第355話:ミルアシアクル達の作戦?
「良い仲間をお持ちですね」
「友達だしっ!」
「ふふっ、そうですか」
相手チームの魔術に対抗する為、一か所に集まり足を止めて戦うガージュ達。
ガージュ達とは対照的に、レキとミルアシアクルは武舞台上を所狭しと駆け回り戦っていた。
真正面からの切り合い、あるいは魔術の撃ち合いでは即終わってしまう。
レキの隙を付き、あるいは隙を生み出す事で何とか打ち合えているのが現状である。
ガージュ達がレキが来るまでの時間を稼いでいるように、ミルアシアクルもまた、仲間がガージュ達を倒してくれるまで全力で耐えているのだ。
「"リム・スラスト"」
「えいっ!」
とはいえ、ミルアシアクルの表情に必死さは伺えない。
むしろレキ同様、この戦いを心から楽しんでいるようだ。
彼女が今戦っているのは、創世神や光の精霊と見紛うばかりの黄金の魔力を持つ少年レキ。
試合前、レキがその魔力を輝かせつつ握手してくれた時など、ミルアシアクル達フォレサージ学園第二チームのメンバーは、感激のあまり誰もが意識を失いかけた。
かろうじて意識を保てたのは、これからそのレキと試合をするから。
崇敬すらしているレキとの手合わせを前に、意識を失ってなどいられるはずがない。
意識を失い、試合を放棄しては一生後悔するし、何よりレキに対し失礼である。
ミルアシアクルがこうして時間を稼いでいる内に、仲間達にレキ以外の生徒を倒してもらう。
その後、全員でレキに挑むつもりなのだ。
レキほどではないにしても、レキの仲間達もそれなりに強い。
少なくともフォレサージ学園の一年より遥かに。
負けるとは思えないが、倒すのにはもうしばらく時間がかかるだろう。
問題は、それまでミルアシアクルが持ちそうに無い事だった。
獣人相手に武術のみで圧倒するレキに、魔術有りとは言え近接戦闘を仕掛けるミルアシアクル。
どう考えても勝ち目など無い。
フォレサージ学園の代表であり、森人ながらに剣術も収めているミルアシアクルだからこそ、これまで持たせられている。
時間稼ぎに徹しているからこそ何とかなっている、そう言い換えてもいいだろう。
それも限界が近かった。
ミルアシアクルが倒れれば、レキが加わったフロイオニア学園チームが圧倒してしまう。
遠距離から魔術で牽制する事で、フォレサージ学園はガージュ達を近づかせる事なく有利に戦えている。
その魔術で、レキは一回戦五人の魔術士相手に一人で圧倒、封殺したのだ。
レキがガージュ達に加わってしまえば、一回戦と同じことが起きてしまう。
それではミルアシアクル達の望みが叶わない。
彼女達には、この試合でどうしても達成したい願いがあるのだ。
「代わりますっ」
「やったっ!」
レキと剣を交えながら武舞台を動き回っていたミルアシアクル。
時には彼女の仲間達と接触する事もある。
何度目かの接近で、ミルアシアクルは仲間の一人の肩を叩いた。
待ってましたと言わんばかりに、仲間の一人がミルアシアクルと入れ替わりレキと対峙した。
「あれっ?」
「僕の名前はニーラヤイアクですっ!
よろしくお願いしますっ!」
試合中にもかかわらず、元気に自己紹介をするニーラヤイアク。
ペコリとお辞儀をし、レキに対して棍を構えた。
――――――――――
相手が誰であろうとやる事は変わらない。
レキは目の前の相手に集中し、ニーラヤイアクはレキを食い止めるため全力で棍を振るった。
ある程度レキと打ち合ったニーラヤイアクは、満足したような顔を見せた後仲間の下へと駆けよった。
ガージュ達と今対峙しているのは、先ほどまでレキと打ち合っていたミルアシアクルを加えた四名。
その内の一人に近づいたニーラヤイアクは、先ほどのミルアシアクルの様に彼女の肩を叩き、こう言った。
「交代するよっ!」
「は、はいっ!」
そして。
「また?」
「サムアムアリカと申します。
レキ様、お相手願います」
彼女もまた、レキと何度かやり合った後、満足して交代した。
武舞台上でレキが首を傾げている。
彼女達が何をしたかったのか分からないのだ。
最初は、自分とやり合う事で体力と魔力を大いに消耗したミルアシアクルが交代しただけだと考えた。
だが、次のニーラヤイアクはまだまだ余裕があったにも関わらず、次のサムアムアリカと交代してしまった。
勝てない事が分かり、倒される前に交替したのだろうか?
サムアムアリカもまた、ある程度打ち合った後でまた別の生徒と交代してしまった。
しかも、誰もが満足気な表情をしながら。
あるいは次から次へと交代し、レキを消耗させる作戦なのだろうか。
レキはそう考えたのだが、真相は違う。
「貴様らっ!
ただレキとやり合いたいだけだろうっ!」
全員がレキと手合わせしたかった。
それだけだった。
「仕方ないじゃないですかっ!
