第364話:六学園合同大武闘祭、閉幕!
『結局はレキ選手の無双と言った感じでしたが』
『レキが強いのは事実。
でもガージュ達も良くやった。
プレーター学園の代表相手に一年生であれだけ戦えれば十分』
『そのプレーター学園は実力もさることながら連携も素晴らしかったですね!』
『プレーター学園の連携は狩りを想定している。
レキという強大な獲物に対し、彼女達は狩りを仕掛けたという事になる』
『レキ選手が獲物ですか。
いや~、それは強すぎませんか』
『相手が強ければ強いほど燃えるのが獣人。
故に、レキほどの強者と全力でぶつかれた事に彼女達は満足しているはず』
『負けてもですか?』
『これはあくまで試合。
勝者と敗者に分かれるのは仕方ない』
『まあ、確かにアリル選手達の表情は晴れやかですけどね』
『・・・少しくっつきすぎ』
進行役のヤランと解説役のフィルニイリスが、決勝戦を振り返りつつ今の状況を伝える。
勝利にはこだわるが、全力を尽くした結果であれば敗北も受け入れるのが真の武人。
獣人は武人ではないが、全力を尽くし負けた以上受け入れなければ獣人の恥なのだ。
武舞台にいるアリル達に憂いの表情は無く、むしろ楽し気にレキ達と語らっていた。
「なあなあ、レキは冒険者になるんだろ?
だったらプレーターにも来るよな?」
「うんっ。
絶対行くっ!」
「その時は案内する」
「歓迎する」
「美味しいお店も紹介しますね~」
自分達に勝ったレキを認めたのだろう、試合前とは違い実に友好的である。
元々レキに敵意をむき出しにしていたのはリリルくらいで、その彼女も全力でぶつかった事ですっきりしたのか、レキを認めたようだ。
そもそもリリルがレキに敵意を持っていたのは、アリルがレキにべったりだったから。
そんなリリルも獣人としてレキの強さを認めないわけにはいかず、試合前にはあった敵意がすっかり無くなっていた。
強者に惹かれるのは獣人の性である。
全力でぶつかり負けた後、獣人に残るのは相手に対する敬意。
その性に従い、リリルがレキにまとわりついていた。
彼女達は四年生。
この大会が終わればレキ達はフロイオニア王国に帰り、リリル達は残る僅かな期間を学園で過ごした後、学園を卒業する。
学園の行事でレキに会うのは今回が最初で最後なのだ。
レキが将来冒険者になり、世界中を回るようになればこのプレーター獣国で会う事もあるだろう。
その時を楽しみに、レキとリリル達は再会を誓い合った。
「やっぱレキは強いね~。
あっ、君達も強かったよ?」
「・・・ふん、お世辞など」
「お世辞じゃない」
「最後の連携は凄かった」
「そちらのカルク君とユーリ君、ガド君も強かったですよ~」
アリル達の当初の狙いはレキ一人だった。
故に、残る四人はとっとと倒してしまうつもりだった。
二回戦、三回戦を見て、二人でも十分だろうと判断したが故の作戦だった。
結果的に、アリル達はレキチームの誰一人として倒す事が出来なかった。
ガージュ達の底力がアリル達の想定を上回ったのだ。
想いの強さという不確定なモノ。
ガージュ達の「意地」が、実力を底上げしたのである。
「レキ君の足手まといになりたくなかったのですよね~」
「んなっ!」
「レキに負けたくなかった?」
「レキの力になりたかった?」
「あれだろ、レキの仲間として認めてもらいたかったとか、そういう奴だろ?」
「ふっふ~、嫌いじゃないよ。
そういうの」
レキのオマケではない。
僕達はレキの仲間として出場している。
それを証明する為、ガージュ達はガージュ達の力を魅せ付けなければならなかった。
そういう「男の意地」を証明して見せたガージュ達。
とはいえ、真正面から言われれば照れもする。
アリル達の笑顔に、ガージュは赤くなった顔をつい背けた。
「へへっ、レキには世話になってるからな。
