第317話:アリルも一緒にみんなでごはん
「あっ、レキ様です。
フラン様、レキ様が・・・」
「おお、レキお疲れ・・・」
控室から観客席へとやって来たレキを見て、ルミニアとフランが固まった。
まあ、それも当然だろう。
何せ、レキの背にアリルが乗っているのだから。
「アラン様、おめでとうございます」
「ああ、ありがとうローザ」
「ま、アランなら当然でしょ」
「妹にも良いとこ見せなあかんしな」
「将来の義弟にもな」
「それはいいっ!」
一方、三年生達はアランを温かく(?)迎えた。
フロイオニア学園の代表にして自分達三年生の代表。
更にはなんだかんだで尊敬しているアランの勝利に、ローザを初めとして皆が我が事のように喜んでいる。
揶揄われているアランも、「全く」と言いつつどこか嬉しそうにしていた。
「それで、どういう状況なのでしょうか?」
何となく予想はつくが、念の為一応は聞いてみようと思ったルミニアである。
レキが誰かを背負っているのは珍しい事ではない。
フィルニイリスを筆頭に、レキの背に乗りたがる女性はなぜか多い。
ルミニア自身、何度かレキに背負われた事がある。
体が弱く体力も少なかった頃、鍛錬で疲れたルミニアをレキは良く背負ってくれた。
恥ずかしさと若干のうれしさで頭がいっぱいで、とてもフィルニイリス達のように堪能する余裕は無かったが。
いや、今も別に堪能するつもりは無いが。
「なんか、降りてくれない・・・」
「んふふ~」
無理矢理降ろせば良いものの、それが出来ないのがレキの優しさだろう。
それに甘え、レキの背から降りようとしないアリルである。
流石にレキが言えば降りるだろうが、レキ自身あまり嫌そうにしていないのが問題であった。
誰かを背負う事に慣れすぎた弊害であった。
「えっと、アリル=サ様」
「アリルでいいよ~」
レキに言っても仕方ない。
そう判断し、ルミニアはその背に乗るアリルを説得する事にした。
アリルも気さくに応じたが、その表情はとても幸せそうで、一筋縄では降りそうになかった。
「念の為お聞きしますが、どこか怪我をされているわけではありませんよね?」
「レキに治してもらったからねっ!」
「・・・疲れて立てないと言う訳でもないのですよね?」
「疲れてはいるけどねぇ~」
試合開始からずっと、アリルは全力で攻め続けていた。
レキの一撃で場外にまで吹っ飛び、その後レキが治癒魔術を施し、彼女を背負って控室へ入っていくところまでルミニア達は見ている。
てっきり怪我した彼女を治療部屋か、彼女達プレーター学園の控室まで連れて行ったのだろうと思っていたのだが・・・。
「・・・嫌な予感が」
「あ、あはは・・・」
「レキ様・・・」
アリルの紹介にあった「好みのタイプ」
レキはアリルの好みのタイプそのものである。
レキの強さに惹かれない獣人などいない。
ミームだって、最近ではレキの事を・・・。
それはともかく、何時までもアリルを背負わせるわけにはいかない。
昼食の事もある。
何よりフランやルミニア達の心情だって・・・。
「アリルはレキを気に入ったのかのう?」
「うん!
だって強いし」
「レキより強い者などおらんからのう」
「だよね?
ほんとに純人かって思っちゃったし」
「レキは純人じゃぞ。
ただ誰よりも強いだけじゃ」
と、自分はもとより敬愛するフランの心情を考えたルミニアだったが、フランはいつも通りだった。
いつの間にかアリルに話しかけ、かと思えば既に打ち解けている。
共通の話題であり、お互い気に入っているからか、レキの話題で盛り上がる二人。
間に挟まれているレキが若干居心地悪そうにしているが、とりあえず修羅場のような状況にはなりそうになかった。
――――――――――
「プレーター学園の方へ戻られなくて良いのですか?」
フランが気に入った以上、無下に追い返すわけには行かない。
それでもアリルはプレーター学園の代表である。
自分の学園に戻る必要があるのでは?と念の為確認したが、アリルは問題ないと笑顔で答えた。
学園では人気者のアリル。
だが、彼女の話によれば自分の学園での扱われ方に辟易しているらしい。
彼女は見た目も良く、実力も学園の代表になるほどに強い。
試合中の声援でも分かる通り、彼女はプレーター学園のアイドルなのだ。
ただ、彼女は別にちやほやされたいわけではないらしい。
好みのタイプに「自分より強い者」とあえて挙げたのも、下心のみで近寄ってくる異性を遠ざける為だ。
そもそも獣人の多くは自分より強い異性に惹かれる為、あえて言う必要など無い。
それでも公言したのは、付き合いたければ自分より強くなってからにしろというアリルなりの対策であった。
「じゃあ強くなくても良いの?」
「ん~、まあ好きになれば?
