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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十七章:学園~大武闘祭・チーム戦~ 前半
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第343話:一回戦第三試合

『えっと、良かったのでしょうか?』

『彼らは目的を達した。

 問題は無い』

『そ、そうですか・・・』


フィルニイリスも魔術研究家である。

マウントクラフ学園の生徒達の行動も理解できるのだろう。


要するに、彼等は「早く帰って試したい」のである。

試合の勝敗よりも大事な事が、彼等にはあるのだ。


『で、では気を取り直してっ!

 一回戦第三試合です』


第二試合と同じ事を言うヤランだが、そこに込められる意味は異なる。


それはともかく第三試合。


『一回戦第三試合、フロイオニア学園第二チームです』


控室からまず登場したのは、アラン率いるフロイオニア学園の三年生チーム。


「アラン様~!」

「頑張れ~!」

「きゃ~、こっち向いてください~!!」


「っ!?」

「お、落ち着けローザ」

「そうや、ただのファンや」

「この程度でうろたえていては王妃失格よ?」

「うっ・・・ごめんなさい」


会場から飛んでくる黄色い声援に、婚約者であるローザが狼狽えた。


学園でもアランは人気者である。

だがそれは、アランの三年間の努力の成果だ。

容姿や実力もそうだが、三年生の中にはアランの世話になった者も多い。

同じ最上位クラスはもとより、他のクラスにもアランは勉強を教えたり手合わせをしていた。

そう言った積み重ねが、アランの学園での人気に繋がっている。


だからこそ、学園でアランが人気者扱いされる事に対してローザは誇らしく思えど嫉妬はしなかった。

二人の仲が三年生では公認なものになっているのもその一因だろう。


だがここは学園ではない。


アランに降り注がれる黄色い声援は、先日の個人戦での活躍によるところが多い。

レキに勝てなかったとはいえ、その雄姿は誰もが認めるところ。

剣も魔術も優れ、更には容姿も整っているとくれば人気が出ない方がおかしいと言える。


アランがローザ以外の女性になびくとは思えない。

それでも不安になってしまうのが女というものなのだろう。


アランの実力を認めた獣人達の男性からも野太い声が飛んでいるが、そちらはどうでも良いらしい。


『アラン選手大人気です』

『珍しい・・・』

『さあ、続いてマチアンブリ学園第一チームです!』


続いて登場したのはマチアンブリ学園第一チーム。

こちらには個人戦でリーラの魔術を反射すべく、バッタものの魔術反射の盾を構えたまま場外まで洗い流されたゴウヒ=サッチが率いている。


『結局先日の盾はただの失敗作だったわけですが』

『どのように売られていたかは分からない。

 それでも見抜けなかったのは商人としての落ち度。

 弁解の余地は無い』


「うぅ・・・手厳しいお方や」

「フィルの言葉をいちいち気にしていたら精神が持たんぞ。

 どんな理由があろうと騙した方が悪いのだ」

「お、おおきに」


肩を落とすゴウヒに対し、つい慰めの言葉をかけるアランである。


フィルニイリスの言っている事は間違いではないのかも知れない。

だが、どちらが悪いかと言われれば、それは騙した商人の方が悪いに決まっている。

商人として見抜けなかったのは確かだが、まだ学生のゴウヒとれっきとした(?)商人とではゴウヒが騙されたのも仕方ない。

相手はおそらくそうやって食べているのだから。


「そもそも魔術反射の盾というのはまだ完成には至っていないのだろう?

 もし昨日使ったのが本物であっても結果は変わらなかったかも知れんぞ」

「・・・せやな。

 あの盾はあくまで試作の段階。

 実戦で使うんはまだ早いっちゅ~ことやな」

「ああ」


本物の魔術反射の盾もまだ試作の段階であり、実戦に耐えられる物では無かった。

それでもミルアシアクル達の魔術を何度かは反射していた。

先日の個人戦でも、本物であればリーラの魔術を反射出来ただろう。

それでリーラに勝てたかどうかは分からないが・・・。


「ま、別にどうしても勝ちたい訳ちゃうしな」

「マウントクラフと同じか?」

「まあそうやな。

 つか優勝ねろとるんはあんたらとプレーターくらいやろ?

