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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十八章:学園~大武闘祭・チーム戦~ 後半
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第350話:二回戦第二試合

『さあ続きまして二回戦第二試合。

 まずはフォレサージ学園、第二チームの登場ですっ!』


「ミルア~!」

「頑張れ~!」


大会はそのまま進み、二回戦の第二試合。

ヤランの進行で登場したのは、ミルアシアクル達フォレサージ学園第二チーム。

一回戦で魔術を反射する盾、その試作品を用いたマウントクラフ学園に勝利した(?)森人かつ魔術士のチームだ。


「ミ、ミルアさん~!

 がんばってくださ~い!!」

「ふふっ、ファラさんもすっかりミルアさんのファンですね」

「えっ、いえ、その・・・」


『続きまして、マチアンブリ学園第二チームっ!』


対するはマチアンブリ学園の第二チーム。

自らの才覚で集めたという武具を身に纏い、意気揚々と武舞台に上がった。

獣人が武術を、森人が魔術を、山人が己の鍛えた武具を用いて戦うように、彼等は商人として戦うのである。


チームを率いるのはアミス=ニーラ。

先日の個人戦でリーラの魔術を跳ね返そうとバッタものの魔術反射の盾を構え、場外まで押し流された選手である。


『先日の個人戦では魔術を反射する盾の偽物を掴まされ、あえなく敗北したアミス=ニーラ選手率いるマチアンブリ学園第二チームです』


「でっかいおせわやっ!」


『彼らが持っていた盾は偽物だった。

 他に対策が無ければ勝利は難しいはず』

『さあ、マチアンブリ学園の新しい対策はあるのでしょうか!?』


マチアンブリ学園は商人を育成する学園という面が強い。

その為、武術や魔術は身を護る程度にしか身に付けていない生徒が多いのだ。

もちろん他の学園を圧倒するほどに強くなる生徒も中にはいるが、マチアンブリ学園で最も重要視されるのは座学、商学である。

当然、代表に選ばれるのも商学の優秀な生徒となる。


ここにいるマチアンブリ学園の生徒達は皆、武術や魔術より座学が優秀な者達ばかりという事だ。

当然、彼等の武器はその鍛え上げた頭と、商人として集めた武具という事になる。


「ふっふっふ、ワイを昨日までのワイと一緒にしたらあかんで」

「せや、バッタモンつかまされる阿呆と一緒にされたらかなわんわ」

「やかましいわっ!」

「ちっとばかり金稼ぐんが上手いだけで代表面されてもなぁ」

「商人はそれが全てやろっ!?」

「いやいや、商人は繋がりこそが大事やで」

「なにいうとるん、商人は信頼や!」

「ワイなら家柄もばっちりや!」


進行役のヤランや解説のフィルニイリスの言葉に、アミス達がワイワイと騒ぎ始めた。

先日の個人戦で、確かにアミスは偽物を掴まされるという商人としての醜態を晒したのかも知れない。

ゴウヒにも言える事だが、騙されたのは商人としての失態以外何物でもないからだ。


それはアミス自身良く分かっている。

だからこそ先日の事を失敗と認め、反省し、次に繋げるのだ。


そんなアミスを揶揄いつつも盛り上がる仲間達。

ある意味仲はよさそうだ。


これから戦うのはアミスが戦ったリーラ=フィリーと同じ魔術士達。

あれだけワイワイ騒いでいるのだから、魔術に対し新たな対策はしているはずである・・・多分。


『さあ、両チームとも準備はよろしいでしょうか』

「ええで!」

「私達も大丈夫です」

『では、二回戦第二試合、始めて下さいっ!』


「始めっ!」


「"大いなる水、大いなる慈愛、全てを癒す優しき元素"」


ミルアシアクルが呪文の詠唱を始めた。

今回の相手は速度に優れる獣人ではなく、フォレサージ学園同様魔術の研鑽を重ねるライカウン学園でもない。