少しくらい助けになりてぇし」
「僕らがここまで強くなれたのはレキのおかげなんだ。
そのレキの力に少しでもなれたなら、こんなにうれしい事は無いさ」
「む!」
なお、ガージュ以外の三人はアリル達の言葉を素直に受け取った。
決勝まで一人も倒れる事無く、最後まで戦えた事が素直に誇らしく、三回戦とこの決勝で相手に認められた事が嬉しかったのだ。
例えレキのおかげだったとしても、そんなレキの力に少しでも慣れた事が純粋に誇らしかった。
「なっ!?」
アリル達の言葉を素直に受け止めるカルク達に、ガージュが唖然とした。
まるで仲間外れになったようで、何となく疎外感すら感じていた。
――――――――――
『これより表彰式を行いますっ!』
大闘技場に進行役のヤランの声が響く。
二日間に渡って繰り広げられた六学園合同大武闘祭も終わった。
個人戦、チーム戦共に、今年も実に白熱した戦いだった。
そんな中、特筆すべきはやはりレキの活躍だろう。
一年生にして個人の部優勝、チーム戦の部でもチームのエースとして相手チームを圧倒した。
時に一人で五人を相手取り、時に仲間と力を合わせて戦った。
レキの強さは、この大会を通じて各国に広く伝わる事だろう。
「今年の大武闘祭は実に素晴らしい大会であった。
誰もが己の力の全てを尽くして戦い、あらゆる可能性を見せてくれた。
魔術を操る獣人、大剣を振るう森人、そして純人でありながらその全てで他種族を圧倒する少年。
種族の特性に頼らず、己が出来る事を模索し、ただただ高みへと手を伸ばした者達。
彼らの担うであろうこれからが実に楽しみである。
純人だろうが獣人だろうが、そんなことは関係ない。
強い者が勝つ、それこそが武の神髄なのだ」
今年の大会の会場となった獣国。
代表である獣王オレイン=イが、大武闘祭を振り返りながら熱弁を振るう。
風の魔術を用いて広まる声に、レキ達も耳を傾け続けた。
「他種族との交流がこの大会の趣旨である。
それは自分達の種族がどれほど優れているかを魅せる為ではない。
他種族の優れているところを知り、認め合う為である。
その証拠に、今年の大会で優勝したのは剣と魔術双方を扱う純人であった。
元来、純人は武術で獣人に劣り、魔術で森人に劣ると言われていた。
それは間違いである。
純人であろうと、努力を怠らなければ武術で獣人を、魔術で森人を上回ることが出来るのだ。
優勝されたレキ殿やアラン殿を見れば分かるだろう。
種族の違いなど、真の強さには何の関係もない事が」
個人の部で優勝したレキと準優勝のアランは共に純人族。
そんな彼らが武術に長ける獣人と魔術に長ける森人をことごとく下していった。
レキはもとより、アランですらフォレサージ学園の誰もが使えない詠唱破棄魔術を使って見せたのだ。
魔術に置いて、もはや純人は森人に劣るなど誰にも言えない。
武術に関してもそうだ。
レキは今大会、獣人に対し一度も魔術を使っていない。
魔術無しで、獣人を圧倒して見せたのだ。
純人は劣っているなど、誰が言えるだろうか。
「魔術を放つ獣人がいた。
剣を振るう森人がいた。
どちらも用い、純人が優勝した。
そこにあるのは純粋な実力である。
ここにいるのはその実力で勝ち残り、優勝した者達だ。
皆の者、今一度勝者に盛大なる拍手をっ!」
『おぉ~!!』
大闘技場が揺れるほどの拍手と大歓声。
それを一心に受けているのは、個人の部で優勝したレキと、チームの部で優勝したレキの仲間達。
その後ろには、個人の部で準優勝したアランと、チームの部準優勝のアリル達が並んでいる。
他の選手達も武舞台上にならんでいた。
グル=ギは戦意冷めやらぬ様子でレキをにらみ、その仲間達はアリル達の背中に熱い視線を注いでいる。
カリルスアルムは獣王の演説そっちのけでフィルニイリスを見つめ、その仲間達はカリルスアルムが何かしでかさないかひやひやしている。
