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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十七章:学園~大武闘祭・チーム戦~ 前半
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第337話:レキ対フォレサージ学園第一チーム

誤字報告感謝です。

控室でそんなやり取りが行われていたとは知らず、カリルスアルムはレキ達をまるで挑発するかのような発言を繰り返した。

その言葉に、遠慮は無用だとガージュ達もレキの背を遠慮なく押す事にしたのだった。


この中でレキの実力を知らないのは、おそらくはカリルスアルムだけだろう。

カリルスアルムの仲間達は、先ほどからレキに対し暴言を吐く彼を何とか諫めようとしている。

レキの事を敬称付きで呼んでいる辺り、彼等はレキの実力も黄金の魔力も知っているようだ。

チーム戦に出るにあたり、カリルスアルムの代わりに大会を最後まで見ていたに違いない。


そんな仲間の態度すら、カリルスアルムは気にもとめていない。

普通、今から戦う相手に、しかも他種族で年下相手に様付けで呼んでいる時点で、何かしらの敬う理由がある事くらい分かるだろう。

だが、純人族である時点でカリルスアルム的に敬う対象ではなく、見下す対象でしかないらしい。

ついでに、崇敬するフィルニイリスの教え子である事もあり、嫉妬を交え敵として認識しているようだ。


先日行われた個人戦の部、そのアランとの試合中の会話でも分かる通り、カリルスアルムは魔術に傾倒しすぎているきらいがある。

本人も三系統を扱えるため、魔術士としてのプライドをこじらせているのだろう。


カリルスアルムは確かに魔術士としてそれなりに優れているのかも知れない。

だからと言って他種族を見下して良い理由になどならない。

第一、その他種族であるアランに負けているのだから、見下せるような立場にもいないはずなのだ。


にもかかわらず、カリルスアルムは純人族だというただそれだけの理由でレキ達を下に見ている。

フロイオニア王国に、引いてはこの世界に無詠唱魔術をもたらした存在だとも知らず、カリルスアルムの崇敬するフィルニイリスがレキの事を自分より上だと認めている事も知らずに。


カリルスアルムが己の無知と過信を後悔するのはいつか。


『それではっ!

 大武闘祭・チーム戦の部、一回戦始めッ!!』


いよいよ大武闘祭・チーム戦の部が始まった。


――――――――――


「初戦からレキ殿とはな」

「先日の活躍で、レキ様の試合を見たいと願う者は多いでしょうね」


王族専用の貴賓室。

ここでも試合が始まるのを今か今かと待っている者達がいた。


「光の申し子様のご雄姿。

 私もぜひこの両の目に焼き付けたく思います」

「目ぇ潰れへんと良いけどな~」


プレーター獣国獣王オレイン=イはレキの圧倒的な強さに強い興味を抱き、何とかレキと手合わせ出来ないものかと体を疼かせている。。

フォレサージ森国森王カミルサラルスはレキの圧倒的な魔力と魔術の腕に、どうやってフォレサージ森国に招こうかと思考を巡らせている。


ライカウン教国教皇フィース=ミル=ライカウンはレキの黄金の魔力に光の申し子様と崇敬の念を抱き、レキを新たなる信仰の対象と勝手に定めている。


そんな三人を見ながら、マチアンブリ商国代表ラッカ=ショーラはレキに儲けの匂いを感じ取り、どうやって取り入ろうかと策を練る。


「ザク王はどうだ?」

「ふむ、レキ殿の剣の扱いは見事だが、正直不満でもある」

「ほう?」


そんな中、マウントクラフ山国国王ザク=アクシイク=シドタウンだけは、レキに対しあまり興味を示していなかった。


「レキ殿ならそこら辺の木の枝でも同じ結果を生み出すだろう。

 武具の性能に頼った戦いをするのが好ましいとは思わんが、武具を必要としない者に相応しい武具など作れぬからな」

「なるほど」


ザク王は鍛冶士の国マウントクラフの王である。

鍛冶士とは戦士に相応しい武具を生み出す者。

相応しい武具とは、戦士が武具を使いこなす事でその者の真価を引き出す為にある。


魔銀ミスリルの剣だろうと、そこらに落ちている木の枝だろうと、同じ結果を生み出すだろうレキは、鍛冶士にとってあまり良い客ではないのしれない。


「レキ殿の振るう剣は素晴らしい。

 おそらくは二年、いやそれ以上使われていると思われる。

 魔力の通りもよさそうだ。

 材質は魔銀ミスリルか?

