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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第27話:2日目

翌日、レキは日の出と共に目覚めた。

目覚めたのだが・・・


「あ、あれっ・・・動けない?」


「おはようござますレキ君。

 もうすぐ朝ごはんが出来ますよ」

「おはよう、レキ。

 今日も早いな」


自分の体が思う様に動かせなかった。

なぜだろうと周りを見渡せば、少し離れたところで昨日の残りのホーンラビットの肉を焼くリーニャと、更に離れた場所で体を動かしているミリスが見えた。


「え~っと?」


自分が動けない状況にも関わらず実に自然体なリーニャとミリスの様子に、レキが寝たまま首を傾げる。

寝起きは良い方だが、状況は理解できないようだ。


それでも状況を知ろうとレキが左右を見れば、そこには。


「うにゃ~・・・」

「すぅすぅ・・・」


レキの両隣には、昨日同様レキの腕を抱え込みながら眠るフランとフィルニイリスがいた。


他人が見ればまさに両手に花。

されど別の見方をすればそう、寝相の悪い妹と構いたがりな姉に挟まれた少年といったところだろうか。


「レキ君。

 申し訳ありませんがお二人を起こしていただけませんか?」

「うん。

 分かった」

「ありがとうございます。

 いつもより多少早い時間ではありますが・・・」

「今日も歩くのだ。

 仕方ない」


最初の目的地であるエラスの街までまだ二日程かかる。

今日の遅れは到着の遅れ、その分フランを危険な目に合わせる可能性が高くなる。

フランを無事王都へ連れ帰る為、なるべく早く出発するに越した事はないのだ。


「あれっ?