ミルアシアクルやリーラ、そしてその仲間達は、表彰台に上がり観衆に手を振るレキに熱い視線を送っている。
誰かに言われたのだろう、レキが魔力を漲らせ黄金に輝き始めた。
大闘技場が更なる歓声に包まれ、中には失神する者も出始めた。
アランが止めなければ、ミルアシアクルやリーラ達も危なかったかも知れない。
サラは無表情ながら己のこれからに思いを馳せ、仲間達は更なる武具の改良に精を出すべく武舞台上で思考を巡らせている。
ゴウヒ=サッチやアミス=ニーラ、マチアンブリの商人の卵たちは、そんなマウントクラフ学園の生徒と渡りをつけるべきか、あるいはレキやアランと交流を深めるべきか悩んでいた。
六学園合同で行われた大武闘祭。
レキという一年生の純人が他種族の代表生徒達を圧倒したこの大会は、大歓声の中で幕を下ろした。
――――――――――
大武闘祭はひとまず終わった。
だが、これが六学園の交流を目的としている以上、大会と表彰式だけで終わってしまえば交流としては不十分と言えるだろう。
どこぞの騎士団でもあるまいし、剣や拳を交えただけで仲良くなれるなら世話は無い。
故に、大会終了後には毎年出場選手達を招いた宴が催される事になっていた。
宴は大会翌日の午後を予定されている。
レキ達はもちろん、付き添いで来ていたフラン達や三年生最上位クラスの者達も特別に招かれる事になり、フラン達も大いに喜んだ・・・のだが。
「さて、皆様には言っておかねばなりません」
「ん?
なんじゃ?」
試合の疲れからか、レキ達は宿へ戻るとすぐに眠ってしまった。
アラン達も同様である。
おそらくは他の学園の生徒達も、明日の宴まではゆっくり過ごすのだろう。
そんな中、ルミニアがフラン達を部屋に集めて何やら相談を始めた。
「明日の宴では、レキ様は間違いなく大勢の方に囲まれます」
「ま、そうよね」
「レキ凄かったもんね~」
「はい、素晴らしかったです」
多少なりとも身体強化が解禁されていた為、レキは試合中黄金の魔力を纏い戦っていた。
その輝きは多くの人を魅了した。
ファラスアルムもその一人である。
もっとも、彼女は入学試験の時から魅了され続けているのだが。
それでもあれほどの大舞台で黄金の魔力を纏い戦うレキの姿は、森人である彼女にはさぞかし神々しく映ったのだろう。
試合中のレキの姿を思い出し、ファラスアルムの表情が崩れ始めた。
「ファラさん、帰ってきてください。
問題は、その中にはアリルさんやサラさん、リーラさん達もいるという事です」
「アリルさんのお友達もだよね~」
「ミ、ミルアさん達もきっと・・・」
レキに好意を抱く女性は多い。
フラン達を始めとして、この大武闘祭でレキと戦ったアリル、サラ、リーラ、レキの黄金の魔力に魅了されたフォレサージ学園やライカウン学園の生徒達もそうだ。
フォレサージ学園のミルアシアクル曰く、ライカウン教国の教皇やフォレサージ森国の森王ですら、レキに魅了されているらしい。
チーム戦の決勝でレキと戦ったアリルの仲間達。
彼女達も、試合終了後の様子を見る限りレキの実力を認め、少なからず好意を抱いたに違いない。
それがどこまでのモノかは分からない。
ただ好きなのか、あるいは恋慕を抱いたのか。
それでも、明日行われる宴ではレキの周りに多くの女性が集まるだろう。
もしかしたらレキの好みに合う女性がいるかも知れない。
そんな女性に誘惑されたなら・・・。
と、そこまで考えてルミニアはふとした疑問を口にした。
「そういえば、レキ様の好みの女性とはどんな方なのでしょうか?」
「「「っ!!?」」」
「うにゃ?」
ミーム、ユミ、ファラスアルムがその言葉にはっとし、フランが不思議そうな顔で首を傾げた。
大会は終わったが、ルミニア達の戦いはむしろこれからかも知れない。




