第363話:決着!
アリルとイメイ、二人に対しガージュ達は四人。
実力差を人数で補おうとする作戦ではあるが、ガージュ達は先程から苦戦を強いられていた。
いや、正しくは押されていた。
いくら人数で上回ろうとも向こうは武に優れるプレーター学園の代表。
一年生であるガージュ達とは実力も経験も圧倒的に向こうが上。
加えて、同じプレーター学園の代表であるグル=ギ達より連携でも上だった。
それでも何とか食らいついていられるのは、こちらの方が数で勝っているからでしかない。
それももう長く続きそうになかった。
ガージュ達の実力では、やはり大武闘祭に出場するには早かったのかも知れない。
アリルとイメイ、それぞれに二人がかりで何とか時間を稼げる程度。
僅かでも隙を晒せばたちまち押し切られそうだ。
非常に悔しいが、ガージュは決断した。
「レキッ!
いつまで楽しんでるっ!
いい加減こっちに戻ってこいっ!!」
「あっ、うんっ!」
助けに来いとは言わなかった。
力を合わせて戦うのが大武闘祭のチーム戦であり、レキもガージュ達のチームの一人である。
つまりは五対五の戦いをする為にレキを呼び戻した、そういう事だ。
「えいっ!」
「わっ、このっ!」
そんな言い訳がガージュの頭を掠めていた。
リリルに剣を振り、囲いを突破したレキが一足跳びに戻ってきた。
試合は再び振り出しに戻る。
――――――――――
「獣人の連携を見せてあげる♪」
再び対峙するレキ達五人とアリル達五人。
先に動いたのは、今度もアリル達だった。
「たあっ!」
「えいっ!」
強靭な脚力を活かし、アリルが先頭に立つレキに跳び蹴りを放つ。
下手に避ければガージュ達に当たってしまう。
そう判断したレキが、アリルの蹴りを剣で打ち上げた。
「そこだぁ!」
「わっと」
次いで速いリリルが、アリルの後ろから拳を繰り出した。
さすがにアリルほどの勢いは無く、だからこそレキは頭を下げる事でかわす。
「「えいっ!」」
「わっ!」
そこにリネとネスの棍が迫った。
双子の背丈はレキとあまり変わらない。
頭を下げたレキに対し、双子はただ真っ直ぐに棍を突き出した。
レキはその攻撃を更に横へと避ける。
左には先ほどかわしたリリルがいて、レキに追撃を仕掛けようとしている。
「え~いっ!」
「えいっ!」
一瞬の判断で右へと跳んだレキ。
そこには、レキ目掛けて全力で斧を振るうイメイがいた。
力自慢のガドですら受けきれなかったその斧を、レキは双剣で受け流す。
アリル達獣人の流れるような連携攻撃。
もし相手がレキでなければ間違いなく負けていただろう。
だがレキはその全てをしのいで見せた。
獣人の連携は見せてもらった。
今度はレキ達の番だ。
「ガージュっ!」
「ああっ!
