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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十五章:学園~プレーター獣国へ行こう~
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第303話:イーファンでの再会

「今度の休みには帰ってこれるのかい?」

「う~ん、無理だと思う」


昼食が終わり、レキ達はミームの家を後にする。

ミームだけならこのまま実家に泊まっても良かったのだが、本人が皆と一緒にいるからと断ったのだ。

少しばかり寂しそうにするミームの両親ではあったが、これもミームがフロイオニア学園で上手くやれている証明。

そう考え、笑顔で見送った。


フロイオニア学園からイーファンの街まで、馬車を使っても片道一月近くかかってしまう。

光の祝祭日の休暇は約一月しかない為、ミームが休暇中に里帰りするのは少々厳しいだろう。


「まあ、君が元気にやっているようで安心したよ。

 皆さんも、今後もミームをよろしくお願いします」

「ちょ、止めてよ父さん」

「レキ君、狩りをしたくなったらいつでも来てね。

 またいろいろ教えてあげるわ」

「うん!」


娘の学園生活を憂う父親と、娘の将来の為に婿候補を手なずけようとする母親。

どちらも娘を思っての言動ではあるが、肝心の娘がどう思うかは別である。


「皆さんもお気をつけて」

「ここから王都までは安全だけど、たまに魔物が出るから気を付けて。

 まあレキ君がいれば大丈夫だとは思うけど」


娘と、その仲間達をミームの両親は笑顔で見送った。

ミームも最初は照れ臭そうに、でも両親の姿が小さくなるにつれ、少しばかり寂しそうに手を振っていた。


宿ではフラン達がミームの子供時代の話を聞きたがり、そんな仲間達に彼女は少しずつ思い出話を聞かせた。

久しぶりの両親と故郷の街で、ミームもいろいろと思い出したのだろう。

最初こそなかなか口を開こうとしなかったミームも、次第にいろんな事をフラン達に聞かせていた。


ミームの故郷であるイーファンの街の夜は、こうして過ぎていった。


――――――――――


翌日。

昨日別れたばかりの両親に再び見送られ、レキ達はプレーター獣国の王都リーハンへと向かった。


魔物との遭遇は無く、道中は何事も無く安全に移動する事が出来た。

その分食事には苦労するはずなのだが、一行には食材担当のレキがいる。

ラミ=ギに狩りを習ったばかりという事もあり、今日も今日とで張り切って狩りに向かうレキ。

一体どこまで行って狩ってきたかは謎だが、レキのやる事にいちいち常識を当てはめても仕方ない。

黄金の光を宿して飛んでいくレキの背中を、先日とは異なる感情でミームが見送った。


イーファンの街を出て二日。

レキ達は、六学園合同大武闘祭が行われるプレーター獣国の王都リーハンに辿り着いた。


――――――――――


獣国の王都リーハンの街は、フロイオニア王国の王都パティアに負けず劣らず栄えていた。

パティアに比べて乱雑な街並みではあるが、様々な商店がそこかしこに乱立している。

南には街を見下ろすかのように王城がそびえたち、街の外からでも良く見えた。

中心から放射状に延びる通りは広く、馬車や騎士団でも余裕で通れるだろう。


そこかしこでパティアとは異なる街並み。

その中でも最も異なる点と言えば、街の中心に存在する闘技場の存在だろう。


パティアの中心がフロイオニアの王城なら、リーハンの中心は闘技場である。

下手をすれば王城よりも大きいそれは、プレーター獣国の象徴でもあった。


獣人は武と狩りを重んじる。

その武の象徴である闘技場では、ほぼ毎日のように何かしらの大会が開かれているそうだ。


騎士団の順位戦やら冒険者同士の決闘、模擬戦。

