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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十三章:学園~武闘祭・本戦~個人の部~
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第276話:武闘祭本戦・個人の部、決勝戦開始

「これより武闘祭本戦、決勝戦を始めるっ!

 三年生代表、アラン=イオニア」

「はいっ!」

「一年生代表、レキ」

「はいっ!」


三位決定戦の熱も冷めやらぬまま、いよいよ決勝戦が始まろうとしていた。

観客性からの大歓声を受けながら、武舞台上でアランとレキが対峙する。


今から行われるのはフロイオニア学園の武闘祭本戦・個人の部決勝。

各学年の代表選手が戦い、学園最強の生徒を決める戦いである。


三年生の代表にして、初戦では無詠唱魔術を駆使して二年生のカム=ガを圧倒し、二回戦では昨年の準優勝者にして今年の優勝候補筆頭のグル=ギを下したミーム=ギを倒したアラン。

一年生の代表にして、初戦で四年生代表ベオーサ=キラルを瞬殺し、二回戦でも三年生代表のローザ=ティリルを圧倒したレキ。

どちらも学園の代表に相応しい実力者である。


ただ、アランは誰の目にも分かりやすい勝利だったのに対し、レキの勝利は圧倒的過ぎた為か、生徒達の予想ではアランの方が有利とされていた。

三年生代表としてある程度実力が知れ渡っているのも、アランへ傾いた理由だろう。


もちろんレキを知る者はレキの勝利を疑っていない。


それは何も、観客席で見守るフラン達だけではなかった。


「レキ。

 今日こそお前に勝つ」

「うん!」


アランもまた、レキの実力を知る者の一人である。

これまで幾度もレキに挑み、都度返り討ちにあってきた。

先日の光の祝祭日の休暇中も、王宮で何度も挑んでは負けている。

それでも挑むのは、レキに勝つ事がアランの目標だからだ。


愛するフランや婚約者であるローザ、両親である国王ロラン=フォン=イオニアや王妃フィーリア=フォウ=イオニアが見守っている前で逃げるわけにもいかない。

アランにも王族として、いや男としての矜持がある。


何より、己の全力をレキにぶつけたいという想いがアランをこの場に立たせていた。


「学園にも、いやこの世界でレキより強い者はいないだろう。

 だからこそ挑む価値がある」


目の前にいるのは最強の名に相応しい相手。

元々強かったレキが、魔術を覚え、剣術を習い、多くの者と戦い経験を積み、その強さを磨いてきた。


強い者は何もしなくても強い。

それは動物や魔物が証明している。


人は弱く、だからこそ武術を磨き、魔術を会得し、武器を作り、知恵を巡らす。

レキの強さは魔物を凌駕するが、それでも人である事に変わりは無い。

だからこそレキも日々鍛錬を怠らないのだろう。


そんなレキより弱い自分が鍛錬を怠るわけにはいかない。

例え追いつけなくとも、いや追いつけないからこそ、そこで諦めるわけにはいかないのだ。

ただでさえ弱いアランが鍛錬を怠れば、その分だけレキとの差が開いてしまうのだから。


今の自分がどれだけレキに近づけたか。

レキの足下にすら及ばないのか、それともレキの影くらいは踏めるのか。


学園での三年間は無駄だったのか。

それが今、証明されようとしている。


「あれっ?

 盾は?」

「ガレムの防御をものともしないレキに、私の盾が通じるとは思わん」


一回戦、二回戦共に盾による見事な防御を見せたアラン。

だが、レキの攻撃はそんな盾ごとアランをぶっ飛ばしてしまうだろう。

王国最強の騎士であるガレムをたやすくぶっ飛ばすレキだ。

アランの防御が通じるとは思っていない。


だからこそ、アランは攻撃に専念する事にした。

レキと戦ったベオーサ=キラルやローザ=ティリルと同様、開始から全力で攻め続けるつもりなのだ。


剣を両手で握り、腰だめに構えるアラン。

初手から全力で突っ込む気なのが見え見えだった。


レキなら容易くかわせるが、レキにそのつもりはない。

アランが全力で攻めるなら、レキも応戦するのみだ。


「決勝戦、始めっ!」

「"リム・ブロウ"っ!」


双方が構えた事で、決勝の合図がかかった。

直後、アランが全力で身体強化を施し、更に魔術を放った。


緑系統初級魔術エド・ブロウ。

風の塊を放ち、ぶつけると同時に破裂させる魔術。

それをアランが開始早々に放つ・・・ただし後ろに。


「えっ!?」

「はあっ!」


アランの行動に驚き対応が遅れたレキに、アランが圧倒的な速度で距離を詰め、剣を振るった。

風の魔術を後方に放つ事で加速を得た、全体重を乗せた一撃。

身体強化を全力で行っていないレキなら、倒せずとも怯ませる程度は出来るはず。

そんなアランの全力の攻撃を、レキはその場にしゃがむ事でかわした。

真正面から受け止めなかったのは、アランの魔術の使い方に虚を突かれたからだろう。


「まだだっ!