 レキ殿の魔力を経てかなり変化しているようにも思う。

 持ち主の成長と共に進化する武具。

 それは鍛冶士が目指す武具の一つでもある。

 それをただの魔銀ミスリルの剣でもたらすレキ殿は驚愕に値する。

 できれば我が打った武具も振るって頂きたい」

「そ、そうか」


興味を示していなかった、というのはフロイオニア王国国王ロラン=フォン=イオニアの早とちりだったようだ。


「おっ、始まるぞ」

「少しは落ち着きなさい、獣王」


椅子から乗り出し、目を輝かせる獣王オレイン=イ。


各国の代表も注目する六学園合同大武闘祭・チーム戦第一試合。

レキ達の初戦はさて、どうなる事やら。


――――――――――


「良しっ!

 お前達、純人族に魔術の神髄を見せつけてやれっ!」

「くっ!

 カリルが馬鹿だと言うのは知っていたが・・・」

「もっと早く諫めておくべきだった」

「今更言っても仕方ないっ!

 皆、レキ様に恥じない戦いをするぞっ!」

「ああっ!

 レキ様に我らの力をお見せするのだっ!」


「カリルスアルム以外はまともじゃね?」

「そうかい?

 少しレキに傾倒しすぎていないか?」

「む?」

「これ以上悪い印象を与えないよう必死なのだろう」


試合が始まった。


魔術士のみで構成されているカリルスアルムのチームは、お手本通りレキ達から距離を取った。

無詠唱で魔術が放てない以上、詠唱中に距離を詰められるのを防ぐ為、少しでも距離を取っておかねば戦いにならないのだ。

当然それはガージュ達も予測済み。

当初は、開始早々レキとカルクを突っ込ませる予定だった。


「レキ、後は任せた」

「うんっ!」


先程控室で話し合った通り、レキ一人を残してガージュ達もまた後方へ下がった。


「なんだ?」

「ま、まさかレキ様お一人でお相手下さるのか?」

「我々の魔術をレキ様が受けて下さる!?」

「おお、さすがレキ様・・・」

「有難い。

 我々のこれまでの研鑽、レキ様にぶつけさせて頂きますっ!!」


レキ達の行動をいぶかしんだのはカリルスアルムだけ。

残りのメンバーは、レキ自ら自分達の相手をしてくれるのだと考えたらしい。

間違ってはいないが、別にレキは彼らに胸を貸すとかそういうつもりは無い。

ただ、カリルスアルムを一系統のみで封殺する為に一人、前に出ただけなのだ。


「なんじゃ?」

「レキ様が前に?」

「レキ一人で戦うのかな?」

「え~、それはないでしょ?」

「・・・レキ様?」


試合を見守るフラン達も、レキの行動を疑問に思った。

レキはチーム戦ならちゃんとチームで戦う事をフラン達は知っている。

皆で力を合わせて戦うチーム戦をレキがことのほか好んでいる事も。


だからこそ、レキが一人で戦うなどと考えられなかった。


「ふんっ、なんだかわからんが一人ずつ倒してやる!」


それを知らないカリルスアルムは、レキ一人が前に出た事を好都合と考えた。

後ろに下がったガージュ達を一瞥すらせず、ただレキ一人にターゲットを絞る。

残りのメンバーも、カリルスアルムとは別の理由でレキに集中した。


「行くぞっ!

 "黄にして希望と恵みを司る大いなる土よ"」

「なっ!

