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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十六章:学園~大武闘祭・個人戦~
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第313話:種族至上主義?

「お前はフロイオニアの王族か」

「ああ、そうだが」

「ちっ、純人め・・・」


そう言って、フォレサージ学園代表のカリルスアルムは鼻を鳴らしつつアランを一瞥した。


「種族至上主義・・・か?」


種族至上主義。

一言で言えば自分の種族こそが最も優れていると信じて疑わない者達の事だ。

ガージュの父、デシジュ=デイルガ伯爵のような他種族排斥派も、元々は純人族至上主義者である。


武力では誰にも負けない獣人。

魔術と魔力なら他を圧倒する森人。

技術力に置いて他種族の追従を許さない山人と、各種族はそれぞれが得意な分野、能力を持っている。

それが高じて、あるいは拗らせたのが種族至上主義なのだろう。


実際に武力なら獣人が、魔術なら森人が、鍛冶や採掘なら山人が優れている為、彼等の主張自体は間違っているとも言い辛い。


アランの対戦相手であるカリルスアルムもどうやらその一人のようだ。

森人以外を完全に見下し、例え相手が王族だろうと嫌悪感を隠そうともしない。

拗らせすぎた結果、他種族を見下し過ぎるようになったのだろう。


獣人が「森人なぞ遠くからちまちま魔術を放つだけの臆病な種族」と卑下するように、彼もまた他種族を卑下しているのかも知れない。

「殴るしか能がない獣人」「鍛冶や採掘しか出来ない山人」「特出したモノの無い純人」と言った感じで、精霊にも通じる魔術こそが最も優れた能力であり他の能力など大した事が無い。

そんな風に拗らせているのだ。


「まあ、魔術のみで勝てるなら苦労はないな」

「何か言ったか?」

「いや、別に・・・良い試合をしよう」

「ふんっ」


腐ってもアランは三年生の代表にしてフロイオニア学園の代表選手である。

魔術の腕も確かなら、剣術も優れている。

その両方を組み合わせて戦い、アランは代表の座を勝ち取ったのだ。

魔術だけでなく、剣術だけでもない。

両方を兼ね備えているからこそ、アランはフロイオニア学園の代表になる事が出来た。


種族至上主義でありフォレサージ学園の代表でもあるカリルスアルムは魔術が優れているのだろう。

反面、武術に関してはろくに使えない可能性が高い。

獣人を卑下しているくらいだ、武術も野蛮だなんだと嫌悪していてもおかしくはない。


フォレサージ学園ならそれでも良かったのだろう。

だが、フロイオニア学園ではそれでは勝てない。

ましてや戦う前から相手を見下しているようでは・・・。


王族としてではなく、純人の代表として。

アランは全力でカリルスアルムを倒す事を決意した。


――――――――――


『それではお待たせいたしました。

 大武闘祭、一回戦第一試合、始めてくださいっ!』


「始めっ!」


「他種族など近寄らせなければどうという事はっ!」

「"リム・スラスト"っ!」

「なっ!」


開始の合図の直後、距離を取るべくセオリー通り後ろに下がったカリルスアルム。

得意の魔術で戦う為、相手が届かない位置へと移動しようとしたのだろう。


だが、アランが得意とするのは剣術だけではない。

純人は特出した能力がない分、どの能力も平均的に身に付ける事が出来る。

いわば万能型の種族なのだ。

当然魔術も使える。

・・・今更の話ではあるが。


「き、貴様っ!

 純人のくせに魔術など!」

「魔術は森人の専売特許ではないと思うが?」

「うるさい!

 私に魔術で傷をつけた事、後悔させてやる!」


――――――――――


『おっと、先に攻撃を当てたのはアラン選手!

 フィルニイリス様、今のは無詠唱魔術でしょうか?』

『アランの魔術は正確には無詠唱魔術ではない。

 魔術名のみを唱える詠唱破棄魔術。

 それでも従来の詠唱魔術より遥かに速い』

『なるほど!

