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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十八章:学園~大武闘祭・チーム戦~ 後半
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第359話:六学園合同大武闘祭・チーム戦の部、決勝戦開始

『選手の入場です!

 まずはフロイオニア学園第一チームっ!』


『うおぉ~!!!』


鼓膜が破れかねないほどの大歓声の中、先に登場したのはレキ達フロイオニア学園第一チーム。

先頭を歩くのはレキ。

アランに激励を受け、応援の為学園から一緒に来てくれたフラン達や、ここまで一緒に戦ってくれたガージュ達の為にも、レキは出来る限りの全力で挑むつもりだ。


そんなレキに続くガージュ達も気合は十分。

レキのオマケだという自虐的な考えも準決勝で晴れた。

強すぎる為決勝でも全力を出せないレキの力になる為、レキの分まで自分達の持てる全てを出し切るつもりだ。


『続きまして、プレーター学園第二チームっ!』


『うおぉ~!!!』


「いぇ~い!」


レキ達に負けるとも劣らぬ歓声を受け、アリル達が控室から文字どおり跳び出してきた。

普通に現れたレキ達と違い、アリルは控室の出口から跳躍、空中で一回転した後に武舞台へと見事な着地を決める。


美少女のパフォーマンスに、観客が更に盛り上がった。


「んっふっふ~、ようやくここまで来たよレキっ!」


ひとしきり観客たちへ手を振ったアリルが、満足げにレキの方へ振り返った。

先日の個人戦、一回戦で戦いそれなりに仲良くなったレキとアリルだが、それとは別に獣人としての血が騒いでいるようだ。


レキほどの強者となら何度でも戦いたい。

獣人なら当たり前の感情なのだ。


「アリル早い」

「置いてくのダメ」


そんなアリルに遅れて、リネとネスの双子がちょこちょこと駆け足で武舞台へと上がった。


「みんな早い~」


双子に続いてイメイも。


彼女達とて獣人。

決勝戦に対する意気込みも、レキという強者に挑みたいという感情も強い。


また、それとは別に彼女達はレキに対して感謝もしている。


「あ~、レキ君。

 さっきはありがとうございました~」

「さっき?」

「タンをぶっ飛ばしてくれた事です~」

「タン?」

「僕らが二回戦で戦った相手だよ」


二回戦でレキ達はプレーター学園の第一チームを倒している。

彼等はそれぞれアリル達のチームメンバーに懸想しており、試合中何度も彼女達への想い(?)を口にしていた。

台詞はとても気持ち悪く、普段はのほほんとしているイメイですら嫌悪感を隠そうともしない内容ではあったが。


イメイの言ったタン=フという少年は、試合中の台詞を聞く限りでは懸想というよりイメイの胸に執着を見せていた。

試合中、何度も「イメイのおっぱい」という単語をまるで掛け声の様に叫んでいたのだ。

イメイならずとも気持ち悪いと思っただろう。

そんなタン=フを自分の代わりにぶっ飛ばしてくれたレキに、イメイはスカッとした気持ちと感謝を伝えた。


「それなら私達も」

「君達に感謝」

「あ、ああ」


同じくリネとネスもグル=ギの仲間から邪な想いを寄せられ辟易していた。

彼等をぶっ飛ばしたのはレキではないが、感謝している事に変わりはない。


「あれは試合だったし」

「ううん、それでも感謝」

「あいつらと戦いたくなかった」


リネとネス曰く、彼等はこの大会に出場するにあたってとある条件を一方的に出していたという。

それは個人戦でグル=ギがアリルに向けて出していたのと同じ、優勝したら自分達と付き合えというものだ。

それを阻止した形となるレキ達に、彼女達は感謝しているのである。


「あたしも感謝はしてるけどな。

 でもアリルとの仲は認めねぇから」

「?」


渋々と言った感じでレキに声をかけたのはアリルチーム最後の一人リリル。

彼女もまたグル=ギの仲間に懸想されていた一人だが、彼女はプレーター学園でもアリルに次いで強く、言い寄る男など実力で排除できるらしい。


グル=ギ達が優勝したところで付き合うつもりなど誰も無かったが、しつこく言い寄る彼等に辟易していた事も確か。

なお、今後彼女達は優勝できなかった事を口実に、接近する事すら禁止するつもりである。


それはともかく、リリルの言葉にレキが首を傾げた。


アリルとの仲と言われ、色恋沙汰に対する感情がいまだ育っていないレキではあるが、それでもルミニアやユミ、ファラスアルムからは分かり易い感情を向けられている為何となくは分かっている。

だがそれをリリルが認めないとはどういう事なのだろうか。

アリルとリリルが姉妹で、どっちかどっちかは分からないが肉親として交際を認めないという事なのだろうか。


獣人が他の種族と交わった場合、基本的にはどちらかの種族の性質を受け継ぎ、混ざり合う事は無いと言う。

純人と交われば純人か獣人の子供が生まれ、獣人同士でも別の氏族同士の場合は父親か母親のどちらかの性質を受け継ぐ。

故に、彼女達が実の姉妹である可能性は無くもないのだが・・・。


「リリルはアリルを慕ってる」

「バッ!

 したってねぇ!」


リネの言葉に、リリルが大声を上げた。


プレーター学園の第三位にして、アリルのライバルを自称する猫の獣人リリル=ヤ。

学園では猫ながらに一匹オオカミを気取る少女である。

慣れ合いを好まない振りをしている彼女は、実際はアリル大好き少女だったりする。


入学当初は背も実力も低く、それでも狩りだけは得意だった彼女は、それが逆に周囲には生意気に映ったらしい。

特に男子から意地悪されていたところ、たまたま通りかかったアリルが容赦なく男子達を蹴り飛ばし、それ以降何かとアリルの周りをウロチョロするようになったのだ。


彼女の内心は、本人が気づいていないだけで非常に分かりやすく、当人であるアリル含めて周囲はとても暖かく見守っていたりする。


「なるほど・・・」

「ガージュみてぇだな」

「なっ!

