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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十七章:学園~大武闘祭・チーム戦~ 前半
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第342話:魔術を反射する盾

誤字報告感謝です。

「お前達の魔術が勝つか、我らの盾が勝つか。

 勝負だ」

「良いでしょう。

 フォレサージ学園の代表として、その勝負お受けいたします。

 皆さんもよろしいですか?」


マウントクラフ学園。

鍛冶士の卵達である彼等の、四年間の集大成である魔術を反射する盾。

彼等が大武闘祭に出場する理由が己が作り鍛え上げた武具を試す場であるなら、それを受けて立つのも同じ代表生徒の務めである。

マウントクラフ学園代表ギム=ビルヒル=ピアスイクの言葉に、フォレサージ学園代表ミルアシアクルが頷いた。


「うん」

「あの盾が彼らの四年間の研鑽の成果なら、私達も四年間の研鑽を全力でぶつけるのみです」

「レキ様の見ておられる前で逃げるわけには行きませんし」

「レキ様とお手合わせする為にも負けられません」


ミルアシアクルの仲間達にも異論はない。

彼女達もまた学園の代表。

ギム達が魔術を反射する盾で戦うなら、魔術士として、フォレサージ学園の生徒として真っ向から魔術で打ち破らなければならない。


『話し合いも終わったようです。

 それでは準備はよろしいでしょうか?』


「「「「「うむ!」」」」」

「「「「「はい」」」」」


『それではっ!

 第二試合、始めて下さいっ!』


「始めっ!」


審判の合図に、マウントクラフ学園の生徒達が盾を前面に構え横並びの隊形を取った。

ミルアシアクル達の魔術を真正面から受け、反射するつもりなのだ。


生死をかけた勝負であれば盾を避けて攻撃すればいい。

だがこれはあくまで試合。

それも六学園の交流を目的とした対抗試合である。

彼等が彼等の武具を信じて戦うのであれば、ミルアシアクル達は己の魔術を信じて戦うのみだ。


正々堂々真正面から、魔術によって彼らの盾を打ち破る為、ミルアシアクルは呪文の詠唱を始める。


「その盾が本物かどうか、まずはこの魔術からです。

 "大いなる水、大いなる慈愛、全てを癒す優しき元素"

 "青にして慈愛と癒やしを司りし大いなる水よ"」


様子見なのだろう、一人前に出たミルアシアクルが武舞台に手をついて呪文の詠唱を始める。

先日の個人戦、ライカウン学園の代表であるリーラが放ったのと同じ魔術。

魔術を反射するはずだった盾を構えるマチアンブリの生徒を、その盾ごと押し流した青系統中級魔術ルエ・ウェイブだ。

周囲から水を集め、あるいは水を生み出し、津波の様に相手を押し流す魔術である。


『先攻はフォレサージ学園ミルアシアクル選手。

 本当に魔術を反射するか確認する為でしょうか?

 呪文を聞く限りどうやら青系統ルエ・ウェイブを使用するようです。

 まるで先日の個人戦の再現っ!

 マウントクラフ学園、本当に反射できるのかっ!!』


「"我が声に耳を傾け、我が眼前に集いて、立ちはだかりしあらゆるモノ、その全てを押し流せ"

 "ルエ・ウェイブ"」


個人戦では反射される事なく相手を押し流した魔術。

ギム達の持つ盾がマチアンブリ学園が用意したのと同じ盾なら、結果もまた同じになるだろう。


迫りくる水の壁にひるむことなく、マウントクラフ学園の生徒達はその場で盾を構え、受け止める姿勢を取る。

そして、ミルアシアクルの放った津波が彼らを襲った。


個人戦ではそのまま押し流した魔術の津波。


「えっ!?」

『おおっ!』


マウントクラフ学園の生徒の持つ盾は、ミルアシアクルの魔術を真正面から受け止め、見事に反射した。


「ミルアっ!!」

「"大いなる土、大いなる希望、恵みをもたらす力強き元素"

