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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十八章:学園~大武闘祭・チーム戦~ 後半
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第352話:アランとジガの作戦

「ラリアは実は獣人ではと思う時があるんだけど」

「安心しろ、王宮の騎士達もあんなもんだ」

「・・・騎士団でやっていく自信が無くなった」


軽口を叩きながらも、アラン達は油断なく身構え相手チームの魔術に備えている。

ライカウン学園は、使用する魔術の等級に差をつける事で発動時間をずらし、アラン達に攻め入る隙を無くしているのだ。


「阿呆な事言うとらんで何とかせいっ!」

「なかなか隙がありませんっ!」


獣人の身軽さで魔術をかわし続けるジガ。

アランに倣い剣と盾を構えるローザが、フィルアと共に相手の魔術を防ぐ。

皆に守られる形となったアランが、無詠唱(詠唱破棄)で魔術を放った。


連続で魔術を放てれば、あるいはレキの様に封殺できるのだろう。

だが、アランにはレキほどの魔力が無い。

レキの真似をすれば、早々に魔力枯渇に陥ってしまうだろう。


相手はライカウン学園の代表チーム。

魔術士のみで構成されたチームと言えど、容易く勝てる相手ではなかった。


「おらおらっ!!」

「はあっ!!」


金属の杖を棍棒の様に振りまわすライカ。

彼女も魔術士。

魔術士のはずだ。

精霊信仰を始め様々な神話を学ぶ学園の、座学と魔術に力を入れているはずの生徒なのだ。


「ぶっとべっ!」

「貴様がなっ!」


互いの武器が激しくぶつかり合い、その反動でライカとラリアルニルスが距離を取った。

すぐさま距離を詰めないのは、仕切り直す為だろうか。

お互い不敵な笑みを浮かべつつ、再び武器を構える。


一人は知識と魔力を重んじる森人であり、もう一人は精霊信仰を司る教国の生徒なのだが、試合内容と言い今浮かべている表情と言い、とてもではないがそうは思えなかった。


「彼女は純人なのか?」

「いえその・・・」


つい尋ねてしまったアランに、リーラが気まずそうに視線をそらした。


「うらあっ!」

「こいっ!!」


そんなやり取りがされているとも知らず、ライカとラリアルニルスは再びぶつかり合う。

これはチーム戦。

決して、個人戦ではない。


「どうする?」

「放っておけ」


「どうします?」

「放っておきましょう」


仲間達そっちのけでぶつかる二人に、アランとリーラは同時にため息をついた。


――――――――――


「アラン、ワイに一つ考えがあるんやけど?」

「なんだ」

「あんな・・・」


ローザとフィルアに前衛を任せ、ジガがアランと何やら作戦会議を始めた。

アランのチームは基本的にはアランが指揮を執るが、その余裕が無かったり状況が打開できない場合などはローザやジガ達が遠慮なく意見を言う。

フィルアは指示された事を忠実にこなす騎士タイプで、ラリアルニルスは普段は冷静だが戦闘中は脳筋気味となってしまう。


今の状況は膠着状態、このまま進めばどう転ぶか分からない。

先日の個人戦でのグル=ギの様に、痛みを我慢して特攻すれば打開できるかもしれないが、リーラのルエ・ウェイブをまともに喰らえば耐え切れず押し流される可能性がある。

魔力切れを待つのも手だろうが、これが大武闘祭である事を考えれば消極的過ぎる。

もちろんそういった作戦を取るのもありだろう。


それこそ二回戦第二試合のマチアンブリ学園の様に。


彼等が相手の魔力切れ、あるいは判定勝ちを狙っていたのは、あの学園が実力より己の商才を見せる為に出場しているから。

アラン達とは学園の方針が違うのだ。


「いいだろう」

「よっしゃ、ほなアランは準備な。

 ローザ、フィルア、も少し耐えぃ」

「分かりました」

「悪だくみ?」

「人聞き悪っ!?

