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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十九章:学園~大武闘祭・その後~
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第369話:プレーター獣国の騎士達と手合わせ

「うわ~、やっぱ凄いねっ!」

「っ!

 え、ええ。

 我が国の騎士団はレキ様の国にも負けていませんから」


さすがは武を重んじる国の騎士達。

早朝からそろって鍛錬する姿は、確かにフロイオニア王国の騎士団にも負けていなかった。


今、レキは侍女に連れられ、王宮の一角にある鍛錬場に来ていた。

フロイオニア王国の鍛錬場とほぼ同じ広さのそこでは、多くの獣人達が思い思いに鍛錬をしていた。


剣を振るう者、槍を振るう者、短剣を振り回す者、斧を振るう者。

無手の者も多く、小手や脛当を身に付けた騎士が目まぐるしく体を動かし続けている。


鍛錬場の真ん中には武舞台もあり、数名の騎士達が模擬戦を行っている。


キラキラとした純粋な目を向けられ、案内役の侍女が歓喜を押し殺しながら説明してくれた。


「大武闘祭の熱気に当てられているみたいですね」

「そうなの?」


学園の行事である六学園合同大武闘祭は、それぞれの国が持ち回りで開催している。

他国との交流もあるその大会中は、各国の騎士団が警備にあたっていた。

レキの試合を見た騎士達も多く、学生のレベルを遥かに超えるレキの実力と、そんなレキに真っ向から挑んだ学生達の試合を見て彼等のやる気に火が付いたらしい。


「レキ様の試合を見た者達の熱の入り様と言ったら・・・」


全員がレキの試合を見る事が出来たわけではない。

全ての騎士が警備に当たったわけではなく、また警備の場所も会場の内外から王宮や王都、更にはその周辺と広く分散している。

巡回していた騎士も多く、試合を見れたのは騎士団のごく一部だ。


それでも学生達が己の武を競う年に一度の大会が終わった直後。

熱気が伝わったのだろう、騎士達のやる気は非常に高い。


「む?

