第290話:リベンジマッチ・・・?
「リベンジか?」
「終わったばかりだというのに、もうですか?」
「他学年の生徒と戦う機会などそうありませんから・・・」
フランが来れば、当然一緒にいたアランも来る。
アランを観客席で待っていたローザも一緒だ。
三年生である二人も、毎年こういった事が起きるのを知っている。
アラン自身、昨年は武闘祭終了後にカム=ガから襲撃を受けていたりする。
もちろん返り討ちにした。
だからこそ、二人は目の前の事態も理解する事ができた。
ただ、フラン達一年生にとってはこれが初めての武闘祭。
カム=ガやティグ=ギが終了早々にリベンジに来るなど考えてもいなかった。
とは言え、武闘祭の結果に納得がいかず、絡んでくる生徒がいなかったわけではない。
具体的に言えば、一年生上位クラスのライ=ジである。
そのライ=ジと同じ理由でレキに挑んできたのがカム=ガである。
獣人には良くある思考なのかも知れない。
ライ=ジの時は、レキが戦うまでもないとガージュ達が相手をした。
所属クラスの時点でライ=ジの方が下であり、そもそもライ=ジは武闘祭の予選で最上位クラスで一番武術の成績が低いファラスアルムに負けているのだ。
彼女に勝てない者がレキに勝てるはずもない。
それを分からせる為、ライ=ジの時は最上位クラスの武術の成績が低い者から順に相手をしたのだが、カム=ガもティグ=ギもそれぞれの学年の代表にして武闘祭本戦の出場者。
身の程を教えようにも、確実に勝てるのは同じ本戦出場者であるレキやアランくらいだろう。
「てめぇ、アラン!
なんでこんなとこにいやがる」
「アラン様に何の用ですかっ!?」
「うるせぇ、色ボケ女はすっこんでろ!」
「あんたの相手は私よっ!」
「なんだミーム=ギ。
また負けにきたのか」
「あんたとは一勝一敗っ!
次は勝つっ!!」
「おもしれぇ」
カム=ガがやって来たアランに敵意を向け、そのアランを守るべく婚約者であるローザが割り込んだ。
先ほどまでカム=ガと言い争っていたミームが、今度はティグ=ギに噛みつき始めた。
レキと戦いに来たはずの二人は、それぞれ別の相手を見つけたようだ。
「どうなっておるのじゃ?」
「えっと・・・さぁ」
「はあ・・・」
フランとルミニアが混乱する中、レイラスが額に手を当てながら嘆息した。
こうなっては、手合わせを回避する事は難しいだろう。
レキとカム=ガ、ティグ=ギの三人だけならまだ良かった。
この場で手合わせを行い、早々に決着を付ければそれで終わるはずだったのだ。
立会人としてミリスとレイラスがいる。
ミリスの話ではリーニャは治癒魔術の心得があるらしく、手合わせを行う条件は揃っていた。
だが、これほど人が集まり、それぞれに揉め出した以上一度に終わらせるのは難しいだろう。
ならばいっその事・・・。
事態を収拾すべく、とある提案をするレイラス。
その内容とは。
「面倒くさい
レキ、まとめて相手してやれ」
というモノだった。
――――――――――
「おいレイラス」
「その方が手っ取り早い」
この場を何事もなく収める為、ベオーサに頼みわざわざレイラスを呼んでもらったミリスである。
そのレイラスが発した、更なる混乱を招く言葉に、リーニャと共に説得していたミリスがジトっとした目を向けた。
確かにこの混乱を解決するにはそれが手っ取り早いのかもしれない。
だが、手合わせ自体は避けられずとも、せめて一人ずつ順番に戦わせるなりやり方はあるはず。
自分達の説得は何だったのだろうかと、ミリスの意識が少しばかり遠方へと旅立った。
レイラスとて、こんな手段を取るつもりは無かった。
カム=ガもティグ=ギもそれぞれの学年の代表になる程度には実力がある。
そんな生徒を二人同時に相手にする等、相当な実力者でなければ不可能だろう。
レキだからこそ、纏めて相手する(ぶちのめす)事が出来るのだ。
「それはそうだが・・・」
「レキ、一人ずつ順番に相手するのと、纏めて相手するの。
どちらが楽だ?」
「ん、ん~・・・」
レイラスの質問にレキが手を組んで考え始めた。
レキの実力からすれば、おそらくはどちらも変わらない。
ただ、カム=ガもティグ=ギも自分と手合わせする為わざわざ待っていてくれた(待ち伏せしていた)生徒である。
チーム戦でミームを倒し、その後暴言を吐いたティグ=ギに関して、二回戦でミーム達の分までボコボコにしている為レキの中に蟠りは無い。
カム=ガに関しては蟠りどころかほぼ無関係で、正直アランが相手にすればいいと思っている。
それでもライ=ジのようなケースもある。
ミリスやリーニャの言っていた「寮に押しかけてくる」ような事態にならぬよう、今のうちに戦っておいた方が良いという話に異論は無かった。
結局、レキはレイラスの提案に従い纏めて相手する事にした。
大会終了直後である。
まだまだ元気なレキではあるが、それでも早く寮に帰ってご飯を食べたいという気持ちはある。
久しぶりに会えたミリスやリーニャとももっと話しがしたかったし、武闘祭を見に来た王様や王妃様とも話がしたい。
