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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第36話:服を買おう!

レキの、と言うよりレキを着替えさせたいリーニャ達の目的の店となる服屋は、街の中央付近にあった。

エラスの街はさほど栄えた街ではないが、それでも基本的な店は揃っている。

服など生活に密接するような品物を取り扱う店も当然あった。


品揃えに関しては、正直それなりと言ったところだろう。

王都や栄えた街に比べれば大した事が無く、それでも服屋など来た事がないレキは「何人分の服があるんだろう?」などと軽く驚いていた。


「早速レキ君の服を選びましょう!」

「うむ!」


珍しくテンションの高いリーニャがそう宣言する。

それに同調するのはフランだ。

元々レキの格好に文句は無く、むしろ野性的で格好いいとすら思っていたフランだが、馬車屋の男によってその考えは改められてしまった。

心の底では、今もレキと同じ格好で森や野原を走り回りたいなどと思っていたりするのだが・・・。


「これじゃだめなの?」

「ダメです」

「そうじゃダメじゃ」

「・・・う~」


レキの意見を即座に却下し、リーニャとフランはレキの服選びを始める。

自分の服を選ぶかのように「あ~でもない」「こ~でもない」と次から次へと服を手に取っていく。


「レキならこういう可愛い服も似合うんじゃないか?」

「このフリル付きもなかなか」


少し離れた場所では、ミリスとフィルニイリスまでもがレキの服を選んでいた。


「ほら、この服ならレキ君とお揃いで着れますよ?」

「おお、確かに。

 しかもなかなか可愛いのじゃ」


「これなんか良いんじゃないか?

