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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十五章:学園~プレーター獣国へ行こう~
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第298話:ミームの故郷

「ジガの故郷ってこの辺なの?」

「も少し向こうやね」


プレーター獣国をレキ達は順調に進んで行った。

途中、ジガ=グの故郷の村近くを通ったが、村には立ち寄らなかった。


「ええよ、こないだの祝祭日ん時帰ったしな」


レキ達は今、六学園合同大武闘祭に出場する為プレーター獣国の王都に向けて移動中である。

時間的な余裕は多少あるが、宿泊なども考えれば生徒一人一人の要望を叶えるわけにはいかなかった。

ジガ=グの村が街道沿いにあれば立ち寄り宿を取る事も出来たが、村は少しばかり離れた場所にあるそうだ。


「また今度来た時案内したるよ。

 何なら次の祝祭日はおいらん村来るかい?

 フラン様とかミームとかも一緒に」

「ダメに決まってるだろう」

「なんや、つれないな兄さん」

「兄さんはやめろっ!」


ちょっと目を離した隙にレキに要らない事を吹き込むジガ=グを警戒し、レキ達の傍には今アランがいる。

なお、ジガ=グの目的はアランを揶揄う事にある為、こちらの方が好都合だったりする。

分かってはいても離れられないジレンマに、アランが震えていた。


「気を付けた方がいいわよ?

 獣人は基本脳筋だし、私達がフロイオニア学園の代表と知ったら絶対喧嘩売ってくるから」


フィルアがこっそり近づき、レキにそんな忠告をくれた。

騎士団も大概脳筋だが、獣人の脳筋は種類が違うらしい。

強者と戦いたがるのは同じだが、己を高める事が理由の騎士団と違い、獣人はただ強い者と戦い勝ちたいだけなのだ。

レキも獣人が勝ち負けにこだわる事は知っている。

学園での武闘祭終了直後に勝負を挑んできたカム=ガやティグ=ギ、毎日のように手合わせしているミーム=ギも皆獣人だからだ。


「ジガも?」

「こいつは変わり者だから」


獣人のくせに魔術を好み、武術や狩り以外の様々な事を学ぶ為に純人族の国へ来たというジガ=グ。

外の世界に興味があったのだろう、武術以外の時間でも彼は比較的真面目に授業を受けているらしい。


「獣人だから武術と狩りばかりしてりゃええとか、そんなん退屈やん?

 世の中にはもっとおもろいもんがぎょーさんあるはずや。

 世界は広いんやしな」


理由こそ獣人らしくないが、見方を変えれば己の欲求に忠実とも言える。


「魔術も使えた方が強いし狩りも楽やろ?」


魔術に関しては、建前上そんな理由を述べていた。


「強くなる」「狩りが楽になる」と言うのは獣人らしい考えと言える。

だが、魔術士の事を「後方からちまちま攻撃仕掛けるだけの臆病者」と言って蔑む獣人が多い中、率先して魔術を学ぼうとするジガ=グはやはり変わり者だろう。


ジガ=グと同じ狐の獣人にはそういった思考の者は少なくないらしい。

もっとも、わざわざ純人族の学園に入る者などはジガ=グくらいだそうだ。


レキ達は今、プレーター獣国の平原で一休みしている。

一台の馬車に乗れる人数は限られており、移動中は基本的に学年で分かれて乗る事にしている。

別に誰がどの馬車に乗るという決まりはないが、あまり自由にしすぎれば収拾がつかなくなってしまう。


アランはフランの馬車に乗りたがり、フランはレキやルミニアと一緒に居ようとする。

ローザはアランから基本離れず、アランの仲間達もレキと仲良くなっている。


という感じでレキを中心とした偏りが間違いなく発生する為、移動中は学年別にしているのだ。

その分、休憩中は比較的自由に過ごせる為、こうしてレキは三年生達と話す事にしていた。


学園で行われた武闘祭、その個人・チーム戦共に優勝したレキは三年生達からも注目の的である。

アランとも仲が良い為、休憩中は同行している三年生達からも声をかけられていた。

単純に興味がある者、良い機会だからと友誼を深めようとする者、レキの強さの秘密を探ろうとする者など。

思惑はそれぞれあれど、誰もレキを平民や年下だからと見下す事は無く、誰もが友好的に接していた。


レキ以外の一年生達も思い思いに行動していた。

レキを三年生にとられたからか、あるいは休憩中くらいレキを独占するのを諦めたのか、フラン達女子はローザ=ティリルをはじめとした他の三年生の女子と仲良くおしゃべりに興じ、レキを除くガージュ達男子はせっかくの機会だからと三年生の先輩達にいろいろ教わる事にした。


