第381話:それぞれの心中
誤字報告感謝です。
ガドは己が未熟である事を自覚している。
未熟であるからこそレキ達の剣の手入れに手を抜いた事は無く、空いた時間も勉強や修行に当てている。
技術は父親から教わる事が出来るが、感覚は己で養わなければならない。
その感覚の糧とする為、見分を広める為に、ガドは故郷のマウントクラフ山国を出て一人フロイオニア王国の学園にやってきた。
フロイオニア王国は純人の国であるが他国とも広く交流を持ち、実力さえあれば獣人だろうと森人だろうと登用する実力主義の国でもある。
森人であるフィルニイリスが宮廷魔術士長を務め、他国にもその名が知れ渡る騎士団長ガレムや剣姫ミリスを有する国。
騎士団で使われる武具は一流の物が揃い、何より各個人に合った物が用いられているらしい。
剣を使う者、槍を使う者、斧を使う者と、それぞれが得意な武器を用い、騎士として活動しているのだ。
そんな国の学園なら、様々な種族が様々な武具を使っているに違いない。
そう考えフロイオニア学園に入学したガドは、様々な武具とその使い手に出会った。
フロイオニア学園にいる生徒達は、当たり前だが学生であり騎士や戦士、冒険者ではない。
年齢を考えれば十分な実力を有しているとはいえ、その多くはまだ未熟と言わざるを得なかった。
ガドも幼い頃から武具に触れ、振るってきた。
武具の作り手として、ある程度武具の扱いにも慣れておかねばならないからだ。
同年代の中でも、ガドの斧さばきはそれなりだった。
実戦経験こそ無いが、同年代の子供に比べれば十分な実力があった。
とはいえカルクの様な村一番でもなく、ミームの様な負けなしでも無い。
そもそもガドは鍛冶士なのだ。
武術で競った事も無ければその必要も無かった。
それでもそれなりの実力を有していたガドは、おかげでフロイオニア学園の最上位クラスに入学する事が出来た。
ガドの人生で最も幸運だったのは、今年のフロイオニア学園にはレキを始めとしたここ数年でも類を見ないほどに優秀な者達が集まっていた事だろう。
フランやルミニア、入学前からレキと交流のあった二人は武術のみで獣人であるミームの上をいった。
ミームは故郷の街、プレーター獣国の王都にほど近い街で負けなしだった程の実力者だ。
そんな彼女に魔術無しで勝利するフランやルミニアは間違いなく優秀な生徒である。
ユミは山人であるガドと力で渡り合った。
女子の陰に隠れているが、カルク達も十分優秀だ。
そんな彼らと共に過ごす学園生活は、鍛冶士の卵であるガドの素晴らしい糧となった。
様々な武具に触れ、様々な使い手を見て、ガドの感覚は養われていった。
だが、それでもガドは一年生。
技術は拙く、知識も足りていない。
養われつつある感覚も、鍛冶士として専門の教育を受けているサラ達には敵わなかった。
レキ以外の武具についても、サラ達は様々な指摘をした。
フランの双短剣、ルミニアの槍、ミームの小手にユミの長剣。
カルクの剣の柄はだいぶ歪んでいるらしい。
ガージュは試合中あまり剣を振るわない為か、手入れも若干おろそかになっているらしい。
ユーリは細剣の癖が抜けていないのか、剣にもその歪みが伝わっているという。
ガドの気付かなかった点を指摘され、彼等は「へ~」だとか「ほう」だとか感心していた。
ガドを責めている訳ではない。
そもそもガドが気付かなかった事をカルク達が気付けるはずも無い。
言われてみても良く分からない、違和感すら感じない程度の指摘。
それでも、鍛冶士なら気付かなければならなかった。
ガドは気付けなかった。
それは鍛冶士として未熟だからだ。
その未熟さを改めて教えてくれたサラ達に、ガドは悔しくとも感謝した。
――――――――――
翌日、ガドはギム達マウントクラフ学園の馬車に乗せてもらえるようお願いした。
まだ未熟ながら、ガドはレキ達の武器を扱っている。
レキ達も快く任せてくれている以上、ガドは手を抜くわけには行かず、手を抜いた覚えも無い。
それでもサラ達が指摘したように、レキ達の武器の手入れは万全では無かった。
武器の手入れをおろそかにした結果、その武器のせいで命を落とす。
冒険者の中にも武器を粗雑に扱う者は多い。
ダメになれば買い替えれば良いと考え、買い替える金を稼ぐ為に武器を酷使し、行き届かない手入れの為いざという時武器が壊れ命を落とす。
レキならよほどの事が無い限り問題ない。
魔の森で拾ったと言う、ゴブリンが持っていた粗雑な剣でオーガを切り飛ばすレキなら、武器のせいで命を落とすような事態にはならないだろう。
