第314話:レキ対アリル=サ
続く第二試合。
プレーター学園代表のグル=ギ対マウントクラフ学園代表のギム=ビルヒル=ピアスイクの対戦。
狼の獣人にしてプレーター学園第一位の実力者であるグル=ギに対し、山人のギム=ビルヒル=ピアスイクは自作の長槍で挑んだ。
速度を活かし懐に入り込もうとするグル=ギを、腕力を活かして長槍を振るい牽制し続けたギム=ビルヒル=ピアスイクだったが、武術の実力と身体能力の差はいかんともしがたく、最終的には槍の内側に入り込まれ敗北した。
そして第三試合。
『さ~、続いて第三試合です!
一年生にしてフロイオニア学園の代表の座を勝ち取ったレキ選手!』
「レキ~!」
「頑張ってください~!」
「勝てよ~!」
「手加減してあげてくださいね~!」
「武舞台壊しちゃだめだよ~!」
皆からの声援(?)に笑顔で手を振りながら、レキが武舞台に上がった。
「レキ、フロイオニア学園代表の力を見せつけろっ!」
「ある程度は構わん。
勝て」
控室で試合を見守るアランとレイラスも、ここへきて加減しろだとかやり過ぎるなという言葉は投げなかった。
ただ勝てと。
レキの手加減が上達している事を信じたが故の言葉だ。
学園での武闘祭後にも、カム=ガやティグ=ギ相手に散々練習してきた。
今更レキが加減を誤る事は無い・・・はず。
『対するはプレーター学園代表、アリル=サ』
レキの相手は兎の獣人アリル=サ。
女性であり、本来戦いには向かないと言われている兎の獣人ながらプレーター学園の代表の座を勝ち取った生徒だ。
『レキ選手は何と一年生にしてフロイオニア学園の代表に選ばれた選手です!
一年生が学園の代表になり、この大会に出場するのは大武闘祭が始まって以来初めてとの事』
『レキの実力は本物。
何せあの魔の森で生きてきた少年だから』
『おおっ!
あの噂は本当だったのですね!』
『そう』
今から約三年前に起きたフランの事件は他国にも伝わっている。
当然、フランを救いフロイオニアの王都まで届けたレキの活躍に関してもだ。
各国の王侯貴族はもちろん、ある程度情報通なら誰もが知っている話である。
そうでなくとも魔の森の恐ろしさは誰もが知っている。
そこで生きてきたと言うレキの実力は、それを知る者からすれば驚異的だろう。
もちろん、信じればの話だが。
――――――――――
「おっ、あいつだな。
フロイオニア王、あのガキだろう?」
「うむ、彼が我が国の英雄レキだ」
「ほう、あの少年が・・・」
レキの登場に、獣王や森王が興味深そうに武舞台を、そしてレキを見た。
獣王はレキの功績を知り、どれほどの強者かずっと気になっていた。
出来れば戦ってみたいとも。
レキが噂通りの実力者なら、必ず代表となりこの大会にも出るはず。
そう期待していた獣王の前にその少年が現れた。
舌なめずりしそうなほどに、獣王はレキを食い入るように見ている。
森王もまた、レキに興味を持っている者の一人だ。
レキの魔力や無詠唱魔術について、詳しく調べたがっている。
森国でレキの話を聞いた者の多くは、森王と同様レキに興味を持っている。
レキの魔力を初めてみたフィルニイリスの様に、ぜひともレキを国に招いて詳しく調べたいと考えているのだ。
フロイオニア王家の庇護下に入っている為、その願いが叶う事は当分ないだろう。
レキが学園を卒業し、一人の冒険者として世界中を回る。
その時がレキをフォレサージ森国へ招き入れる絶好の機会となるだろう。
「ぐふふ・・・」
「ふふふ・・・」
獣王と森王。
理由は違えど共にレキを招き入れたいと思う二人は、大会そっちのけでレキの一挙手一投足に注目していた。
――――――――――
『アリル=サ選手はプレーター学園の四年生。
