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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十七章:学園~大武闘祭・チーム戦~ 前半
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第338話:レキらしくない戦い

『な、なんとっ!!

 レキ選手、相手チームの魔術を一人で阻止していますっ!

 さすが無詠唱魔術の使い手です』

『従来の魔術士の戦い方では無詠唱魔術のレキには勝てない。

 せめて移動しながら詠唱するか、詠唱が途切れても魔力を持続させる工夫が必要』


元来、魔術を行使するには呪文を詠唱する必要があった。

魔力を練り、脳裏にイメージを描く。

呪文を詠唱する事で効率よく魔力を練ることができ、同時にイメージを明確にする事が出来た。

また、正しい呪文を詠唱すれば魔術が発動するという一種の自己暗示も、発動するイメージを描く上で重要だった。


ただ詠唱すれば発動する訳では無い。

魔力を練るのも脳裏にイメージを描くのも、魔術を知らない者に出来る事ではないからだ。

慣れない者は魔術を行使する際ある程度集中する必要すらあった。


その為、ほとんどの魔術士はその場に立ち止まり魔術を行使する。

ある者は距離を取り、ある者は仲間に守ってもらいながら。

高位の魔術を行使する際など、それこそ目を閉じながら詠唱していたくらいだ。


宮廷魔術士達ですら騎士達に守られながら魔術を行使している。


カリルスアルム達もまた、従来の魔術士同様その場で集中しながらでなければ魔術を放てないらしい。

カリルスアルム達の詠唱速度はそれなりに速かったが、当然無詠唱魔術の行使速度には敵わない。

棒立ち状態ともいえるカリルスアルム達。

レキからすれば、魔木の的に当てるようなものだった。


『ウォール系の一つでも発動出来れば状況は変わるかも知れない。

 でもレキを前に詠唱魔術で魔術を発動させるのは難しい』

『という事はこのまま試合が終わってしまうのでしょうか!?』

『一人を前衛に立てれば良い』


「なるほどっ!

 さすがフィルニイリス様「えいっ!」だばっ!」


フィルニイリスの助言(?)を受け、カリルスアルムの表情が輝いた。

崇敬するフィルニイリス直々に、自分を勝利に導く為わざわざ教えを授けてくれたとでも思ったのだろう。

レキの水球を顔面に食らいながら、水浸しとなった顔に笑みを浮かべている。


「おいお前ら。

 私の前に」

「「「「断るっ!」」」」

「何っ!

 私はま「ていっ!」だあがっ!」


「まだ何も言っていない」とでも言いたかったのだろう。

その言葉すらレキに阻止され、カリルスアルムの笑みは一瞬で消え去り、額には青筋が浮かび始めた。


「いい加減にしろっ!

 さっきからぽんぽん阿呆みた「ていっ!」いにぃ~」


良く分からない抗議すら阻止される。

もはや試合はレキの独壇場だった。

魔術どころか満足にしゃべる事すらできず、カリルスアルムのイライラばかりが募っていく。


なお、彼の仲間達はレキが魔術を放つ度、何故か感激した様子を見せていた。


「さすがレキ様だ・・・」

「フォレサージ学園の生徒が手も足も出ない・・・」

「まさに申し子様・・・」


彼らと同じ学園の生徒や、フォレサージ同様精霊を信仰し、レキを光の申し子様と崇めるライカウン学園の生徒達もまた、レキを神々しい何かを見るような目を向けていた。


「レキ様はどうされたのでしょうか?」


そんな中、レキをレキとして見ている同じフロイオニア学園の生徒達は、レキの戦いっぷりに困惑していた。


「う~む・・・」

「なんかレキらしくないね」

「相手があいつだからじゃない?」

「カリルスアルム様、でしたね。

 やはり昨日の件でしょうか?」

「そうじゃないの?