 "黄にして希望と恵みを司りし大いなる土よ"

 "我が意思の下に集いてあらゆるモノから守り給え"

 "エル・ウォール"」


反射され、ミルアシアクル達に迫る津波。

驚くミルアシアクルを押しのけ、フォレサージ学園の選手の一人が高速で魔術を行使した。


土を固めて壁を生み出し、迫りくる攻撃を物理的にも防ぐ防性魔術エル・ウォール。

彼女達のいる武舞台は石で出来ているが、その周囲には大量の土がある。

多少魔力の消費量は多くなるが、行使できない訳ではない。


黄系統は青系統に強い。

彼女の生み出した壁は、ミルアシアクルが放ちマウントクラフ学園が返したルエ・ウェイブを見事防ぎきった。


「あ、ありがとうございます」

「いえ、ですが・・・」

「ええ・・・」


反射こそされたものの被害は無かった。

魔術に重きを置くフォレサージ学園の代表だからこそ防ぐのが間に合った。

これもまた彼女達の四年間の研鑽の成果である。

他の学園の生徒達であれば、防御が間に合わず逆に押し流されただろう。


それでも確かに魔術は反射された。

その事実に、ミルアシアクル達は試合中であるにもかかわらずその動きを止めていた。


『マウントクラフ学園、本当に魔術を反射しましたっ!。

 あの盾は彼らの言う通り魔術を反射する盾のようですっ!』

『うん、確かにミルアシアクルの魔術は反射していた。

 素材は魔銀ミスリル

 でも通常の魔銀ミスリルは魔術に対する親和性は高くとも反射はしない』


解説のフィルニイリスも、ギム達の盾が魔術を反射した事を見届けた。

目の前で起きた事を否定する事は宮廷魔術士としても魔術研究家としても許されない。

真の研究家は、目の前で起きた現象について受け入れる事から始まるのだ。


故に、フィルニイリスはギム達の盾が魔術を反射したその事実に基づき考察を始める。

ほぼ同時に、彼等の盾が魔術しか反射していない事に気が付いていた。


「どうすれば・・・」

「こうなれば接近戦で・・・」

「・・・いえ、それはまだ早いです。

 見て下さいっ」

「「「「ん?」」」」


森人は魔術に対する適性が高いが、何も魔術しか使えない訳ではない。

アランのチームメイトであるラリアルニルスが大剣を振るう様に、杖以外の武器を扱う者もいるのだ。

魔術行使が間に合わないような状況でも戦えるよう、フォレサージ学園の生徒達は誰もが一応近接戦闘も学んでいる。

護衛程度とは言え習わないよりマシだろう。

森の中は魔術の射線が通り辛く、魔物の接近を許してしまう場合も多い。

武器はそれぞれ異なるが、代表であるミルアシアクルは杖ではなく細剣を身に付けていた。


相手が魔術を反射するなら、極端な話魔術を使わなければいい。

近接戦闘能力では山人の方が上だろうが、それでも通じない魔術に頼るよりよほど良い試合が出来るはず。


「彼等の立ち位置。

 先ほどより多少下がっています。

 多分、魔術が当たった際の衝撃によるものでしょう」


相手が魔術を反射する盾を用いたなら、魔術を使わなければ良い。

誰もが思い当たる作戦だが、魔術に力を入れ四年間魔術の研鑽に務めたフォレサージ学園の代表としての意地が、その決断を躊躇わせる。

だが、彼女達も学園の代表として試合に勝たねばならなかった。

学園の名を背負う代表生徒として、何よりレキと試合をする為に・・・。


そんな考えが脳裏を横切り、魔術勝負を捨て欠けていたフォレサージ学園の生徒達。

だが、実際に自分の魔術が跳ね返されたミルアシアクルは、フィルニイリス同様ギム達の持つ盾の欠点に気付いていた。


ミルアシアクルの言う通り、よく見ればマウントクラフ学園の生徒達は開始位置より僅かに後方へと下がっていた。

おそらくは魔術による津波そのものは反射できても、それが衝突した際の衝撃までは防げなかったのだろう。


「これはどうですかっ!