 あれはレキ殿っ!?」

「何っ、レキ殿だとっ!」


少し離れた場所で見ていたレキに、一人の騎士が気付き声を上げた。

そんな騎士の声に、鍛錬中の騎士の視線が一斉にレキに向けられる。

突然注目されたレキだったが、騎士の視線などフロイオニアの王宮で慣れている。

臆する事無く手を振るレキに、騎士達もまた笑顔で手を振り返した。


「折角ですから一緒に鍛錬していきませんか?」

「いいのっ!?」

「は、はいっ。

 ぜひ」


そんなレキと騎士達の様子を見た侍女から提案があった。

彼女の言葉に喜び、目の輝きを増したレキが騎士団の下へと駆けていく。


後に残された侍女は、レキの純粋な目に当てられたのだろう、表情が緩むのを必死に抑えていた。


――――――――――


「大武闘祭優勝者の実力、見せて頂こうっ!」

「うんっ!」


武舞台上で、一人の騎士がレキと向かい合っていた。


騎士が手に持っているのは斧。

フロイオニアの騎士ではあまり使う者はいな武器だが、純人より体格に恵まれた者の多い獣人の騎士団には比較的多くみられる。

身体能力が高い為、重く大きな斧でも取り回しに比較的自由がきくからだ。

一撃の破壊力も高く、片手斧なら小回りも利く。


レキと対峙している騎士が使用しているのも片手斧。

左手には盾を持つ獣人の騎士に、レキはいつもの双短剣スタイルで応じる。

持っているのは騎士達が用意してくれた武器だ。

刃引きされているとはいえ金属製。

当たれば怪我は免れないだろう。


鍛錬場に現れたレキを、騎士達は笑顔で歓迎した。

レキを知らない者とて侍女を伴っている時点で招かれた客である事は分かる。

少し考えれば、昨日の宴に招かれた学生、つまりは大武闘祭に参加した他国の生徒である事もだ。


そして、試合を見ていた騎士から目の前の少年について聞かされ、ならばと多くの騎士が手合わせを申し込んだ。

レキの実力を知る者は強者との手合わせを求め、知らぬ者は大会優勝者の実力を確かめる為。

理由は人それぞれだが、調子に乗っている子供にお灸をすえてやろうだとかくだらない事を考える者はいないようだ。


とは言え、レキは見た目も肩書もただの学生、それも一年生である。

侮っている訳ではないが、子供として接しようとする騎士は多い。

だがそれは、客人であるレキに大人として正しく接しようとしているから。


大会の優勝者であるレキを持て成そうと、多くの騎士が好意的に迎えてくれたという事なのだ。


最初に名乗りを上げた騎士はレキの実力を知らない者の一人。

実は、数年前の大武闘祭の出場者にして準優勝した経歴を持っていたりする。

惜しくも優勝は逃したが、その功績によって王宮の騎士に採用されたのだ。


そんな経験を持つ為か、今年の優勝者の実力を確かめたくなったのだろう。

自分が果たせなかった大武闘祭優勝。

それを一年生にして勝ち取った少年に、挑戦者のような心構えで挑もうとしていた。


「はあっ!」

「てやっ!」


開始の合図に同時に突っ込み、中央で斧と双剣がぶつかった。

お互い身体強化はしていない。

騎士は相手が子供だからという理由で、レキの方は加減具合を図りかねているから。


基本的素の身体能力は獣人の方が高い。

だがレキもまた身体能力は並の騎士より遥かに高い。


そんな高い身体能力の持ち主同士が開始早々全力でぶつかった。

見た目ならレキの方が負けているが、結果は違った。


「ぬおっ!」

「てやっ!」

「がはっ!!」


斧を跳ね上げられ、空いた腹に剣が振るわれる。

子供とはいえ大会優勝者。

決して油断したつもりは無かったが、それでもレキの力と剣技に、相対した騎士は武舞台の外へと飛んでいった。


「次は俺だっ!」

「まて、あいつの仇は俺がっ!」

「何をいう、俺は隊長だぞ」

「ならば大隊長の私が」


一人目を倒したレキに、獣人の騎士達が次は俺だと殺到した。

強者と戦いたいのはどの国の騎士も同じなのだろうか。

あるいは獣人としての本能か。


騎士達はただ、レキという強者との純粋な手合わせを望み挑んでいく。


――――――――――


「身体能力もさることながらあの剣さばき・・・」

「大会優勝者というのは伊達ではないな」


次から次へと挑んでは倒されて行く騎士達。

もはや誰もレキをただの子供だなどと思っていない。

元より侮っているつもりは無かったが、目の前にいるのはまぎれもない強者なのだ。


挑まない訳にはいかなかった。


そんな獣人のうきん達が次から次へと返り討ちにあっている中、少し離れたところでは既に敗北した騎士と順番を待っている騎士達がレキの戦いっぷりを観察していた。


獣人は基本脳筋が多いが、頭が使えない訳ではない。

ミームの父親ムスル=ギが商会で働いている様に、狩り以外で生計を立てている獣人だって大勢いる。

狩りとて、頭を使わねば効率よく獲物を狩る事は出来ない。

力押しで勝てない相手に策を講じる事だってあるだろう。


強くなる為、あるいは生きる為に頭を使うのは人として当然なのだ。


「そういえばレキ殿はあの剣姫ミリス殿の直弟子だと聞いた事があるぞ」

「なにっ!?

 あの剣姫殿かっ!」


勝つ為には情報も必要である。

レキを知る者が知らない者に情報を伝えていく。

実力だけではない。

レキの身に付けている剣術に関しても、知れば勝てる可能性が上がる。


レキの剣術は我流だが、ミリスに習っているせいか、その剣筋はミリスのモノに良く似ている。


剣姫ミリス。

その美貌と剣の冴えは他国にも広まっている。

当然、武を重んじるプレーター獣国にもだ。


「ミリス殿と言えば・・・」


「聞いたぞレキ殿っ!