やりたい事がたくさんある為、手っ取り早く済ませる方法を選択したのである。
「さすがにここでやるのは問題があるな。
ほとんどの生徒は寮に戻っている事だし、今なら武舞台も使えるだろう」
レキ達がいるのは大武術場の外。
人目こそ少ないが、ここで戦うのは何かと問題がある。
一対一ならまだしも、二対一なら周りを気にする必要もある。
武闘祭は終了している。
今なら武舞台で思う存分戦えるだろう。
カム=ガとティグ=ギによる、学園最強の生徒を(一方的に)決める争いは、場所を変えて行われる事になった。
――――――――――
レイラスに連れられ、レキ達は再び大武術場へと戻ってきた。
つい先ほど大勢の生徒の見守る中で戦った場所。
今はほとんどの生徒が寮に戻っている為、先ほどまでの喧騒はどこにもない。
まさに宴の後のような静けさが漂っていた。
「あまり時間をかけるわけにはいかん。
とっとと始めるぞ」
レイラスの許可があるとはいえ、今から行われるのは非公式の試合である。
一年生のレキ対上級生二人という、普通なら絶対行わないであろう試合。
レキの実力をある程度把握しているレイラスだからこその提案である。
「武器は控室に残っているはずだ。
戦いたい奴は武器を持って武舞台に上がれ」
レイラスの言葉にカム=ガとティグ=ギが競うように控室へと走って行く。
「どけっ!」「てめぇこそ邪魔すんな」と言いながら走る様は微笑ましさを感じさせた。
「ん?
ミーム=ギは良いのか?」
「えっ?
あたしも?」
「カルクもユーリ=サルクトも、今なら勝てるかも知れんぞ?」
レキと戦いたいならまずあたしを倒せ。
先ほどカム=ガにそんな事を言っていたミームである。
自分を差し置いてレキと戦うのが許せなかったが故の言葉だが、何も今すぐレキと戦いたかったわけではない。
そもそも戦おうと思えば朝夕の鍛錬で存分に戦えるのだ。
何もこんな時にまで参戦する理由など・・・。
「折角武舞台が空いているのだ。
今なら思う存分やり合えるぞ」
「やるっ!」
『えっ!?』
先ほどまで、この武舞台で学園最強の生徒を決める戦いが繰り広げられていた。
個人の部では二回戦で、チーム戦では初戦で敗退したミームである。
彼女はまだまだ暴れ足りなかったのだ。
武闘祭の本戦でミームはレキと戦っていない。
折角武舞台が使えるのだ。
この武舞台で、思う存分レキと戦いたいとう欲求にはあ抗えなかったのかも知れない。
レイラスが促した事で、ミームは己の感情に素直に従う事にした。
「カルク達もだ。
レキと言う強大な相手に大勢で挑む機会などそうはないぞ?」
「お、おぉ?」
「う、う~ん・・・」
ミーム達と違い、カルクとユーリはそこまでレキと戦いたい訳ではない。
レキの強さは凄いと思っているし、追いつけるものなら追いつきたいとは思っている。
だが、何が何でも勝ちたい訳ではなく、複数人で挑むのは何か違う気がするのだ。
レキは目標であると同時に仲間であり友達である。
決して、どんな手を使ってでも倒さなければならない強大な敵では無いのである。
「まさか数人増えただけで勝てると思っているのか?
それはレキを舐めすぎだ」
「いや、でもよ~・・・」
「僕らは別に、レキと戦いたい訳では・・・」
「そうか、一対多数の試合などそうはできん。
レキにも良い経験になると思ったのだがな」
「レキにも?」
「ああそうだ」
ただし、それが友達の為になるなら一考の余地もある。
レキには普段からお世話になっている。
朝夕の鍛錬に加え、授業での模擬戦でもレキは二人に付き合ってくれている。
実力差は大きく、自分達と戦ってもレキに学ぶ事など何もないはず。
それでも毎日嫌な顔をせず付き合ってくれるレキに、二人は恩義すら感じていた。
そんなレキに少しでも恩を返せるなら・・・。
「おし、行こうぜ」
「ああ、レキの為なら」
ミームの後を追うように、二人も控室へ向かった。
「ガージュ=デイルガ。
お前はどうだ?」
「・・・ふん、僕は別にレキと戦うつもりはない」
「勝てないからか?」
「くっ・・・ああそうだ。
今の僕ではどうあがいても勝てない」
「ならば諦めるか?」
「・・・あくまで今の話だ。
もっと実力をつけて、いつかは勝ってやる」
「そうか」
レキに恩義を感じているのはガージュも同じ。
最初の頃は蟠りも多かったが、最近ではガージュもレキに恩を感じている。
先ほど父親からチーム戦の優勝を褒められたばかりである。
優勝できたのはレキの力が大きく、それは指揮を執ったガージュが一番良く分かっていた。
だからこそ、レキと戦う理由がガージュには無いのだ。
「ルミニア=イオシス。
お前はどうする?」
ルミニアも同じだろう。
そう思ったガージュだったが。
「今、レキ様と戦う意味はありますか?」
「ある、と言ったらどうする?」
「・・・分かりました。
私も参戦いたします」
「はぁ!?」
ルミニアはレキと戦うようだ。
「ま、待てルミニア=イオシス!
