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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十五章:学園~プレーター獣国へ行こう~
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第299話:ミームの母親

「は~、純人族の国になぞ期待するなと言ったんだけどね」


ひとしきり愛娘を愛でた(?)後、ミームの母親がそう言って心から安心したような表情を見せた。

久しぶりの母娘の再会。

まだ十歳の愛娘が遠い他種族の学園に一人行く事に不安を覚えないはずが無い。

同年代より強いとはいえミームはまだ子供。

魔物や野盗に襲われ命を落とす可能性はある。

武力では解決できない問題もあるだろう。

誰かに騙され身ぐるみ剥がされたあげく奴隷として売られる可能性だってある。


何より、娘が学園生活を楽しんでいるかどうか気になっていた。


ミームも言っていた通り、彼女が自国の学園ではなくフロイオニアの学園を選んだのは、自分より強い者に会う為だった。

同年代の獣人の子供の中でも抜きんでた存在だったミーム。

このまま獣人族の学園に通っても自分より強い子供になど会えないのだろうと考え、かすかな期待を胸に他種族の学園であるフロイオニア学園を目指した。


儚い期待はだが叶い、ミームは純人族の学園で自分より強い子供と共に競い合える友人を得た。

フランとは互角、ルミニアには負け越してすらいる。

最近ではユミも良い勝負をするようになった。

身体能力では劣る森人のファラスアルムですら、無詠唱魔術と杖術を組み合わせる事でミームとそれなりに戦えるようになっているほどだ。


何より、同年はおろか学園最強、いやこの世界で最強の存在であるレキに出会えた。


故郷の国を出たミームは、純人族の国にあるフロイオニア学園で充実した毎日を送っているのである。


「良く見ればみんな強そうね。

 どう、あたしと手合わせしてみない?」

「ちょ、母さん!」

「何よ?

 ミームのお婿さん候補がこんなにいるのよ?

 母親としてしっかりと見極めないとだめでしょ?」

「違うからっ!

 あたし達はリーハンに行く途中なのっ!」


お婿さんを見極める為に手合わせをすると言うのもどうかと思うが、イーファンの街に立ち寄ったのはミームの里帰りでもなければミームの婿候補を紹介する為でもない。

単純に、一晩の宿を得る為だ。


イーファンを出れば次は六学園合同大武闘祭が行われる王都リーハンである。

大武闘祭に備え、少しでも移動の疲れを残さない様立ち寄れる全ての街で宿を取り、野営の回数を極力少なくしているのだ。

当然、ここイーファンの街でも宿を取り、ゆっくり休む予定である。


「なんなら家に泊まる?

 ミームとその友達くらいなら平気よ?」

「ちょ、母さん!」

「おお、それは楽しそうじゃな!」

「フランっ!?」


ラミ=ギの提案にフランが食いついた。

フランは友達の家にお泊りするのが大好きなのだ。

ミームの家はそれほど広くないが、フラン達一年生の女子くらいなら問題無く泊まれるだろう。


「折角の申し出ですが、我々は学園の行事でここにきていますので」

「そう、残念ね・・・」

「ミーム=ギだけなら問題はないぞ?

