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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第30話:真夜中の襲撃

「レキはまず手加減を覚えるべき」

「てかげん・・・」


結局、どれだけ魔力を抑えろと言っても、レキの魔術は中級魔術並の威力を下回る事が無かった。

戦場でならむしろ歓迎すべき事かも知れないが、ここは魔物の影も形もない平原。

むしろ、レキの魔術で魔物を呼び寄せる可能性すらある。


今はフラン達を無事王都へ連れていく旅の途中。

魔術指南も、何もこんな場所で行う必要は無い。


レキの好奇心とフィルニイリスの興味が重なった結果始まった、基本だけと言われて行った魔術指南もひとまずはここまで。

一行は移動を開始した。


移動中は特に何も起きなかった。

見渡すかぎりの平原は続き、魔物の姿はやはりどこにもない。

空は快晴、雲ひとつない青空が広がっている。

昨日に続き、実に良い旅日よりであった。


一行の足取りも順調。


「"エド"っ!」

「レキ、練習するならリムにすべき」

「分かったっ!

 "リム"っ!」


平原に突如炎が生み出されたと思ったら、お次は風が唸った。

そんな平原を、レキ達は順調に歩みを進めた。


昨日は初めての旅で少々浮かれ気味だったレキは、今日は初めて覚えた魔術が嬉しくて大分浮かれていた。

最初は焦げ跡を作ったり池を作ったり道を凸凹にしたりと騒がしかったレキも、今はそこら辺の草や枯れ木や石や岩を飛び散らせるだけで済んでいる。


「ふふん、こうなのじゃ。

 エドっ!」

「姫はちゃんと詠唱すべき」

「うにゃ・・・」


そんなレキに対抗するかのように、フランも魔術の鍛錬を始めた。

基本魔術はほぼ習得済みらしいフランだが、さすがに無詠唱では発動出来ないようだ。


鍛錬をしながらレキに良いところを見せられると、それでもフランはご機嫌である。

何より、新しく出来た友達と一緒に鍛錬するのは、それだけで楽しいものだ。


昼食は昨日同様小屋から持ってきた干し肉で済ませた。

夕食は夕食で、これまた昨日同様レキがどこからとも無く獲ってきた魔物(この日はダークホーンと呼ばれる魔物であった)の肉である。


「これまた大きいのう!」

「ダークホーンは平原に出没する牛の魔物。

 草食で気性は穏やかだが害をなすものには容赦がない」

「下手に手を出せば数十頭のダークホーンの群れが一斉に襲ってくる事もあるぞ」

「城壁すら打ち破ったという記録がありますね」

「すごい!