行くぞっ!」
レキの声にガージュが応える。
剣を指揮棒のように振るい、ガージュが仲間に号令を下す。
「おらっ!」
「おわっ!」
最初に仕掛けたのは特攻役のカルクだ。
ガージュの指揮に従い、全力で剣を振るう。
なおもレキに追撃を仕掛けようとしていたリリルを、カルクが下がらせた。
「てやっ!」
「しまっ!」
いくら一年生のカルクとは言え、全力で振るった一撃をまともに食らえばリリルとて危うい。
レキにターゲットを絞っていた為、危うかったがリリルはカルクの攻撃をかろうじてかわした。
それが決定的な隙となり、カルクの横から仕掛けたレキの一撃をリリルがまともに食らった。
「「リリルっ!」」
連携を崩され、仲間が倒れた。
リネとネスの双子が声を上げ、レキとカルクに棍を突き出す。
「むうぅ!!」
その二つの棍を、ガドが斧で受け止めた。
いくら獣人とは言え相手は小柄な栗鼠の獣人。
山人であるガドなら、二人がかりでもなんとかこらえきれる。
「はっ!」
「えいっ!」
一瞬、動きの止まった双子。
そこにユーリとレキが左右から仕掛ける。
ユーリの攻撃をネスがかろうじてかわし、レキの攻撃にリネが沈む。
「リネっ!!」
「むうっ!」
ユーリの追撃をかわしたネス。
だが、リネが倒れ、レキとユーリに囲まれた状態では、ガドの斧をかわす事が出来なかった。
ガドの、力だけなら自分より上の斧を喰らい、ネスもまた倒れた。
「うそっ!?」
「僕達の連携を甘く見たなっ!」
ガージュの後方へと移動していたアリル。
彼女が仲間の下へと戻るより早く、一瞬の間に三人が倒され驚愕に目を丸くした。
レキに対する波状攻撃は、同時にアリルをガージュ達の後方へ移動させる為の作戦でもあった。
そこから挟み撃ちするのがアリルの作戦だったのだ。
だがそれは、レキ達の連携によって破綻した。
残るイメイに最前線に立ったカルクが全力で剣を振るう。
カルクの攻撃を斧で食い止めたイメイに、ガドとユーリが追撃を仕掛ける。
二人がかりでならかろうじて食い止める事が出来た相手。
三人なら倒す事だって出来る。
そんな事を考えた訳ではないが、イメイに向かう三人を信じ、レキは後方を振り返った。
狙うはアリル。
レキの視線を受け、アリルが覚悟を決めた。
「僕を忘れてもらっては困るっ!
"エド・アロー"」
「嘘っ!」
そこにガージュの魔術が飛ぶ。
詠唱の声は聞こえなかった。
故に、アリルは油断していた。
ガージュに無詠唱魔術は使えない。
まじめに鍛錬しているが、今だに無詠唱へと至っていない。
フィルニイリス曰く、呪文など誰に聞かせるわけでもない。
故に、口に出そうが頭の中で唱えようが結果は同じ。
無詠唱魔術との違いは、口に出すか出さないかではなく、呪文に頼らず発動できるかどうかなのだ。
無詠唱魔術に至っていないガージュだが、それでも諦めず今日までずっと魔術の鍛錬をしてきた。
詠唱を早め、あるいは短縮し、あるいは今のように口に出さずに詠唱する。
そんな日々の成果がアリルに襲い掛かった。
慌てて避けるアリル。
得意の脚力で空中に逃れるのはアリルの悪い癖なのかも知れない。
焦らず距離を取れば、あるいは追撃を防げたのかも知れないのだ。
ここには、誰よりも強く、誰よりも速いレキがいるのだから。
「てやっ!」
「きゃうっ!」
空へと逃れたアリル。
そんなアリルの頭上から、レキが剣を振り下ろす。
剣自体は小手で防ぐとも、その勢いまでは防げずアリルが武舞台に叩きつけられた。
イメイは既にカルク達三人が倒している。
武舞台で立っているのはもう、レキ達しかいなかった。
「それまでっ!
勝者、フロイオニア学園第一チームっ!!」
審判が高らかに宣言し、レキ達の優勝が決まった。
――――――――――
『き、決まった~!!
優勝はフロイオニア学園第一チームですっ!』
大武闘場が大歓声に包まれた。
先日の個人戦に引き続き、チーム戦でもレキが優勝した。
個人戦同様、チーム戦においても一年生が優勝するのは大会史上初の事だった。
そんなのは今更である。
レキがいる以上、誰もがその結果を予想し、そして期待したに違いない。
だが、それでも。
実際に優勝したレキ達に、それまでの戦いを見てきた観客は声を上げずにはいられなかった。
圧倒的な武力。
鍛え上げられた剣術。
黄金に輝く魔力。
チーム戦では仲間と手を取り戦った。
レキ一人でも圧倒出来ただろうことは、一・二回戦を見ていた者なら分かった。
それでもレキは、最後まで仲間と協力して戦った。
チーム戦らしい戦いと勝利に、観客も大満足だった。
「うおぉ~!!