 どういう意味だっ!」

「むぅ」


同じく素直になれない少年、ガージュ。

そんなガージュの内心もまた、結構バレバレだったりする。

もちろんガージュがレキを慕っている、という訳ではないが。


ガージュの色恋沙汰だけはカルク達にはばれていない。

というよりカルク達にそちら方面の興味がないのだが。

それでもルミニアにばれている時点で、隠しきれていないと言えるだろう。


「とにかくっ!

 レキ、てめぇはあたしが倒すっ!」


赤い顔をそのままに、リリルがレキに宣戦布告をした。


これはチーム戦である。

リリルがレキに突っかかろうと、レキが受ける理由は無いのだが。


「どうする?」

「グル=ギ達同様黙っててもレキに突っかかってくるだろう。

 僕たちは僕たちの戦いをすればいい」


二回戦同様、レキを囮に、ガージュ達が適時補佐をする。


レキに補佐?

という疑問は無視し、決勝戦の作戦はこのように決まった。


――――――――――


『さあ、二日間に渡る六学園合同大武闘祭もいよいよこの試合が最後!

 大武闘祭、チーム戦の部決勝、始めて下さいっ!』


「始めっ!!」


六学園合同大武闘祭。

その最後の試合となる、チーム戦の決勝が始まった。


「いっくよ~!」


真っ先に突っ込んできたのはアリル。


兎の獣人の脚力を活かし、誰より先に突っ込んでくるアリル。

彼女の狙いはレキ・・・ではなかった。


「うおっ!」

「おっ、いい反応」


ガドとカルクを前衛に、ユーリを中衛に置くいつもの配置。

狙われるであろうレキを少し離れた場所に配置したガージュだが、アリルはあえてレキを狙わなかった。

更には。


「こっちもいるぜっ!」

「なっ、がっ!」

「カルクっ!!」


アリルの攻撃をかろうじて防いだカルクに、リリルが追撃する。

彼女の拳がカルクの脇腹に命中し、カルクが武舞台の端へと飛ばされた。


「あなたは」

「こっち」

「えっ!?」


助けに向かおうとしたユーリを、リネとネスの双子が止める。

双子ならではの息の合った棍さばきは、一年生のユーリが一人で対処できるモノではない。


更には。


「え~いっ!」

「むうぅ!!」


レキに次いで力の強いガドも、イメイの力には勝てなかった。

彼女の斧を受けきれず、ガドもまた武舞台の端へと飛ばされた。


開始からわずか数秒。

レキ達はあっという間に劣勢になっていた。


――――――――――


『これはすごいっ!

 プレーター学園、あっという間に三人を倒しました』

『兎と猫の獣人の素早さを甘く見ていた。

 栗鼠の獣人もそれなりに速い。

 あと羊の獣人の力はそれなりに強い』


つまりは油断。

そう言いたいのだろう。


確かにカルク達は油断していた。


「どうせレキに突っかかってくる」


というガージュの台詞は、何もガージュだけの言葉ではない。

カルクもユーリもガドも、レキすらもそう思っていたのだ。


それが油断と言えば油断。

武舞台に上がっておきながら、自分達は狙われないなどと考える方がおかしかったのだ。

アリル達の攻撃は、ある意味ではガージュ達の思考の隙をついたものだった。


「くっ・・・」


それでも身体強化は間に合ったらしい。

カルク達はまだ倒れていなかった。


戦線に復帰するには時間がかかりそうだが、レキならそれまでの時間を稼ぐなど容易いはずだ。


「ガージュ、どうする?」

「・・・」

「ガージュっ!」

「はっ!

 レキ、少し時間を稼げっ!」

「分かったっ!」


いきなりの展開。

指揮官であるにもかかわらず、ガージュが呆気に取られた。


珍しいレキの叱咤にガージュが我に返る。

アリル達がレキを狙わなかったというのもそうだが、グル=ギ達相手にも多少は戦えていたカルクがあっさりやられた事に驚き、戸惑ってしまっていた。

いくらレキ頼りな戦いばかりしてきたとはいえ、自分達も少しは戦ってきた。

二回戦では四人がかりとは言え二人の獣人を。

三回戦では四対四で互角に渡り合った。

ミルアシアクルにも褒められ、自分達もそれなりにやれるのだと自信を持ち始めた矢先だった。


アリル達の速攻。

カルク、ユーリ、ガドが武舞台に倒れ、残るはレキと自分だけ。


五人がかりでレキに挑む、その前に邪魔となる自分達を排除する。

そういう作戦なのだろう。


レキが剣を振るう。

レキの剣をかわしつつ、アリルが距離を取った。

代わりと言わんばかりに、リリルがレキに拳を突き出した。

しゃがんでかわし、レキが横へと飛ぶ。

リネとネスの双子の棍を剣で防ぎ、更には脚で蹴る。

反動を利用し、双子と逆方向にレキが跳ぶ。

その先にいたイメイの斧とレキの剣がぶつかる。


アリルの蹴りも、リリルの拳も、リネとネスの棍も、イメイの斧も。

ガージュに言われ、時間を稼ぐレキには通じない。


レキが時間を稼いでいる間、カルク達が戦線へと復帰した。


「わりぃ、油断した」

「やはり彼女達は強いね」

「むっ!」


カルク達もまだ負けたわけではない。

ただし、真正面からぶつかるには分が悪すぎるようだ。

勝つ為には何か作戦を立てねばならない。


チーム戦は指揮官に、つまりガージュにかかっていた。

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