私だけレキ様とお出かけした事がばれて、森王様にまで羨ましいと言われたんですよっ!」
「だからと言って大会中に己の欲望を果たす必要は無いだろうがっ!」
「一人ずつお出かけなどレキ様にご迷惑でしょうがっ!」
「試合にそんな事情を持ち出す方が迷惑だっ!」
ガージュの反論ももっともである。
だた、ミルアシアクル達の戦い方はある意味作戦でもあった。
レキさえ押さえられれば後は実力差で押し切れる。
ミルアシアクルのみならず、この大会に出場するチームなら誰もがそう考えるだろう。
一回戦こそレキが一人で戦い、ガージュ達の実力は伏せられたままだったが、二回戦ではガージュ達もちゃんと戦った。
そこで、レキと他の四人との圧倒的な実力差が判明してしまったのだ。
一人でプレーター学園の代表三人を倒したレキ。
四人がかりで残りの二人を何とか撃退したガージュ達。
どちらをより警戒すべきかなど言うまでもない。
レキをなんとか食い止めている間に、残る四人でガージュ達を倒す。
最後に五人がかりでレキに挑む。
それこそが、ミルアシアクル達が取れる最善の方法でもあった。
一人でレキを抑え続けるのは難しく、だからこそ交代で相手をする。
それも作戦である。
そこに少しだけ(?)、個人の事情や欲求が加わっただけの話なのだ。
「レキ様をどうにかしないと勝てないのですから、これも作戦の内ですっ!」
「こちらの相手が適当過ぎるだろうがっ!」
「そんなことありませんっ!
こっちだって結構必死ですっ!」
「なっ!?」
彼女達の警戒対象はレキ。
残りのガージュ達は明らかについで。
話を聞いて、てっきりレキと手合わせする順番を待っている間の、それこそ暇つぶしのように戦っているだけだとすらガージュは考えてしまった。
だが、ミルアシアクル達はガージュ達を相手にする際も、決して手など抜いていなかった。
ガージュ達とてフロイオニア学園で行われた武闘祭で優勝し、学園の代表に選ばれた生徒達。
レキの実力に隠れてはいるが、ガージュ達とてそれなりに強いのだ。
「プレーター学園の代表相手に渡り合ったのですよ?
油断出来るはずありません」
「あれはレキが三人倒したからだろう?」
「四人がかりとは言え一年生がプレーター学園の四年生を二人も倒したのです。
油断してたら私達とて危うい。
それにっ!」
「それに?」
二回戦の戦いを見て、ミルアシアクルはガージュ達の実力を正しく測っていた。
近接戦闘に優れた獣人。
その内二人をガージュ達は倒している。
いくら人数差があったとはいえ、相手はプレーター学園の四年生。
例年なら間違いなく優勝候補の筆頭だろうチームメンバーを、一年生のガージュ達は倒しているのだ。
それも、レキの手を借りずに。
少なくとも、ガージュ達の実力はフロイオニア学園の代表の名に恥じるものではない。
近接戦闘が不得手なミルアシアクル達では、油断すれば足元をすくわれかねない。
故に、ミルアシアクル達はガージュ達にも決して手を抜かず、全力で当たっていた。
「こちらに余裕があればレキ様にもう一人つける事も出来たでしょう。
プレーター学園の様に、二人で抑えられるならそうしたでしょう。
ですが、皆様の実力なら私達四人で挑まねば負けてしまいかねないのです。
これもまた確実に勝利する為の作戦。
決して私情を優先している訳ではないのですよ?」
「・・・ちっ!」
思わぬ評価にガージュが顔を背ける。
「ガージュ、喜んでいる暇はないよ」
「うるさいっ!」
「ありがとうございましたレキ様」
「へっ?
うん」
「サリサ、交代です」
「やったっ!
レキ様、お相手願いますっ!」
「あ、うん」
そんな間にも、レキと戦っていた生徒がミルアシアクル達に近づき、交代した。
今まで戦っていたのはイーアフリルム。
魔木製の杖を武器に何とか食らいついていた彼女も満足したようだ。
爽やかな顔で仲間の肩を叩き、再び戦列に加わる。
次にレキの相手をするのはサリサルニキル。
彼女は元気よくレキの下へと駆け寄り、杖を構えた。
「やはりレキと戦いたいだけだろうっ!?」
「そ、そんな事ありませんっ!」
その後、全力を出し切って満足したらしいサリサルニキルが再び戦列に戻った。
これでフォレサージ学園第二チームの全員がレキと個別に戦った事になる。
彼女達も体力的にはまだ余裕があった。
やろうと思えば、もう一巡くらい出来たかも知れない。
レキの体力が多少なりとも減っていれば、あるいはそれもありだっただろう。
だが、魔の森で一日中狩りをしてきたレキがこれしきの事で疲れるはずも無かった。
目的は達した。
これ以上レキと一対一で戦ってしまえば、こちらの方が個別に倒されていく可能性が高い。
これ以上レキを食い止める事は厳しい、そう判断したミルアシアクルが作戦を変え、五人かかりでガージュ達に挑む。
ガージュ達もまた、レキを加えて戦った。
そして。
「それまでっ!
フロイオニア学園第一チームの勝利っ!」
レキ達の決勝進出が決まった。




