、もっと言えば思考を放棄しているだけである。
誰でも最初は言葉すら発する事が出来ない。
成長するうち、自然と言葉を覚え、物を覚えていく。
そんな子供が集まり、座学の授業を通じて様々な事を知っていくのが学園である。
試験とは、入学してから今日までどれだけの事を知り、身に付けたかを確認する為の物。
毎日ちゃんと座学の授業を受けていれば、おのずと良い成績が取れるはずである。
「次は何だっけ」
「算術ですね」
「うへ~、俺苦手」
「あたしも~」
「お前らは全て苦手だろうが」
苦戦しているのはレキだけではなかった。
座学が苦手な、というか頭を使うのが苦手なカルクとミームもまた、試験に苦戦していた。
この三人、座学の授業中は常に睡魔と戦っていた。
戦績はとても悪く、担任であり座学の授業を担当しているレイラスの鉄拳が無ければ、レキ達は授業が終わるまで敗北に身をゆだね続けたに違いない。
王国騎士団中隊長であり、レキの剣術指南役、加えて学園の卒業生でもあるミリスに「座学の成績が悪ければ進級時に下位のクラスになる可能性もある」と聞かされた時は、焦って座学もちゃんと受けようと決意したレキだったのだが・・・。
武闘祭・大武闘祭に気を取られるあまり、つい座学をおろそかにしてしまっていた。
座学の内容は多岐にわたる。
それらは全て生徒達の実となり知識となり、卒業後様々な分野で活躍する為に必要な物である。
もちろん一年生でそれほど難しい事を習う訳では無い。
最初から飛ばしてしまえば大半の生徒はついて行けず脱落してしまうだろう。
下位クラスには文字の読み書きすら出来なかった生徒もいる。
そんな生徒ともある程度足並みをそろえる為、一年生で習うのは基礎的な事ばかりなのだ。
「商学など不要」
そんな類の事を言う生徒は平民貴族問わずいるが、フロイオニア学園で習う内容はどれも基礎的なものである。
商売とは物を作り、売る事。
物の値段は作るのにかかった費用や作業に関する料金などで基本的には決定される。
あるいは物の輸送にかかる費用なども加味される場合もあるだろう。
それらを知る事で、人は物の価値を正しく判断できるようになるのだ。
物の価値というのはつまり、日々生活する上で必要な知識である。
レキが生まれた村で行われていた物々交換ですら、極力等しい価値な物同士で交換が行われる。
狩人が苦労して狩った魔物の肉と、村で拾った石ころとを交換する者はいないだろう。
武具の正しい価値を知らなければ、冒険者も不相応な金額を支払う羽目になりかねない。
商学は、そういった物の価値を知る為の学問でもあるのだ。
座学の説明時、そういった話も聞かされたレキ達。
その時は商学もちゃんと勉強しようとは思っていたのだが。
商学の勉強が睡魔との戦いになるとは思ってもいなかったのである。
試験とは、これまで習ってきた事の確認。
毎日真面目に授業を受けていれば、おのずと高評価を取る事が出来るはず。
では、真面目に授業を受けていない者は低評価に甘んじるしかないのか?