女性でありながらそのしなやかな動きで相手を翻弄し、一撃必殺の蹴りであまたの男達を倒して代表の座を勝ち取った選手です!』
『兎の獣人は俊敏性と脚力なら獣人一。
速度を活かした一撃必殺の攻撃はオークですら蹴り殺す』
「アリル~!」
「好きだ~!!」
「俺と番になってくれ~!!」
『おおっ、これまでにない種類の声援です。
何故ならアリル=サ選手はプレーター学園のアイドル。
実力と美貌、そして人気を兼ね備えた生徒なのですっ!』
『獣人は強い者に惹かれる。
同性なら憧れ、異性なら恋慕を抱く』
『因みに、アリル=サ選手の好みは自分より強い者。
これは獣人共通の好みと言えるでしょう』
『むぅ・・・』
『フィルニイリス様?』
「ふむ・・・」
「レキ様がやり過ぎなければ良いのですが・・・」
「だ、大丈夫よ。
だってレキはまだ一年生だし、それに・・・」
アリルの好みを聞いたフィルニイリスが、解説用の席で渋い顔をした。
観客席にいるルミニアも何やら不安そうだ。
若干焦った様子で何やら言っているのはミームである。
彼女もレキの強さに惹かれ、最近ようやく自覚し始めた恋慕もあるからか、他人事とは思えないようだ。
「アラン様が相手じゃなくて良かったです・・・」
「アランなら大丈夫じゃない?」
「どういう意味ですかっ!」
三年生では、ローザが無用な心配をしていた。
「ふ~ん、一年なんだ~」
「うん、そうだよ」
「コネじゃないよね?」
「コネって?」
「うん、違うみたいだね」
「?」
一年生にして学園の代表に選ばれたと聞いて、何かしらの取引があったと思うのは仕方のない事だろう。
いくら学園が身分の差なく皆を平等に扱うとは言え、生徒一人一人の意識まではそうそう変えられない。
貴族の生徒の多くは卒業後のコネづくりの為に入学していると言っても良いくらいで、元々はガージュですらフランやルミニアに近づく為に同じクラスを目指したくらいだ。
もっとも、今のガージュにそのつもりは無いだろうが。
レキが高位の貴族のお気に入りになり、その貴族の口利きで代表となった。
ある意味学園の理念や武闘祭そのものを侮辱するかのような内容だが、それはないとアリル自身が撤回した。
「だって君、本当に強そうだもん。
っていうかホントに一年生?
ていうか純人?」
「へっ?
えっと・・・」
彼女はレキの強さを察していた。
目の前の少年は、コネなど用いずともフロイオニア学園の代表となれるだけの実力を持っている。
獣人の本能とも言うべき能力で、それを理解したのである。
『獣人は本能的に相手の強さを知る事が出来る。
兎の獣人は特にその能力が高いと言われている』
『フィルニイリス様?』
『武闘祭にコネは無い。
あるのは純粋な実力のみ。
出場する選手は誰もが本当の強者』
レキとアリルのやり取りが聞こえたのだろう。
フィルニイリスが解説をした。
今武舞台に立っているのはどちらも実力者であるという事を。
「君だって相手の強さくらい大体わかるでしょ?」
「うん」
「あたし達兎の獣人はその能力が他の種族より強いの。
多分、獣人の中では弱い種族だからじゃないかな?」
「え?
でも強いよね?」
「まあね。
兎の獣人だって頑張れば強くなれるんだよ」
ミームの幼馴染の一人であるラム=サ。
彼女も幼い頃からミームとかけっこをしていた。
そのおかげで鍛えられた脚力を活かし、一年生で第二位の実力者となっている。
アリルも幼い頃から鍛錬を重ね、四年目にして学園の代表を勝ち取る事が出来た。
兎の獣人でも、頑張れば強くなれると彼女達はその身をもって証明したのだ。
「でも魔の森は言いすぎじゃない?」
「?」
「魔の森で狩りをするのは獣人の夢なんだよ?