 作戦やっ!!」


アランが不敵な笑みを浮かべた。

それを見て、ローザとフィルアが盾を持つ手に力を込める。


ジガの立てた作戦は聞き取れなかったが、アランが採用するなら問題ない。

ジガとて飄々としてはいるが基本的には獣人であり負けず嫌いである。

そんなジガが負けるような作戦を立てるはずがない。

それが分かるからこそ、ローザもフィルアも何も聞かず従うのだ。


「"赤にして勇気と闘争を司りし大いなる火よ"・・・」


「魔術っ!?」

「ですがっ!」


ジガが詠唱を始める。

ローザとフィルア、二人の盾に守られている状況では、ライカウン学園の魔術も届かず詠唱を妨害する事が出来なかった。


「行っくでっ!

 "エド・ブロウ"」


ジガの手から火球が放たれた。

赤系統初級魔術のエド・ブロウ。

火球を飛ばし、相手にぶつけるのと同時に破裂させる攻性魔術。

威力に優れる赤系統の、初級魔術の中では比較的ダメージの大きい魔術である。


「"ルエ・ウェイブ"!」


詠唱魔術の欠点の一つに、呪文の内容で行使する魔術がばれてしまうと言う点がある。

呪文は行使する魔術を如実に表す。

それが魔力とイメージを高める手助けになるのだが、こういった限られた場所での戦いでは相手の耳にも容易に届いてしまうのだ。


ジガの呪文から、それが赤系統である事を看破したのだろう。

すぐさまリーラが対抗する魔術を唱え始めた。

赤系統は青系統に弱く、ましてやジガが放ったのは初級魔術。

リーラの放つ青系統中級魔術のルエ・ウェイブを貫くことも出来ず、そのまま飲み込まれ消えていった。


「今やっ!」

「"エド・ウォール"っ!」


自身の放ったエド・ブロウが消された事を確認し、ジガが即座にアランへ指示を出す。

ジガの合図にアランが放ったのはエド・ウォール。

赤系統中級魔術であり、赤系統には珍しい防性魔術だ。

地面より火を生み出し壁となす。

その壁は下手な魔術をかき消し、突っ込んでくる魔物が弱ければそのまま消し炭になるだろう。

防性魔術でありながら攻撃性をも持ち合わせている魔術だ。


流石に中級魔術を即放てるほどの魔力はアランにはない。

故に、ジガが合図を出すまで魔力を練っていた。


アランの生み出した火の壁とリーラの津波がぶつかった。

水が火をかき消し、火が水を蒸発させる。


武舞台が、霧に包まれた。


――――――――――


「うおっ!

 なんだこりゃ!?」

「アランっ!?

 いや、ジガかっ!!?」


少し離れたところから、ライカとラリアルニルスの驚いた声が聞こえてくる。

突然の霧に視界を塞がれ、戦いどころではなくなったのだろう。


「目くらましっ!?」

「お、落ち着いてくださいっ!

 ルルアさん、リム・ブロウをっ!」

「は、はいっ!」


武舞台を包む霧。

リーラのルエ・ウェイブとアランのエド・ウォールが衝突し、発生した霧は魔素を含むが故に選手達の視界をほぼ遮った。

おそらくは目くらまし。

魔術と言えど目視出来ない的に当てるのは難しい。

どれだけ当たるイメージを描いても、自動で当たる魔術というのは上位系統以上に困難なのだ。

故に、こうして自分達の身を隠したのだろうとリーラ達は考えた。


リーラ達だけではない。

おそらくは会場にいるほとんどの者はそう考えただろう。


「う~む、見えんのじゃ」

「これってあれよね?

 ほら、学園の決勝」

「あっ!」

「ええ、アラン様が使った作戦ですね」

「やはり目くらましでしょうか?」


試合を見守るフラン達。

ミームが思い出した様に、学園の決勝でも同じ事が起きている。

あの時、アランは少しでもレキの力を削ぐため、自分も不利になる事を承知で使っていた。


今回は相手の魔術から自分達を隠す為に使ったのだろう。

同時に、霧にまぎれて接近する為に違いない。


だが所詮は霧。

包まれたところで視界以外に影響は無く、風の一つでも起こせばすぐさま解消できてしまう。


「"緑にして探求と調和を司る大いなる風よ"」

「お二人はルルアさんを守ってくださいっ!」

「「はいっ!」」


リーラ達もそれが分かったのだろう。

緑系統が得意な仲間に指示を出し、自分は四方から接近してくるであろうアラン達に備えた。


真正面から突っ込んでくるとは思えない。

手あたり次第に魔術を放たれれば容易に被弾してしまう可能性があるからだ。

少し離れたところで慌てているライカが気にはなるが、彼女の場所はある程度声で把握出来ている。


「くっそっ!

