第288話:表彰式
「これより表彰式を行う」
二日間にわたる武闘祭が終わり、武舞台には個人の部、チーム戦の部に出場した選手達が並んでいる。
今年の武闘祭は例年にない素晴らしい大会だったと、教師や観覧していた貴族達はそう評価した。
特に、例年なら一回戦敗退が常だった一年生の生徒が、個人、チーム戦共に優勝した事は観覧していた貴族達にも大きな驚きをもたらしていた。
レキを知る貴族はその実力を改めて思い知らされ、話でしか知らなかった貴族も今回で知る事になった。
「個人の部第三位、ローザ=ティリル」
「はい」
「個人の部第二位、アラン=イオニア」
「はっ」
「個人の部第一位、レキ」
「はいっ!」
「チーム戦。
第三位、四年生第一チーム」
『はいっ!』
「第二位、三年生第一チーム」
『はいっ!』
「第一位、一年生第一チーム」
『はいっ!』
結果だけを見ればレキの無双。
誰もがレキに全力で挑み、敗れていった。
負けるつもりで挑んだ者はおらず、誰もが勝つつもりで全力を尽くした。
悔いはあるだろう。
及ばなかったのは、ただレキが強かっただけ。
武闘祭は学園最強の生徒を決める大会である。
その大会で優勝するのに必要なのは純粋なる実力で、レキはその実力が誰より上だった。
ただそれだけの話なのだ。
「特別に陛下よりお言葉を頂く。
皆、清聴するように。
陛下」
「うむ」
本戦に出場した生徒は誰もが強かった。
優勝したレキは当然、同じ一年生のミーム=ギも、一年生という事を考えれば十分すぎる実力を持っていた。
一回戦で敗退する事の多い一年生からすれば、彼女は十分すぎるほどに素晴らしい成績を修めたと言えるだろう。
二年生のカム=ガやカシーヤ=ライクは初戦で敗退したが、相手は準優勝のアラン=イオニアと三位のローザ=ティリルである。
組み合わせ次第では、あるいはもっと上に行けたかもしれない。
三年生のアラン=イオニアとローザ=ティリルは準優勝と三位。
アラン=イオニアは決勝でレキに敗れ、ローザ=ティリルも二回戦で同じくレキに敗れている。
仮にレキが出場していなければ、決勝で戦ったのはこの二人だったかも知れない。
優勝したのもまた二人の内どちらかだろう。
三年間の努力は、確かに実っていた。
四年生のティグ=ギは一年生のミーム=ギに、ベオーサ=キラルは優勝したレキに、それぞれ一回戦で敗れた。
こればかりは組み合わせが悪かったと言えるかもしれない。
特に、ベオーサ=キラルは優勝した相手と戦ったのだ。
これこそがトーナメントの妙と言えるだろう。
チーム戦に関しても同じ事が言えた。
優勝したレキを有する一年生第一チーム。
初戦で二年生第一チームを下し、二回戦では同じ一年生第二チームを破った四年生第二チームに勝利した。
決勝に進んだ三年生第一チームも、総合力では一年生第一チームより上だった。
にもかかわらず勝利したのは、レキと言う優れた選手がいたからだ。
もちろんレキ以外の選手も素晴らしかった。
ガージュ=デルイガの指揮は拙いながらも皆をまとめ、ガド=クラマウント=ソドマイクは山人の頑強な体を活かし前衛を務めあげた。
カルクも前衛で剣を振るい続け、ユーリ=サルクトは適時サポートに回っていた。
優勝出来たのはレキのおかげかも知れないが、レキ以外の選手もまたしっかりと活躍しているのだ。
同じ一年生の第二チーム。
フラン=イオニアや個人の部にも出場したミーム=ギを有する彼女達のチームは、チームワークと言う点で言えば今大会でも一番だっただろう。
惜しくも一回戦で敗退したが、その奮戦ぶりも素晴らしかった。
誰もが最後まで諦めず、最後まで戦い抜いた。
力及ばず敗退したが、それを嗤う者はいない。
二年生の両チームはチーム戦においても一回戦敗退に終わってしまったが、決して弱かった訳ではない。
第一チームの相手は優勝した一年生第一チーム、第二チームの相手は四年生第一チームだったのだ。
トーナメント形式である以上、このような事態は必ず起きてしまうのである。
