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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十七章:学園~大武闘祭・チーム戦~ 前半
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第333話:ファラスアルムとカリルスアルムの関係

誤字報告感謝です。

「あの人はその、兄のような人です・・・」


場所を変え、ファラスアルムが事情を語り始めた。

今度はミームお勧めの喫茶店。

お勧め、と言ってもミームが来たのは実はこれが初めて。

先日久しぶりに再会した幼馴染のラム=サからこっそり教わった店だったりする。


「お兄さん?」

「血のつながりは無いのです。

 ただ、同じアルム族として、昔から親交があったというか・・・」

「アルム族?」


森人の国フォレサージは広大な森にある。

今でこそフォレサージ森国という国を設立しているが、昔はただ森の中でひっそりと生きる種族であった。


森人の数はそれなりに多く、森の中各地に分散して暮らしている。

純人族で言う街や村のように考えれば良いだろう。


各地の森人達は、それぞれにコミュニティーを形成している。

森の中での狩りは見通しも悪く不意打ちも食らいやすい。

協力して狩りをするのは半ば当然である。


そんなコミュニティーには、血の繋がりを持つ家族以外にも森人独自の繋がりが存在している。

それを表す名称として、森人には純人の家名に当たる氏族と樹名というのがあった。


「樹名?」

「はい。

 森人は名前と樹名、そして氏族名を持っています。

 私で言えばファラが名前でスが樹名、アルムが氏族名となります。

 スの大樹に住むアルム族のファラ、それが私の名前です」

「へ~・・・」


大樹に住むと言っても木をくりぬいて住処にしている訳ではない。

フォレサージの森の各地に存在する大樹。

その周辺にコミュニティー、あるいは集落を形成して住んでいる。

領地、あるいは街や村と考えれば良い。


「私はシの大樹に住むアクル族のミルアですね」


フィルニイリスはニの大樹に住むイリス族のフィル。

サリアミルニスはミの大樹に住むルニス族のサリアとなる。


「ん?