 見てみたい!」


一見するとただの大きい羊、だが魔物は魔物。

ちなみに、強さは単体でもゴブリン以上で、群れを成せばオークすら逃げ出すとの事。


「ふむふむ」

「こちらから手を出さない限り危険は無い」

「安全な魔物なの?」

「安全な魔物などおるのじゃな」


安全かどうかは別として、こちらから攻撃を仕掛けない限り無害な魔物というのはそれなりに存在する。

例えばレキの父親が良く狩っていたソードボアも、縄張り意識こそ強いがそこに踏み入りさえしなければ危険はない。


ただし、人が耕した田畑を食い荒らす事もあり、危険ではないが無害とも言えなかったりする。

その点で言えば、ダークホーンなどは草食であり、その辺の雑草を食べて生きているだけの、比較的害も少ない魔物である。


自分の中の魔物像と異なる生態に、フランとレキは顔を見合わせ首を傾げる。

そんな二人に、フィルニイリスが講義を始めた。


「魔物とは生物が魔素の影響によって変化した存在と言われている。

 変化後の性質は凶暴化する事が多いが、ダークホーンのように気性は変わらず体だけが大きくなった魔物もいる」

「人は襲わぬのじゃな」

「人を襲うかどうかは元となった動物によるところが大きい」

「へ~」

「肉食や雑食の動物が魔物と化した場合、体が大きくなり凶暴性も増す為人を襲う様になる。

 モスエイプやロックフォックスなんかがそう」

「なるほど」


モスエイプは森に住む猿の魔物であり、ロックフォックスは平原に住む狐の魔物である。

どちらも魔物の強さで言えば中程度の、なかなかに手強い魔物だ。

なお、モスエイプの肉は筋張ってて酸っぱく、ロックフォックスの肉はそれなりに美味いらしい。


「魔物の肉の味と元となった動物は関係ない」

「そうなの?」

「同じ蛇でもグラススネークは美味しく、マッドスネークは泥の味」


肉の味はともかくとして、元が同じでも生態の異なる魔物というのは意外と多いらしい。

特に蛇の魔物などは森・平原・山・海辺・洞窟とさまざまな場所に生息しているが、生息域によって生態が大きく異なるそうだ。


他の魔物についても教わりたかったレキだったが、時間も大分遅くなってきた事もあって今日の講義はそれまでとなった。


「続きは城に帰ってから」

「うん!」


また一つ、王都へ行く楽しみが増えたレキである。


その後、夕食を済ませた一行は昨日同様リーニャ、ミリス、フィルニイリスを見張りに立てて眠る事にした。

昨日とは異なり、今日はレキも素直に眠りに着いた。

なんとも穏やかで、平穏な一日。


そんな平穏が崩れたのは、交代の為、リーニャがミリスを起こしに行こうとした時だった。

近くで眠るフランとレキを起こさないよう、注意しながらミリスの方へと近づいていったリーニャだが、ミリスに声をかけようとした直前、レキがパッと飛び起きたのである。


「レ、レキ君?」

「・・・魔物」

「えっ?」

「魔物が来たっ」

「ほ、本当ですか」

「うん、行ってくるっ!」


詳しく説明する間もなくレキが飛び出して行く。

慌ててレキの向かった方に目をやれば、あの一瞬では辿り着けそうも無い程の彼方にぽつんと光る黄金の輝きがかろうじて見えた。


「もうあんなところまで・・・」

「今のは?」

「レキ君です。

 魔物が近づいているとかで飛び出して行きました」

「・・・そう」


フィルニイリスの問いにリーニャが端的に答えた。

と言うより、それ以上言える事が無かった。

分かるのは精々、彼方に見える黄金の光がせわしなく動いていることくらい。


「あれは、戦っているのでしょうか?」

「おそらく」

「相手はなんでしょうね?」

「多分・・・ゴブリンの群れ?」

「そうなのですか?」

「この辺りで群れで行動する魔物はダークホーンとゴブリンくらい。

 だが、ダークホーンは夜は活動しない」

「群れと言うのは?」

「単体や数匹程度なら一瞬で終わるはず」

「なるほど・・・あ、終わったようですね」


遠くに見える黄金の光を眺めながら、どこか呑気に会話するリーニャとフィルニイリス。

レキの応援に行こうにも今から言って間に合うはずも無く、何よりこの場を離れるわけにもいかない。

こうして見張りを続けながら、レキの活躍を見守るくらいしか出来ないでいた。


「ただいまっ!」

「ご苦労様でした、レキ君」

「それでレキ、相手は何?