どこぞの村の諍いからご近所さんの夫婦喧嘩まで。

喧嘩や手合わせ、模擬戦に決闘、様々な争いの場として利用され、親しまれて(?)いるらしい。


申請さえ通れば誰でも利用可能であり、小規模な試合から大規模な大会まで様々な催しがここで行われている。

その中には国が主催する武闘祭や、レキ達が出場する六学園合同大武闘祭も含まれている。


レキ達は後日、この闘技場で戦うのだ。


闘技場の周囲には飲食店やら武具屋が立ち並び、今日も何か試合をしているのだろう、多くの人が集まっていた。


「お~」

「やはりパティアとは違うのう」


同じように栄えつつ明らかに違う街並みの様子に、フランがうんうん唸っている。

数日後にはここで大武闘祭が行われるからと、宿に先んじて見学に訪れたのだ。


パティアとの一番の違いは、やはり街にいるほとんどの人が獣人である事かも知れない。

獣人の国の王都なのだから当然と言えば当然だが、これほど多くの獣人をレキもフランも見た事が無かった。


「あっ!

 てめぇミーム!」

「えっ?」


お上りさんのようにボケっと闘技場を見上げていたレキ達。

そんなレキ達に、正確にはレキ達の仲間であるミームに突然声がかかった。


誰?と振り返るレキ達。

そこには、同じ服を着る数名の獣人の子供達がいた。


「・・・誰?」

「なっ!」


プレーター獣国の学園に通う生徒達のようだ。


――――――――――


「先生」

「うむ、プレーター学園の生徒だな」


お揃いの服を着る数名の獣人。

レキ達同様学園の制服なのだろう。

赤色の長ズボンに同じ色の上着。

中のシャツは白色で、デザインもほぼ同じ。

動きやすそうに袖を捲っている生徒が多いが、それもある意味ではプレーター学園の特徴なのかもしれない。

ボタンをいくつか外している生徒に、上着を肩にかけている者もいる。

着崩しているのかだらしないだけなのか、あるいはより動きやすい着方をしているのか。


ある意味個性的であり、ある意味品が欠けていた。


「俺だ、サラン=ボだ」

「?」

「ほ、本当に覚えてねぇのかよ・・・」


そんな生徒の一人、サラン=ボと名乗った少年がミームに詰め寄った。


「な、なあ。

 俺は覚えてるよな?」

「?」

「・・・マジか」


首を傾げるミームに他の生徒も詰めより名乗っていき、ミームの首の角度が大きくなっていく。

どうやら誰も覚えていないようだ。


もしかしたら、彼らが一方的に知っているだけなのかも知れない。

などと、本当に知り合いなのかすら疑わしくなってしまうほどだった。


「どう思う?」

「ミームの記憶力が無いだけだろ」

「自分より弱い奴などいちいち覚えてないとかじゃね?」


ガージュの言う通り、ミームの頭は芳しくない。

興味のある事は覚えるが、興味が無かったり都合が悪い事は欠片も覚えないのだ。

そういう意味では、カルクの言う「自分より弱い奴は覚えていない」と言うのも正解なのかも知れない。

弱い相手に興味が無く、いちいち覚えてなどいられないのだろう。


「そうなの?」

「ワイはおもろそうな奴は覚えるで?」


もちろん獣人が皆そうでは無いのだが。

それでも興味のある事は覚えるらしいので、単純にミームの記憶力の問題なのだろう。


「それで、あ奴等は何者なのじゃ?」

「おそらくはミームさんの同郷の方では?」

「イーファンで一緒だったっていう友達?」

「で、でもミームさんは覚えてないって・・・」


先程からミームに詰め寄る生徒達だが、ミームに喧嘩を売っているとか因縁をつけている様には見えなかった。

会話を聞く限り、ただ自分達を思い出してもらおうと必死になっているだけのようだ。

おそらくはルミニアやユミの言った通り。

惜しむらくは、ミームが一向に思い出せない点である。


「・・・ねえ、ミーム。

 あたしは?」

「あっ!