三年生に至っては、一回戦で三年生同士がぶつかっている。
勝利した第一チームが最終的に準優勝しているのだから、組み合わせが悪かったと言えるだろう。
そして四年生。
第一チームは二回戦で準優勝の三年生第一チームと、第二チームは同じく二回戦で優勝した一年生第一チームと戦った。
四年間の研鑽、その全てをぶつけた試合であり、それでも勝てなかったのは相手が強かったからだ。
武闘祭は学園最強を決める大会である。
そこには、学年も身分も種族も関係ない。
優勝したレキが、それを証明している。
「今年の武闘祭も素晴らしい大会であった。
勝利した者も、敗北した者も、得る者はあっただろうと思う。
この結果に満足せず、さらなる努力を重ねてもらいたい。
今年はレキが優勝したが、来年はどうなるか分からんのでな。
もしかしたら、今日見ているだけだった者が来年優勝するかも知れん。
私もそれを期待しようと思う。
来年も楽しみにしているぞ」
国王の言葉を聞き、何を思ったかは人それぞれ。
レキに勝てるはずもないと思う者もいるだろう。
次は勝つと闘志を燃やす者もいるだろう。
来年は自分も本戦に出たいと、そう思った者は素晴らしい。
来年は自分が優勝して見せる、そう思った者は素晴らしい。
あるいは誰かに勝ちたいでもいい。
今回の結果を受け、次はより良い結果を出したいと思う者こそが、努力できるのだから。
「なお、武闘祭の優勝者であるレキと準優勝者のアラン=イオニア。
並びにチーム戦優勝の一年生第一チーム、準優勝の三年生第一チームは、来月行われる六学園合同の大武闘祭にフロイオニア学園の代表選手、代表チームとして出場する。
選手はフロイオニア学園の代表として、より一層の奮戦を期待する。
レキ、アラン=イオニア、並びに一年生第一チーム、三年生第一は前に」
今年の武闘祭はレキと、レキを有する一年生第一チームの優勝で終わったが来年はどうなるか分からない。
レキのような選手が現れるかも知れない。
あるいはレキを打ち破れるほどに実力を伸ばす者が現れるかも知れない。
「彼らがフロイオニア学園の代表である。
皆、彼らに拍手と声援をっ!」
『わぁ~!!!』
未来は誰にも分からない。
分かるのは、武舞台に立つ彼ら彼女らこそが今年のフロイオニア学園最強の生徒達である事。
彼ら彼女らは、皆の代表として新たなる戦いに挑む。
一年生レキ。
三年生アラン=イオニア。
一年生チーム
ガージュ=デルイガ
ユーリ=サルクト
カルク
ガド=クラマウント=ソドマイク
レキ
三年生チーム
アラン=イオニア
ローザ=ティリル
ジガ=グ
ラリアルニルス
フィルア
彼ら彼女らが、今年のフロイオニア学園の代表である。
――――――――――
「うっ~・・・」
「立派だったわよ、フラン・・・」
昨日同様、大会終了後に両親の下に訪れたフラン。
個人の部は出られなかったが、その分今日のチーム戦で頑張るつもりだった。
アランやレキにも負けないと、フランは両親に宣言していた。
結果は初戦敗退。
全力で挑んだ結果であり、悔しくはあったが納得していた・・・つもりだった。
「そうだぞフラン。
お前たちは立派に最後まで戦ったではないか。
泣くでない」
「ちちうえぇ~・・・」
それでも両親を前に気が緩んだのか、フランは母親に縋りつき泣いていた。
「アランも良く頑張ったな
まあ、レキ殿には勝てなかったようだが」
「・・・いえ、やはりレキは強かった。
昨日のは全力の半分も出していなかったのでしょう」
なお、この場にはアランもいる。
昨日同様、二人で両親に会いに来たのだ。
「レキは二回戦で加減を掴んだ。
決勝でそれを発揮した。
おそらくはそういう事」
「・・・なるほど」
フィルニイリスの冷静な分析に、ミリスが納得する。
昨日の個人戦と今日のチーム戦。
特に決勝でのレキの動きは明らかに違っていた。
加減していた、様子見だった、鍛錬のつもりだった等、昨日は好き勝手言われていたが、どうやら加減の具合がいまいち掴めていなかっただけのようだ。