 "エド"・・・"ボール"っ!」


レキにかわされ、武舞台の端へとたどり着いたアランが、空中で身をひるがえしながら追撃を行う。

赤系統初級魔術エド・ボール。

火球を生み出し相手に放つ、攻勢魔術の中でも基本中の基本の魔術である。

無詠唱の即攻性を捨て、魔力を込めて放たれたそれは、初級魔術の規模をはるかに超える大きさでレキへと放たれた。


「わっ、えいっ!」


振り向きざま、レキはその火球に向けて魔術を放った。

赤に対するは青。

フィルニイリスから教わった魔術の基礎に習い、水球を放つ。

特に魔力を込めずとも、レキならアランの火球をしのぐ大きさの魔術を放つのは容易い。


アランの火球はレキの水球で消失し、水蒸気が二人と武舞台を包んだ。


――――――――――


「はあっ!」

「わっ!」


「たあっ!」

「えいっ」

「くっ、まだまだっ!」

「えやっ」

「がっ」


武舞台からアランとレキの声だけが聞こえてくる。


先ほどの魔術の衝突により、武舞台はうっすらと霧に包まれ観客席からの視界を遮っていた。

時折聞こえる二人の声と剣のぶつかり合う音だけが、二人が戦っている事を教えてくれている。


「ど、どうなってるのでしょうか・・・」

「おそらくはアラン様が攻め、レキ様が反撃しているのでしょう」

「む~・・・魔術で散らせばよいのにのう」


見えない事に不満を抱くフランが、今すぐにでも風の魔術を放ちたがっていた。

そんな事をすれば試合は中止、下手をすれば選手が失格となってしまいかねない。

レキとアランの魔術がぶつかった結果とはいえ、それを狙って行った可能性が無いとも限らない為、下手に手を出せばどちらかに加担したと思われかねないのだ。


「ミーム、分かるか?」

「さあ。

 でもレキが有利なんじゃない?」


試合前は不貞腐れていたミームも、今は決勝戦に集中している。


見えずとも声は聞こえる。

レキとは毎日、アランとも二回戦で戦ったミームは、二人の実力と聞こえてくる声からそう判断した。


「まあ、いくらアラン様でもレキには勝てんだろう」

「ええ、ミリス様の一番弟子ですから」


他の一年生達もレキの勝利を疑っていない。

試合前にアラン本人が言ったとおり、レキより強い者などおそらくこの世界にはいないのだから。


「くっ、はあっ!」

「たっ」

「うおっ!」

「そこっ!」


武舞台では二人の攻防が交わされているらしい。

声を聞く限り、おそらくはレキが優勢なのだろう。

まだ終わってない以上、アランもしっかりと食いついているようだ。


「・・・レキ様とこれほど長く戦えるとは」

「それだけ、アラン様も努力したのです」


試合開始から既に三十分が経過していた。


これまで、レキと戦った者はそのほとんどが一瞬で敗退している。

予選ではルミニアとミームがそれなりに打ち合ったが、その時レキは身体強化をしておらず、どちらかと言えばレキがあえて受けたというべきだろう。


今のレキは僅かとはいえ身体強化をしている。

かなり加減しているとはいえ、それでも予選の時より遥かに強いはず。

そのレキと、アランは三十分もの間戦い続けているのだ。


それがどれほどの事か・・・。


「アラン様・・・」


ルミニアを始めとして、レキを知る皆がレキの勝利を確信している中、ローザだけはアランの勝利を祈っていた。


――――――――――


アランの努力を一番近くで見てきたのは自分だという自負がローザにはある。

入学して以降ずっと同じクラスで、アランが腐っていた時も、中庭で鍛錬を始めた時も、野外演習で皆を逃がす為一人最前線に立った時も、ローザはアランを見てきた。

他の貴族が入学した時点の成績で満足したり、不満を抱きながらも卒業すれば関係ないなどと悔し紛れの言葉を発している時も、アランは鍛錬を重ねていた。


何故、そんなに頑張るのですか?


ローザの問いに、アランはこう答えた。


胸を張れる男になりたいからだ。


最初はその対象がフランだった。


フランがいない学園に絶望し、無為に過ごそうとしていたアラン。

きっかけはなんだったのか、だらけていた期間はあまり長くなかった。

誰かが「そんなざまでは二年後に入学してくるフラン殿下に嫌われますよ」と言ったからだと、聞いた事もある。

王族としてではなく、ただフランの兄として誇れる男になりたいと、最初はただそれだけだった。


野外演習で、ただ怯え逃げ惑うしか出来なかった生徒達の中、ただ一人剣を持ち、アランはゴブリンに立ち向かった。

ローザも、初めて見る魔物ゴブリンに怯え、その場でへたり込んでしまった。

聞こえてきたゴブリンの悲鳴に顔を上げれば、そこには剣を振るったであろうアランの背中があった。


大丈夫か?

そう言われ、差し出された手をローザは覚えている。


その時からずっと、ローザはアランを見続けていた。


明確に変わったのは、入学して最初の光の祝祭日の宴以降だろう。

フランが襲われ、危うく命を落とすところだったと聞かされ、何も知らないアランが己の無力さに嘆き、それを救ったレキに感謝と嫉妬をした。

もし次、フランが襲われた時は自分が救うのだと、その為には今以上に力を付けなければならないと奮起し、そこからアランの鍛錬の日々が始まったのだ。


レキを目標に、決して追いつけないと分かっていても努力を怠らず、才能は無くともあがき続け、武闘祭では三年連続で代表になった。

王族として貴族平民他種族と分け隔てなく接し、常に皆の前に立ち、ローザ達を導いてくれたアラン。


胸を張れる男になりたい。


今、その対象はアランを見守る全ての者になっている。


それには当然ローザも、そして今対峙し剣を交えているレキも含まれているのだろう。


レキに胸を張れる男に。


それは多分、レキに認められたいから。

アランはレキを認め、感謝をしている。

同時に、レキを目標に三年間努力を続けた。

その集大成を、今、レキにぶつけているのだ。


勝てるとは思っていない。

でも、決して諦める事をしないアランを、ローザは観客席から見守り続けた。

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