 なんでフィルも寝てるの?」

「ん、どういうことだ?」

「だってリーニャもミリスも起きてるのに、フィルも一緒に見張りしてたんじゃないの?」

「・・・ああ。

 そういうことか」


今だ二人を張り付かせながら、頭に浮かんだ疑問を素直に尋ねるレキ。

そんなレキに呆れること無く、ミリスがレキの疑問に答えてくれた。


「通常、夜の見張りは交代で行われる。

 夜通し見張るのは体力的に辛いのでな。

 少しでも寝ておかねば翌日の行動にも影響が出てしまう。

 だから見張りを行う者と睡眠をとる者とで、交代する必要があるのだ」

「ふんふん」


ちなみに昨夜の見張りはこうだった。


「最初にフィルとリーニャ、次にフィルと私、最後に私とリーニャという組み合わせだな」

「ふ~ん・・・

 なんで二人で見張りするの?」

「そうだな・・・。

 単純に一人ではうっかり寝てしまうから、というのもあるが、魔物が出た場合など、一人が対処している間にもう一人が他の者を起こすという役割分担が出来るからだな」


二人で見張りをする、というのは二人で手分けして周囲を見張るという意味と、二人がお互いを見張るという意味がある。

不審な行動を見張り合うという事ではなく、単純にどちらかが眠らないよう声を掛け合うという話だ。


一人での見張りは何とも退屈で、気を張っていればその分気疲れしてしまう。

見張りに集中するのは良いが、しすぎるあまりうっかり寝てしまうなんて事もあるのだ。


その分、二人なら雑談などで気を紛らわせる事も出来る。

散漫になるのは良くないが、気を張りすぎるのも良くない。

何より話し相手は相談相手でもある。

何かあった時などにも必要だったりするのだ。


「順番を決めたのはリーニャだが、一応理由はあるぞ?」

「ええ、まず夜に強いフィルニイリス様には最後まで起きて頂きました」

「毎日の様に徹夜しているからな。

 起き続けるのは得意なのだそうだ」

「その分朝に弱いですけどね」

「・・・そんなこと無い」

「あ、起きた」

「おはようございます、フィルニイリス様。

 まもなく朝食の支度が整いますよ?」

「レキと一緒に顔でも洗って来い」

「・・・それで、何の話?」

「ああ、見張りの組み合わせについてだ」

「レキ君が興味あるみたいでして」

「・・・ふ~ん」


寝起きだからか、あるいはリーニャの言う通り朝に弱いせいか、なんとも気だるそうなフィルニイリスである。

それでも話には参加したいようで、引き続き昨夜の見張りの組み合わせについて説明が続いた。


「ミリスが最初に寝たのは、騎士団が早寝早起きをモットーにしているから」

「流石にいつもはこれほど早起きではないがな」

「リーニャが途中なのは、遅寝早起きだから」

「そんな言葉はありませんが・・・。

 侍女たるもの、主より後に寝て主より先に起きるのは常ですからね」

「お~・・・みんなすごい」


実にバラバラな生活リズムの三人である。


生活の規則正しさより、早く起きたり遅く寝たりするのに、皆それぞれ理由がある事にレキは感心していた。

フィルニイリスの夜が遅いのも、日中は王の補佐や魔術士長としての仕事、フランの魔術の鍛錬や教育などで時間を取られ、自身の研鑽や研究に当てる時間が夜しかないからだ。

リーニャに至っては己の時間などほぼ皆無で、早朝はフランの支度、夜も明日のフランの準備で費やしている。

日中はもちろんフランのお世話だ。


そういえば、父さんも母さんもオレより早く起きてオレより後に寝てたな~、などと、レキはふと両親の事を思い出した。

大人はみんなそうなのかな?と納得しかけたが、レキの左腕にしがみつく女性はレキより遅く起きたので違うのだろう。


「何?」

「なんでもない」


その考えが伝わったのか、腕にしがみついたまま、フィルニイリスが何とも不満そうな目をレキに向けた。

なお、反対側の腕にしがみつく少女は寝たままだ。


「フラン起きないね」

「ん~・・・」

「昨日は丸一日中歩き通しでしたからね、流石にお疲れなのでしょう」

「え~、みんなも歩いたのに」

「私達は鍛えているからな」

「フィルも?」

「魔術士とてある程度鍛えている。

 騎士団との合同遠征では魔術士も移動は徒歩」

「へ~」

「全員を乗せられるだけの馬車など、そうそう手配できるはずもないからな」


見るからに体力の無さそうなフィルニイリスでも、ちゃんと鍛えているという話にレキが再び感心した。

レキ達同様、フィルニイリスも昨日は丸一日歩いていたわけであり、一昨日などは森の中を走り回っていたはず。

その上で見張りをこなし、今日も一応は起きたのだからフィルニイリスもちゃんとした大人なのだ。


「あれっ、じゃあなんで俺に乗ってるの?」

「快適だから」


感心していた隙に、フィルニイリスがレキの背に乗った。

もちろん乗る事に意味は無い。

今からフランを起こし、顔を洗って朝食をとるのだから、むしろ乗らない方が良い。


「フラン、朝だよ」

「ん~・・・」

「フラン?」

「上手に焼けたのじゃ~」


どうせ食事の時には降りるだろうと、フィルニイリスを降ろすのを諦めたレキが右腕のフランを起こそうとするも、フランは今も夢の中。

見ているのは昨日の食事の支度か、それとも一昨日の森だろうか。

いずれにせよ、フランにとってこの旅は楽しいものとなっているらしい。


「蛇じゃ~」

「蛇?」

「兎じゃ~」

「兎・・・」

「ん~・・・」

「・・・ダメだこりゃ」


慣れない旅、歩き通しだった事もあり疲れているのだろう。

昨日よりも手強いフランに、レキも少々諦め気味だった。


「仕方ありませんね。

 レキ君、遠慮は要りませんから強引にでも起こしてください」

「いいの?」

「このままでは出発が遅れてしまいますからね。

 街までまだ二日あるのですから、少しでも距離を稼ぎませんと・・・」

「わかった」


街まで後三日かかると言っても、それはあくまで順調にいけばの話である。

天候や魔物の襲撃等、不測の事態によりそれ以上かかる可能性もある。

だからこそ、こういった些細な遅れを見逃すわけにはいかない。


そう、これはあくまで安全確実迅速に街へ辿り着く為の行為である。

決して、日頃から寝起きの悪いフランに教育的指導を施そうとか、自分が起こすよりレキ君が起こしたほうがうるさくなさそうだとか、そういう考えがあっての事ではない。


「リーニャ?」

「なんです?

 ミリス様」

「・・・なんでもない」


ミリスの疑惑の眼差しに、笑顔で応えるリーニャであった。


背後で行われるやり取りに気付く事なく、レキはどうやってフランを起こそうかと頭を働かせる。


寝ながらにしてレキにしがみ付くフランは、リーニャ達とおしゃべりしている間も一向に起きる気配が無かった。

叩くなりすれば起きるかもしれないが、流石にリーニャから許しをもらったとはいえそれは躊躇われた。

相手が王族だからではなく、同い年の女の子というのがその理由である。


ではどうしようかと頭を悩ますレキであったが、あまり良い考えも浮かばず・・・とりあえず勢いつけて飛びあがってみた。

当然。


「ふぎゃっ!」


とフランが落ちた。


「うにゃ?」


突然の衝撃に、フランが左右を見渡す。

レキもまだ子供でその身長は高くない。

故に少しくらい飛び上がっても大して高くはなく、当然地面に落ちた際の痛みもほぼ無かった。

ふざけて椅子から落ちた程度だろう。


「あ、起きた」

「おはようございます、フラン様。

 もう朝ですよ」

「街まであと二日。

 早めに出発しないとその分だけ遅れる」


驚きの声とともに目覚めたフランに、まずレキが、続いてリーニャとフィルニイリスが声をかけた。

レキとリーニャはともかく、フィルニイリスはレキの背の上からであったが、寝起きで頭が働かないフランはそれを変と思わなかった。

まだ頭が働いていないのだろう。


ここは王宮でもなければ親友のいるフィサス領の屋敷でもない。

いつもの野営なら馬車の中か天幕で起きるのだが、その馬車も天幕も見当たらない。

起きたのは外、それも周りに何もない正真正銘の野外。


周囲には従者のリーニャとミリス、フィルニイリス、そしてレキの姿があった。


「にゃ、な、うにゃ!」

「だってなかなか起きなかったし」

「レキ君は悪くありませんよ。

 いつまでも起きないフラン様が悪いのです」


理解が追いつかず、フランが辺りを見渡す。

落ちた際に打ったのだろう、後頭部を撫でつつ、ようやく今はエラスの街へ移動する最中だったと思い出した。


「そうじゃ、うむ、おはようレキ」

「うん、おはようフラン」

「リーニャとミリスもおはようなのじゃ。

 それでなぜフィルはレキに乗っておるのじゃ?」

「快適」


森に逃げ込み、危ういところを救ってくれた少年レキを加えての王都への旅。

その二日目である今日は、こうして賑やかに始まった。

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