 そなたあのミリスの弟子らしいな」

「ミリス知ってるの?」

「ああ、奴は俺の戦歴に土を付けた唯一の女だ」


なお、ミリスも以前、六学園合同大武闘祭にフロイオニア学園の代表として出場し、優勝した経験を持っている。

今レキの目の前にいるのは、その大会でミリスに敗北した男であった。


純人であるミリスに敗北した彼は、ミリスがフロイオニアで騎士になった事を知り、そんなミリスに対抗するかのようにプレーター獣国の騎士になった。

同じ騎士ならいずれミリスとまみえる事もあるだろう。

その時まで腕を磨き、いずれ大会のリベンジをするつもりだったのだ。


騎士にならずともフロイオニアに行けば会えるかも知れないが、彼は対等の立場での戦いを望んだ。

最初は学生同士、次は騎士として、今度こそ勝利して見せると心に誓っていた。


そんな男の前に現れたのが、大会優勝者にして純人、そして因縁の相手であるミリスの弟子のレキ。

男が必要以上に張り切るのは当然だった。


「ゆくぞっ!」

「うんっ!」


語りたい事は多いが、それよりもまず実力を知りたがった。

男は言葉少なく構え、レキへと挑んでいく。


こうして、また一人の騎士が場外へと飛んでいった。


――――――――――


「何の騒ぎだっ!!」

「こ、これは陛下っ!」


その後もレキとプレーター獣国の騎士達との手合わせは続いていた。

日はだいぶ昇り、王宮内では朝食の支度が勧められていた。


学生達が主賓であった宴の後、各国の代表達と酒を交えて様々な話し合いを行っていた獣王は、多少の疲れと酒は残っているものの、大会の興奮もあったのだろう体を動かすべく鍛錬場へとやって来た。


いつもは獣王の登場に気付き出迎える騎士達。

だが今日は、そのほとんどが獣王に気付く事無く武舞台を囲っていた。


鍛錬場の外からでも伝わるほどの熱気と歓声。

おそらくは武舞台での手合わせが白熱しているのだろう。

脳筋ばかりのプレーターの騎士達には良くある事だ。


とはいえ、王が現れたのに気付かないようでは騎士失格である。

加えて、それほどまでに熱中する手合わせの様子が獣王も気になった。


騎士達をかき分けるように武舞台の下へとたどり着いた獣王。

そこに、先日から手合わせしたくて止まない少年の姿を見た。


「レキ殿っ!

 レキ殿ではないかっ!!」

「ん?

 あ、王様だ」

「へ、陛下ッ!」


獣王の乱入にようやく気付いた騎士達が礼をしながら道を空ける。


何故かは分からないが、レキが武舞台で自国の騎士達と戦っていた事だけは分かった。

両手には双剣を持ち、いつ着替えたのか動きやすい服を着ている。

先ほどまでの熱気も、今までレキが自国の騎士達と手合わせしていた証拠である。


そう、獣王である自分を差し置いて・・・。


騎士達は獣王が強者との戦いを好んでいる事を知っている。

自分達もそうだからだ。


そもそも獣国の王とは五年に一度王都で行われる大会に優勝した者が、その時の王に挑み勝利する事で王位に就くことが出来るのだ。

つまり、獣王とは獣国で最も強い者の称号でもある。


そんな称号を持つ男が、レキという最強の少年を見て戦わずにいられるわけがない。

大武闘祭でレキの試合を見るたび、獣王はレキとの戦いに焦がれていた。

そんな獣王を差し置いて、配下の騎士達がレキと手合わせしていた事に、獣王のこめかみがピクピクし始めた。


「そ、それで、なぜレキ殿がここにいるのだ?」

「早起きされたようですので、王宮を案内しておりました」


とは言え、仮にも一国の王が感情のままに行動して良いはずがない。


無理強いしたならまだしも、レキが望んでこの場にいるなら騎士達に責任は無く、むしろレキの望みを叶えたという事になる。

自分を差し置いてと言うのも獣王の勝手な言い分。


そもそもレキが獣王と手合わせする理由がない。

約束もしていないのだから先を越されたというわけでもない。


ただレキが暇だったから鍛錬場の見学に来て、折角だからと騎士達と手合わせしただけ。

騎士達からすれば、王の客人であり大武闘祭の優勝者である少年を、少年が望むままに歓迎したという事になる。


「レキ殿が望んだのだな」

「はい」


念を押す獣王。

レキが嫌がっていたなら騎士を叱責する必要があった。

だが、レキが望んだのであれば何の問題も無い。


そう、獣国で最も強い自分がレキの相手をする事もだ。


「レキ殿、お手合わせ願おう」

「へ、陛下っ!?」


もはや我慢する理由は無くなった。


一足飛びに武舞台に上がった獣王オレイン=イが、その重そうな上着を脱ぎ去る。

現れたのはこれでもかと鍛えられた筋肉。


獣国最強の男。

獣王オレイン=イが、大武闘祭優勝者であるレキに挑むっ!

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