相手が弱ければその分あたしが強くなればいいだけだしね」
アリルにだってちゃんと好みはある。
強ければ誰でも良い訳ではない。
仮に弱くともその時は自分が守れば良いと考えている辺り、彼女の恋愛観はまともなようだ。
有象無象にモテたい、侍らせたいという願望は少なくともなさそうだった。
「ミームのお母さんと同じだね」
「ん~・・・そう?」
ミームの母親が惚れた理由は「庇護欲を掻き立てられた」というもの。
厳密には違うのだろうが、強さが絶対的な基準ではないと言う点は同じである。
惚れた相手がたまたま弱かっただけなのだ。
「でもアリルさんは二位だったのですよね?
一位の方とはお付き合いされないのですか?」
「うえっ・・・」
アリルはプレーター学園の代表だが、その順位はレキと違い第二位。
同じ代表であるグル=ギの下という事であり、つまりはグル=ギの方が強いという事になる。
「自分より強い者」という彼女の好みの条件には合っているはずだ。
「あいつも弱くはないんだけどね。
なんていうか暑苦しいんだよね~」
「暑苦しいですか・・・」
「告白とはされなかったの?」
「されたけどね。
あいつしつこいし、空気読まないし、友達と買い物してる時にも勝負挑んでくるし、食事中だって強引に横に座ってくるし」
「あ~・・・」
アリルの話す内容からすれば、間違いなくグル=ギはアリルが好きなのだろう。
ただ、アプローチの手段が強引過ぎて引かれているようだ。
授業中も絡んできたり、友達と手合わせしている時にも割り込んできたり、狩りの実習中もアリルと組もうと周りを押しのけたり、時と場所を考えず勝負をふっかけてきたり。
周りの迷惑はおろかアリル自身の迷惑すら考えず、自分中心に行動するところは彼女の嫌いなタイプそのものらしい。
「そもそも学園での勝負じゃ私の方が勝ち越してるしね」
「えっ、そうなのですか?」
「うん。
言い訳するみたいで嫌だけど、武闘祭の時は脚に怪我してたから」
武闘祭の前日に行われた狩りの実習。
アリルは自分と組めと言い寄ってきたグル=ギを無視し、仲の良い友達とチームを組んで狩りに行き、友達を庇って怪我を負った。
傷は深く、治癒魔術で治りはしたが調子までは戻らなかったのだ。
「怪我・・・今は大丈夫なのですよね?」
「うん。
まだちょっと引っかかるとこあったけど、レキの魔術で完全に治っちゃった。
レキは凄いね~」
そう言ってレキの背中におでこを押し付けグリグリするアリルである。
レキの背中から降りたアリルだが、今度は背後からレキを抱きかかえるようにしていた。
ここは食堂。
レキ達は降りる気配を見せないアリルを諦め、時間ももったいないという事で皆で昼食を食べる為に移動していた。
生徒達の食事はプレーター獣国側で用意されており、大闘技場に設けられた食堂で受け取り、自由に食べる事が出来る。
食堂で食べるもよし、観客席に持っていくも良し。
出場する選手の中には、控室で一人静かに食事する生徒もいるらしい。
もちろんレキは皆と一緒に食事している。
背中に乗ったままでは食べ辛いからとようやく降りたアリルも、今度はレキを抱きかかえる形で食事を始めたのだ。
観客席でも食べやすいよう、手づかみの食事だからこそ出来る食べ方であった。
レキの背中には異性を引きつける何らかの力があるのだろうか?
身長差もあってか、弟やぬいぐるみを抱きかかえている様にも見えるが。
「むぅ・・・」
「羨ましいです・・・」
「えっ?」
それでもレキと密着している事に変わりはなく、さすがのフランも頬を膨らませた。
嫉妬というより、単純にレキを独り占めされている事が気にくわないのかも知れない。
あるいはレキを抱きかかえながら食事をしたことが無い為、その行為が羨ましくなったのだろうか。
レキを独占する気のないルミニアですら、今のアリルのポジションは替わって欲しいと思ってしまった。
珍しく嫉妬したフランとルミニアにファラスアルムが驚いたが、内心では彼女も羨ましく思っていたりする。
「いいな~・・・」
「べ、別にあたしは・・・」
ついでに、ユミも羨ましそうにレキとアリルを見ていた。
ミームは素直になれないようだが、わざわざ口に出して否定する辺り、実に分かり易かった。