二回戦でティグ=ギを相手に様々な技を繰り出す事で、ようやく加減を掴んだ。
その結果がアランを一撃で退場させる攻撃だった、という事なのだろう。
「アランも学園の代表に選ばれたのだ。
胸を張るがいい」
「はい。
フロイオニア学園の代表としてレキと優勝を狙うつもりです」
「うむ、その粋だ」
なんだかんだでアランも個人戦、チーム戦共に準優勝している。
立派な学園の代表なのだ。
「フラン、お前たちの分も頑張るからな」
「兄上・・・」
学園の代表として、そしてフランの兄として。
アランも六学園合同大武闘祭に挑む所存である。
「・・・どうせレキには勝てんのじゃ。
兄上はほどほどで良いぞ?」
「ぐふっ・・・」
愛する妹からの激励(?)を受け、アランも気合を入れた。
――――――――――
「お父様・・・すいませんでした」
「何を謝る事がある。
ルミニアよ、お前は最後まで立派に戦い抜いたではないか」
「お父様・・・」
同じ頃。
ルミニアもまた父親であるニアデルの下を訪れていた。
昨日の大会終了後、ルミニアは父ニアデルに打倒レキを誓っていた。
正しくはレキに勝つつもりで全力で挑むと。
その誓いは果たされず、ルミニアはレキと戦う事無くフランと共に一回戦で敗退してしまった。
「お前達は強い。
だが、相手はお前達より強かった。
ただそれだけの事だ」
「お父様・・・」
「良いかルミニア。
大切なのはこれからだ。
負けたままでいるか、勝つ為に立ち上がるか。
強者と戦い心折れる者もいる。
だが、折れずに立ち上がる者こそが強者となれるのだ」
大切なのは負けても立ち上がる事。
アランが何度もレキに挑むように。
騎士団がレキとの模擬戦を望むように。
強者に挑み続けることこそが大事であり、それこそが真の武人なのだ。
「ですから、私は武人(脳筋)ではありません」
「ぬぅ」
残念ながら、ニアデル(脳筋)の言葉はルミニアに届かなかった。
「・・・くすっ」
「ルミニア?」
「いえ、でも大丈夫です。
私達は誰も折れていませんから」
試合中、ルミニア達は誰一人として諦めず、何度も立ち上がった。
それどころか、試合後すぐ皆で話し合い、次こそはと誓い合っている。
誰も折れる事なく、皆で立ち上がる事が出来た。
ニアデルが心配するまでもなく、ちゃんと立ち上がっているのだ。
「・・・そうか」
「はい。
ですからお父様、見ていてください。
来年こそは、私達が優勝して見せますから」
「・・・うむ」
立ち上がり、ルミニアは再びレキに挑む。
そんな娘の姿を、ニアデルは誇らしく思った。
――――――――――
敗者が己を顧みる中、勝者は更なる称賛を受けていた。
「ガージュよ!
よくやったっ!!」
「父上」
普段はあまり褒める事のないデシジュも、優勝となれば話は変わる。
「アラン殿下を抑え、一年生ながらに優勝するとは。
父として誇らしいぞガージュ」
「はい・・・はいっ!」
優勝したのはレキのおかげ。
それはガージュが一番良く分かっている。
それでも、父親の手放しの称賛に、ガージュは目頭が熱くなるのを感じていた。
「次は大武闘祭だな。
フロイオニア学園の代表として、デイルガ家の嫡男として恥じない試合をするように」
「はいっ!
父上っ!!」
言葉は少ないながらも、父デシジュの言葉はガージュの胸に熱い闘志を宿した。
喜びを胸に、ガージュが嬉々として部屋を出る。
伯爵である父デシジュは忙しい。
その忙しさの中、自分の試合を見に来てくれただけでも嬉しかったというのに。
これほどまでに称賛してくれた父親に、ガージュは父親の愛を強く感じた。
――――――――――
「フラン殿下がチームにいないのは残念だが、レキとは上手くやれているようだな。
それにアラン殿下とも・・・。
狙うならアラン殿下か?
いや、フラン殿下とルミニア譲もまだ・・・」
ガージュが去ってしばらくの後、部屋からはそんな呟きが聞こえたと言う。