 あんな奴レキ一人で十分だし」


確かにあの程度の魔術士ならレキ一人で十分だろう。

実際、試合が始まってからずっと、レキはたった一人で彼らの魔術を封殺し続けている。

相手が魔術以外の手段を持っていなければ、おそらくはこのまま試合が決まってしまいそうだ。


『しかしレキらしくない。

 おそらくは何かあった』

『フィルニイリス様?』


学園で行われた武闘祭では、レキは極力仲間と連携して戦おうとしていた。

相手がレキめがけて突っ込んでこない限り、指揮官であるガージュの指示に従って戦っていたのだ。

この試合の様に、ガージュ達に何もさせず独りで戦うような真似などしていなかった。


レキの実力なら何人相手だろうと問題ではない。

だがそれではチーム戦の意義が失われてしまう。

何より、特出した実力を持つレキだからこそ、皆と一緒に戦えるチーム戦を好み、チーム戦らしく皆に合わせて戦ってきたのだ。


それをせず、たった一人で戦うレキの姿に、フィルニイリスもまた訝しんでいた。


「怒ってるのかな?」

「その割にはレキ様には余裕が見られます」

「うむ。

 レキが怒ったならもっと大きなルエ・ボールを出してもおかしくないはずじゃ」

「じゃあ怒ってないの?」

「分からんのじゃ」


昨日の一件を知っているフラン達は、レキが怒っているのではないかと推察した。

カリルスアルムと揉めたのはレキとファラスアルムの二人である。

正確にはファラスアルムに絡んできたカリルスアルムをレキが庇い、そのまま絡まれたのだが。

その際、カリルスアルムはファラスアルムを落ちこぼれだと貶め、蔑んだ。


友達を馬鹿にされた。

故に、レキは怒っているのだろうとフラン達は考えたのである。


その割にはレキはいつも通りに見えた。

行使している魔術も通常のルエ・ボールのみ。

水球の大きさや威力も標準並みで、当たっても対してダメージを与えていない。

相手チームを纏めて押し流す事も無ければ、会場を水で埋め尽くす事も無い。


一人で戦っている事以外、レキはいつも通りだった。


「レキ様・・・」


控室での一件を知らない彼女達は、レキの思惑を察する事が出来ないでいた。


仕返しのつもりで戦っているわけではない。

手を組み、レキの事を一生懸命応援している一人の少女。

その子に希望を見せる為、レキは自分にできる精いっぱいの事をしているだけなのだ。


「くそっ!

 なんだあいつはっ!」

「いや、だからレキ様だと・・・」

「これほどのお力とは・・・」

「さすがレキ様だ」

「あのお方に我々の全力をぶつけられるとは、何と光栄な」


武舞台では、先ほどからカリルスアルムを筆頭にフォレサージ学園の選手たちが次々と魔術を放とうとしてはレキに相殺され続けている。

レキが使っているのは青系統のみだが、そんな事は関係ない。

どのような魔術を使おうとも、詠唱が終わるより先にレキの魔術が届いてしまうからだ。


『フォレサージ学園のチームなすすべもありませんっ!

 レキ選手の無詠唱魔術、これほどとはっ!!』

『無詠唱魔術ならこのくらい容易い。

 レキは青系統ルエ。ボールのみに魔術を限定している。

 魔術の選択肢を無くす事で、より素早く魔術を行使できている』

『なるほど!

 多くの魔術を使える分、何を使うかで迷ってしまうのですね?』

『もちろん経験を積めば一瞬で判断できるようになる。

 でもレキはその経験が浅い。

 だから使う魔術を絞っているのかも知れない』

『おお~、レキ選手もいろいろ考えているのですねっ!』

『考えて・・・レキが?』

『フィルニイリス様?』


自分で言っておいて疑問に思ったのか、フィルニイリスが首を傾げた。


先日の個人戦もそうだったが、レキはまず相手に全力を出させた上で倒すようにしている。

一瞬で終わらせてしまえば、相手が何が起きたか分からないまま試合が終わってしまうからだ。

それで納得してくれれば良いが、卑怯だなんだと後で因縁を付けられる可能性がある為、レイラス達に言われてそのような試合をしているのである。


だが、今回は違う。

相手に全力を出させるどころか、ただの一度も魔術を行使させていない。


それでも何をされたかは理解できるはず。

少なくとも、手も足も出ない事くらいは分かるだろう。


試合が始まってからずっと、レキは青系統初級魔術のルエ・ボールのみで相手の魔術を封殺し続けている。

相手がどのような魔術を使おうとも、それより先にレキの魔術が相手に届いてしまう。


「くっ、なんなんだ一体っ!