 ラムじゃない。

 久しぶりっ!」

「「っ!」」

「ほっ、良かった・・・」


ミームに詰め寄る生徒達。

その内、不安げにする女子生徒の名をミームが呼んだ。


少女の名はラム=サ。

頭から兎の耳を生やした獣人である。


覚えていてくれた事にラム=サが安堵し、その周りではラムは呼ばれたのにと他の生徒達が更に落ち込んでいた。


「女子は覚えているのか?」

「案外強いんじゃね?」

「むぅ?」


街の中心にある闘技場近くでのやり取りは、もはや一種の見世物の様にもなっていた。

特に危険はないからか、あるいは巻き込まれたくないのか、ガージュ達はそんな見物客にまぎれるように遠巻きに見守っている。


結局、詰め寄った生徒の中でミームが覚えていたのはラム=サだけで、その他数名の男子生徒達は一人も覚えていなかった。


「あたしはミームとあんまり喧嘩しなかったから」

「だから覚えているの?」

「ミームは自分より弱い子は覚えないから」

「・・・ああ!

 戦わなければ強いも弱いも無いのじゃな」

「そうだと思うよ」

「戦わなければそもそも印象に残らないのでは?」

「あたしとミームは生まれた時からの付き合いだから」

「そうなのですか?」

「そうね、物心ついた頃にはもう一緒に遊んでたわ」


思い出してもらえず、分かりやすく落ち込んでいる男子をよそに、ミームがラム=サをフラン達に紹介した。

ミームの記憶に残る為には、喧嘩で勝つか、長い時間一緒に過ごす必要があるのかも知れない。

その他数名は喧嘩はすれどそれ以外ではあまり一緒にはおらず、ラム=サは喧嘩はしないが一緒にはいたのだ。


「兎の獣人は争いごと嫌いなんです」

「あたしの父さんは狼の獣人だけど、弱いし手合わせもしないけどね」


とはいえ、ラム=サは争いごとが嫌いなだけで弱くは無いらしい。

脚力に優れ、速度を活かした戦いや一撃必殺となる蹴りを持つ兎の獣人は、実は武術でも狩りでも優秀なのだ。


「ミームってひどいんだよ。

 あたしが遊ぼうって誘ったのに鍛錬するからって遊んでくれないの」

「ラムだってあたしが一緒に鍛錬しよって言ったのに逃げたじゃない」

「だってミームの鍛錬きついんだもん」


幼い頃はミームも普通の子供の様に遊んでいたそうだ。

だが、いつの頃から武術を習い、遊びより鍛錬を優先するようになったらしく、ラム=サと遊ぶ事も無くなったらしい。

その後、ラム=サは家庭の事情で引っ越してしまい、それ以降ミームとの付き合いも無くなってしまったとの事。


それでも引っ越す前まではミームとラム=サは良く一緒に過ごしていた。

鍛錬こそ行わなかったが、それ以外の時は大抵一緒だったそうだ。


「ラムは何故一緒に鍛錬しなかったのじゃ?」

「兎の獣人は体を鍛える事は好まないそうですよ?

 下手に鍛えると足が遅くなってしまうそうです」


狼の獣人であるミームは全身をくまなく鍛える事で強くなるが、兎の獣人であるラム=サは脚を中心に鍛えた方が効率が良いらしく、その為には野原を駆け回るのが一番なのだそうだ。

実際、幼い頃の遊びはかけっこや追いかけっこと言った、とにかく走り回る遊びが多かったらしい。

最初はミームもそれで満足していたが、武術を習い始めてからは走り込み以外も行う様になったのだ。


本格的な鍛錬を始めたミームと、今まで通り野原を駆け回るラム=サ。

以前ミームから聞かされた話からすれば、二人の友誼はそこで途切れそうなものだが。


「足腰の鍛錬だけは一緒にしてくれたから」

「ふふん!

 かけっこならミームにだって負けないんだから」


武術で競う事は無かったが、足の速さでは競い続けていたらしい。

ある意味、ミームと最後まで競い合っていたという事になるのだろうか。

少し離れたところで項垂れている他の獣人の生徒と違い、彼女が引越しをするその日まで一緒にいた正真正銘の友人なのだ。


「他の方は一緒に鍛錬などしなかったのですか?」

「えっとね・・・」


ルミニアの問いかけに、ラム=サがこっそり教えてくれた。

その内容に、ルミニアが「まあ、ふふっ」と思わず笑みを漏らした。

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