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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十九章:学園~大武闘祭・その後~
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第376話:レイラスの雷

「どうしてこうなった・・・」


本来なら、みんなでお菓子を食べた後も街の散策を続ける予定だった。

幸いお土産は買えたものの、まだ見たい場所はあったのだ。


土産話は多い方がいい。

彼女の笑顔を見る為、ガージュは彼女の分までリーハンの街を隅々まで見て回るつもりだった。

それが・・・。


「ではこれより、レキ対その他大勢の試合を始める」

「その他大勢とはなんだっ!」

「ちゃんと紹介しやがれっ!」


あの場を治めるどころか、更に悪化させた感じがしないでもないレイラスの取り仕切りで、変則的な試合が始まろうとしていた。


「レキ~!」

「レキ様~!」

「頑張れ~!」

「ぶっとばしちゃえっ!」

「が、頑張ってください~」


レイラスが連絡したのだろう、フラン達も大武闘場にやって来た。


「レキ~」

「遠慮はいりません!

 ぶっ飛ばしてくださいっ!」

「頑張れ」

「レキ様の雄姿がまたみられるなんて・・・」

「この試合だけでも金とれそうやな~」


フラン達だけではない。

この試合(?)の為、特別に借りる事が出来た闘技場にはアリル達プレーター学園、ミルアシアクル達フォレサージ学園、サラ達マウントクラフ学園、リーラ達ライカウン学園、ゴウヒ達マチアンブリ学園と、六学園全ての生徒達が集まっていた。


アリルやミルアシアクルは仕方ないにしてもだ。

他の学園の生徒達は無関係であり、ただの賑やかしでしかない。

実際、サラやゴウヒ達はどこで購入したのかお菓子や飲み物を片手に座り、のんびり楽しく観戦する姿勢でいる。


「食べる?」

「うむ、頂くのじゃ」

「こちらもどうぞ」

「おお、こらおおきに」


お菓子に釣られたのか、その輪にはフラン達も混ざっていた。


理由が理由である。

間違いなく問題になるだろうと思われるこの試合。

あえて舞台を整えたのは、これも交流の一環だという言い訳が出来るからだ。


大武闘祭の優勝者であるレキが他の学園の生徒からの挑戦を受け胸を貸す。

学園での武闘祭終了後に行われたリベンジマッチと、要するに同じなのだ。


路上で戦ってしまえばただのケンカでも、闘技場で行えば立派な試合。

圧倒的な人数差もレキの実力ならば何の問題も無い。

端から見ればいじめやリンチにしか見えない光景でも、レキの勝利が確定している以上ただのハンデでしかない。


むしろ、グル=ギ達プレーター学園とカリルスアルム達フォレサージ学園による変則的なチームの方に問題があった。


「獣人風情が・・・」

「けっ、森人が・・・」


放っておけばこのままグル=ギとカリルスアルムの試合が始まりそうなほど、両者の間に険悪な空気が漂い始めていた。


「おおっ!