最悪、剣に頼らず身体強化した上で蹴り飛ばせばいい。
あるいは魔術に頼れば、魔の森のオーガだろうと倒すのは容易い。
レキが剣を扱うのは剣が好きだから。
その剣を、レキはガドに任せてくれている。
任された以上手入れは完璧に仕上げなければならない。
未熟とは言えガドは鍛冶士。
任された仕事をこなせずして何が鍛冶士だろうか。
サラ達を見て、ガドは己が未熟である事を改めて理解した。
同時に、そんなサラ達に技術を学べば、今まで以上にレキ達の力になれるだろうと考えた。
未熟な者が誰かに教わる事は恥ではない。
未熟な者が未熟なままで終わらせる方が恥なのだ。
もちろん誰もが一人前になれる訳ではない。
だが、最後まで諦めない姿勢こそが大切なのである。
未熟な鍛冶士が打った武器で怪我を負うのは使い手である。
あるいは武器のせいで命を落とすかもしれない。
倒せなかった魔物は更に他者を襲うかも知れない。
故に、鍛冶士は未熟なままではならないのだ。
知らない事は恥ではない。
むしろ知ったつもりでいる方が恥だろう。
知ったつもりで目を反らし、耳を塞いでいては何も得られない。
そもそもガドは学生なのだから、教わって当然である。
例えそれが他の学園の生徒だろうと、同じ学生だろうともだ。
レキ達の専属鍛冶士として、ガドは更なる力を得る必要があった。
故に、ガドは頭を下げてマウントクラフ学園の馬車に乗る事にした。
そんなガドを、マウントクラフ学園の生徒は快く迎え入れてくれた。
――――――――――
ガドだけではなく、レキ達もマウントクラフ学園やマチアンブリ学園の生徒と積極的に交流を行った。
話題はガドと共に見ていた武具や先日の大武闘祭、更には野営の度にレキがどこからともなく狩ってくる魔物についてなど様々。
なお、レキの狩りについて驚いたのは最初だけで、後はレキだからの一言で誰もが納得するようになっている。
サラ達も、大武闘祭とその後に行われたグル=ギやカリルスアルム達との戦いを見ている。
レキならあのくらい、と思える様になったのだ。
そんなレキも一緒だった為、道中は安全で快適だった。
魔物に襲われる事は無く、襲ってきそうな魔物はレキがびゅーんと行って撃退した。
余り狩り過ぎてはこの辺りで活動している狩人や冒険者に迷惑だからと、狩るのは食べられる分だけに留めておいた。
おかげで道中は食事に困る事は無かった。
帰路は基本的に往路と同じ道を辿る。
当然、ミームの故郷であるイーハンの街にも立ち寄る事になった。
数日ぶりに再会する母と娘。
娘を揶揄う母親ではあったが、嬉しそうな雰囲気は伝わってきた。
「それでは私達はこれで」
「レキ、待ってる」
「それではな、レキ殿。
アラン殿」
プレーター獣国を出て、レキ達はマチアンブリ商国へと入った。
マウントクラフ山国はマチアンブリを基準にフロイオニア王国とは別の方角に存在している為、サラ達マウントクラフ学園の生徒とはマチアンブリ商国内でお別れとなった。
マチアンブリ学園のある方角もまた、フロイオニア王国とは別にある。
故に、ゴウヒやアミス達マチアンブリ学園の生徒ともお別れである。
「そんなっ!」
「まだなんもっ!」
道中、彼等もレキと交流をはかり、友誼を深め、将来的な繋がりを持とうと頑張った。
だが、野営の支度を始めた途端どこかへ飛んで行ってしまうレキを捕まえることが出来ず、帰ってきたと思えば解体作業をやらされ(レキは魔物を狩ってきた為解体作業は免除)、食事の最中はフランやサラ達が囲っていた為、話しかけるタイミングがなかなか掴めなかったのだ。
強引に割り込めばレキの心証を悪くしてしまうかも知れない。
レキを囲っているフランやルミニアだってフロイオニア王国の王女と公爵家の子女である。
蔑ろにする事は出来ず、むしろ彼女達とも繋がりを持ちたかった。
そんな彼女達とレキ達との談笑を乱すわけにもいかず、指をくわえてみているしか出来なかったゴウヒ達。
せめてプレゼントの一つでも用意出来れば話は違っただろう。
だが、王族であるフランや公爵家の子女であるルミニアが満足するような品が移動中に手配できるはずも無く、そもそもフランもルミニアも欲しい物は自分で手に入れようとするタイプだ。
宝石などに興味は無く、第一いくら道中一緒だったとはいえ、昨日今日知り合ったばかりの物から貰っても大して喜びはしないだろう。
ルミニアなら間違いなく下心を勘ぐるに違いない。
というか下心しかないのだが。