一応、野外演習後は他学年との交流も解禁されてはいるのだが、寮が離れている事と、武闘祭に向けた鍛錬で皆忙しかった事から、これまで交流の機会を持てないでいた。

これも良い機会なのだろう、皆思い思いに交流を深めていた。


一応は魔物も存在する平原。

騒ぎすぎれば魔物を呼び寄せる可能性はあるのだが、仮に襲ってきたとしても、こちらには護衛の騎士と何よりレキがいる。

他の生徒達もある程度は戦える為、多少なら賑やかに過ごしても問題は無いだろう。


「そろそろ移動を再開するぞ」


とは言え今はプレーター獣国の王都へ向かう最中である。

あまりゆっくりし過ぎては、大武闘祭に間に合わない可能性も出てきてしまう。


「んじゃまたな」

「うん!」


おしゃべりする機会はいくらでもある。

レキもおとなしく馬車に戻った。


――――――――――


移動と休憩、宿泊や野営を繰り返す事数日。

レキ達はプレーター獣国の王都リーハンの手前の街までやって来ていた。

街の名前はイーファン。

ミームの生まれ故郷である。


「へ~」


プレーター獣国に入ってから既にいくつかの街に立ち寄っているレキだが、ミームの故郷となれば興味も深くなる。


「別になんもないわよ」

「そんなことありませんよ。

 ミームさんの故郷というだけで十分です」

「そうじゃそうじゃ」


きょろきょろと街を見るレキ達。

自分の生まれ育った街に興味を持ってくれたことが嬉しかったのか、素っ気ない態度を取りつつミームの表情は緩んでいた。


「ミームのお母さんってどんな人なの?」

「そうね・・・強いわ」

「えっ?」


予想外の答えにユミが戸惑う。

ユミとしては外見や性格を聞いたつもりだったのだが、返ってきた答えは実力についてだった。


「えっと、ミームより?」

「当然よ。

 母さんには誰も敵わないんだから」


これも獣人故なのだろうか?

自慢げなミームである。


聞けば、ミームの母親は若い頃冒険者として名を馳せていたらしい。

プレーター獣国でも有数の冒険者であり、狩人としての腕も高かった彼女は、とある狩りの最中魔物に追いかけられている青年と出会い、助けたところを惚れられ、そのまま結婚したそうだ。

