第344話:大武闘祭・チーム戦、午前の部終了
『大武闘祭の名に相応しい素晴らしい試合でしたっ!
さあ、このまま次に行きましょうっ!!
一回戦第四試合ですっ!!!』
会場の盛り上がりが冷めやらぬまま、進行役のヤランが試合を次へと進めた。
『一回戦第四試合、まずはプレーター学園学園第二チームですっ!』
控室からまず登場したのはプレーター学園第二チーム。
先日レキと戦い、レキを気に入り、昨日もレキに逢う為宿へとやって来たアリルがいるチームである。
アリルがリーダーだからだろうか、メンバーは全員獣人の女子生徒。
皆、容姿に優れていた。
チームは基本、実力の近い生徒同士で組む場合が多い。
実力差が大きすぎると連携がし辛いと言うのが主な理由である。
レキを扱いきれていないガージュが良い例だろう。
彼女達はあのプレーター学園の代表。
容姿で選ばれたとは考えにくい。
つまり、彼女達の実力はアリルに次いで高いと考えるべきだろう。
『情報によりますと、彼女達はプレーター学園でも特に人気のある女子生徒達との事です』
言ってみればアイドルの様な存在なのかも知れない。
人気と実力を兼ね備え、男子は元より女子からも憧れの視線を受けているそうだ。
アリルを筆頭に、五人はいろんな意味でプレーター学園の代表なのだ。
「みんなよろしく~♪」
「「よろしく」」
「ふんっ」
「・・・」
その中でも特に人気と実力の高いアリルが、声援を送ってくれる観客達に笑顔で手と愛想を振った。
そんなアリルの両脇に引っ付き、仲良く手を振る栗鼠の獣人の双子。
アリルの背後に立ち、不機嫌そうにそっぽを向いている猫の獣人。
アリル達から少し離れた場所でぼ~っと立っている羊の獣人。
以上五人が、プレーター学園第二チームのメンバーである。
アリル達のある意味パフォーマンス的な行為に会場は更に盛り上がった。
『続いてマウントクラフ学園第一チームっ!』
そんな中登場したのは、こちらも先日レキと戦った山人サラ=メルウド=ハマアイクが率いるマウントクラフ第二チーム。
五人それぞれが得意な武器を持ち、五人ともに顔が引き締まっているのはこれが大武闘祭の試合だからか、あるいはただ無表情なだけか。
こちらも、何故か女子生徒だけで構成されていた。
『第四試合は女子生徒のみでの戦いとなります。
何とも華やかで良いですね~』
『獣人の女性は男性より瞬発力で勝るものが多い。
女性特有のしなやかな筋力は時に男性以上の実力を発揮する』
『ほうほう』
『山人の女性は男性より筋肉量で劣るがその分魔力量で上回る。
身体強化を使えば男性にも負けない』
『つまり女子生徒だからと舐めてはいけないという事ですね?』
『そう』
何よりこれは大武闘祭。
出場しているのは皆、各学園で行われた予選を勝ち抜いた強者達である。
そこに性別などなんの関係もない。
大武闘祭の舞台に上がれるのは強者のみなのだ。
『プレーター学園第二チームは、先日の個人戦でレキ選手と激闘を繰り広げましたアリル=サ選手の率いるチームです。
対するマウントクラフ第一チームも、同じくレキ選手と戦ったサラ=メルウド=ハマアイク選手がリーダーを務めておりますっ!』
「よろしくねっ」
「うん」
レキを中心に、先日は一緒に過ごしていたアリルとサラ。
元々愛想の良いアリルと、無表情ではあっても人嫌いという訳ではないサラは、武具という共通の話題を通して仲良くなっていた。
笑顔で手を差し出すアリルに、サラは無表情ながらも握手に応じた。
獣人と森人は仲が悪い、というか相性が悪いのだが、山人はどの種族とも良好な関係を結んでいる。
山人の技術が他種族に認められているからだ。
山人の作る武具は獣人に好まれ、杖やローブも森人が好んでいる。
貴金属や細工なども山人は得意であり、ライカウン教国が行う儀式等でも用いられているほどだ。
アリルもサラから自身の使う脛当などでアドバイスを貰っていた。
とは言えこれは大武闘祭。
どれほど仲良くなろうとも、チームが違えば敵同士。
それはアリルもサラも承知の上。
お互い全力で戦おうと言葉を交わした。
『では、一回戦最後の試合です。
第四試合始めて下さいっ!』
「始めっ!」
審判の合図と同時に、アリルと栗鼠の獣人の双子、更には猫の獣人の少女が飛び出した。
栗鼠の獣人はリネ=スとネス=ス、猫の獣人はリリル=ヤという名前である。
アリルは真っ直ぐに、リネ=スとネス=スはサラ達の左右から、リリル=ヤはアリルを飛び越え、更にはサラ達すら飛び越えサラ達の背後に回った。
「えっ?」
「よそ見してていいの?」
自分達の頭上を軽々と飛び越えていくリリル=ヤに驚くサラ達。
そんなサラの眼前には、いつの間にかアリルが立っていた。
「サラっ!」
「あなた達の相手は」