 フロイオニア学園の生徒は既に無詠唱魔術を会得していると言うのは本当だったようです』

『学園で無詠唱魔術に至った生徒はまだ少ない。

 アランももう少し』


「無詠唱、だと?」

「そうだ。

 レキがもたらし、王宮の魔術士達が研究し、我々に伝え広めている魔術だ」

「し、森人である我らを差し置いて、貴様らが無詠唱魔術を習得するなどっ!」

「その無詠唱魔術をもたらしたのも純人のレキだが?」

「うるさいっ!

 魔術は我ら森人の物だ!

 純人である貴様が魔術を語るなっ!!」

「・・・やれやれ、種族至上主義もここまでくると呆れを通り越して尊敬しそうだ」


『同感』

『フィルニイリス様?』


カリルスアルムの言葉が聞こえたのだろう、フィルニイリスがうんざりしたように呟いた。

森人は魔術が得意だが、魔術は森人の物ではない。

獣人ですら、努力次第では扱えるようになるのだ。


カリルスアルムの激高は、あるいは森人である自分を差し置いて無詠唱魔術を習得したアラン達に対するひがみのようなものなのかも知れない。


レキ以外で最初に無詠唱魔術を身に付けたのはフィルニイリス。

彼女はフロイオニア王国の宮廷魔術士長だが、同時に森人である。

その彼女を中心に、フロイオニアの魔術士達が無詠唱魔術を他国へと伝え広めている事はプレーター学園の教師ですら知っている。

魔術に力を入れているフォレサージ学園なら、当然学んでいるはずだ。


「フィルニイリス様だってそうだ。

 何故あの方はフォレサージではなくフロイオニアで宮廷魔術士を務めているのだ」

「知らん、フィルに聞け」


『何故ですか?』

『腐れ縁』


「というかフィルを尊敬しているのか?」

「当たり前だっ!

 あのお方は四系統の魔術を自在に操り、その知識は留まる事を知らず。

 私が敬意を抱くにふさわしいお方だ」


『何か一言』

『照れる』

『そうは見えませんが?』


ここまで話せば分かるだろう。

彼が種族至上主義になった理由、ではなく純人であり王族であるアランに突っかかった理由が。


「・・・つまり、嫉妬か」


森人が優れていると思い込んでいるのは本当だろう。

だがそれも、正しくは己が優れているからというより、尊敬する森人のフィルニイリスに敬意を抱いているから。

そのフィルニイリスが同じ森人である自分達では無く純人族であるアラン達に対して教鞭をとっている。

無詠唱魔術も、フォレサージ学園では無くフロイオニア学園で教えている。


同じ森人である自分達を差し置いて・・・。


森人としてのプライドや尊敬するフィルニイリスに後回し(?)にされた事などが積み重なり、そのフィルニイリスが仕えているフロイオニアの王族でありフィルニイリス直々に教鞭をとっているフロイオニア学園の生徒アランに八つ当たりをした。


というのが、彼のこれまでの言動の真相のようだ。


加えて、アランが無詠唱魔術(正しくは詠唱破棄魔術)を身に付けている事が、彼を更に激高させたのだろう。

アランが無詠唱魔術を使えるなど考えてもいなかったに違いない。


フィルニイリスが教えているとは言え所詮は純人。

魔術なら自分の方が上である。

そう考え、遠距離から一方的に魔術を放ち、魔術と森人の優位性をこれでもかと見せつけるつもりだったのだろう。


「し、嫉妬だとっ!

 わ、私がそんな低俗な感情にとらわれるはずがない!」

「因みに、私が王宮にいた頃はフィルが魔術指南役だった。

 まあ、学園に入ってからも教わってはいるが」

「なっ!!」


『本当ですか?』

『本当』


カリルスアルムの激高の理由が分かり、宥めるどころか煽りだすアランである。

普段は煽られる事が多いからか。

言っている事に間違いはなく、カリルスアルムにとって残酷な真実をただ告げているだけとも言える。


「くそっ!