 カリルっ!」

「レキ様に黄系統などっ」

「"我が意思の下に集いて"」


「えいっ!」


「"あらゆるモノから守り給っ"」


一歩前に出たカリルスアルムが、自信満々に呪文の詠唱を始めた。


放とうとしたのは黄系統の防性魔術エル・ウォール。

周囲の土を集め、壁にして自分達を守る魔術である。

武舞台は石でできているがその周囲は土である。

それなりの術者なら、通常より多くの魔力を込める事で武舞台の外から土を集める事が出来るのだ。


カリルスアルムの魔術が発動するその直前、レキが無詠唱で魔術を放った。


レキの放った水球は、狙い過たずカリルスアルムの顔面に当たった。


『開始直後魔術を放とうとしたカリルスアルム選手ですが、レキ選手の無詠唱魔術により詠唱を中断されてしまいましたっ』

『あれこそが無詠唱魔術の最大の利点。

 相手が詠唱してから魔術を行使しても間に合う。

 そして相手の詠唱を破棄させる事が出来てしまう』

『先日のアラン=イオニア選手との試合でもそうでしたが、無詠唱魔術を前に従来の詠唱魔術では太刀打ちできないのかも知れませんっ!』


もちろん詠唱魔術が必ずしも無詠唱魔術に負けているわけではない。

魔力の消費効率では詠唱魔術の方が優れている為、継続戦闘では詠唱した方が良いのだ。


フィルニイリスは以前、学園の授業でレキを相手に詠唱魔術で勝利している。

レキが魔術のみでの戦いに慣れていなかったという理由もあるが、レキの癖を見抜き、先読みしたフィルニイリスの方が魔術士として上手だったのだ。


カリルスアルムがフィルニイリス並みの魔術士であれば、この試合にも勝ち目があるだろう。

だが、完全なる無詠唱とは言えない、魔術名のみで魔術を行使する詠唱破棄魔術を扱うアランにすら負けたカリルスアルムでは、どうあがいてもレキに勝つのは難しい。


「ぐぬぬ・・・」

「青系統?」

「レキ様は青系統も扱われるのか」


レキが放ったのは青系統のルエ・ボール。

水の球を生み出し放つだけの初級魔術。

戦闘では牽制程度、レキなら寝ぼけている仲間の目を覚まさせる為にも良く使う魔術である。


全力で放てばそれなりにダメージを与えられる。

レキならカリルスアルムやその仲間達はもとより、この大武術場全体を水浸しにするくらいは出来てしまう。

それをしなかったのは、もちろん周囲の被害を考えたからだ。


それでもカリルスアルムの魔術を中断させ、ついでに挑発する事には成功した。

後者は考えてやったわけではないが。


「まだだっ!

 私の魔術はこんなもの「えやっ!」でばっ!」


実力差は歴然。

それでも諦めず、更に魔術を放とうとしたカリルスアルムにレキの魔術が再び放たれる。

お次も水球、青系統初級魔術のルエ・ボールだ。

今度も狙い通りカリルスアルムの顔面に着弾し、カリルスアルムの台詞が途切れた。


『カリルスアルム選手、先ほどからなすすべもありません!

 さぁ、このまま試合が決まってしまうのか~!』


「く・・・くそっ!

 何しているっ!

 お前達も魔術を放てっ!」

「お、おう!」

「くっ!

 こうなれば仕方ない」

「レキ様、全力で行かせて頂きますっ!」


レキの無詠唱魔術に手も足も、魔術の一つも放てず歯噛みするカリルスアルムだが、これがチーム戦である事を思い出したのか、あわてて仲間に指示を出した。


レキの黄金の魔力を崇敬するカリルスアルムの仲間達。

レキの魔力と魔術行使速度に感心感激し、カリルスアルムが一方的にやられていると言うのについ観戦に徹してしまっていた。

そのカリルスアルムに声をかけられ、ようやく今が試合中である事を思い出しのだろう。

全力で戦う旨を改めて宣言し、それぞれが詠唱を始め・・・。


「えいっ!」

「"緑にしてがぷっ!」

「やっ!」

「"緑にして探求と調和をっぷあっ!」

「えやっ!」

「"黄にして希望と恵みを司る大いなる土よっとぁ!」

「ていっ!」

「"青にして慈愛と癒やしを司りし大いなる水よ、我が手に集いぃあぁ!」

「やあっ!」

「"青にして慈愛と癒やしを司りし大いなる水よ、我が意思に従い眼前の敵ぃ!」


そのことごとくを、レキが打ち破った。

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