ましてや武術と魔術両方を習い、今大会で躍進を続けるフロイオニア学園でもないのだ。


己の才覚で集めたらしい武具に身を包み、試合が始まっても様子見、あるいは観察に徹するアミス達。

魔術を反射する盾はもう無い。

ならばと、ミルアシアクルは躊躇う事無く呪文の詠唱を続ける。

使用する魔術は、一回戦でも使用した魔術ルエ・ウェイブ。

先日の個人戦でライカウン学園の代表リーラがアミスやゴウヒを押し流した魔術でもある。


「これを見ぃ!」


ルエ・ウェイブは中級魔術である。

呪文の詠唱も初級より長く、その分隙も大きい。


にもかかわらず、アミスは開始位置から動かずその場で何やら杖をかざした。


『フィルニイリス様、あれは?』

『先端にあるのは魔石。

 おそらくは魔術具』

『魔術具ですか?』


アミスのかざした杖、その先端には拳大の魔石がはめ込まれていた。


魔石とは魔力を秘めた石の総称である。

大半は石や鉱石などに魔素が溜まり変質した物だが、中には魔素そのものが圧縮されて石となった物もある。

魔術を発動させる際の補助的な役割を果たす為、魔術士の杖に用いられることが多い。

また、魔術具に組み込むことで様々な効果を発生させる事も可能である。


アミスのかざす杖、その先端にも魔石が付いている。

おそらくは何らかの魔術具なのだろう。


「これをこうしてやな」


拳大の魔石がはめ込まれた杖。

それを、アミスが武舞台に突き刺した。


彼の仲間達も同様の杖を取り出し、いちいち順番に杖をかざしては自分達の周囲に突き刺していく。


『マチアンブリ学園の生徒達、何やら良く分からない行動に出ました』

『あれは結界?』


五本の杖が彼等を囲う様に聳え立ち、アミスが杖に手をかざし魔力を注いだ。

直後、杖の先端にある魔石が輝き、彼等を光が囲っていった


「どやっ!

 これが魔術結界や!」


アミスが光の中で胸を張る。


魔術結界、それは。


『結界にはいくつか種類がある。

 マチアンブリ学園の生徒は使ったのは外部からの魔術を防ぐ結界。

 あの結界の中にいれば、あらゆる魔術から身を守る事が出来る』


「へ~」


フィルニイリスの説明に、控室で試合を見学するレキがそんなのあるんだと感心した。

魔術具に関してはまだ習っていない為、レキは知らなかったのだ。

そこかしこから同じような反応がしているのはここが魔術に疎いプレーター獣国だからか。

カルクや、観客席にいるミームなども同じような声を漏らしていた。


「フォレサージ学園は魔術に力入れとるからな。

 魔術さえ封じれば敵や無いで」

「"ルエ・ウェイブ"」


胸を張り続けるアミス=ニーラ。

そこに、ミルアシアクルの放つ津波が襲い掛かった。


――――――――――


「そ、そんなっ!」


ミルアシアクルの放った水の津波がアミス達を結界ごと飲み込んだ。

だが、アミス達を囲う光の結界はミルアシアクルの津波をそのまま受け流し、後には平然と立つアミス達が残っていた。


『おぉ~!

 ミルアシアクル選手のルエ・ウェイブをものともしません。

 マチアンブリ学園の結界、お見事ですっ!』

『魔術によって生み出された水には魔力が含まれている。

 あの結界はその魔力に反応し受け流している』

『なるほど。

 ん、でもそれでは』

『普通の水なら問題無い。

 あと、魔術以外の攻撃には効かない』

『つまり、魔術以外は防げないという事でしょうか?』

『おそらくはその通り』


「確かにこの結界は魔術以外は防げへん。

 けどな、魔術士が相手なら問題あれへんわ」


アミスが結界の中でこれでもかと胸を張り続けた。

先日の失態もこれで挽回出来た事だろう。


結界の中にいれば魔術は届かない。

フォレサージ学園は森人の学園であり、授業でも座学と魔術に力を入れている。

故に、魔術さえ封じ込めば勝てると考えたようだ。


「まだですっ!