自分より弱い男と何故結婚したのだろうかと娘ながらに疑問だったミームだが、母親曰く保護欲が沸いたとか。

強すぎるが故に癒しでも求めたのだろうか。

ミームには良く分からない感情であった。


「あたしは自分より強い奴とじゃないと結婚しないから!」


優しくとも弱い父親を見て育ったミームは、心にそう誓った。


なお、ミームの両親の仲は今でも良好である。

それでもミームは、母親の強さを慕い、弱い父親は嫌いではないが慕ってはいないらしい。

母親からすれば守ってあげたくなる存在でも、子供からすれば守ってもらえそうにない父親を慕う理由がないのかも知れない。


優しく気が弱いだけで実は強いというのであればまだしも、ミームの父親は普通に弱かった。

強さを重んじる獣人としては、自分の父親が弱いのはあまり嬉しく無いのだ。


結婚するなら自分より強い男と。

そう考えるようになったミームは、同時に母親を慕いながらもその強さを超えたいとも思っている。


もしミームが母親より強くなれば、おそらくはそんじょそこいらの男では勝てない程強くなっているだろう。

そうなればミームが望む結婚相手など見つからない・・・はずだった。


「レキよりも?」

「えっ、それは・・・」


ミームの母親でも、やはりレキには敵わないらしい。


冒険者として名を馳せたミームの母親も、魔の森に入った事は無かった。

当然魔の森の魔物と戦った事も無く、ましてや魔の森のオーガなど見た事もない。

仮に遭遇したなら、いくらミームの母親とて返り討ちにあっているはず。


そんな魔の森のオーガをやすやすと屠ってきたのがレキである。

レキに敵う者など、おそらくはこの世界にはいないのだ。


「じゃあレキがミームの結婚相手なの?」

「えっ、ちょ・・・そ、それはその・・・」


ミームの顔がこれでもかと赤くなった。


「あら、ミームじゃない」

「えっ?」


その声にミームが振り返る。


「母さんっ!」


そこにいたのは、噂をしていたミームの母親だった。


――――――――――


「皆さん初めまして。

 ミームの母、ラミ=ギです」


イーファンの街の宿に向かう途中、レキ達は偶然ミームの母親と出会った。

ミームの故郷とは聞いていたが、こんな道の真ん中で会えるとは思っていなかった。

宿を取り、一息ついた後に挨拶へ伺うつもりではあったが、それより先に出会ってしまい、誰よりもミームが驚いていた。


入学以降一度も会っていなかった母親と会えた嬉しさと、若干の照れ臭さを感じるミームである。


「初めまして。

 私はフロイオニア学園でミーム=ギの指導を担当していますレイラスと言う者です」

「あら、これはご丁寧に」


まごまごするミームを脇に寄せ、担任であるレイラスが代表して挨拶を交わす。

ミームから聞かされていたイメージと違い、ラミ=ギは実に優しそうな雰囲気を持っていた。


外見はミームに良く似ている。

この場合はミームが似たと言うべきだろう。

灰色の髪、ギ族らしい狼の耳。

釣り目がちの目は、それでも優しそうな雰囲気を醸し出している。


「純人の学園に行くって聞いた時はどうなる事かと思いましたが、楽しそうで何よりです。

 それで先生、ミームは良くやってますか?」

「十分優秀と言えるでしょう。

 学業はともかく、武術なら学年でも上位です。

 最近では魔術にも興味を示しているようですし」

「そうですか・・・」


レイラスと話をする内に、ラミ=ギの雰囲気に変化が生まれた。

ミームの成績に思うところがあったのかも知れない。


「お聞きしますが、あくまで上位なのですね?

 一位ではなく」

「この年齢なら十分強いと言えますが、上には上がいますから」

「同い年の中で?」

「ええ、例えばここにいるレキとか」

「へっ?」


ラミ=ギの様子などお構いなしに、レイラスは聞かれたことに正直に答える。

担任として嘘を言う訳には行かず、そもそも嘘を吐く理由も必要性も無い。


「レキと言うと、そこの純人族の?」

「はい。

 同学年のみならず、我がフロイオニア学園最強の生徒です」


突然話を振られ、戸惑うレキをラミ=ギはまるで値踏みするように見る。

先ほどまでの優しい雰囲気は消え去り、真剣な、そして剣呑な雰囲気すら漂わせ始めるラミ=ギ。

弱い者なら腰を抜かしてしまいかねないほどの威圧すら感じさせるその視線。

それをレキは平然と受け流しつつも、どうしようか分からず助けを求めるかのようにレイラスの方を見た。

そんなレキの助けを乞うような視線を、レイラスもまた受け流した。


「ミーム?」

「な、なによっ」


観察(?)を終えたらしいラミ=ギが娘であるミームを手招きする。

怒られると思ったのか、若干緊張しつつ、ミームはおとなしく母親へと近づいて行った。


「良かったじゃない。

 あんたより強い子がいて」

「痛っ!」


傍に来たミームの背中を、ラミ=ギは一転して笑顔で叩いた。

怒られなかった安堵を感じる余裕も無く、ミームが痛みに顔をしかめる。

嬉しさのあまり、つい力が入り過ぎてしまったようだ。


周りの子供が自分より弱く、それが理由で孤立していたミーム。

彼女の、自分より強い子供に会いたいという願いが叶った事を、ラミ=ギは心から喜んでいた。

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