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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第34話:冒険者ギルドについて

「良いか坊主、これが依頼書だ。

 依頼書はギルドの連中がこうして壁に貼りだして、オレ達ゃその中から自分がやりてぇ依頼を選ぶって寸法だ」

「うわぁ~・・・いっぱい」

「これでも少ない方なんだぜ?」

「そうなの?」


見た目と違い面倒見が良いのか、あるいは子供好きなのか。

冒険者らしい男はレキにギルド内を案内してあげるようだ。

憧れの冒険者ギルドを、これまた憧れの冒険者が案内してくれるとあって、レキも興奮しっぱなしである。


「受けたい依頼が決まったら壁から剥がしてあそこの受付に持って行くんだ。

 んでギルドの職員に渡して、了解が出たら依頼を受けられる」

「了解が出なかったら?」

「そりゃその依頼は受けられねぇってこった」

「にゃ?

 そんなこともあるのか?」

「ん、そりゃ実力に見合わない場合なんかはダメだろう。

 冒険者は基本自己責任だが、かと言ってむざむざ死にに行くような真似を許すほどギルドも無責任じゃねぇからな」

「なるほどのう・・・」


男の案内にいつの間にかフランまでもが参加していた。

レキやフランの疑問にも、男はちゃんと答えている。


もはや最初の印象などどこ吹く風。

しばらく注意しながら見守っていたミリスやリーニャも、あれなら大丈夫だろうと判断し、邪魔にならない場所へ移動した。

本来なら、王族であるフランを名も知らぬ冒険者に任せるような真似はしないのだが、身分を偽っている都合上あまり過保護に出るわけにも行かない。

何かあればギルドの職員が止めるだろうし、何よりフランの傍には常にレキがいる。

よほどの事が無い限り大丈夫だろう。


「フィルはどこ行った?」

「フィルニイリス様ならあちらに・・・」

「ん?」


「ちなみにギルドの役割は・・・」

「ギルドは住民や商人からの依頼をまとめて管理し、適切な冒険者にそれを振り分ける役目を持つ。

 合わせて冒険者の登録と管理もしている」

「お、おお・・・」


リーニャの示した方、そこには冒険者の男とレキ、フランに混ざって説明するフィルニイリスがいた。


「冒険者にはランクがある。

 一番下が青銅、それから黒鉄、魔鉄、銀、魔銀、金と上がっていく」


冒険者らしき男と一緒に、レキやフランに冒険者について説明するフィルニイリス。

今までも事あるごとに教えてはいたが、どこかムキになっているようにも見えた。


「・・・なんで一緒になって教えてるんだ、フィルは」

「多分、教師役を取られたくなかったのでしょうね」


レキ達に教えるのは自分の役目だと考えているのだろうか。


「・・・どうする?」

「フランとレキ君の面倒はフィルニイリス様に任せて、私達はギルド内で少し情報を集めましょう」

「うむ」


打ち合わせた通りの呼び名でフランを呼びつつ、ミリスにそう提案するリーニャ。

元々はリーニャがレキとフランの面倒を見て、フィルニイリスとミリスの二人で情報を集める予定だったが、肝心のフィルニイリスがあれではそうもいかず、仕方なくリーニャの提案にミリスも乗る事にした。


「因みに見習いランクってのもあるぜ」

「年齢が十五に満たない者や、登録の際、戦う力が無いと判断された場合は魔木というランクになる」


リーニャとミリスの話し合いをよそに、フィルニイリスは冒険者らしき男と二人でレキとフランへの講義を続けるのだった。


――――――――――


「そもそも冒険者が一人で行動する奴なんてめったにねぇけどな」

「うにゃ?」

「冒険者は三人以上で行動するのが基本」


リーニャとミリスが手分けして情報を集める中、フィルニイリスは冒険者の男と共にレキとフランに講義を続けた。


平民の、特に男の子は腕っぷしのみで成り上がれる冒険者に憧れる者が多い。

やれ森の中でオーガと遭遇したとか、未開の地に住み着くドラゴンを打ち倒したとか。

そんな英雄譚に、少年は心惹かれるのだろう。


貴族の中でも冒険者に憧れる者は少なくない。

ただ、こちらは自分の将来を重ねるのではなく、むしろ別世界の住人に対する憧れという側面が強い。

英雄譚に惹かれるのではなく、英雄譚を楽しんでいると言った方が良いかもしれない。


レキも冒険者に憧れる平民の子供の一人である。

しかもレキは、元冒険者の両親の間に生まれた子供だ。

他の子供より冒険者に成りたいという気持ちは強い。

それどころか、自分も大人になったら冒険者になろうと今から本気で考えている。


そんなレキの気持ちが伝わったのか、冒険者の男の説明にも熱が入り、対抗するようにフィルニリスの口数も多くなっていく。


「その割にはお主の仲間が見当たらんのじゃが?」

「いや、俺だっていつもは仲間と行動してるぜ?