 "黄にして希望と恵みを司る大いなる土よ、我が手に集いて立ちはだかりしモノを討ち払え"、"エル・ボール"」


ミルアシアクルのルエ・ウェイブが通じなかったのを見た彼女の仲間が、即座に違う魔術を放つ。

使ったのは黄系統の初級魔術エル・ボール。

土の塊を打ち出し、物理的にダメージを与える魔術だ。


土の塊が彼らの結界に当たり、盛大に砕けた。


『エル・ボールは周囲の土を魔術で集め、固めて放つ魔術。

 魔術で水を生み出すルエと違い、用いるのは元からある周囲の土。

 でも魔力で固めている以上、魔力が霧散すれば元の土に戻ってしまう』


そこに魔力が宿っている以上、アミス達の結界には効かないのだろう。

風を用いるリム、水を生み出すルエ、土を操るエル。

どれも己の魔力を用いて放つ魔術。

魔力が含まれる以上、あの結界は全てを弾き受け流してしまうようだ。


『フォレサージ学園手も足も出ないかっ!』

『赤系統ならおそらく、火は通じずとも放ち続ければ周囲の温度を高め、蒸し焼きにする事は出来るかも知れない』

『こわっ!』

『そもそもあの結界内にいれば安全かも知れない。

 けど、彼等も何も出来ない』

『あっ!』


「ははんっ!

 そないな事分かっとるわ」

「ほれっ!

 出たで~」

「魔術放ってみぃ~!」


フィルニイリスの言葉に反応しつつも、ミルアシアクル達を揶揄い、煽る様に結界の外へとぴょんと出ては中に引っ込む事を繰り返すアミス達である。


『あれは相手の攻撃を誘っているのでしょうか?』

『近づいてきたところを攻撃する為だと思う』


マチアンブリ学園でも一応武術と魔術は習う。

だが、どちらも護身程度。

今大会で勝ち抜けるほどではない。

一回戦ではアラン達相手に奮戦したゴウヒ達のチームも、金に物を言わせた武具あっての試合だった。


もちろんそれはアミス達も同じ。

だが、ゴウヒ達が真正面から戦う為の武具に金をかけたのと違い、アミス達は魔術を防ぐ結界の魔術具に金を費やしている。

その為、相手の魔術こそ封殺できてもその分アミス達も何もできないという状況になっていた。


『結界内から魔術を放つ事は?』

『あの結界は敵味方関係なく全ての魔力に反応する』


他の遠距離攻撃の手段。

例えば弓でもあれば話は違うのだろう。

だが、彼等は誰も弓など魔術以外の遠距離攻撃の手段を持っていなかった。


「ほれほれ~。

 このままやと時間切れやで~」

「はようせんと判定になるで~」


『判定の場合どうなるでしょうね?』

『攻撃こそしていないが相手の魔術を完全に封殺したマチアンブリ学園側が今のところ有利』


今大会に存在する制限時間は一試合につき二時間。

その間に勝負が決まらなければ、フィルニイリスを始めとした判定協議員達で勝敗を決める事になる。

フィルニイリス一人で決める訳ではないが、フィルニイリスがそう判断した以上おそらくはアミス達が今のところ有利なのだろう。


「ふう・・・仕方ありません。

 レキ様の前で拙い技をお見せするのは心苦しいですが、そのレキ様とお手合わせする為です」


このまま何もしなければミルアシアクル達フォレサージ学園側が敗北してしまう。

攻撃手段が魔術しかなければ、おそらくはそうなった事だろう。

だが。


「えっ?」


観客席で試合を見守るファラスアルムが驚きの声を上げた。

森人であり、魔術士であるミルアシアクルが、武舞台上で剣を構えたのだ。


『おやっ!?