 邪魔だ」

「アランっ!

 何とかならんのかっ!」


視界は悪いがお互いの距離が近かったのだろう、霧にもめげずライカと打ち合うラリアルニルス。

若干うるさいが、あれなら間違ってもライカに当たる事はない。


警戒すべきはアラン達。

何時左右から仕掛けてくるか分からず、だからこそこうして左右を警戒し続けるしかなかった。


「"我が手に集いて立ちはだかりしモノを討ち砕け"」


詠唱が終わる。

風の塊を放ち、当たると同時に破裂するリム・ブロウなら、相手に当たらずともその衝撃で霧を散らす事が出来る。

そう考えたルルア。

だが、


「「"リム・ブロウ"」えっ!?」


魔術名が重なって聞こえた。


誰かが、同じタイミングで同じ魔術を放ったのだ。


ルルアの放った風の魔術。

それと同じ風の塊がアラン達から飛んできた。

風の塊は両チームのほぼ中央でぶつかり、衝撃がリーラ達を襲った。


「「「「きゃあ~!」」」」


霧が晴れた。

思わぬ衝撃に己が身を護るリーラ達。

幸い、ぶつかり合ったのは初級魔術。

直撃すればそれなりにダメージを負うだろうが、離れた場所であればダメージは少ない。

むしろ、アラン達の作戦と予想外の風に対する驚きの方が大きかった。


それでも隙を晒した事に変わりは無かった。


「後ろやっ!」

「えっ?」


霧にまぎれ、ジガが背後に回っていた。

リム・ブロウがぶつかった衝撃と音も、彼の気配を隠すのに役立っていた。


「後ろっ!?」

「カレンっ!」


「あなたの相手は」

「私達ですっ!」


少し遅れて、フィルアとローザがリーラ達に挟撃を仕掛けた。

霧の中、リーラ達はアラン達が仕掛けてくるのを警戒し続けていた。

故にジガは、わざわざ相手が待ち構えている時に仕掛けるより確実な隙を付く作戦に出たのだ。


霧にまぎれて距離を詰めながら、魔術をぶつける事で相手に隙を作る。

それこそがアランとジガが考えた作戦だった。


それは見事に成功した。

元より接近戦ではアラン達に分があった。

距離さえ詰められれば、もはや敵では無かった。


「これでも剣術には多少自信があるのでな」

「きゃっ!!

 さ、さすが申し子様と同じ」

「いや、レキと比べられてもな・・・」


さらに遅れて、アランが正面からリーラに迫る。


リム・ブロウを放ったのはアランである。

元々は赤系統しか使えなかったアランは、学園で研鑽を重ね緑と青系統の魔術も身に付けていた。

緑はフランが使えるからで、青はレキのルエ・ボールをフランが喜んだからという理由ではあったが、アランの努力の成果である事に違いはない。


四方を警戒していたリーラ達。

にもかかわらず、アラン達はリーラ達を四方から攻める事に成功した。


霧は視界を遮る為であり、リーラ達を一か所に集める為でもあったのだ。


下手に近づけば魔術で迎撃されてしまう。

霧があろうと接近がばれれば、あてずっぽうで放たれる可能性もあった。

リム・ブロウによる衝撃を与える事で、こうして接近する隙を作ることが出来たのだ。


ここまでくれば後は純粋な武術での勝負となる。

魔術主体のライカウン学園では、武術と魔術両方を学ぶフロイオニア学園に敵うはずも無かった。


「うおぉ~~!」


離れた場所では、ラリアルニルスが勝利の雄たけびを上げていた。


二回戦第三試合、アラン達フロイオニア学園第二チームの勝利である。

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