 "緑にして探求と調和を司る大いなる風よ、我が手に集いて立ちはだかりしモノを討ち砕けっ!"

 "リム・ブロウ"」


己の仮説を証明する為、ミルアシアクルが再び魔術を放つ。

彼女が次に行使したのは緑系統の初級魔術リム・ブロウ。

発動速度に加え、魔術そのものの速度も速い攻性魔術である。


「くっ!」

「やはりっ!」


風の塊をぶつけ、当たると同時に破裂するリム・ブロウは威力もそれなりに高い。

何より、破裂した衝撃は防具を通り肉体にも伝わる。

ミルアシアクルの放った風の塊が、狙い過たずマチアンブリの生徒の持つ盾に当たり破裂した。

その衝撃に、マチアンブリの生徒は更に後ずさった。


魔術を反射する盾に当たったにもかかわらず、ミルアシアクルの放ったリム・ブロウは反射されず破裂したのだ。


「あっ!

 そういう事ですかっ!」


ミルアシアクルの仲間の一人が声を上げた。


「"緑にして探求と調和を司る大いなる風よ"」

「私も続きますっ!

 "青にして慈愛と癒やしを司りし大いなる水よ"」


他の仲間もまた、ミルアシアクルに続けと言わんばかりに詠唱を始めた。

彼女達が放つのは系統こそ違えど同じ初級魔術、同じブロウ系の魔術。


ブロウの名が付く魔術には共通点がある。

風や水の塊を放ち、目標に当たると同時に破裂するのだ。

魔術が当たった際のダメージに加えて破裂する衝撃のダメージも与える、初級魔術の中では与えるダメージが比較的大きい魔術。

発動速度も高い、どの系統であっても使い勝手の良い攻性魔術である。


『ミルアシアクル選手に続けと言わんばかりに他の選手も魔術を放ちます』

『なるほど。

 リム・ブロウは風の塊を飛ばし、当たると同時に破裂する魔術。

 あの盾は魔術で生み出した風は反射できても衝撃までは返せていない。

 破裂した衝撃は彼等に肉体にダメージを与える』

『な、なるほど。

 さあ、マウントクラフ学園どうするっ!?』


津波そのものは反射したが、ぶつかった衝撃に後ずさったマウントクラフの生徒。

それを見て、ミルアシアクルはこう考えた。


「魔術で生み出した水は返せても、衝撃までは返せないのでは?」と。


同時に、ブロウ系魔術の特性から破裂してしまえば返しようが無いとも考えたのだろう。

彼女の考えは正しく、マウントクラフ学園の生徒は風の塊を返せず衝撃で更に後ずさった。


フォレサージ学園の生徒達が同じブロウ系の魔術でマウントクラフ学園を攻め立てる。

圧縮された風の塊や水球、土の塊が彼等の構える盾に当たり、次々に破裂していった。


『フォレサージ学園が攻め立てますっ!

