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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十九章:学園~大武闘祭・その後~
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第365話:六学園合同大武闘祭、慰労の宴

六学園合同で行われる大武闘祭も無事終了した。


個人戦でもチーム戦でも優勝したレキは、全ての学園から注目の的となった。

本人は気付いていないだろうが、あれほどの実力を見せた以上国家間での大規模な引き抜きが行われてもおかしくはなかった。

それが無かったのは、レキがまだ学生である事と、フロイオニア王家の庇護下に入っているからだった。


レキは学生、それも一年生である。

本人に他国の学園へ行く意思がない限り、あと三年はフロイオニア学園で学ぶ事になる。

どれだけの餌をちらつかせても、レキがなびく事はない。

実力行使に出ようにも、レキの実力は大会を通じて広く知れ渡っている。


本人がダメなら親兄弟にお願いして・・・という手も今回は通用しない。

レキに親兄弟はおらず、親類縁者に関しては不明である。

フロイオニア王ロラン=フォン=イオニアがレキの今の保護者になっている以上、他国とへ容易に手を伸ばす事は出来ない。

どのような条件を出されようと、ロラン王とてレキをよその国に渡すつもりはない。

もちろんレキの意思は尊重するが、せめて学生の内はフロイオニア王国で過ごしてもらいたいと願っている。


上記の理由により、他国の代表達はレキを自国へ引き抜く事を早々に諦めた。


ただし、レキとのコネを作る事まで諦めたわけではない。


――――――――――


六学園合同大武闘祭の翌日、出場した選手達を慰労する為の宴が催された。


主役が生徒である為、あまり遅い時間では支障があるだろうと、宴は夕刻からの開催となる。

場所はプレーター獣国の王宮。

毎年、大武闘祭の出場者達は各国の城に招かれ、宴を楽しむ事になっているのだ。

参加者の中には、他国の王宮に招かれる事を楽しみにしている者も多い。


酒の類も提供されているが、もちろん生徒達は禁止である。

その分大量に用意された様々な料理に、生徒達は釘付けだった。


「各学園のこれからの発展を祈って、乾杯っ!」

『乾杯っ!』


生徒の前で長々と演説するつもりは無かったのか、あるいは今年の宴の主催者である獣王オレイン=イが長々とした演説を嫌っているからか、各国の代表が勢ぞろいする宴の開始にしては短すぎる台詞で宴が始まった。

早速とばかりに料理に食らいついたのは、レキやフランと言った社交や色気より食い気が勝る欠食児童達。

レキもフランも普段からお腹いっぱい食事を摂っているが、宴の料理というのは別なのだろう。


「コレ美味しいっ!」

「レキ、レキ、こっちも美味いのじゃ」


料理にはお国柄が出やすい。

もちろん社交を意識し、来賓の好みに合わせた料理を出す場合もあるだろう。

だが、今回の宴は他国との交流を目的としたものであり、開催国は毎年異なる。

故に、今年の開催国である獣国をより知ってもらう為、料理もまた獣国らしい物ばかりが揃えられていた。


そう聞けば、狩った魔物をそのまま焼いただけの、野性味過ぎる物がイメージされるところだろうが、そこはさすがに宴の席。

見た目は豪快でもしっかりと調理された、宴の料理として申し分ない物ばかりが提供されている。

ソードボアの丸焼きのようなインパクトの強い料理ですら、多くの香辛料を使い素晴らしい味に仕上がっているのだ。


「おおっ、これオーク肉だろ?