「私達」
アリルの実力は先日の個人戦で見ている。
いくらサラとて一対一では分が悪いと、援護に回ろうとしたサラの仲間達。
リネとネスの双子は、そんな彼女達の道を塞いだ。
「え~い」
「くっ!!」
更には遅れて参戦した羊の獣人イメイ=ツが、己の背丈を超える斧を全力で振り回した。
いつも眠たそうな表情をしているイメイ=ツ。
眠たそうというか実際に眠いのだが、試合である以上サボるわけには行かない。
戦闘行為自体面倒くさいと思ってる彼女である。
斧を選んだのも、とりあえず大きな斧を適当に振り回しておけば誰も近づけないだろうと考えたからだ。
彼女の力は身の丈を超える斧を軽々と振り回せるほど。
うかつに近づけば場外にまでぶっ飛ばされてしまうだろう。
とはいえ相手は力では獣人にも勝る山人達。
イメイ=ツの斧を、サラの仲間の一人が真正面から受け止めた。
「えやっ!」
「ふんっ」
武舞台の真ん中、アリルの蹴りとサラの大槌が激突した。
その体躯からは信じられないほどの力で、己の身長より遥かに大きな大槌を振るうサラ。
勢いをつけ、その大槌ごとサラを場外へとぶっ飛ばす威力の蹴りをくりだすアリル。
結果は互角。
会場に響き渡る程の衝撃音を響かせ、アリルとサラはお互い距離を取った。
『お、おぉ~!
開始早々両チーム全力でぶつかっております』
『獣人は己の武術を信じ、山人は己の武具を信じて戦う。
手加減も小細工もしない』
ある意味何も考えていないとも取れるフィルニイリスの台詞ではあるが、今までの鍛錬の成果を信じて戦うアリルと、己が鍛えた大槌を信じ振るって戦うサラはある意味似た者同士だった。
『他の選手達も負けておりませんっ!
先ほどの試合に負けず劣らず、こちらも素晴らしい試合となりそうですっ!!』
リネとネスが小柄な体躯を活かしつつ棍を振るう。
リリルが縦横無尽に武舞台を駆け回り、隙を見せた相手チームに背後から迫る。
相手チーム全員の意識を集めるように斧を振るうのはイメイだ。
サラ達も負けていない。
各々が持つ武器を信じ、リネとネスの棍を斧と盾で受け止め、リリルの攻撃を剣ではじき、イメイの斧に己の斧を全力でぶつけた。
アリルとサラが、蹴りと大槌をぶつけあった。
武舞台上で所狭しと行われる激闘。
一回戦第四試合は、早くも白熱していた。
――――――――――
「えやっ!」
「くっ!」
力こそ山人の方が上だが、総合的な身体能力では獣人の方が勝っている。
そもそも山人は戦闘行為はあまり得意ではない。
一応戦えるが、それは護身か、あるいは己が生み出した武具を試す為。
戦闘技術で獣人には敵わないのだ。
特に、サラが持つ武器は身の丈を超えるほどの大槌である。
至近距離で振るうには分が悪く、懐に入られてしまえば不利となってしまう。
サラの仲間達もまた、獣人の身体能力に翻弄されていた。
リネとネスは体格ならサラ達とそう変わらない。
だが、彼女達はサラ達よりもすばしっこく、何より棍の扱いに長けていた。
相手チームの動きを妨害するかのように、彼女達は自由自在に棍を振るっていた。
リリルの俊敏さはプレーター学園でも一二を争うほどで、足も遅く重武装しているサラ達では捉える事が出来なかった。
時に上から、時に背後から容赦なく仕掛けてくるリリルに、マウントクラフ学園の生徒達は足を止めて耐えるしかなかった。
サラ達山人を超えるほどの力で斧を振るうイメイは、まさに暴風だった。
山人の力は他種族に勝るとはいえ、それは種族全体で見た話である。
個人差は当然あり、それは他種族にも言える。
イメイの力は下手な山人以上だ。
イメイが前衛で斧を振るい、リネとネスが左右から棍を突き出し、背後からはリリルが短剣を繰り出す。
四方を囲まれ、四方から翻弄され、サラを除いたマウントクラフ学園の生徒達は防戦一方だった、
山人の力は鍛冶や採掘で振るわれる為のもので、武器を振るうのは己が作った武器を試す時。
作った以上ある程度武具にも精通しているが、扱いについては本職である剣士達には敵わない。
山人はあくまで武具を作るだけで、武具を用いて戦う種族ではないのだ。
大武闘祭に出場するのも己が作った武具を試す為。
それこそ、一回戦第二試合で魔術を反射する盾を披露したギム=ビルヒル=ピアスイク達のように、自分達が今振るっている武器を試す為に出場しているに過ぎない。
勝ち負けなど二の次。
武具が試せればそれで良かった。
おそらくはそんな気持ちが結果にも影響したのだろう。
彼女達の振るう武器は確かに一定の成果を出した。
そこに満足してしまったのか、気が付けば一人また一人と倒されて行った。
早々に白熱していた試合は、その勢いのままに早い決着を見せようとしていた。
『アリル選手、サラ選手の大槌を蹴り上げましたっ!
