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黄金の双剣士  作者: ひろよし
序章:黄金の覚醒
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第4話:レキ

泣き叫び、声も涙も枯れ果てた少年は、杖や腕のぬくもりが逃げないように強く強く懐に抱き続けながら、しばらくの間そこにうずくまっていた。


どれほどの時間そうしていただろうか。

昇り始めていた太陽が頭上へと差し掛かった頃、少年はおもむろに立ち上がった。

形見の杖と、ぬくもりの失せた腕を大切に抱きながら小屋へと戻った少年は、大切に、宝物のように杖と腕を置いた。


「・・・母さん。

 父さん、迎えに行ってくる」


そう呟き、少年は小屋を飛び出し一目散に村へと走った。


気力も体力も尽き果てたはずだった。

だが、全身から黄金の輝きをほとばしらせる少年は、馬など比較にならないほどの速さで村へと戻った。


母子が森に入って半日以上が経っていた。

野盗の見張りも、既に諦めたようだ。

森の周囲に少年の障害となる者はおらず、あっという間に村へと辿り着いた。


生まれ故郷の村は・・・その姿を大きく変えていた。

村の広場も、隣家の少女と良く遊んでいた場所も、村長の家も、何もかもが無くなっていた。


ここには何もなかった。

あるのは村だった物の残骸。

そんな村だった場所を、少年は迷わず歩いて行く。


「おっ、ガキがいるぞ?」


途中、少年はいまだ残骸をあさっていたらしい野盗の残党と遭遇した。


「なんだ、逃げ遅れたガキか?」

「そんなわけあるかよ、どんだけ経ったと思ってんだ」

「じゃああのガキはなんだ?」

「知らねぇ・・・。

 ま、いいじゃねぇの」

「そうそう、お頭への土産が増えたと思えばよ」


そんなことを言いつつ、男達が少年に近づいてくる。

数は三人、手には武器を持っている。

本来なら物陰に隠れるか逃げ出すであろうはずのその子供は、うつろな目を男達に向けた。


「ん~、なんだ逃げないのか?」

「怖くて固まってるだけだろ」

「捕まえるにゃちょうどいいけどな」


ヘラヘラと笑いながら、男達が少年を囲い、捕まえようと腕を伸ばした。

直後、突然あふれ出した黄金の光に目が眩み、男達はその伸ばした腕で顔を覆う。


「うぉ、なんだこりゃ」

「眩しっ」

「目が、目が・・・」


それが、男達の最後の言葉となった。


――――――――――


少年は自分の家だった場所へやって来た。

家の扉は壊され、机もベッドも、壁すらもただの残骸と化していた。

家族で一緒に食事をしていたあの机も、母に抱かれながら眠りについたあのベッドも、父が武器の手入れをしているのを眺めるときに座っていたあの椅子も。

何もかもが焼かれてしまっていた。


野盗が火を放ったのだ。


生き残りをいぶりだす為なのだろうか。

あるいは用済みとなった村をまとめて焼いたのか。

理由は分からないが、少年の村に無事な場所は一つもなく、生き残った村人もまた、一人もいなかった。


「女と子供は攫えっ

 野郎と老いぼれは殺せっ」


その言葉を実行したのであれば、あるいは村の女性や子供はどこかで生きているかもしれない。

ただ、その場合は奴隷となっているだろう。

今の少年には知る由もない事だ。


家から出た少年は、村中をとぼとぼと歩いた。

変わり果てた村。

昨日までは確かにあった幸福。

何気ない毎日。

明日もきっと、同じ日がやってくるはずだった。


だが、そんな日はもう来ない。

少年の知る村は、"村だった"場所となり、少年の家は瓦礫と化している。


そんな村の中を、少年はただ歩き回った。


ふと、村の残骸の中からキラリと光る物を少年は見つけた。

家の残骸に埋もれ、焼け残ったのだろうそれは、まるで少年に見つけてもらう為に光ったかのようだった。


近づき、残骸を除いて取り出したそれは・・・一振りの剣。

少年の父親が愛用していた剣だった。

少年の初めての冒険、屈強なる魔物を切り裂いた剣。

そして、少年と母親を逃がす為、野盗の前に立ちふさがった父親が持っていた、剣。


その剣で、最後まで野盗と戦ったのだろう。

一人二人ならきっと父親の敵ではなかったはず。

だが、さすがの父親も多勢に無勢では勝ち目が無かった。

そもそも戦える者などいない村である。

父親一人の抵抗では、少年とその母親を逃がすので精一杯だったのだろう。


少年は剣を取り上げると、母の時と同じようにその剣を胸に抱いた。


「・・・父さん」


冷たい金属製の剣。

少年はそこに、かすかなぬくもりを感じた。

父親が最後まで手放さなかったからか、あるいは焼かれた残骸に埋もれていたからか。

それとも、父親の魂が宿っているからか・・・。


少年は剣を手に、森へと戻った。


――――――――――


森の小屋へと戻った少年は、持ち帰った剣と母親の杖、そして腕を手に小屋の外に出た。

賢者の結界は小屋の周囲をそれなりの範囲で覆っているらしい。

よくよく見れば目印であろう四角く切り出された石が設置されている。


小屋の外に少年は穴を掘り、母親の腕を大事そうに埋めた。

土をかぶせ、少し山となったその場所に、少年は父親の剣と母親の杖を突き刺した。


父親の遺体はどこにもなかった。

父親どころか、村人の誰一人も遺体は残されていなかった。

野盗が燃やしたのか、あるいは埋めたのか。

理由は分からないが、まるで初めから誰もいなかったかのように少年の村には残骸のみが残されていた。


少年は、父親の剣を母親の杖と共に墓標とする事にした。


父と母、大好きな両親が眠る墓の前で、少年が一人佇んでいる。

日はすっかり傾き、少年と両親の墓を茜色に染め上げた。


これから、どうすればいいのだろう。

父も母も、村の人達も、少年の知る者は誰一人残っていない。

村も、ただの廃墟となっている。


両親に親類はおらず、村以外の世界を知らない少年には行くところもない。


幸い、今の少年にはゴブリンだろうと野盗だろうと等しく倒せるだけの力がある。


黄金に輝くその力。

体の内側からあふれ出るその力は、魔力と呼ばれるもの。

詳しい事など何も知らない少年だが、両親の冒険譚にたびたび出てくる魔力や魔術の話は覚えている。

身体を強化したり、炎や水や風や土を操り、時には氷や雷をも生み出す力。

どうすればうまく使えるかも知らないが、それでもこの力があれば生きていけるだろうと思った。


- レキ・・・生きろっ!

  俺の分までっ!!


父親に言われた言葉は今も少年の胸に刻まれている。


- お母さんはちゃんと追いかけるから。

  先に行って、小屋で待ってて


母親との約束道り、少年は森の小屋へと辿り着いた。

母親は来なかったが、それでも母親との約束は胸に残っている。


これからどうすればいいのか、少年には分からない。

分からないが、それでも少年は生きていかなければならない。

この森で、母親と約束したこの小屋で、少年は父親の言葉に従い、生きていくのだ。


それが、それだけが、少年に残されたものだから・・・。


父親と母親と、穏やかな日々を失った少年は、何も無いただのレキとして、ただ生きていく。

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