戦いたいっ!!
戦いたいぞっ!!!
ロラン王っ!
レキ殿とぜひ手合わせをっ!!」
各国の代表が集まる貴賓室も盛り上がっていた。
二回戦ではジガ=グ達獣人五人の同時攻撃を一人でしのぎ切ったレキ。
その圧倒的な武力は、この決勝戦でも存分に披露された。
リリルとリネ、ネスの三人を相手に戦った事はもとより、アリル達五人の連携波状攻撃をもレキは一人でいなした。
そこからの仲間達との反撃は実に見事だった。
狩りと武を重んじる獣人が興奮しないはずは無かった。
「・・・あ、あれは本当に純人なんか」
「レキ様のお力があれほどとは・・・」
個人戦でも他者を圧倒していたレキ。
だが、レキの実力はあんなものではない。
全力を出せば一瞬で終わってしまい、観客も、戦った相手すらも何が起きたか分からない為、ある程度力を抑えて戦っていた。
それでも圧倒してしまったが故に、レキの全力を皆が見誤ったのだろう。
先程の動きですら全力では無い。
レキが全力を振るえば、対戦相手はおろか会場すらも無事では済まないからだ。
これはあくまで試合であり、他の学園との交流を目的とした大会である。
怪我ならまだしも、命を落とすような事があっては問題なのだ。
それは学園の教師を通じてレキに伝えられている。
レキもまた、むやみに殺生などするつもりはない。
それでも圧倒出来るほどに、レキは強いのだ。
「落ち着け獣王」
「ああ、申し子様の輝きが・・・」
「剣への魔力も増えているようだ。
あれほどの魔力に通常のミスリルが耐えられるとは思えぬ。
やはり性質が変化しているのだろうな」
レキと戦いたがる獣王を抑えつつ、自国と娘たちの恩人であるレキの活躍にロランも満足気である。
教皇は感涙し、山王が顎に手を当てながらレキの武器について観察を続けている。
「やはり魔術は使われないのですね」
「レキは相手に合わせた戦いを好むのでな」
「魔術無しで純人が獣人に勝てるってのがまずおかしいんやけどな」
暴れ出した獣王をプレーター獣国の宰相達に任せ(おしつけ)、森王や商国の代表と歓談するロラン。
比較的冷静な二人は、大武闘祭の決勝をロランと振り返っていた。
レキは基本的に相手に合わせて戦う。
相手が騎士や剣士、獣人なら武術で、森人や魔術士なら魔術で戦う。
個人戦、チーム戦を通じてレキが魔術を使ったのは、相手が魔術士や魔術を併用して戦う者達だった場合である。
アリルやサラ、グル=ギ達のチームとの試合では、レキは魔術を一切使っていない。
使わずとも勝てるから、というのもあるのかも知れないが、相手の全力を受けきる為には相手の戦いに合わせた方が良いからだ。
リーラやカリルスアルム達との戦いでは魔術のみで。
アランやミルアシアクル達との戦いでは武術と魔術を併用して戦った。
そうして相手に全力を出させ、その上で倒して見せるのがレキの試合なのだ。
全力を尽くせたからか、レキと戦った者達の中に不満を抱く者は少ない。
個人的な思いや因縁を除けば、誰もが試合の結果に納得している。
武舞台では、レキ達とアリル達が笑顔で握手を交わしていた。
先ほどまで激しい戦いを繰り広げた者達。
そんな事を思わせないほど、武舞台上の十人の顔は晴れやかだった。
「ロラン王っ!
一回、一回だけでいいんだっ!」
「是非申し子様とお話をっ!」
「あの剣だ。
あの剣に宿る魔力を見れば、新たなる鍛冶の道が開けるかもしれぬ」
むしろ、貴賓室の方が騒がしかった。