 すげぇ美味い」

「うん、学園の味付けとはだいぶ違うね」

「獣人の好みに合わせているのだろう。

 だが不味くはないな」

「む」


カルクはもちろんの事、ユーリやガージュと言ったある程度舌の肥えている者達も十分満足できる料理だった。


この宴の主役は当然ながら生徒達である。

中でも個人、チーム両方で優勝したレキはこの宴の中心人物と言えるだろう。


大会中に交流を持った生徒はもちろんの事、試合に参加しなかった生徒や各国の代表たる王達も、宴の最中レキに注目している。


魔の森を出て以降、何かと注目される事の多いレキは、こういった視線にもいい加減慣れたのか、あまり気にする事無く純粋に宴を楽しんでいるようだ。

今も、フランやルミニア達と共に、会場中をせわしなく駆け回っては思う存分料理を堪能していた。


宴は立食形式が採用されている。

この方がいろんな生徒と会話を楽しめるだろうという配慮であり、誰彼構わず声をかけやすい形式である。

当然、レキに声をかけようとする者は多い。


「レキ、こっちの料理もおいしいよ」

「これもお勧め」

「あの、お飲み物はいかがですか?」

「お疲れでしたらあちらの席へぜひ」


最初は話を聞きたがった参加者達も、レキが食べるのに夢中である事を理解したらしく、アプローチの方法を変えていた。


「うん、ありがとっ!」

「おおっ、美味いのじゃ」


彼女達のアプローチはある意味成功し、ある意味では無駄に終わっていた。

レキに対する印象は良くなっただろう、だが、レキの関心は彼女達ではなくその手にある料理にしか向いていない。

それでも彼女達は満足していた。

レキと一緒に過ごせる事に、あるいはレキの好みを知れた事に。


「思ったよりアプローチしてきませんね」


そんな彼女達の態度に、ルミニアの警戒も緩んでいた。


彼女達は多分、レキの事を第一に考えて行動している。

レキが食事を楽しんでいるなら、それを邪魔するような真似をしない。

好かれる事よりもまず、嫌われない事を選んだのだろう。

初めて見る料理に目を輝かせるレキに、それがどんなものかを説明する者もいれば、他の料理を持ってきてくれる者もいる。


至れり尽くせり状態で料理をただ堪能できるレキは先程から非常に楽しそうだ。

常にレキの隣にいて、レキのお相伴に預かっているフランもである。


フランはレキのパートナーとして認識されているらしい。

フロイオニア王国の王女と、彼女を救った英雄。


ただ、二人にあるのは恋愛よりも親愛の情であり、今は食い気である。

そんな二人を、周囲は微笑ましく見守っている。


――――――――――


「ふ~む、ああしているところを見ればただの子供なのだがな・・・」


同じ室内に特別に設けられている、各国の代表達が集められているテーブルでは、獣王が酒を飲みつつレキを油断なく観察していた。


今年の大武闘祭はまさにレキの無双で終わった。

その強さは、武を重んじるプレーター獣国に強く刻まれた事だろう。

当然、貴賓室で見ていた獣王オレイン=イの脳裏にも。


レキの戦いを見るたび、自分も戦ってみたいという欲求が沸いては吠えていた獣王。

大会中、その思いは強くなる一方だった。


実は表彰式の後、獣王である自分との特別試合を設けようとして大会運営員や宰相などに力づくで止められていたりする。


そんな獣王も、一晩経てば多少は落ち着いたらしい。

レキと拳を交えたいと言う思いは褪せていないが、強引な手段を用いるつもりは無かった。

大会の勝者であり、間違いなく自分より強いであろうレキに、王の権力を使ってまで戦おうなど武を重んじる獣国の王としてあってはならないからだ。


故に、この宴の最中何とかレキと言葉を交わし、軽くでいいから手合わせをお願いしようと思っていたのだが・・・。


「レキ様も宴を楽しまれているようで何よりです」

「レキは食べる事が好きだからな。

 周りもそれが良く分かっているようだ」


あんなにも宴(の料理)を楽しむレキに、そんな事を頼めるはずも無かった。


「申し子様の好みの料理はどのような物でしょうね?」

「それ知ってどないするんや?」

「それはもちろん、申し子様をお迎えする為に・・・」

「レキは正直なんでも食べるぞ。

 それこそゴブリンすら食べたくらいだ」

「む?

 あれは食えるのか?」

「ああ、ただとても不味いそうだ」

「・・・なぜ食べた」


獣王以外の者もまた、これを機会にレキに近づこうと我策している。

ライカウン教国教皇フィース=ミル=ライカウンは、レキの黄金の魔力に光の精霊の存在を見て、自国に迎え入れたいと願っている。

レキの意思をないがしろにするつもりはないが、それでもレキが自発的に来てくれないかと、今のうちに餌となる物を考えているのかも知れない。


「学生の間は難しいでしょうね」

「うむ、レキ殿は良い友人に恵まれているようだ」


同じくレキの黄金の魔力に崇敬の念を抱く森王カミルサラルス。

彼女はレキがフランを始めとした友人と仲良く食事している様から、学園での生活を心から気に入っている事を理解した。

当然、その友人達を置いて他国に行くはずが無い事もだ。


レキが友人と離れ離れになるつもりが無いのであれば、レキを自国に迎え入れるには友人達も一緒に招かねばならない。

だが、その友人の中にはフロイオニア王国の王女フラン=イオニアがいる。

公爵家子女のルミニア=イオシスも合わせれば、まとめて迎え入れるのは不可能だろう。


レキはまだ一年。

学園を卒業するまでまだ三年以上ある。

卒業後は冒険者になり、世界中を回るのがレキの夢であるなら、いずれは自分達の国に来ることもあるのだろう。

その時改めて歓迎し、勧誘すれば良い。

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