 ライカウンは精霊様に恥じない試合をしたいだけやし、フォレサージは魔術のお披露目に来とるようなもんやしな」

「ふむ」


六学園が合同で開催している大武闘祭である。

試合に関しては誰もが全力で臨んでいるが、優勝を狙っているかと言えばそうでもない。


「学園の代表として恥ずかしくない試合をしろ」というのが各選手に提示された目的であり、「何が何でも勝て」と言われたわけではない。

卑怯な真似、例えば試合前に闇討ちする、薬を盛るなどしてまで勝とうなどと考える者はいないのだ。

唯一、プレーター学園の生徒だけは優勝にこだわっているが、それでも彼等は正々堂々戦った上での勝利しか欲していない。


それ以外の学園に関しては、それぞれの研鑽を披露できれば良しと言ったところ。

先ほどのマウントクラフ学園が良い例である。

マチアンブリの生徒も似たようなもので、しいて言うなら己の才覚で集めた武具を披露する事で、周囲に商人としてどれほど優れているかを知らしめる為に出場している。

さらに言うなら、試合を通じて将来有望な相手に印象付ける、将来のコネ作りの為でもあった。


「やるからには全力でいきまっせ。

 その方が印象も良いやろうしな」

「ふっ、さすが商人だ」

「へへっ、あんたさんも良い王様になれそうやな」

「なれるかどうかは分からんが努力はしているさ」

「うむ、ええお人や」


今回の対戦相手であるアランなどは、商人として是が非でもコネを作っておきたい相手である。

それを隠そうともしないゴウヒに、アランも笑顔で応じた。


「なごんでどないすんねん」

「大丈夫だ、試合は全力でいく」

「当たり前」

「フラン殿下も見ておられるしな」

「ええ、それにロラン陛下も・・・」


大観衆が見守る中、第三試合が始まった。


――――――――――


『激戦を制したのはフロイオニア学園第二チームですっ!』


試合は激戦となった。

個人戦準優勝のアラン有するフロイオニア学園第二チームは、そのアランを中心に抜群のチームワークを見せた。


剣術も魔術も優れ、更には指揮能力も高いアランを中心に、ローザが適時アランのフォローに回る。

獣人ながらに魔術も扱うジガ=グが遊撃要員として武舞台を所狭しと駆け回り、森人ながらに大剣を振るうラリアルニルスが誰よりも前にでて存分に剣を振るった。

アランとローザに習った盾と剣を活かし、フィルアが女性ながらに前衛を務めあげ相手チームをおさえ続けた。


マチアンブリ学園も負けていなかった。

商人として参加している彼らは絶対に優勝したいわけではない。

むしろ、将来的に有益な繋がりになるであろうアランに勝ちを譲っても良いくらいだ。

それをしなかったのはアランが望まなかったから。

商人は相手が欲するものを提供する者。

アランが全力での勝負を望むのであれば、それに応じてこその商人である。


試合前に宣言した通り、彼らはアラン達相手に全力でぶつかった。


マチアンブリ学園は商人を育成する学園とも言われている。

授業内容は座学が中心で、武術や魔術は最低限護身程度に使えれば良いとすら言われている。

もちろん己が圧倒的に強くなれば護衛を雇う必要が無いかも知れない。

コストを考え、獣人や森人に勝るとも劣らないほどに鍛錬する生徒もいるにはいるが、大半はそれより座学を、もっと言えば商人としての知識を学ぶ事に費やしている。


ゴウヒ達はそんなマチアンブリ学園の代表であり、何より優れているのは商人としての知識だった。

知恵比べなら他の学園にも勝てたかも知れない。

経済に関しての知識ならどの学園だろうと負けなかっただろう。


だがこれは大武闘祭。

試されるのは武力である。

座学がそれぞれの国に沿った内容であるのに対し、武術や魔術は基本的にはどの学園も共通している。

その為、こういった合同で行われる大会では武術や魔術を用いた腕比べをするしかないのだ。


彼らとて武術や魔術も学んでいる。

だが、その比率は他国より低い。

魔術そっちのけのプレーター学園、武術そっちのけのフォレサージ学園より更に低いかもしれない。

同じ条件下で戦ったなら、三十分と持たなかったに違いない。


その分彼らには学園で学んだ商人としての様々な知識がある。

その中には魔術道具に関する物もあった。


先日の個人戦では偽物の魔術反射の盾を持ち出してしまったゴウヒ。

彼はその汚名を返上すべく、様々な魔術道具を持ち込みそれらを駆使して戦った。

魔力の少ない者でも魔術を連続で放てる杖や、薄くそれでいて頑強で、更には魔術耐性も高い魔物の皮を使った防具。

魔術こそ反射しないがそれなり硬い盾や軽くしなやかな剣を用い、アラン達と接戦を繰り広げた。


もちろんゴウヒだけではない。

ゴウヒの仲間達もまた、誰もが様々な武具を用いて戦った。

金に物を言わせた戦いと揶揄する者もいるだろう。

だが、それこそが商人の戦い方なのだ。


試合は一時間に及んだ。

誰もが全力を尽くした戦い。

最後はアランとローザが同時に放った魔術で彼らを吹き飛ばし、フロイオニア学園第二チームが見事勝利を収めたのだ。


『素晴らしい戦いでしたっ!

 マチアンブリ学園の奮闘に、会場も大盛り上がりです』

『あの杖は精度が高い。

 制作者について教えて欲しい』


「いや~、完敗やったな」

「流石レキさんのおる学園の代表や」

「獣人が魔術撃つし、森人が切りかかってくるし」

「おもろいんはレキ君だけやないんやな」


「何やら不当な評価を得ている気がする」

「ラリアが脳筋なせいやな」

「お前がてきとうなせいだな」

「どっちもどっちです」


「良い試合だった」

「こちらこそ、ええ戦いやったな」


お互いのリーダーが握手をする中、マチアンブリ学園側の評価にフィルアが渋い顔をし、ラリアルニルスとジガ=グが仲良く評価を押し付け合い、ローザが間に入った。

アランチームの纏まりの良さはおそらくこの大武闘祭出場チームの中でも一二を争うだろう。

アランを中心にまとまりつつ、お互いに軽口を言い合えるほど。

次の試合でも、あるいはこの大武闘祭でも良いところまで進めるに違いない。


一回戦第三試合、勝ったのはアラン率いるフロイオニア学園第二チームである。

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