 マウントクラフ学園、魔術を反射する事が出来ない模様ですっ!!』

『ブロウ系は対象に当たると同時に破裂する。

 風も水球も破裂してしまえば返しようがない』

『えっと、つまりブロウ系の魔術は反射しないと?』

『威力は軽減されてると思う』


当たった衝撃に加え破裂した際の衝撃もダメージとなる。

魔術を反射する盾であっても、衝撃そのものは防げず持ち主の腕や体に相応のダメージを重ねていった。


それでもマウントクラフ学園チームは誰もが盾を構え続けた。


山人の肉体は他種族より頑強である。

身体能力なら獣人が勝るが、肉体の頑強さ、防御力や耐久力と言った面では山人の方が上なのだ。


フィルニイリスの言う通り、魔術が当たった際のダメージは確かに軽減されていた。

風の塊や水球その物は、彼等の盾がしっかりと反射している。

ただ、反射したと同時に破裂している為、その衝撃が盾を通じて肉体へと伝わっているのだ。


彼等は今、山人の耐久力でミルアシアクル達の放った魔術にひたすら耐え続けているにすぎない。


『ミルアシアクルの判断も良かった。

 彼女が放ったルエ・ウェイブで後ずさった事を見て、衝撃までは返せないと即座に判断した。

 加えてブロウ系なら効果があると思いついたのも素晴らしい。 

 ブロウ系なら反射するより前に破裂する。

 あれがリム・ボールなら風の塊がミルアシアクルに跳ね返ったはず』


「くっ・・・やるな」

「当たり前です」

「魔術で負けるわけには行きませんから」

「レキ様とお手合わせするまで負けるわけには行きません」

「カリル達(が晒した醜態)の分まで頑張らなければいけないのです!」


山人の耐久力をもってしても、魔術を受け続けるのは無理があった。

マウントクラフの生徒がその場で膝をつく。


そして・・・。


パキンッ!


「・・・やはり持たなかったか・・・」


生徒の一人が持つ盾が、音を立てて割れた。


『わ、割れた~!?

 マウントクラフ学園の盾が、真っ二つに割れましたっ!』

『ブロウ系の衝撃が蓄積された?

 耐久力に難がある?』


「その通り。

 これもまた試作品」


盾が割れたのを見て、ミルアシアクル達も魔術を放つのを止める。

フィルニイリスの言葉に、割れた盾を見ながらマウントクラフの生徒が応えた。


「魔術を反射するには高純度の魔銀ミスリルが必要だった。

 魔銀ミスリルを精錬し、鍛え、魔力を込め、打ち、盾とした。

 結果、薄くなり強度も減ってしまった」

「そこまでしないと魔術を反射しないのですか?」

「そう。

 ほんのわずかな不純物があっても魔術を反射しない。

 不純物を完全に取り除き、更には徹底的に鍛え磨き上げなければ完全な魔術反射盾は生み出せないのだ。

 その結果、これだけ薄くなってしまったのだがな」


採掘される金属には、基本的に不純物が混ざっている。

それをどれだけ取り除けるかは鍛冶士の腕にかかっている。

魔術を反射する盾を作る上で、必要となるのは純度100%の魔銀ミスリル

その魔銀ミスリルを、魔力を込めながら徹底的に鍛え上げ、盾とした上で更に磨き上げたのが、ギム達の持つ鏡のような盾だった。


そこまで鍛え磨き上げなければ魔術を反射する事は叶わない。

だが、ここまで鍛え磨き上げた結果、耐久度に難がある盾になってしまったようだ。


『盾としてどうかと思いますが・・・』

『試作段階には良くある。

 通常の盾の表面上にあの盾を張るか、部分的に用いるなどすればいいだけ』


「うむ・・・」


フィルニイリスの言葉に、武舞台上でマチアンブリの生徒が頷いた。


「次は耐久度を上げる実験だな」


そういって、マチアンブリの生徒達が踵を返す。

五人が実況席にいるフィルニイリスに一礼し、そろって控室へと戻って行った。


「・・・えっ?」


『えっと・・・』

『今すぐ確かめたくなったのだと思う。

 何かに打ち込んでいる者には良くある事』

『つ、つまり?』

『試合は終わり』


マウントクラフ学園の生徒が大武闘祭に出場する理由、それは己が鍛えた武具を試合で試す為。

試した結果、確かに魔術は反射したが衝撃までは殺せず、加えて耐久度にも問題があった。

問題が分かれば後は改善するのみ。

フィルニイリスの言葉も参考になったのだろう、彼らはすぐさま試すべく控室を通り抜け鍛冶場へと急いだ。


試合もそっちのけで控室へと戻っていく五人の山人を、ミルアシアクル達フォレサージ学園の生徒五人が黙って見送った。


一回戦第二試合、勝者はフォレサージ学園。

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