 今はたまたま別行動取ってるだけだ」

「本当かのう?」

「なんで疑うんだよ」


冒険者というのは英雄譚にもあるように常に危険と隣り合わせ。


街を遠く離れての活動では途中で野営を行う事も多く、その際必ず見張りを立てる必要がある。

見張りを立てずに睡眠をとるなど、襲ってくださいと言っているようなものだ。

あらゆる依頼において、仲間と行動するのは冒険者の基本中の基本なのだ。


いつもは仲間と一緒だと言いつつ、男は先ほどからずっとレキ達の相手をしてくれている。

仲間がいるならいい加減近くに来ても良さそうなものだが、そんな気配は一行に無かった。


「俺の仲間は今それぞれ別行動してんだよ」

「でも仲間なのにギルドにもいないのじゃ。

 依頼を受けるのに仲間が一緒じゃないのは変なのじゃ」

「今日は依頼を受けるつもりはねぇよ。

 受ける時ゃ一緒の方がいいが見るだけなら一人で十分だろ」


どうでもいいことで言い合うフランと冒険者の男。

ふと見れば、レキは依頼書を見ては首を傾げていた。


「レキ、この男は嘘をついておるのじゃ!

 仲間がいないのがバレてごまかそうとしておるに違いないのじゃ」

「だ~か~ら、俺にゃちゃんと仲間がいるんだよ」

「嘘じゃ!」

「嘘じゃねぇ!」


そんなレキの変化に気付くこと無く、フランと冒険者の男の言い争いは続く、かと思われたが。


「いい加減にしなさいっ!」

「うにゃ!」


フランの頭に拳が落ちた。

痛む頭を押さえつつ振り返れば、そこには両手を腰にあててフランを見下ろすリーニャがいた。


「ご親切にもいろいろ教えてくださっている方に対して失礼でしょう」

「うぅ、でもリーニャ」

「でもじゃありません!」

「で、でも仲間は見当たらないのじゃ」

「別行動をとっている、とおっしゃられているではありませんか。

 人の話はちゃんと聞きなさい」

「うにゃ、リーニャ」

「私の事は"おねえちゃん"でしょう?