 先ほどから我々の邪魔ばかりしおって」

「遊ばれているのか、私達は・・・」

「先日の試合を見る限りレキ様はそのような性格では・・・」

「ではなぜ・・・」

「分からん。

 だが、我々の魔術ではレキ様に届かないのは事実だ」


どれだけ呪文を唱えようとも、レキに止められてしまう。

その事実にカリルスアルムは焦り、他の者達は畏怖すら感じ始めた。


――――――――――


「な、なんだあれはっ!」

「お、落ち着きなさい獣王っ!」


王族専用の貴賓室。

たった一人で五人の魔術士を、それも魔術に長ける森人の代表生徒達を圧倒し続けるレキに、獣王オレイン=イが驚き腰を上げた。

そんな獣王を落ち着かせようとする森王だが、その手も声も震えている。


レキの圧倒的な魔術行使速度と、それによる相手魔術士の完全封殺。


それは完全なる魔術士殺し。

詠唱が終わるより早くレキの魔術が届き、呪文の詠唱が途切れてしまう。


魔力や集中力さえ途切れさせなければ、詠唱が途切れようとも再開する事で魔術を放つ事は出来る。

だが、相手の攻撃を避けながら詠唱するのと違い、レキの魔術が当たった痛みと衝撃で集中力は乱れ、魔力も霧散してしまっているようだ。

よほど強靭な精神力か、あるいは魔術に対する抵抗が高くなければ、詠唱を続ける事は出来ないに違いない。


従来の詠唱魔術では無詠唱魔術には敵わない。

それが良く分かる試合だった。


それに、レキの行使速度なら魔術士ならずとも封殺する事が出来てしまう。


過去の大会や試合では、魔術士は呪文を詠唱する隙をつかれ倒されてきた。

武舞台という限られた空間では、呪文の詠唱を終える時間を作るのが難しかったのだ。

チーム戦などで、前衛が時間を稼がなければ試合で魔術を放つ事が出来なかったのである。


例えばローザ=ティリルほどの巧者であれば、相手の攻撃を避けながら魔術を行使する事も出来るだろう。

だが、彼女とて一度でも攻撃を喰らったなら、詠唱は途切れてしまうだろう。


あるいはミルアシアクルの様に、あらかじめ呪文の詠唱を済ませて起き、後は脳裏に描いたイメージを保ちつつ同じ魔術を行使し続けると言う戦術もある。

だがそれも、最初の呪文詠唱が出来なければ意味が無い。


レキはそのどちらでもない。

呪文を一切詠唱していないのだ。

詠唱する時間も無く魔術を放たれてしまえば、いかに速度に優れる獣人とて魔術の発動を妨害する事は出来ない。

呪文の詠唱には、相手に発動するタイミングを掴まれてしまうという欠点があった。

それもあるからこそ、試合という形式では魔術士は圧倒的に不利だったのだ。


無詠唱魔術にはその欠点も無い。

いつどのような魔術が放たれるか分からない以上、相手は常に魔術を警戒する必要がある。


レキの魔術行使速度は、試合を見る獣王オレイン=イが驚愕するほど。

おそらくは彼の速度をもってしても、レキの懐に入るのは難しいのだろう。


距離を詰めようにもその隙が無く、一か八か懐に入ろうにも近づく事すら叶わない。

あるいは先日、ミルアシアクルと戦ったグル=ギのように耐えるか。

だが、レキの魔術の本来の威力はあんなものではない。

先日の個人戦で見せたように、レキは上位系統すら扱えるのだから。


それまでの対魔術士用の戦術。

それを完全に覆され、獣王が驚愕に目を見開いていた。


「あぁ・・・。

 さすが光の申し子様です・・・」

「あ、あんなん反則やろ」


レキの圧倒的な魔術に、ライカウン教国教皇が両手を組みながら感涙し、マチアンブリ商国代表ラッカ=ショーラが冷や汗をかいた。


「ふむ、やはりレキ殿は武具に頼らぬのか。

 いや、レキ殿専用の杖を作ると言うのはどうだ?

 レキ殿の動きを妨げぬ様小型の杖を、いや、いっそのことレキ殿の双剣に組み込むと言うのはどうだろうか?

 素材は魔銀ミスリル、いやレキ殿なら魔金オリハルコンすら使いこなすだろう。

 いっそのこと魔石を・・・」

「ザク王?」


そんな中、マウントクラフ山国国王ザク=アクシイク=シドタウンは、レキに相応しい武具について思考を巡らせていた。

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