「何、また機会もあるだろう」
「せやけどアラン殿下」
「ワイら今年で卒業やし」
ゴウヒ達は四年生。
どの学園も四年制な為、ゴウヒ達も例外なく今年で卒業してしまう。
元々他の学園との交流は少なかったが、卒業してしまえば唯一の交流の場である六学園合同大武闘祭にも出場できない。
来年も学生であるレキと交流を持つのはなおさら難しいだろう。
「だったら来年の大武闘祭に来れば良い」
「いや、やから・・・」
「大武闘祭に関係するのは何も生徒達だけではない。
観客として、あるいは商人として参加すればいいではないか」
確かにそれなら大武闘祭には行ける。
あくまで行けるだけであって参加する訳ではないが。
大武闘祭は六学園に所属する学生達の交流の場である。
元学生とは言え卒業した以上部外者であり、参加する選手に接触するのはなかなか難しい。
「一年で店を持つってのもなぁ・・・」
「来年はフォレサージやしな」
大武闘祭の会場となる国は持ち回り制、プレーター獣国の翌年はフォレサージ森国と決まっている。
因みにその次はライカウン教国で、更に次はフロイオニア王国。
残念ながらマチアンブリ商国は四年後、レキが卒業してからだ。
「一応レキとも顔見知りにはなったんやし、レキが冒険者になったら忘れずに声掛けたらええやん」
「それも三年後やからなぁ・・・」
「さすがのレキも忘れとるんちゃうんか?」
「いや、レキは案外記憶力は良いぞ。
まあ、剣を交えていない相手はあまり覚えられないようだが」
「「ダメやんっ!」」
ジガ=グの慰めの言葉をアランが台無しにした。
ゴウヒもアミスも、大武闘祭でレキと直接戦っていなかった。
彼等にとっての大武闘祭とは、一に己の才覚で集めた武具を披露する事、二に各学園の代表であり将来有望な生徒達と繋がりを持つ事だ。
勝ち進み、優勝すればこれ以上ないほどに顔を売る事が出来るが、商人に武勇などあまり必要ではない。
武力が必要なら、それこそ高名な冒険者でも雇った方が良い。
金はかかるが、それもまた商人としての腕の見せ所である。
今回の大武闘祭。
彼等は魔術を反射する盾の偽物を披露し、ものの見事に押し流されてしまった。
魔術を封殺する結界具も披露したが、それも魔術を重んじる森人のミルアシアクルに破られた。
目的その一は、あまりよろしくない結果で終わっている。
「せめて何か・・・」
「アピールせんと・・・」
目的その一が芳しくない結果に終わった以上、目的その二だけは何としても果たさねば何のために学園の代表にまでなって大武闘祭に来たか分からない。
幸い、大武闘祭中にフロイオニア王国の王子であるアランと交流を持つ事が出来た。
更には大武闘祭で一年生にして優勝を果たしたレキと、帰路を共にする事も出来た。
これほどのチャンス、活かさないで何が商人か。
そう意気込んでみたゴウヒやアミスだったが、成果はあまり芳しくなかった。
フランやルミニアがダメならレキに直接、とも考えたのだが、フラン達以上にレキが欲している物を用意するのは難しかった。
レキが興味あるのは主に武具、特に剣だが、既に魔銀製の双剣を持っている為興味はあれど新たに購入するつもりはないようだ。
学生ではあるが、レキは王宮にいた頃からちょくちょく騎士団に同行しては魔物を狩っては素材を売り金銭を得ていた。
得た金銭は全額サリアミルニスに渡していたのだが、入学後にお預かりしていたお金ですと返されている。
レキもまた、欲しい物は自力で買えてしまうのだ。
物欲はあまりなく、あっても自分で購入してしまう。
使っている剣も魔銀製とあっては、学生であるゴウヒ達にレキが満足できるものを用意するのは厳しい。
それでも何かアピールできないかと、道中頭を悩ませていたゴウヒ達。
「ゴウヒもアミスもまたねっ!」
別れ際、そんな彼等にレキが笑顔で手を振った。
道中、持ち前の話術で様々な事を面白おかしく語ってくれた彼等に、レキはちゃんと感謝していた。
剣を交えずとも名前を覚える程度には、レキの記憶に彼等は残っていたのだ。
レキに名を呼ばれ、ゴウヒとアミスが涙を流し喜んだ。
将来必ず名を馳せるであろう少年と学生時代から繋がりを持てた事は、彼等の将来に間違いなく大きな利益をもたらすだろう。
それはちょうど、貴族の子供がより高位の貴族の子供と付き合いを持とうとする事に似ている。
商人である彼等なら、より直接的な利益を得られるに違いない。
代表に選ばれた事への喜びを、ゴウヒとアミスは今更ながらに噛みしめていた。