 間に合ったぞ」

「これは一体どういう事でしょう」

「ほほう」


そんな空気の中、闘技場には各国の代表達も集まってきた。


プレーター獣国国王、獣王オレイン=イ。

フォレサージ森国国王、森王カミルサラルス。

マウントクラフ山国国王、鍛冶王ザク=アクシイク=シドタウン。

ライカウン教国代表、教皇フィース=ミル=ライカウン。

マチアンブリ商国代表、ラッカ=ショーラ。

フロイオニア王国国王、ロラン=フォン=イオニア。


彼らの護衛陣も加わり、突如行われた試合はまるで大武闘祭の続きのような規模になりつつあった。


観客はフラン達だけ。

試合もこの一試合だけではあるが、それが余計に見世物じみたものになっている。

なお、この闘技場に貴賓室のような設備はなく、各国の代表達はフラン達学生と共に観客席に座り、レキ達の試合を見学するようだ。


「で、どういうことだ?」

「はい。

 先日の大武闘祭でレキ殿に完膚なきまで倒された我が学園の生徒グル=ギ以下五名が、街中でレキ殿にいちゃもんを付けた事により、急遽試合を行う事となりました」


わくわくと言った表情を隠そうともせずそんな事を聞く獣王オレイン=イである。

どうやらレキが試合をするという事しか聞いていなかったらしい。

付き添いのプレーター学園教師による端的な説明。

正直に言えば言葉が足りていないようにも思えるが、間違った事は言っていない。


「我が学園の生徒もいるようですが・・・」

「レキ様のお力に羨望を抱いたカリルスアルムがそのお力を見せて頂こうとレキ様に願い出た結果、実演という形で叶う事に」

「それは素晴らしい」


こちらは多少(?)脚色されてはいるが、大筋ではあっている。

モノは言いようなのだ。


「はあ、全くレキは・・・」

「よいではありませんか。

 大武闘祭の熱も収まっておりませんし、彼等も力を持て余しているのでしょう」

「しっかしこれ、試合になるんか?」

「まぁ、レキなら問題はあるまい」


フロイオニア国王ロランが嘆息し、教皇フィースが目を輝かせながらロランを慰める。

商国代表ラッカは、レキを心配する様子を見せつつ今からでも観客を呼べないかと頭の中で考えていたりする。


様々な思惑、グル=ギ達の嫉妬すらはらみながら、大武闘祭のエキシビジョンとも言える試合が始まろうとしていた。


――――――――――


「試合は何でもあり。

 剣も魔術もだ。

 ただし死人だけは出すな」

「おうっ!」

「レキは加減しろ。

 どの程度かは自分で考えろ」

「うんっ!」

「ちっ」


いつものようにレキは元気に返事をする。

街の見学が中途半端に終わってしまったのは残念だが、他者と手合わせする事は楽しい。

大武闘祭を通じて知り合い、剣や魔術を交えた者達ともう一度試合が出来る絶好の機会に、レキもわくわくしていた。


そんなレキのやる気が伝わったのか、グル=ギ達プレーター学園の生徒達の戦意が高まっていく。

レキに絡んだのはアリル達が理由だが、それとは別に彼等もレキという強者ともう一度戦ってみたかったのだ。

色恋沙汰にうつつを抜かしていても、獣人としての牙や本能は無くなっていないのである。


カリルスアルム達フォレサージ学園の生徒はと言えば、こちらはカリルスアルムと他四名でこの試合に対する意識がずれていた。

すなわち、純人ながらにしてフィルニイリスの弟子となり、森人である自分を差し置いて無詠唱を扱うレキに一泡吹かせてやろうと考えるカリルスアルムと、恐れ多くも黄金の魔力を持つレキ様と再び相まみえる事が出来た事に感激しつつ、そのレキ様ともう一度試合が出来る栄誉に打ち震えているその他四名、という感じだった。


それでも全員、やる気だけは十分である。


「む~」

「今回ばかりは私達が出る訳には行きませんから」

「向こうの目的はレキだからね~」


色恋沙汰、嫉妬、栄誉。

その、どれもがレキに対するものである。

故に、彼等の対戦相手はレキでなければ意味が無い。


レキからすれば良い迷惑なのだろうが、そのレキが楽しそうにしている以上余計な口を挟むわけにもいかなかった。

武闘祭の時とは違い、今回ばかりはフラン達もおとなしく試合を見守るのだった。


――――――――――


「昼過ぎには街を出る。

 あまりもたもたしていては予定が狂ってしまうので、レキはとっととケリをつけるようにな」

「分かった」


「舐めやがって」

「初っから全力で行くぞ」

「おい森人共、俺たちの邪魔すんじゃねぇぞ」


「なっ!

 貴様らこそ私の邪魔をするな」

「魔術が当たっても文句を言わないようにしてくださいね」

「私達はあくまでレキ様とお手合わせしたいだけなのですから」


「そ、それは俺達も一緒」

「て、ていうかお前ら邪魔」

「なっ!」


「おい」


やはり獣人と森人は基本的に相性が悪いのだろう。

売り言葉に買い言葉。

戦闘方法が明らかに違う両者は、試合前に相談ではなく口喧嘩を始めた。


レキそっちのけで構えだした両チーム。

レイラスが止めようと声をかけようとしたが・・・。


「上等だ、レキより先にお前らから仕留めてやる」

「これだから脳筋種族は・・・」

「まあ、大武闘祭では戦えませんでしたしね。

 レキ様に代わり、魔術の恐ろしさを教えて差し上げます」


「おい」


「クラ、ケル、構えろ」

「お、おう」

「ま、任せろ」


「おい!」


「カリル、あなたも良いですか」

「ああ、我ら森人の恐ろしさ、獣人共に見せ付けてやろう」


「・・・おい」


『あっ、やばい』


それは、レキを含めたフロイオニア学園の生徒達の心からの声。

一年生最上位クラスに所属するレキ達は、担任であるレイラスの恐ろしさを体の芯から叩き込まれている。

故に、レイラスの態度の変化や怒気には敏感なのだ。


声を大きくした段階で気づけば拳骨で済む。

だが、声が小さく低くなり、その表情から感情が消えたレイラスはあのレキですら恐れる存在へと変わるのだ。


レキが武舞台の端へと避難し、フラン達がビクビクしながらレイラスを見た。


一触即発状態へと陥ったグル=ギ達。

そんな彼等に手をかざし、レイラスが魔力を高める。

そして。


『行くぞっ!』

『来いっ!』


「はあっ!」


グル=ギを先頭に、プレーター学園の生徒達が飛び出した。

迎え撃つ姿勢を取ったフォレサージ学園の生徒達。


そんな彼らのど真ん中に、レイラスの放った魔術がさく裂した。


「うおおっ!!」

「な、なぁっ!」


レイラスが放ったのは緑系統の上位である深緑系統の魔術。

暗雲をも切り裂き突き進む雷に、真の自由を見た魔術士が身に付けたと言う雷属性。


かざした手より放たれた雷は武舞台へとさく裂し、今まさにぶつかろうとしていた両チームは驚愕と共にその動きを止めた。

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