 ってことは・・・」

「はい。

 カリルもスの大樹に住むアルム族。

 つまりファラさんと同じ一族という事になります」

「なるほど」


要は幼馴染や近所のお兄さんと言ったところか。


同じ地域に住む子供達はまとめて面倒を見られる場合が多い。

ミームは故郷のイーファンで他の子供達と一緒に鍛錬などをしながら過ごしていた。

レキも五歳の頃までは隣に住む幼馴染の少女といつも一緒だった。


ファラスアルムもまた、カリルスアルムや他の子供と一緒に過ごしていたのだろう。


「獣人が近隣の子供と一緒に鍛錬するように、森人の子供は近隣の子供と一緒に魔術を学びます。

 カリルは幼い頃から魔術の才能があったと言っていました」

「はい、あの人は幼い頃から三系統の魔術が扱えました」


森人とて扱える魔術の系統には差がある。

フィルニイリスのように四系統扱える者もそれなりにいるが、反面ファラスアルムのように一系統しか扱えない者もまた、少なからず存在する。

幼少の頃から三系統扱えるカリルスアルムは十分優秀と言えるだろう。


そんなカリルスアルムからすれば、一系統しか扱えないファラスアルムは落ちこぼれに見えたようだ。


「そんだけの理由なんだ~」

「魔術など手段に過ぎない。

 魔術が使えずとも武具は造れる」


横で聞いていたアリルが何でもないような様子で呟き、サラが無表情の中にも呆れを含んだ声で皆に語った。


「魔術なんかなくても狩りは出来るしね」


自身も魔術が使えないミームも笑顔で同意した。


別に魔術が使えずとも死ぬわけではない。

使えるに越した事は無いが、無くとも生活に支障も無ければ魔物だって倒せる。

レキですら、幼い頃は魔術無しで魔物を狩り続けてきたのだから。


使えるなら便利。

魔術などその程度である。


「森人としてその言葉はどうかと思いますが、でも魔術に固執するのはあまり良くありませんね」

「言ってたのはフィルだよ?」

「そ、そうなのですかっ!?」

「うむ」


それは戦闘における考え方。

魔術を覚えたての者や魔術に自信がある者、あるいは魔術に固執する者は何かと魔術を使いたがり、そして頼りたがる。

だが、一瞬の判断が生死を決めるような場面では、魔術などなかなか放てるものではない。

無詠唱で放てるならまだしも、呪文の詠唱中に食い殺されるのがオチだろう。


魔術はあくまで手段。

武器と同じなのだ。


使える魔術が増えるという事は、使える武器が増えるのと同義。

結局はその程度である。


「うん、良い事を言う」

「フィルって誰?」

「我がフロイオニア王国の宮廷魔術士長にして、私達に魔術を教えて下さっている方です。

 昨日の大会では解説を務めていらっしゃいましたよ」

「ああ、あの人」


「フィルニイリス様が・・・」


フィルニイリスは魔術の第一人者であり、その名は他国にも広まっている。

プレーター獣国で行われる大武闘祭に解説役として呼ばれるほどの知恵者なのだ。

そんなフィルニイリスが「魔術はあくまで手段でしかない」と言った。

森人が他種族に誇る魔術を、その森人であるフィルニイリスが軽んじたのである。


フィルニイリスの信奉者ではないとはいえ、ミルアシアクルの感じる衝撃は小さくなかった。


目の前に100匹のゴブリンがいたとしよう。

レキなら剣の一振りで殲滅できてしまう。

フィルニイリスも中級魔術の一発で殲滅できるだろう。


レキやフィルニイリスに及ばずとも、ある程度の実力者なら時間をかければ殲滅出来る。

フロイオニア王国騎士団中隊長にして剣姫ミリス。

彼女なら、剣だけでも三十分とかからずに殲滅できてしまうだろう。


魔術とはあくまで目的を達成する為の手段の一つ。

より効率的に事を成す為の道具でしかないのだ。


「カリルには聞かせられませんね」


ただでさえ魔術を軽んじているというのに、それを言ったのがカリルスアルムが尊敬してやまないフィルニイリスとあっては、伝えた場合カリルスアルムがどうなるか正直予想が出来なかった。


「それはそうと、ファラさんは無詠唱魔術を習得されているとか?」

「は、はい。

 ここにいる皆さんのおかげで」

「いえ、ファラさんが頑張ったからですよ」

「うむ、ファラは頑張ってるのじゃ」


カリルスアルムの内心はさておき、話は最初に戻った。


今回の原因はカリルスアルムがファラスアルムを落ちこぼれと蔑み絡んできた事にある。

だが、今のファラスアルムは一系統しか使えないとはいえ無詠唱魔術に至っている。

無詠唱で魔術を扱えないカリルスアルム達に比べれば、むしろファラスアルムの方が優秀と言えるかも知れない。


詠唱破棄魔術でカリルスアルムを圧倒したアランを見れば分かる事。

従来の詠唱魔術では、無詠唱魔術にはなかなか敵わないのだ。


「それでずるいとかなんとか言われて」

「ずるい?」

「何がずるいの?」

「ん~、なんだろ?」

「えっと、自分達を差し置いてフィルニイリス様から手ほどきを受けた事、でしょうか」

『あ~』


カリルスアルムが激高した原因は、要するに嫉妬だ。

それも、自分に先んじて無詠唱魔術を習得した事ではなく、自分が崇拝するフィルニイリスから教わった事に対してである。

相手の実力や才能に対して嫉妬するならまだしも、与えられた環境に対して嫉妬されてもファラスアルムには何も言えないだろう。


たまたま入学した学園にカリルスアルムの崇敬するフィルニイリスがいた。

ただそれだけなのだから。


「羨ましいなら自分も来れば?

 って言ってやればよかったのに」

「ふふっ、さすがにそれは無理でしょう」


話を纏めてみれば何ともくだらない理由に、ミームが馬鹿にしたような事を言った。


大武闘祭のような交流こそあれど、学園間での生徒の行き来は原則として無い。

進級時の編入制度こそあれど交換留学のような制度は今のところ設けられていないのだ。

仮にあっても、最高学年であるカリルスアルムは手遅れだろうが。

むしろ卒業してからフロイオニア王国に来た方がまだ現実的と言える。


「あいつも冒険者になるって事?」

「いえ、カリルは将来フィルニイリス様の様な研究者になりたいと言っていましたので」

「じゃあ研究者としてフロイオニア王国に来るのかな?」

「さあ、そこまでは」


カリルスアルムの嫉妬心を解消するのは難しい。

本人が研鑽し無詠唱魔術を身に付けたところで、彼が嫉妬した原因は解消されないからだ。

フィルニイリスが何か手ほどきでもしない限り、彼はレキやファラスアルム、果てはフラン達にまで嫉妬し続けるに違いない。


どうにもならない(どうでもいい)為、カリルスアルムの心情は放っておく事にした。


問題はもう一つ。

すなわちファラスアルムを落ちこぼれと称した事。

実害こそ無いが、最近自信も付いて明るくなってきたファラスアルムの表情と気持ちに影が差した事は問題と言えば問題である。


「いえ、私はそんな・・・」


それを解消したいと思うのは友達なら当然の事。

例えファラスアルム本人が気にしていないと言ってもだ。


友達を見下され、侮辱されたのだ。

放ってなどおけるはずも無い。


「どうする?