 ゴブリン?」

「うん」

「ちなみに数はどのくらいでしたか?」

「えっと・・・いっぱい?」


ゴブリンの群れに突っ込み、手当たり次第に切って捨ててきたレキ。

数えるのも面倒くさかったのか、とにかくたくさんいたとしかわからなかった。


「この平原は遮蔽物が無い。

 自衛のために群れの数も多くなった」


ゴブリンとは魔物の中でも下級に位置する魔物である。

この平原に出没する魔物の中でも当然下から数えた方が早い程度の魔物で、単体ならホーンラビットより上程度。

故にゴブリンは常に群れで行動し、他の魔物が寝入っている夜も活動するのだ。

特にこの平原では姿を隠す物が極端に少ない為か、昼間の狩りは成功率がかなり低い。

移動速度がさほど高くないゴブリンは、夜の闇に紛れる事で、狩りの成功率を高め群れを維持しているのだろう。


「ゴブリンの獲物は私達だったのですか?」

「こんな平原のど真ん中で火を炊いているのだ。

 襲ってくださいと言っているようなものだろうな」

「昨日はいなかったよ?」


起きてきたミリスも交え、レキ達は周辺の確認を行った。

昨日はまだ魔の森に近く、ゴブリンの群れも近寄らなかったのか。

あるいはレキ達の方が、ゴブリンの群れの近くまで移動したのか。


「ゴブリンも災難でしたね」

「いや、あのゴブリンの狙いは私達なのだから」


いずれにせよ、近くにいた魔物を殲滅した事で、以降の警戒度はだいぶ下がったと言えるだろう。

昨日に引き続きただ火の番をするだけの見張りになった事に、リーニャ達は改めてレキにお礼を述べた。


「さて、それでは私は休ませていただきますね」

「ああ、お休み」

「レキ君はどうします?」

「もう少し起きてる」


ゴブリンの襲撃もあり、レキも目が覚めてしまったようだ。

元々野営の見張りにも興味があったレキ。

これ幸いにと、見張りに参加する事にしたのだった。


――――――――――


「寝るべき時に寝るのも一流の冒険者。

 翌日に疲れを残すのは二流」

「え~・・・」

「ふふっ」


フィルニイリスに小言を言われつつ、レキは焚火の前に座った。


「眠くなったらちゃんと寝てくださいね」

「うん」

「・・・仕方ない。

 レキ、魔物の襲撃は無いとはいえ、警戒は怠らないようにな」

「うん!」

「火も絶やしてはダメ。

 平原の夜は冷える。

 魔物はともかく野生の獣は火を恐れる」

「うん!」

「あと、なるべく静かに」

「うっ、うん」

「ふふっ」


フィルニイリスに注意され、口を手で押さえるレキを横目に、リーニャが横になった。

野営に使用される天幕などは残念ながら森に捨ててきた馬車の中。

昨夜に引き続き、平原の中での雑魚寝である。

幸い今の時期は温かく、夜も多少冷えるが凍えるほどではない。

焚火と、森の小屋から持ってきた魔物の毛皮があれば十分だ。


「おやすみなさい、レキ君」


ぐっすりと眠っているフランの隣で、リーニャも目を閉じた。


そして翌朝。


「・・・動けない」


「おはようございますレキ君。

 もうすぐ朝ごはんの支度が出来ますよ」

「おはよう、レキ。

 ちゃんと起きたようだな」


もはやお決まりとなったやり取りを交わしつつ、レキは目覚めた。

昨日同様、フランとフィルニイリスにしがみつかれた状態だった。


「・・・あれっ?」


目が覚め、辺りを見回しながら現状を確認しつつ、昨夜の事を思い出した。

昨夜はそう、ミリスとフィルニイリスと一緒に見張りをして・・・。


「俺、寝ちゃったの?」

「ああ、と言うか私が交代した時にはもう眠そうだったじゃないか」

「え~・・・」

「まぁ、あんな夜遅くにフィルニイリスの話を聞かされれば、誰だって眠くなるだろうな」

「・・・その発言は失礼」

「あ、おはようフィル」

「私の魔術講座はわかりやすいと評判」

「その評価は誰がしてるのだ?」

「私」

「・・・」


昼間の魔術が気に入ったのだろう、昨夜は魔術について知りたがったレキだったが、フィルニイリスの講義は魔術を使うコツに始まり魔術の種類や歴史、宮廷魔術士の仕事など多岐にわたり、一般的な知識に欠けるレキには難しい話が多く、いつの間にか眠ってしまったようだ。

それでなくともまだ子供。

夜中に起きた分、体が睡眠を欲したのだろう。


それでもいつも通り起きられたのは、身に付いた習性である。

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