 全く、お祖父様の真似するのは口調だけにしておきなさいといつも言ってますよね!?」

「あぅ・・・」


ヒートアップしすぎてボロが出る前に止めたのだろう。

幸い、今までの言動の中で致命的なものは無かったようだ。

口調に関しても事前の打ち合わせ通り祖父の真似という事で流す。

残念ながらリーニャの呼び方だけはいつも道りだったが、そこも合わせてフォローしたつもりだ。


そんなリーニャのフォローに気づいたのか、痛む頭を押さえつつしゅんとなるフランである。

傍らでは「そう言えばそうだった!」という顔のレキもいた。

どうやら、お子様二人は事前に決めた事をすっかり忘れていたようだ。


「そっちはもういいのか?」

「あ、ミリスさん。

 ええ、私の方は大丈夫です。

 ミリスさんの方は?」

「ああ、こちらも大丈夫だ」


と、そこにミリスも合流した。

フランとレキをフィルニイリスにまかせ、二人は情報を集めていたのである。

ギルドに入ってから大分時間も経っており、必要な情報は十分集まったようだ。


「リーニャ、ミリス、ご苦労様」

「ああ」

「フィルさんもありがとうございました。

 この子達の面倒を見ていただいて・・・」

「問題ない」


合流し、互いに軽く言葉を交わし合う三人。

実のところ、フィルニイリスはレキやフランが余計な事を喋らないよう話に加わっていたのだ。

決して、説明役を取られたくなかった訳ではない。


「この子達の相手をして頂き、心より感謝を申し上げます」

「かまわねぇよ、これも冒険者の務めだしな」

「務め?」


集めた情報の共有を後回しにし、子供たちの相手をしていた男にリーニャが感謝を述べる。

男もまた、そんなリーニャの礼を軽く受け止めた。


男の軽口にレキが反応する。

実のところ、レキは依頼書を見て文字が読めない事に落ち込んでいたりする。

ただ、悩んだところですぐさま解決する問題でもなく、今はいいやと諦めたようだ。


冒険者の男の話も気になる。

フランとの口論(?)も終わったようだし、再び聞く姿勢になったようだ。


「あ~、務めってのはよ、簡単に言やぁ後輩の面倒を見るってことなんだがな」

「「?」」

「登録したての新人ってのは早く依頼をこなしたくて仕方ねぇ奴が多いんだがな。

 そういう奴に限ってロクに下調べもせず行って、大怪我するか最悪死んじまうのよ」

「「・・・」」


男の口から出た"死"という単語に、レキとフランがそろって黙り込んだ。

先ほどまでの軽い調子とは違い、どこか重苦しい空気が流れていた。


「新人の無茶はある意味先達のせい。

 だからこそ面倒を見るという義務が発生する」


そんな空気の中、フィルニイリスがその原因を先輩冒険者のせいだと述べた。

もちろん、そこにはちゃんとした理由がある。


「どういうことじゃ?」

「冒険者に憧れる若者は多い。

 その理由は英雄譚。

 凶悪なオーガ、火山に住むドラゴン、大海で暴れるクラーケン、そういった最上級の魔物を死闘の果てに撃退した冒険者の話。

 若者はそういう英雄譚に憧れて冒険者を目指す。

 そして、自分も英雄になろうとする・・・己の実力も知らずに」

「・・・」


フィルニイリスの話を聞き、フランが思わずレキを見た。

「凶悪なオーガを討伐した」など、まさにレキの事だ。

そこに「王族である姫の命を助けた」「オーガの魔の手から姫を救い出した」という話も加わり、フランの中でレキは既に英雄なのだ。

そんな英雄に憧れる若者となれば、ここではむしろフランになる。

フィルニイリスの話をレキとフランに当てはめる事で、フランの理解は深くなった。


冒険者が返り討ちに合うのは、基本的には冒険者の自業自得である。

だが、ギルドへの依頼となれば、討伐の失敗はギルド側にも責任が生じてしまう。


冒険者への依頼は冒険者ギルドによって管理されている。

依頼主は街の住人や近隣の村人、商人から貴族など様々。

依頼主には依頼を出す理由があり、ギルド側はその理由を元に依頼を発行する。

全ての依頼において、求められるのは"成功"という結果のみである。


依頼主とて少なくない金額をギルドに支払っている。

それは依頼を確実に果たしてほしいからであり、その成果を期待するからだ。


ギルドとて失敗してほしい訳ではないし、冒険者も失敗するつもりなど無い。

それでも依頼が果たされない事はある。

冒険者側のミスや実力不足もあれば、ギルド側の調査不足も。

依頼主からの情報が誤っている場合なども多い。


「例えば、村の外れでゴブリンを見たとする」

「うん」

「その時見たのが五匹だとして、そのままギルドに伝えれば五匹のゴブリンの討伐という依頼になる」

「うむ」

「ゴブリン五匹なら黒鉄ランクに該当する。

 当然請け負うのは黒鉄ランクの冒険者」

「うん」

「依頼を受けた冒険者が討伐に赴くと、そこには数十匹のゴブリンの群れがいた」

「ん?」

「五匹では無いのか?」

「ゴブリン数十匹なら黒鉄を超えて魔鉄や銀ランク、王都なら騎士団が動くレベル。

 黒鉄ランクの冒険者では太刀打ち出来ない」

「や、やられちゃったの?」

「いや、喩え話だろ?」

「そう、良くある話」

「良くあるのですか・・・」


この場合、数十匹を五匹だと認識した村人が悪いのか、ロクに調査もせずそのまま依頼を発行したギルドが悪いのか。

果ては数十匹の群れを確認した段階で撤退を選ばなかった冒険者が悪いのか・・・。


冒険者が逃げずに挑んだ結果、返り討ちにあうどころか依頼を出した村が滅ぶという結果に繋がる事もある。


「にゃ!?」

「冒険者は依頼を受けた村からゴブリンの討伐に向かった。