 折角故郷に来たのだ。

 一日くらい家族とゆっくり過ごすがいい」

「え~」


いくら生徒の親の申し出とは言え、学園の行事で来ている以上気軽に受ける訳にはいかず、レイラスが教師として断った。

とは言えそこまで融通が利かない訳ではなく、ミームだけならと促したのだが。


「いいわよ別に」

「遠慮する必要はないが?」

「遠慮じゃなくて、母さんに勝てるまで戻らないって決めてるから」


まだ見ぬ強者に会う為、というのはフロイオニアの学園に入学した理由であるが、ただ会えれば良いという訳ではない。

強者と出会い、手合わせと鍛錬を積み重ねる事で強くなる事こそがミームの真の理由であり、最終的な目標は母親に勝つ事。

学園で随分と実力を上げたミームだが、現段階ではまだ母親には届いていないようだ。


「レキ、どう思う?」

「ん~・・・ミリスと同じくらい?」

『っ!』


戦闘経験豊富なレキに、ユーリがこっそり尋ねる。


ミリスは剣姫の二つ名を持つフロイオニア有数の騎士である。

剣の技量なら王国最強の騎士ガレムをも上回る。

そんなミリスと互角と聞いて、ユーリや他の子供達が目を丸くした。


「ミリス、どうじゃ?」

「そうですね・・・簡単には勝たせてもらえないでしょう」


フランもミリス本人に尋ねる。


実力的にはほぼ互角。

条件次第では負けるかもというのがミリスの予想だった。


装備を整えた状態で、ルールに乗っ取った模擬戦であればおそらくはミリスが勝つだろう。

ただ、なんでもありの野良試合のような形式なら、冒険者としての経験もあるラミ=ギに分があるそうだ。


「母さん?」

「何でもありなら勝つわよ」


ラミ=ギもそれは同じらしい。

ミリスとの間にピリピリとした空気が漂い始めた。


「ミリス」

「大丈夫、今の私は護衛だ。

 任務に支障が出るような真似はしない」


真面目で優秀なミリスだが、同時に脳筋集団で強者との戦いを何よりも好むフロイオニア王国騎士団の中隊長でもある。

己と同じレベルの強者に出会うとつい、体が疼いてしまうらしい。

朱に交わった結果の悲しい習性であった。


などとミリスは思っているが実際は違う。


学園にいた頃から、ミリスは勝負を挑まれれば相手が誰であれ受けていたそうだ。

女として舐められるのを良しとせず、騎士になる為には強くならなければならないと、むしろ自分から手合わせや模擬戦を挑む事も多かった。

そんなミリスを知るレイラスだからこそ、ミリスがうずうずしているのを察して止めたのだろう。


さすがに騎士団の任務をそっちのけで勝負するつもりは無かったらしい。

ミリスも成長したなと、レイラスがこっそり安堵した。


「じゃあレキが戦えばいいじゃない」

「えっ?」


それでも止まない空気の中、ミームの言葉にレキが首を傾げた。


当たり前だがラミ=ギも獣人である。

強者との戦いは嫌いではなく、勝負となれば全力で挑むつもりでいた。

ミリスの方は矛を収めたが、すっかり手合わせするつもりでいたラミ=ギの方はまだ静まっていない。


そんな母親の様子を、娘であるミームは気付いていた。


母親の実力は自分が良く知っている。

下手な相手をぶつけても片手で捻られてしまうだろう。

それでは母親の闘争心は静まらず、結局はミリスが相手をするしかなくなるかも知れない。

それならいっそのこと、母親が全力を出しても勝てない相手をぶつけた方が良いだろう。

それに、レキと母親というミームが認めた強者同士の戦いというのも観てみたい。

そんな考えから、ミームはレキを指名したのだ。


「ふ~ん・・・つまりあたしと結婚したければ母親を倒して見せろって?」

「えっ!?」

「ち、違うからっ!!」

「ふ~ん・・・」

「ちょ、ユミ。

 何よその目」

「そうですか、この状況を利用した訳ですか」

「ルミニアまでっ!?

 違うから。

 母さんがやる気になってるから仕方なく・・・」

「そうなのですか・・・」

「ファラっ!?

 なんで泣きそうなのよっ!?」

「うむ、面白そうじゃな」

「止めないの?」


女子達が色めき立ち、盛り上がり始める。

ユミがジトっとした目をミームに向け、ルミニアが感心したような表情を見せる。

悲しいような寂しいような、得も言われぬ消失感を味わうファラスアルムに、何故か楽しそうなフラン。

そんな友人達の誤解を解くのにミームは必死である。

そのミームの顔が赤いのは、果たしてどんな理由だろうか。


指名を受けたレキはと言えば、自分を置いて盛り上がる女子達にすっかり蚊帳の外。


勝負する事は問題ない。

友達の母親と考えれば多少は気も引けるし、出来れば仲良くしたいとは思う。

だが挑まれれば嫌とは言わないつもりだ。

「勝負を挑まれて逃げるなど男のする事ではない」とは仲良くなった騎士の言葉である。

男の子であるレキは、勝負事から逃げる訳にはいかないのだ。


「それで、どうされるおつもりだ?」

「う~ん、戦ってみたいとは思うけど・・・やめとくわ」

「えっ!?

 なんでっ!?」


騒ぎを収める為レイラスが確認を取った。

レキなら万が一もないし、手っ取り早く済ませるには戦わせた方が良いだろう。

というか面倒くさかった。


そんなレイラスの言葉に対するラミ=ギの回答は・・・拒否だった。

これには娘のミームが一番驚いていた。


「か、母さんが勝負を降りた?」

「あら?

 そんなに変?」

「変じゃない。

 だって母さんでしょ?」

「ちょっとそれどういう意味よ?」

「痛っ~!」


獣人であり、名を馳せた冒険者であり、レキを知るまではこの世界で一番強いんじゃないかとすら思っていた母親が、まさか勝負を避けるとは思わなかった。

そんなミームの失言に対し、頭を拳でグリグリする事で応じるラミ=ギである。


「冒険者にとって一番大事なのは何?」


ひとしきり娘にお仕置きを済ませたラミ=ギが、唐突にそんな質問を投げかけた。

多くの生徒が首を傾げる中、元気よく手を挙げたのはレキだった。


「はい、レキ君」

「えっと、生き延びる事っ!」

「はい正解」


レキの将来の夢は冒険者になる事。

当然、冒険者についてはあれこれ勉強している。

王宮にいた頃はフランやルミニアがいた手前あまりおおっぴろげには言えなかった夢だが、それでもミリスやフィルニイリスがいろいろ教えてくれたのだ。


例えばとある村近くの森にゴブリンが出たとする。

村人がギルドに報告した数は五匹。

それならばと黒鉄ランクの冒険者が依頼を受けて討伐に赴いたところ、森の奥にはゴブリンの巣があり、その数は五十を超えていたとしよう。


その場合、冒険者が取るべき行動は?


答えは、生きて戻り村やギルドに報告する事だ。


「冒険者が戻らない限り、ギルドは何が起きたか分からないままよ。

 下手に手を出せば村が報復を受けるかも知れないしね。

 第一、冒険者なんて命をかけてするもんじゃない。

 冒険者は自分が生き残る事を一番に考えなきゃだめなの」


勝てない相手からは逃げる。

それが冒険者の鉄則である。


「そんなの・・・」

「臆病者だと笑われるかも知れないけど、村やギルドの事を考えればそうするのが一番なのよ。

 ま、迷惑がかかんない範囲なら好きにすればいいけどね」


そんなわけで、ラミ=ギも勝てない相手とは戦わない事にしている。

それに、強いとは言え既に冒険者も引退し、今は平凡なただの主婦である彼女は、勝負事もなるべく控えているのだ。


「平凡?」

「何か言った?」

「痛っ~~!!」


再びの娘の失言に、頭をグリグリする事で応える平凡な主婦である。

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