 可愛くて」

「こちらのレース地も捨てがたい」


レキ本人をそっちのけで服選びに没頭する四人。

時折聞こえてくる会話に「どうせなら可愛いより格好いい服の方がいいのにな~」と当たり前の事を考えるレキだった。


「・・・これも格好いいのになぁ」


そんな事を呟きながら、レキはただ四人が服を選ぶさまを見守った。


フランが怒った原因が今のレキの格好である事は何となく分かった。

何が悪いかまでは分からないし、「荷運び」やら「下男」やら言われても何の事が分からない。

それでもフランがレキの為に怒ってくれた事は単純に嬉しく、レキの為に服を選んでくれている事もまた嬉しかった。


あとは、せめて普通の男の子の服を選んでくれる事を期待するだけだ。


「う~む、どれにしようかのう?」

「私はどれも良いと思いますよ?」

「うむ、どれもレキには似合うだろうな」

「いっその事全部買えば?」

「そうしますか?」


いつのまにやら合流した四人。

その手には、四人が各自選んだのだろう服があった。

なお、店に入ってから今まで、レキは何もしていないし、何も聞かれていない。

ただただぼけ~っと立っているだけだった。


「馬車も手配できた。

 荷物なら多少余裕はある」

「う~ん、でも次の街や王都でも見たいですし」

「服なら何着あっても良いんじゃないか?」

「わらわはこれが良いと思う!」


四人が選んだ服。

どれも自分なりにちゃんと考えた上での服らしく、どれかに絞るのは惜しいらしい。

いっその事全部買おうか、などという意見も出ていた。


「この後私達の服も買うとなると、流石に多すぎませんか?」

「馬車にはあと食料と野営の道具くらいしか乗せない。

 余裕はある」

「そうだな、折角なので全部買ってしまっても良いんじゃないか?」

「わらわはこれが良いと思う!」


侍女の視点から、服の整理や洗濯などの手間を考えて量を絞りたいリーニャ。

積載量的な余裕を語るフィルニイリスと、むしろ必要な物なら買ってもいいだろうと考えるミリス。

そして、自分が選んだのが一番だと主張するフラン。


四者四様の様子に、当人であるレキは今だに放置されたままだ。


――――――――――


「とりあえずここでは二着ほど購入して、残りは次にしませんか?」

「わかった。

 何もここで全て揃える必要はない」

「まぁそうだな」


四人がそれぞれ選んだレキの服。

その中からとりあえず二着ほど購入するという事で話がまとまったようだ。


次に問題となるのは「どの服を買うか」だろう。

正しくは「誰が選んだ服を買うか」だ。


通常ならレキ自身が選ぶべきなのだが、何故かレキにその権利はないらしい。


「わらわはこれが良いと思う!」


先程から同じ言葉を繰り返すフラン。

その手にあるのは・・・意外にもシンプルで冒険者風な服だった。


フランは活発な性格をしている。

王宮でも部屋でおとなしくしているような性分ではなく、いつも城内を駆けまわったり訓練場で短剣や槍を振り回したりしているような少女だ。

魔の森では危険すぎる為におとなしくしていたが、余裕があったならレキやウォルン達と共に森の中を探検していただろう。

そんなフランが選んだ服。

それは地味でも動きやすそうで、何よりちゃんとした男の子向けの服であった。


半袖半ズボン、色は下は黒、上はグレー。

素材は麻、これも手触りではなく頑丈さを求めたゆえだろう。

デザインもシンプルで、レキという素朴な少年には良く似合いそうだ。


「あっ、かっこいい!」


危惧していた女の子向けな服ではなく、むしろちゃんとした男の子用の格好いい服に、レキは素直に感心した。


「そうじゃろそうじゃろ」

「うん、なんか冒険者っぽい!」

「うむうむ」


もちろん本職の冒険者は半袖半ズボンなど着ない。

木々で皮膚を切るだろうし虫などに刺される可能性もある。

防寒の意味でも長袖長ズボンが基本だ。


それでもレキはフランの選んだ服が気に入ったようだ。

そして、レキの反応にフランの機嫌も上々だった。


「私はこれですね」


といってリーニャが見せてきたのは・・・街の使用人が着るような服であった。

黒の半ズボンに白のシャツ、その上に黒のベストを合わせたような、少し上品な雰囲気の服装。

使用人、と言うよりむしろ育ちの良い貴族の子供向けの服とも言えるその服は、レキの今後を考えた上での服装である。


「なんか貴族みたい」

「あら、レキ君はこれから王都へ向かうのですから。

 今のうちにこういった服にも慣れておきませんと」

「え~、動きにくそう」

「ちゃんとした仕立ての服と言うのは着る者の動きを阻害しないものなのですよ?」

「そうなの?」

「ええ」


とは言え、この街にそんな仕立ての服があるはずもなく、まずは見た目から慣れさせようという考えなのだ。

慣れさせるという意味では服そのものに慣れさせる必要があるのだが、野生児のような恰好に慣れているレキにはこのくらいが妥協点だろう。

それが証拠に、貴族でなくとも例えば商人の子供なら着ていてもおかしくない服にもかかわらず、レキが何となく嫌そうな表情をしている。