いや、授業を受けていない者でも策を講じればちゃんと高評価を取ることが出来るはず。
ここで言う策とは不正行為を行うという事ではない。
第一、レキ達の担任であるレイラスの前で不正行為(カンニング等)など働こうものならどうなるか・・・想像しただけでも恐ろしい。
この場合の策とは、すなわちルミニアやファラスアルムと言った座学が得意な生徒が臨時の教師となり、レキ達にみっちり教える試験勉強である。
――――――――――
六学園合同大武闘祭が行われたのは緑の月。
移動を含めた約一月を終え、今は翌月、青の月である。
青の月の最初に学園に帰ってきたレキ達は、その数日間後に試験に挑む事になった。
他のクラスと違い、レキ達はおよそ一月もの間学園を離れていた。
その一月の間座学の勉強などろくにしておらず、学園の行事でもある大武闘祭に出場するからという理由で課題の類も出ていない。
そもそも勉強どころではなかったのだ。
フロイオニア学園の代表として、大武闘祭に全力で挑む為、誰も試験の事など気にもしていなかった。
大武闘祭終了後は授業も通常に戻っていた。
移動の疲れもあり、レキ達は帰ってから二日ほど休みをもらったが、明けた初日に試験の事を聞かされたレキ達はそれはもう狼狽えた。
一応、一年間の予定として事前に何度か知らされてはいたのだが、覚えている者は少なかった。
「試験の結果次第ではクラス落ちもあり得る」と言われたレキ、カルク、ミームの三人は、頭を抱えどうしようと悩んだ。
「日頃から勉強していないからだ」
そんな誰かの皮肉も通じなかった。
なお、最上位クラスで頭を抱えたのはレキとカルク、ミームの三人だけである。
他の生徒は日頃から座学を真面目に受けているからか、さほど慌てた様子は見られなかった。
いや、ファラスアルムだけは座学一位でありながら不安そうにしていたが、それは己に自信が無いからだろう。
落ち着いて試験を受ければ間違いなく高評価を得られるだろうファラスアルム。
彼女の課題は、落ち着いて試験を受けるにはどうすれば良いか、と言ったところだろうか。
早速と言わんばかりに、聞かされたその日から試験対策の勉強会が行われる事になった。
場所はおなじみの談話室。
レキ達の住む寮にはいくつかの施設が設けられているが、談話室はレキ達がちょくちょく使う部屋の一つである。
最近では談話室より中庭でおしゃべりしたり鍛錬する事が多いが、野外演習の話し合いなどではよく使っていた。
談話室は予約制である。
試験は他のクラスも同じく受ける為、以前と違い予約を取るのも一苦労だった。
予約が取れない日は各自で勉強をしましょうね、などと言われて素直に勉強できれば苦労はしない。
故に、談話室を使えない日は男子をガージュとユーリが、女子をルミニアとファラスアルムが中心となって教える事になった。
女子で問題があるのはミームだけだが、そのミームも一応は最上位クラスの生徒である。
レイラスの鉄拳効果もあり、一通りの知識は頭に入っているはずだった。
「ミームさんは銀貨一枚持っています。
銅貨一枚のパンを二つ、銅板貨一枚のシチューを食べた時、ミームさんの手元にはどれだけの貨幣が残っていますか?」
「・・・銀貨二枚?」
「なぜ増えるのじゃ?」
銅板貨は銅貨五枚分の価値があり、銀貨は銅貨100枚分である。
ルミニアの出した問題の答えは銅貨93枚、間違っても増えたりはしない。
これでも大分ましになった方なのだ。
少なくとも、気持ちの上では座学も頑張ろうと思うようになっているのだから。
大武闘祭の為、プレーター獣国の王都へ向かう途中立ち寄ったミームの故郷で、両親に学園での生活を聞かれたのが功を奏したのかも知れない。
両親相手にごまかすのは難しく、何より公明正大なレイラスが洗いざらいぶちまけた結果、母親からレイラス以上の鉄拳を受けたミームである。
その頭の痛みに、心を入れ替えたのだ。
「銀貨二枚の依頼があったとしよう。
移動中に必要な費用は食事を含めて銅貨10枚。
武具のメンテナンスに銀貨1枚必要だったとして、もうけはどのくらいだと思う?」
「銀貨二枚ってどんな依頼だ?」
「ん~、フォレストウルフ退治じゃない?」
「いや、依頼の内容を聞いているんじゃなくてね」
一方、男子はレキとカルクの二名を教える必要があり、講師役のガージュとユーリが揃って頭を抱えていた。
興味のある分野ならと分かり易く教えはするものの、興味があり過ぎるばかり違う部分に食らいついてしまう。
念の為言っておくが、レキは別に頭が悪い訳ではなく、座学の評価も決して悪いとは言えない。
学園に入学する前、フランと共に王宮でみっちり勉強を仕込まれている為、座学の順位はクラスでも七位である。
ただ、じっとしているのが苦手なのか、座学の時間に限り集中力が続かず、気が付けば睡魔に敗北してしまうのだ。
それさえなければ評価も更に上だっただろう。
レイラスから受けた鉄拳の数は、カルク、ミームに次いで三番目なのだ。
カルクも一応は最上位クラスに入れる程度には悪くないが、成績はミームどどっこいどっこいである。
なお、武闘祭であれほどの活躍をしている以上、いくら座学の評価が重要視されるとはいえ最上位クラスは誰も下のクラスになど落ちないのだが・・・。
レイラスは当然として、ガージュやルミニア達もあえてレキ達に教えないようにしていた。