 無詠唱が使えるからと言っていい気になるな。

 威力なら私の方が上だ!」

「果たしてそうかな?」


『おっ、ようやく試合が再開する模様です。

 フィルニイリス様、これまでの試合どう見ますか?』

『魔術士は冷静でなければならない。

 感情にとらわれ、相手の優位性から目を反らした時点でカリルスアルムに勝ち目はない』

『おおっ、解説のフィルニイリス様の辛辣なお言葉です。

 カリルスアルム選手、大丈夫だろうか』


「・・・泣くなよ?」

「・・・うるさいっ!」


ようやく試合が再開する。


――――――――――


そして終わった。


『試合終了!

 勝ったのはフロイオニア学園代表、アラン=イオニア選手。

 フィルニイリス様、ずばり勝因は?』

『カリルスアルムは魔術の威力にばかり捕らわれていた。

 三系統使えるはずなのに使ったのは一系統だけ。

 自己鍛錬のみで実戦が足りていない証拠』

『なるほど。

 もしかしたら試合にも慣れていないかも知れませんね』

『おそらく』


レキに勝つ事を諦めず鍛錬に励み、三年生にして学園の代表となったアラン。

対して、カリルスアルムはフィルニイリスを目標に鍛錬こそしてはいるが、他者と競う事をしてこなかったのだろう。

ただただ魔術の威力を高める事のみに費やしたようだ。


『フォレサージ学園の試合は魔術の打ち合い。

 多少詠唱が遅くとも威力が勝れば勝ててしまう。

 無詠唱魔術を身に付けない限り、魔術の打ち合いではアランやレキに勝てない』

『呪文の詠唱速度以前に詠唱しない訳ですからね。

 先程の試合でも、カリルスアルム選手の魔術をアラン選手が無詠唱魔術で何度も妨害していました。

 森人であるカリルスアルム選手をアラン選手が一方的に攻撃、それも魔術でという予想外の展開。

 詠唱魔術と無詠唱魔術の差。

 それが良く分かる試合と言えたでしょう』


試合では魔術士は不利だとされてきた。

個人戦では特にだ。

呪文の詠唱を終える前に距離を詰められそのまま倒されるケースが多く、試合で魔術を使う場合はあらかじめ大きく距離を取るか、あるいは呪文の詠唱を行いながら戦うしか無かった。


先程のカリルスアルムもそれは同じ。

開始直後に距離を取り、アランの剣が届かない位置をキープしながら魔術を使うつもりだったのだろう。

それをアランは無詠唱(詠唱破棄)魔術を用い、距離を詰める事なく一方的に魔術を放ち勝利を収めたのだ。


『森人であるカリルスアルム選手を純人であるアラン選手が魔術で倒す。

 いや~、初戦から素晴らしい試合でした。

 では引き続き第二試合を始めたいと思います!』


無詠唱魔術の有用性をフォレサージ学園の代表相手に見せ付けたアラン。


一回戦第一試合はフロイオニア学園代表アラン=イオニアの勝利である。


――――――――――



「おおっ!

 兄上が勝ったのじゃ!!」

「無詠唱で魔術が使えない以上当然でしょうね」

「アラン様も律義に魔術で勝負しなくとも良いのに・・・」

「そこがアランの良いところ」


アランの勝利に沸くフロイオニア学園応援席。

学園での試合も見ている為、誰もがアランの実力を知っている。

相手が無詠唱魔術を扱えない限りこの結果は当然と言えるだろう。


あるいは相手も近接戦闘が出来ていれば、あるいはまだ可能性があったかも知れない。


「多分、無理です」

「ファラさん?」

「あの人は、いえ、フォレサージ学園では武術は習わないでしょうから。

 魔術しか無いんです、フォレサージには」


フォレサージ森国は元々知識と魔術を重んじる国であり、学園でも学ぶのは知識と魔術ばかり。

武術など精々、自衛手段として学ぶ程度なのだ。


「プレーターと真逆ね」

「勉強もしないのか?」

「どうやろ」


ミーム、ラリアルニルス、ジガ=グがプレーター学園の話で盛り上がり始めた。


ファラスアルムの様子がいつもと違う事に気付いたのは、ルミニアだけだった。

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