 あいつぼっこぼこにする?」

「やるならファラスアルムがやらなければ意味が無い」

「そうね。

 今のファラなら大丈夫だろうし」

「うん!

 ファラも無詠唱使えるしね」

「うむ、やってやるが良い」

「まあまあみなさん。

 あの方も明日のチーム戦に出場するでしょうし、試合前のいざこざはあまりよろしくありませんよ」

「すいません、彼も一応我が学園の代表なので。

 やるならせめて大会が終わってからでお願いします」


手っ取り早いのはファラスアルム自身がカリルスアルムに勝つ事。

彼女も無詠唱魔術を扱える為、勝負すれば十中八九勝てるはず。

例え一系統しか扱えないとしても、行使速度に勝る以上魔術の打ち合いでは確実に分があるからだ。


ただ、残念な事にカリルスアルムは明日のチーム戦にも出場するらしい。

試合を控えている選手には、万全の体勢で試合に出られるように配慮する必要がある。

年に一度の六学園合同行事。

不測の事態を起こすわけにはいかないのだ。


「う~ん・・・」


カリルスアルムがファラスアルムを見下している理由は、ただ一系統しか魔術が扱えないから。

ファラスアルムが他系統も習得すれば解消するかも知れないが、青系統にしか適性が無いらしいファラスアルムが今すぐ他系統を身に付けるのは正直言って厳し過ぎる。


勝負も出来ず、他系統を身に着ける事も厳しいとなれば、後はカリルスアルムの意識を変える事くらいしか出来る事は無い。

ただそれも、カリルスアルムに根付いた意識がどの程度かにもよるだろう。


「そもそもなんで一系統しか使えないのがダメなの?」

「そうですね・・・」


ミームの今更な質問に、森人の代表としてミルアシアクルが説明を始めた。


「まずカリルの尊敬するフィルニイリス様が四系統扱えると言うのが一つ。

 森人の多くが最低でも二系統、多い者で三系統扱えると言うのが一つ。

 複数系統を扱えるという事は、それだけ様々な分野で幅広く活躍できると言うのが一つ。

 戦闘においても有利に立てる場合が多いですからね。

 他にも理由はありますが、才能が無ければ複数系統身に着ける事は出来ないと言われている為、一系統しか扱えないというのは才能に乏しいという考えがあるのです」


フィルニイリスはともかくとして、複数系統扱える者は戦闘でも多くの手段を取れるのは事実である。

戦闘以外でも、青系統を使える者は水を生み出し、赤系統を扱える者は火を生み出せる。

緑系統は移動や索敵などで恩恵があり、黄系統なら地面を均したり壁を生み出す事も出来る。


レキ達もそうやって手分けして野営の支度をした経験がある為、ミルアシアクルの言葉は十分理解できた。


「それでも一系統しか使えないのがダメと言うのは違っていると思いますけどね」

「私も青系統しか使えないけどね~」

「あたしなんか魔術使えないし」

「あっ、私も~」

「いえ、あくまで森人の基準ですので・・・」


戦えない獣人、剣を打てない山人など、純人族からすれば別の事をすればよいと思える事でも、他の種族にとっては己の存在意義にすら関係してくる問題なのだろう。


フィルニイリスも以前言っていたが、魔術の使えない森人も確かにいる。

彼らは魔術以外の道を模索し、中には大成した者もいるらしい。

だが、彼らとて始めから他の分野に進んだわけではない。

他の分野に進むしか無かったのだ。


その点、ファラスアルムは一系統ではあっても魔術が使える。

更には研鑽を重ね、無詠唱魔術すら習得しているのだ。

にもかかわらず彼女に陰りが生じたのは、肝心のファラスアルム自身が己を卑下しているからだろう。


「そ、そんな事よりフォレサージ学園の事をもっと教えてくださいませんか?」


雰囲気を変えようと、ファラスアルムが半ば強引に話題を反らした。


結局、彼女自身が己に自信を持たなければ何も変わらない。

それには、もうしばらくの時間が必要かも知れない。


あるいは、何かきっかけでもあれば・・・。

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