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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十八章:学園~大武闘祭・チーム戦~ 後半
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第362話:習性と意地

「おらおらっ!

 あたしはこんなもんじゃねぇぞっ!」

「すばしっこい」

「当たらない」

「へへ~ん」


リリルの拳を顔を反らす事でかわし、左右から迫るリネとネスの棍をひょいっと跳び越える。

跳んだ勢いを利用し、バク転しながらレキが距離を取った。


リリルとリネ、ネスの三人の連携は見事で、五人で囲いつつただ攻撃してきたグル=ギ達より隙が無かった。

それでも、魔の森のフォレストウルフの群れに比べれば速度も数も足りていない。


ここは武舞台。

周囲に死角となる木々は無く、自由に動き剣を振るう事が出来る。

彼女達の実力は魔の森の魔物より下。

全力では無いにしろ、身体強化を施したレキの敵では無いのだ。


「ちっ、やっぱ強ぇな」

「アリルに勝っただけはある」

「グル=ギ達に勝っただけはある」


レキに勝てるなどと、リリル達ももう考えていない。

レキの実力は自分達とは比べ物にならない。

三人で挑んでも勝てない事くらい嫌でも理解している。


それでもリリル達は諦めない。

彼女達とて獣人。

強者と戦う事は獣人としての誉れなのだから。


「リネ、ネス、合わせろ」

「うん」

「分かった」


リリルがレキに突っ込む。

迎え撃とうとしたレキだが、リリルはレキの眼前で跳躍しレキを跳び越えた。


「えっ?」

「「えいっ!」」


思わず見上げたレキに、下段から双子の棍が迫る。

レキの虚を生み、そこを突く連携。

並の者なら棍を避ける事すら叶わない。

片方は避けられても、もう片方までは避けられないはず。

例え避けても、その時は背後に回ったリリルがその隙を突くだけだ。


「えいっ!」

「なっ!」


そんな攻撃もレキには通じない。

棍を避けつつ、背後に回ったリリルに剣を振るった。

着地するその直前に振るわれた剣に、リリルが慌てて防御する。

不安定な姿勢でかろうじて攻撃を防いだリリルだったが、着地地点の更に先へと飛ばされた。


「リリルっ!?」

「なんでっ!?」


自分達の攻撃をほとんど見ずにかわし、更にはリリルに攻撃したレキに驚きつつも、リネとネスは棍を振るい続けた。

避けられたとはいえレキの意識はリリルに向かっている。

故に、今度は自分達がレキの隙をつける・・・はずだった。


リネが上段を狙い、ネスが下段を狙う。

リリルがいなくとも双子の連携は完璧だった。


「えやっ!」

「きゃうっ」

「リネっ!」


レキは上段の棍をかがんでかわしつつ、下段の棍を剣ではじいた。

そして、もう片方の剣をリネに振るった。


「えいっ」

「あうっ」


一人となったネスにもレキの剣が振るわれた。


やはり、三人でもレキを食い止める事は出来なかった。


――――――――――


「ちっくしょ~、強すぎるだろ」


レキの攻撃をくらったリリルが何とか立ち上がる。


「うう、痛い」

「でも我慢」


リネとネスの双子もまだ諦めていない。


ここで諦めてしまえばレキがアリル達に向かってしまう。

グル=ギ達が五人がかりでも勝てなかったのだ。

アリルとイメイの二人とて、負けるのは時間の問題だろう。


それはリリル達も同じ。

先程から三人がかりにも関わらず、ただの一撃も与えていない。

それでもリリル三人の闘志は冷めず、むしろ燃え上っていた。


全力を出しても勝てない。

三人がかりでも勝てない。


これほどの強者と戦う機会などそうはない。

故に。


「行っくぞおらっ!」

「まだまだ」

「まだいける」


観客からも分かるほど、リリル達は実に楽しそうに、何度もレキに挑んでいく。


――――――――――


リリルが真正面から突っ込んでくる。

かと思えばレキの直前で後ろに下がり、左右からリネとネスの棍が迫る。

片方を剣で打ち払い、もう片方をかわしたレキの隙をつくように、リリルが跳び蹴りを撃ち込んでくる。

それも避け、再び迫る二つの棍を剣で払い、背後から来るリリルに剣を振るう。


三人の連携は見事としか言いようが無かった。

一撃も当てられずとも、レキを確かにその場に食い止めていた。


最初の作戦では、こうしてレキを食い止めている間にアリルとイメイが他の四人を倒し、五人そろったところでレキに全力で挑むはずだった。

ただ五人で挑むだけでは勝てない。

グル=ギ達の二の舞になるだけ。

だが、アリル達の息の合った連携なら、あるいは勝てるかも知れないのだ。


そんな作戦を立てたアリルに、リリルは何を弱気になってやがると憤慨していた。

確かにレキは強いのだろう。

個人戦で優勝したのは伊達ではなく、アリルですら手も足も出なかったくらいだ。

でも、アリルと自分達なら負けやしない。

グル=ギ達とは違う。

アリルとあたし達ならきっと。


そんな考えはいつの間にか消え去っていた。

レキの実力を直に感じた今では、確かに五人で挑んでも無理だろうなとすら思うようになっていた。


どれだけ拳を繰り出しても、リネやネスが棍を突き出しても、レキにはかすりもしない。

「よっと」「ほっと」などといいながら、軽々とかわしてしまう。