その森で生き抜いてきたなんて、獣人の夢を馬鹿にしてるようなもんだよ?」
「え~、でもな~」
「ま、いいけどね。
戦ってみれば分かるし」
例え獣人であろうとも、生半可な実力では魔の森で狩りをする等命を懸けても無理である。
魔の森は獣人にとってある種の聖域のような場所、そこで狩りが出来るのは圧倒的な強者のみ。
過去、多くの獣人が己の実力を試す為魔の森へと入っていき、そしてほとんどの者が帰ってこなかった。
運良く生き延びた者も、二度と戦えない体となったり、心に深い傷を抱えた。
再び魔の森へ入ろうと立ち上がれたものはほとんどいなかった。
この世界で最も危険な場所。
それが魔の森である。
兎の獣人とて相手の実力を完全に把握できるわけではない。
だからこそ、アリルは魔の森で生き抜くなど出来ないと、己の常識に当てはめてしまったのだ。
いくら噂に名高い賢人のフィルニイリスの言葉だったとしても、レキの実力を測り切れない者がその言葉を信じるのは難しかった。
――――――――――
『さあ、双方準備はよろしいですか!?』
「あたしに勝ったら信じてあげる」
「うん!」
『では、一回戦第三試合、始めっ!』
「まずは小手調べっ!」
自慢の脚力を活かし、アリルがレキへと跳び込んでいく。
初めて戦う相手。
大武闘祭自体初めてと言う事もあり、レキはまず様子見を選びアリルの蹴りを剣で受け流した。
「やるじゃないっ!
でもまだっ!!」
アリルもまさか一撃でケリがつくとは考えていなかったのだろう。
受け流された勢いを利用し、着地と同時に武舞台を強く蹴る事で更なる反動を得る。
空中で体を反転し、レキの背後から再度蹴りを繰り出した。
「これならっ!」
「えいっ!」
もちろんレキはその蹴りも受け流す。
魔の森で三年、王宮でも二年間鍛えたレキの実力は、もはや学園代表等という器には収まらない。
「まだまだっ!!」
背後からの奇襲すら受け流され、アリルの警戒度が上がった。
それでも攻める手(脚)を止めず、今度はレキの真正面から連続で蹴りを繰り出す。
しなやかな体躯、全身をばねの様に活かしながらの蹴りは、威力といい速度といい学生の範疇を超えていた。
「まだまだまだっ!!」
それでもレキの防御は崩せない。
むしろまだまだ余裕がある。
『お~っと、アリル=サ選手の目にもとまらぬ連続攻撃。
レキ選手はかわすので精一杯か~!?』
『アリル=サの最初の攻撃は森や街中だったら脅威だった。
武舞台では地面しか蹴れない』
『ほうほう、でもあの蹴りの速度は驚異的では?』
『レキには余裕がある。
その証拠にまだ一撃もまともに当たってない』
『えっ!?』
先程からアリルの蹴りをレキが受け流し、かわされたアリルがなおも追撃するという、一方的な展開が続いている。
レキが受け流す度、アリルの蹴りの威力も速度も増しているように見えた。
一撃でも喰らえば骨が折れるどころか致命傷、下手をすれば命を落としかねないほどだ。
「レ、レキ様・・・」
フロイオニア学園では見られなかった高速戦闘。
目で追うのがやっとな戦いに、ファラスアルムが祈るように手を組んだ。
レキの強さは知っている。
相手がどれほど強かろうとも、レキに敵うはずは無い。
そう頭では理解していても、安心できるかと言えばそうではない。
武舞台の真ん中でレキが剣を振るい続けている。
キンッと言う澄んだ音が武舞台に響く。
アリルの攻撃をレキが受け流している音だ。
速度は更に上がり、もはや音でしかファラスアルムには二人の攻防を知る術が無かった。
「凄いですね」
「うむ、あんなに速い者はそうはおらん」
「ラムもあんなに速くなるのかしら?」
「うわ~、目が疲れる~」
フラン達はまだ目で追えているらしい。
伊達にレキとの手合わせを積み重ねていないのだ。
「流石獣人ですね」
「いやいや、獣人かてあない速い奴はそうおらへんで?」
「ジガも手は速いのだがな」
「それだと違う意味に聞こえない?」
三年生達も余裕があった。
それでもアリルの速度には感心していた。
フラン達が余裕を持って見ていられるのは、当然レキの実力を信じているから。
目で追えている為、レキの方に余裕がある事にも気づいているのだ。
「そろそろかのう」
「ですね」
そして、レキが反撃に出そうな気配も気づいていた。