 ミルアシアクル選手、剣を構えました』

魔銀ミスリル製の細剣。

 杖代わりにも使える』

『なるほど』


ミルアシアクルの構える剣が輝く。


フォレサージ学園は確かに座学と魔術に力を入れている。

だが、武術を習わない訳ではない。


「私達森人は他の種族に比べて筋肉が付きにくいのです。

 その分魔力は多く、身体強化をすれば身体能力だけなら他の種族にも引けを取りません。

 ただ、同じ魔力を費やすなら危険を冒してまで近づくより、遠距離から魔術を放った方が効率が良いので、武術より魔術を優先して習うのです」


『そうなのですか?』

『そう』


フィルニイリスを始め、森人は細身の者が多い。

どんなに鍛えても種族的に筋肉が付きにくいのだ。

おそらくは森人の種族特性なのだろう。


アランチームで大剣を振るうラリアルニルス。

彼も身長こそ高いが体は細い。

それでも大剣を振るえるのは、魔力による身体強化を行っているからだ。


ラリアルニルスのように武術を主体とする森人はあまりおらず、ほとんどの森人は魔術を主体に、武術は護身程度にしか習わない。


『森で戦闘を行った場合、木の陰から急に魔物が飛び掛かってくる事もある。

 とっさに魔術が放てれば良いが、間に合わなければ殺されるだけ』


それでも万が一の為、森人も一応は武術を習うのだ。


「ふふんっ!

 そんならワイらだってっ!」

「せや!

 それに武具ならワイらの方が上やで~」


護身程度であればアミス達も習っている。

むしろ森人ほど魔術が得意でない分、その割合はマチアンブリ学園の方が多少上かも知れない。

そこに彼等が金に任せて集めた武具が加わる事で、魔術無しの戦いならアミス達の方が有利となる。

そう判断したらしいアミス達が、結界内で再び胸を張った。


「ならば試してみましょうっ!

 行きますっ!」


身体強化を施し、ミルアシアクルが躍り出た。

森人が誇る魔力を存分に使った身体強化、それによって生まれた速度は獣人にすら引けを取らなかった。


「はやっ!」

「まてやっ!

 迎え撃つでっ!」


結界内にいれば安全。

そう思いつつ、念のため重武装していたアミス達である。

その武具の重さが、ミルアシアクルへの対応の遅れに繋がった。


「はあっ!」

「うおっ!」


キィンッ!

金属同士が激突する、澄んだ音が武舞台に響いた。

魔術結界は魔術とそれに含まれる魔力を拒む。

だが、身体強化は魔力を体内に流す為、結界に反応しないのだ。


更にミルアシアクルは結界を通り抜けた直後から己の持つ細剣に魔力を流している。

魔力による身体強化に加え、魔力と親和性の高い魔銀ミスリル製の細剣にも存分に魔力を流した状態での一撃は、その見た目の細さとは裏腹に存分な威力があった。


だが、武具に用いられている素材ならアミスも負けていない。

彼等が身に纏っているのは魔鉄の鎧。

魔力との親和性は魔銀ミスリルより低いが、硬度なら負けていない。

魔術に対する抵抗値も魔銀ミスリルより低いが、それはアミス達が用いた結界があれば良かった。


だが、アミスはその結界の外へとはじき出されていた。

ミルアシアクルの攻撃を抑えきれず、押し出されてしまったのだ。


「はあぁっ!」

「うおぉ!」


ミルアシアクルが剣を振るう。

それはレキと比べれば確かに拙いが、森人はおろか獣人にだって負けていなかった。


「アミスっ!」

「アカン、援護やっ!」


「させませんっ!

 "緑にして探求と調和を司る大いなる風よ"」


一転して不利となったアミスを援護すべく、マチアンブリ学園の選手達が結界の外へと出た。

そこを逃さず、フォレサージ学園の選手達が魔術で狙い撃つ。


結界から出れば魔術を喰らってしまう。

だが、結界の中からではアミスの援護が出来ない。


アミスを助けるか見捨てるか・・・。

魔術を喰らう覚悟で結界の外に出るか、あるいは己の身を第一におとなしく結界内に引きこもるか・・・。

マチアンブリ学園の選手達が下した判断は・・・。


「アミス~!

 頑張れ~!!」

「応援しとるで~!」

「あほう、助けんかいっ!」


などと冗談を口にしつつ、彼等はちゃんとアミスの援護に向かうのだった。

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