さあ、サラ選手いよいよ厳しそうです』
武舞台上では、既にアリルとサラしか戦っていなかった。
他のメンバーは、マウントクラフ学園側がサラ一人を残して倒され、プレーター学園側もアリルとサラの一騎打ちを邪魔してはダメだと、四人そろって武舞台を降りていた。
五人対五人で始まったチーム戦は、それぞれのリーダー同士の対決で決着をつけるようだ。
「まだ」
「うそっ!?」
蹴り上げられた大槌。
それでも手を離さなかったサラが、伸び切り反った背筋すら活かし、全力で大槌を振り下ろした。
先程の蹴りで決めるつもりだったのだろう、蹴り上げた反動で飛び上がったアリルは、サラの振り下ろしに対し反応がわずかに遅れてしまった。
「あっ!」
サラの大槌が武舞台を砕いた。
身の丈を超えるほどの大きさと相応の重量を持つ大槌を、山人であるサラが全力で振り下ろしたのだ。
まともに食らえば無事では済まなかっただろう。
だが、アリルは着地が間に合わないと一瞬で判断し、あろうことかサラの大槌に脚を当て、その反動で後ろへと飛びのいていた。
「うそっ!?」
大槌を振るったサラが、珍しく驚いた表情をした。
全力で振るった為、大槌は武舞台にめり込んでいる。
完全な隙を晒したサラに、アリルは武舞台を蹴りサラの懐へと飛び込み、そして。
「えやっ!!」
「ぐふっ!」
脚力に長ける兎の獣人アリル。
彼女の全力の低空飛び蹴りがサラの腹に見事に当たり、そのまま大槌を残したままサラを場外まで蹴り飛ばした。
「それまでっ!
勝者、プレーター学園第二チームっ!!」
『決まった~!
一回戦第四試合、勝者はプレーター学園第二チームですっ!!』
一回戦最後の試合は、アリル達プレーター学園第二チームが勝利した。
――――――――――
「負けた・・・」
「危なかった~。
やっぱサラも強いね~」
「アリルには敵わない」
試合後、武舞台上で握手を交わすアリルとサラ。
他のチームメンバー達も、それぞれが言葉を交わしていた。
中には早速武器のアドバイスを受けている者もいた。
華やかに白熱した一回戦第四試合は、決着後も爽やかであった。
『さあ、これで一回戦全ての試合が終了しました。
六学園合同大武闘祭・チーム戦の部、午前の試合は以上となります。
二回戦は午後から行われる予定です』
アリル達とサラ達が仲良く武舞台から降りていく。
二回戦は午後から。
アリル達は英気を養い、サラ達は後学の為試合を見学するようだ。
山人にとって、この大武闘祭は様々な種族が様々な武具を振るう非常に興味深い大会である。
加えて、自分達の作った武具を遠慮なく試せる場とあって、この大武闘祭を楽しみにしている山人はことのほか多かった。
武具を試すのは早々に終わってしまったが、まだ大会は終わっていない。
午後からも様々な種族が様々な武具を用いて全力でぶつかってくれるだろう。
一回戦を勝ち抜いた強者達の戦い、武具同士の激しいぶつかり合い。
それを楽しみにしつつ、サラ達はアリル達と別れてそれぞれの控室へと戻っていった。
何気に一周年♪