何故お前がレキと戦うんだ!?」
まさかルミニアがレキと戦うなどと思ってもいなかったガージュである。
勝てる勝てないの話ではない。
それ以前に、ルミニアが参加する理由が分からなかった。
「何故、と言われても。
それがレキ様の為になるなら、私は私の持てる力でレキ様を補佐するだけです」
「そ、そうじゃない。
今戦う必要があるのかと聞いているんだ」
カム=ガは優勝したレキに勝ち、自分が一番になる為。
ティグ=ギはリベンジ。
この二人に関しては正当・・・ではないが納得・・・も出来ないが理解は出来る・・・かどうかも難しいが、一応は理由がある。
ミームは純粋にレキと戦いのだろう。
カルクとユーリは先ほど言った通り、レキに多対一の経験を積ませる為、そして少しでも恩を返す為だ。
そういう意味では、ルミニアが参加する理由もレキに経験を積ませる為なのかも知れない。
だが、いまさらルミニア一人増えたところで何が変わるだろうか。
これが鍛錬の類なら話は分かる。
好意と同時に敬意も抱いているであろうルミニアは、レキの強さに少しでも近づく為、そのレキに稽古を付けてもらっている。
武術の授業では、フランやミームと三人、誰がレキに手合わせしてもらうかで勝負しているくらいだ。
「レキ様も力が余っているご様子です。
本当なら私一人でレキ様の全力を受け止めたかったのですが・・・」
「・・・レキのガス抜き、なのか?」
「ふふっ、どうでしょうね」
ガージュは最初、これがただのガス抜きだと思っていた。
もちろん抜く必要があるのはカム=ガとティグ=ギの方だ。
二人のリベンジを早々に済ませ、どこぞのライ=ジの様に絡んでこないよう、レイラスが今から纏めて戦わせるのだと。
どうせレキには勝てないのだ。
実力差を思い知らせる為、二人で挑ませるのだとばかり考えていた。
ミームを参加させたのは、一人くらい増やしても問題は無いと言うのと、まあミームだからだろう。
レキのガス抜きも兼ねているのだろうか?
そう思うガージュだが、ルミニアの反応を見る限りそれは違う気がした。
確かにレキは全力を出していない。
それでも試合の結果に不満を抱いているとは思えない。
レキは個人の部、チーム戦の部共に優勝している。
これが不満ならじゃあどうしろという話だろう。
にもかかわらず、今から戦わせる理由・・・。
カルクとユーリはレイラスに乗せられたようだが、ルミニアは考えた末に参加を決めた。
何か意味があるのだろう。
おそらくはレキにとって有意義となる何かが・・・。
「ふむ、ならば私も参加しよう」
「えっ!?」
「アラン様?」
「ローザ、君はどうする?」
「アラン様が参加されるなら」
「そうか」
悩んでいる間に、アランがローザを伴い参加を決めた。
アランの頭脳はルミニアに負けず劣らず優秀だとガージュは思っている。
そのアランが参加するなら、やはりガス抜き以外の理由があるのかも知れない。
「ベオーサ=キラル。
折角だ、お前も来い」
「えっ?」
「む!
ルミも兄上もずるいのじゃ!
わらわも参加するぞ!
ユミ、ファラ、行くのじゃ!」
「え、私も?」
「わ、私はその・・・」
「武闘祭で戦えなかった分、今戦うのじゃ!」
そしてフランも。
こちらはあまり深く考えてはいないのだろう。
おそらくは仲間外れが嫌だとか、そんな理由に違いない。
「それではミリス様、私も行ってきますね」
「ああ、頑張ってこい」
「はい!」
憧れの剣姫ミリスと話をしていたらしいミル=サーラも、そのミリスに促されて参加を決めた。
ミルはともかく、彼女の参加を促したミリスにはやはり何か考えがあるのだろう。
レキと戦わせるだけの何かが。
この場に残ったのはガージュとライラ=イラ、そしてガドだけとなった。
「ガージュ様・・・」
どうしたものかとガージュは悩む。
レイラスが仕組んだ意図が分からず、かといって何も考えずに参加するのは気が引けた。
自分一人加わったところで何も変わらないだろう。
だからと言ってこのまま参加しないのも、何か違う気がした。
「む?」
ライラは当然、ガージュに合わせるだろう。
ガドもどうやらガージュに合わせるらしい。
ならばこそ、ガージュは意味もなく参加する訳にはいかなかった。
せめて、自分達が参加する理由が分かれば・・・。