 とすれば、ゴブリンの報復先もまた、その村になる」

「・・・」

「あ~、実話じゃないのだろ?」

「そう、良くある話」

「いえ、良くあってはダメなのでは?」


この場合、冒険者は無理せずギルド側に報告すべきだったのだろう。

ギルド側はその情報を元に再度適正ランクを決定し、依頼を発行し直す。

その際、情報を持ち帰った冒険者にもある程度の金額、いわゆる情報量が支払われる事になる。

冒険者として、依頼の達成や自身の命、そして金、あらゆる意味において無理せず情報のみを持ち帰るのが、この場合においては正しい行動なのだ。


「村からの情報不足、ギルド側の調査不足、冒険者の行動、それらが失敗に繋がった。

 でもギルドは村を責める事は出来ない」

「何故じゃ?」


ゴブリンの一匹二匹ならなんとかなるかも知れない。

三匹四匹なら分が悪く、五匹以上なら無理せずギルドなり領主なりに報告するのが村の決まりである。

今回のケースで言えば、ゴブリンを五匹見つけた段階でギルドに報告した村は正しい行動をしたと言えるだろう。

ただし・・・


「五匹いた、とだけ伝えた村にも少なからず問題はある」

「「?」」

「五匹いた、では無く五匹以上いた、と伝えるべきだった、ということですね?」

「そう」


ゴブリン五匹ならかろうじて黒鉄ランクの依頼となるが、それを超える場合は魔鉄ランク以上の依頼となる。

だからこそ、五匹か五匹以上かは依頼を発行する上で重要な情報となるのだ。


「村の報告にも問題はあった。

 ギルド側も調査をすべきだった。

 でも村の近くに出現した以上、あまり時間はかけられない。

 だから分かっている限りの情報を元にギルドは依頼を発行する」

「んで黒鉄になったばかりの奴が良く知らずに依頼を受けちまって、返り討ちにあうわけだ」

「・・・ん~」

「良く分からんのう」

「何が?」


今までの話に、レキとフランはどこか納得が行かないようだ。


村に問題が無いわけではない、だが責められない。

ギルドは調査を怠った、でも依頼は発行しなければならなかった。

冒険者は力量不足だった、それは最初に聞いた情報に対して。


誰にも問題があり、だが決して間違いではない。

まだ子供であるレキとフランには、少々難しい話だった。


「さっき言った通り、冒険者が正しい情報を持ち帰れば解決はしたんだがな」

「ギルドの調査も結局は冒険者を派遣することで行われるのだから、ある意味ギルド側は正しい」

「じょうほう・・・ちょうさ」

「情報はあらゆる依頼において重要となる。

 採取依頼なら目的の物がどこで採取可能か分からなければ採取のしようがない。

 魔物に関しては対象の生息地域から生態、強さ、弱点など必要となる情報は多い。

 護衛依頼なら安全なルートやかかる日数、その途中に出る魔物の知識などさらに膨大となる。

 つまり、冒険者が依頼を達成するのに情報は必須となる」

「んで、その情報の多くは他の冒険者が持ってくるわけだ」

「冒険者に必要な情報を他の冒険者が持ち寄る、その情報を元に依頼を受けた冒険者が新たな情報を持ち帰る。

 こうしてギルドに情報が集まり、冒険者が活用する」

「「おお~」」

「そこで最初の話に戻る」

「「最初?」」

「冒険者が後輩の面倒を見る理由」

「「・・・あっ!」」

「・・・忘れてた?」

「忘れてたな」

「忘れてましたね」

「そういやそんな話だったな」

「「「・・・」」」

「あ、いやすまねぇ」


そう言えばそうだった、という顔をしたレキとフラン、そして冒険者の男。

フィルニイリス達にジトっとした目を向けられ、男が頭を下げた。


「・・・要するにだな、先輩冒険者が新人の面倒を見る理由ってのは、つまり簡単に死なれちゃこまるからであって、あ~」

「冒険者ギルドが管理する情報の多くは冒険者達が持ち寄る。

 すなわち冒険者が多ければ多いほど情報が集まると言うこと。

 高ランクの冒険者はそれを良く知ってる。

 だから後輩の面倒を見る」

「死なずに冒険者を続けてもらう為ですか?」

「そう、そして情報を持ち帰ってもらう為」


視線に耐え切れなくなった男が口を開いた・・・が、どうにもしどろもどろになってしまった。

見かねたフィルニイリスがため息混じりに後を引き継ぎ説明する。


冒険者の数が多ければ多いほど、ギルドに集まる情報は増える。

先ほどの村からの討伐依頼に関して言えば、ギルドが討伐依頼を発行する際、現場を知る冒険者から追加情報を得られる場合もある。

もちろんその村を知る冒険者がいればの話だが、冒険者が多ければ多いほどその活動範囲も広がる為、時にはギルドが把握していない地域の情報すら知る者がいるくらいだ。


ギルドに持ち寄られる情報の恩恵を誰よりも受けるのは冒険者自身である。

採取依頼ならば採取場所の情報、討伐依頼なら魔物の情報、護衛依頼なら安全なルートの情報など、依頼に必要な情報の多くは冒険者の経験からもたらされるのだ。

その情報を先達の冒険者がギルドに伝え、それを新人が受けて依頼をこなす。

そして追加の情報があればそれをギルドに伝える。

こうしてギルドに情報が集まり、またそれを冒険者が活かしていくのである。


「冒険者が依頼の成功率を上げる為に必要な情報、それを持ち寄るのが冒険者。

 よって、冒険者が増えれば増えるほど情報が増し、依頼の成功率も上がっていく事になる」

「新人の面倒を見るってのは、つまり自分達の為でもあるってこったな」

「へ~・・・」

「うむ、良く分かったのじゃ!」

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