自分には似合わないという気恥ずかしさもあるのだろう。


リーニャからすれば十分似合うと思えるのだが、本人が乗り気でない以上無理に勧めるのも良くは無い。

だが、今後王宮で生活する場合は基本的に「貴族みたい」な服で過ごす事になる為、今のうちに慣れさせる必要があった。

何より、宿屋や馬車屋でのレキの扱われ方は、リーニャとて不満なのだ。


加えて、デザインは似てても仕立ての悪い服を着させる事で、一から仕立てた服の着心地を実感させ、服そのものの印象を変えようという作戦でもあった。


とは言えあまり納得が行っていないようなので、とりあえずこの服は保留。


「私はこれ」


続いてフィルニイリスが見せてきたのは・・・一言で言えば魔術士見習いの服だった。

黒の長ズボンに白い長袖のシャツ、その上に丈の短いローブ。

どこからどう見ても魔術士見習い、あるいは魔術士に憧れる子供と言った感じの服だ。


「オレ、魔術士じゃないよ?」

「今はそうでもいずれは魔術士になる」

「なるの?」

「大丈夫、城に着いたらつきっきりで指導する」

「オレ、剣の方がいい」

「魔術も剣も使えた方が良い」

「う~ん・・・」


宮廷魔術士長のフィルニイリスはおろか、この世界の誰よりも膨大な魔力を持つレキである。

無詠唱で魔術が行使できるという点を加味すれば、将来的には間違いなくフィルニイリスをも絞ぐ魔術士になるだろう。

ただし、現段階では使える魔術も少なく、何より膨大な魔力を制御できずにいる為、魔術士見習いと言う表現がぴったりだった。


道中もフィルニイリスは魔術の基礎を教えていた。

王都に着いたら本格的に教えるつもりなのか、とりあえず今のうちに服装だけでも整えておこうという魂胆なのだ。

別に教わるのに服装など関係ないのだが、何となく師弟っぽいのでこの服を選んだのかも知れない。


とはいえ、レキとしては亡き父親が剣を得意としていた事もあり、魔術は使ってみたくとも魔術士を目指しているわけでは無かった。

よってこの服も保留。


ここまで三人がそれぞれ見せてきた服は、好みはあれどどれも男の子向けの服であった。

デザインもそれぞれ一長一短で、レキの好みはあれど一応どれを選んでも問題は無いもの。


ただ、最後のミリスが選んだ服だけは。


「私はこれだ!」


どこからどう見ても女の子向けの服であった。


――――――――――


「・・・ミリス」

「なんだ、レキ?」

「オレ、男だよ?」

「うん?

 そんな事知っているが?」


心底分からない風に首を傾げるレキと、そんなレキの反応にこちらも首を傾げるミリス。


色は白を基準にところどころピンクや黄色の花の刺繍がされている。

下はかろうじてズボンであったが、やはりこちらもピンクで赤いラインが入っている。

形だけなら男女共有であろうその服は、色やデザインという点で完全に女の子向けの服だった。


「上着もシンプルなデザインだし、下もちゃんとズボンだぞ。

 レキが着ても問題はなかろう?」

「やだっ!」

「何故だっ!?

 レキは可愛い顔しているのだからこういう服も似合うだろう!」

「絶対やだっ!」


レキの本気の拒絶にミリスがわたわたとした。

冗談ではなく本気で似合うと思って選んだのだが、レキの反応を見るに明らかに気に入らないようだ。


確かにレキは母親似の、いわゆる女顔である。

髪の毛は邪魔だからという理由で短く切っているが、伸ばせばそれこそ女の子と間違われてもおかしくは無かった。

まだ幼いレキにとって大好きな母親によく似た顔と言うのは別段コンプレックスではなく、むしろ母親を思い出せるものであるのだが、だからと言って女の子の服が着たいという訳ではない。


「ほら、試しに着てみてはどうだ?

 きっと似合うぞ?」

「やだっ!!」

「フ、フリルとかレースはやめたのだぞ?

 袖だって動かしやすそうな物を選んだし、ズボンだってすらっとして動きやすそうだろう?」

「いやだっ!」

「ま、何が不満なんだ!?」

「色っ!

 あと花とか!」

「そ、そんな・・・」


こればかりは譲れないと強く、それはもう強く拒絶したレキによって、ミリスの選んだ服はあえなく却下された。


結局フランの服と、気恥ずかしさより戦いやすさを重視してフィルニイリスの服を選んだレキ。

選ばれなかった二人はというと・・・


「どうぜ城では嫌でも着てもらう事になりますからね。

 急ぐ必要はありません」

「似合うと思うのだがなぁ・・・」


だそうだ。


その後、ついでに寝巻きと(これはレキが自分で選んだ)、レキ以外の四人もそれぞれが服を購入した一行。

店を出た時には、数時間ほどが経過していた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 地球において既製服という概念が生まれたのは、ヨーロッパで革命により身分制度がなくなった後であり100数年前と最近です。 それまでは、貴族は仕立て屋などにオーダーメイドの服を作ってもらい…
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