これほどの強者が純人にいるなど思っていなかった。

アリルより強い奴がいるなど、考えた事も無かった。


自分が憧れ、近づきたいと願い、目標としていたアリル。

彼女がレキに抱き着いているのを見て、あんなガキのどこがいいんだと首を傾げた。

確かにレキは強いがそれだけじゃねぇかと。


こんなにも凄いとは思わなかった。

ただ強いのではない。

圧倒的に強いのだ。


レキほど強い存在をリリルは知らない。

そんな強者に挑む事がこんなに楽しいというのも、今まで知らなかった。


強者に挑む事の素晴らしさを、この時リリルは初めて知った。


願わくば、この素晴らしい時間が何時までも続きますように・・・。

試合の事も、作戦の事も忘れ、リリルはただレキとの手合わせを心から楽しんでいた。


――――――――――


楽しんでいるのはリリル達だけではない。

レキもまた、リリル達との戦いを楽しんでいた。

それはひとえに彼女達の連携力の高さ故だろう。

今まで戦ってきたチームとは段違いだった。


アラン達の連携も凄かったが、リリル達の方が迷いがない分攻めに途切れが無い。

拳のリリルと棍のリネ&ネス。

間合いの違いすら上手く使い、レキを釘付けにしていた。


そんな三人との戦いを楽しみつつ、レキはガージュ達の方も一応気にしていた。


――――――――――


「くっ!

 おいっ!」

「うらっ!」

「おっと、なに?」

「あっちはいいのかっ!?」


ガージュの視線の先、レキとリリル達がそれはもう楽しそうに戦って(たわむれて)いる。

同じ武舞台で戦っているガージュ達にも分かるほどに、四人は楽しそうだった。

今は試合中、それも大武闘祭の決勝である。

決してふざけている訳ではないのだろう、それでももう少し真面目に戦えと思わなくもなかった。


それ以前にだ。

こちらがピンチなのだから、早々にケリをつけて助けに来い!と思ってしまうのだ。


「ん~、仕方ないかな~」

「何がだっ!」

「おらっ!」

「よっと、だって相手はレキだよ?

 楽しまなきゃ損じゃない?」


だが、残念ながらガージュのその考えはアリルには賛同してもらえなかった。


カルクの攻撃を軽々と避けながら、ガージュの意見に首を傾げるアリル。

獣人には、純人には理解できない思考があるようだ。

理解できるとしたら、それはいわゆる脳筋と呼ばれる者達だけ。


ミームが毎日の様にレキと手合わせしているのは、レキと戦うのが楽しいから。

武舞台で戦っているリリル達も、つまりは同じなのだ。

強者と戦う喜び。

リリル達はきっと、これまでにない喜びを感じているに違いない。


試合を楽しむなとは言わない。

だが、もう少し周囲の状況も気にしろと思うガージュは間違っていないはず。


そんなガージュの考えはアリルには通じなかった。

獣人というのは、目の前に強者がいるなら挑まずにはいられないのだ。


レキという圧倒的な強者に、リリル達は三人で力を合わせて挑んでいる。


「くっ、脳筋どもめ」

「ふふ~ん」


ガージュの皮肉にアリルが笑みを浮かべる。

自覚があるのか、あるいはガージュの挑発を流しただけか。


リリル達がレキを食い止めている間に、アリルとイメイで残る四人を倒すはずだった。

だが、いざ戦ってみればガージュ達もなかなかに手ごわい。

勝てないとは思わないが、早々に片付けられる相手ではないようだ。


むしろ、レキの方が先にリリル達を倒してしまいかねない。

そうなればアリル達の負けは確実である。


そもそもレキ一人でもアリル達を倒してしまえる。

つまりはガージュ達を倒したところで結果は変わらないという事だ。


ただ、ガージュ達を倒せばその分だけレキと戦う時間が増える。

勝ち目こそ薄いが、レキと言う強者と全力で戦える事はアリル達の誉れにもなる。

悔いを残さない為にも、自分の全力を出し切りたかった。


それでもアリルはガージュ達との戦いを急がなかった。


ガージュ達も意外と強く、焦れば隙を突かれてしまう。

何より、ガージュ達との戦いもまた楽しかった。


実力ではアリルの方が上。

ガージュと、今はカルクがペアで戦っているが、それでもまだアリルの方が強い。

それが分かっているのか、ガージュ達の戦いは勝つ為ではなく負けない為のものになっている。


それもまた作戦。

リリル達がレキを食い止めている様に、ガージュ達もまたレキがリリル達を倒すまでアリルを食い止めているのだ。


それを卑怯だとは思わない。

勝てないと知りつつ、ガージュもカルクも逃げようとはしていない。

時間を稼げば良いだけなのに、二人は真正面からアリルと戦っている。


その彼らの気持ちが心地よく、年下である事も加わり何とも可愛いと思ってしまう。


「おらっ!」

「よっと」

「ふんっ!」

「ふふ~ん、甘いっ」


二人の連携もなかなか。

カルクが剣を振るい、生まれた隙をガージュが上手く埋めている。

カルクの方は何も考えていないのかも知れない。

あるいはガージュを信頼しているからこそなのかも知れない。


アリルに主導権を握られればあっという間に負けてしまう。

それが分かっているからこそ、カルクもガージュも引く事をしない。


イメイと戦っているガドとユーリもそれは同じ。

実力で負けている以上、連携と、そして気持ちで負けるわけにはいかない。


レキの仲間として。

最後まで諦める訳にはいかないのだ。

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