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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十三章:学園~武闘祭・本戦~個人の部~
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第268話:武闘祭本戦・個人の部、第一試合終了

「この一撃に賭けるっ!」

「良かろう・・・全力で来いっ!」


アランの魔術に対抗できる手段は今のカム=ガには無い。


彼にあるのは身体能力に任せた全力の一撃。

その一撃でアランを倒せればカム=ガの勝ち。

倒せなければアランの勝ちという、分かりやすい決着の付け方。

それに賭けるしか、カム=ガに勝ち目は無い。


もちろんアランがこの勝負に乗る必要は無い。

再び距離を取り、魔術で攻撃し続けるだけで勝ててしまうからだ。

武術に関しても、技量はアランの方が上。


それでもアランがこの勝負に乗ったのは、先ほどまで挑発し続け、焚きつけたが故である。


ここまでやっておいて最後は魔術で、と言うのは収まりが悪い。

見ている者達も期待外れに違いない。

三年代表にしてフロイオニア王国王子、何よりフランの兄として、誰もが納得のいく勝ち方をしなければならないのだ。


「いくぞオラっ!!」


再び全身に魔力を巡らせ、カム=ガが全力で突っ込んでいく。

対するアランは、先ほど同様盾を前にカム=ガの特攻を受け止める構えをとった。


「うらぁっ!!」


直前で飛び上がり、カム=ガが全力で上から斧を振り下ろす。

アランも身体強化を施し、振り下ろされる斧に盾を向けつつ、僅かにずらして攻撃をそらした。

そして。


「はっ!」

「はぐっっ!!」


カム=ガの横っ腹に、アランの剣が振るわれた。


一撃に全力を込めていたカム=ガである。

ただでさえ無防備な状態でその一撃を喰らえばどうなるか。


「それまで!

 勝者、アラン=イオニア」


武闘祭本戦・個人の部。

第一試合は三年生代表アラン=イオニアが勝利した。


――――――――――


『おぉ~!!』


アランの勝利に、観客席から盛大に歓声が上がった。

皆、アランの戦いに魅入り、加えて試合中の演説に感銘を受けていたのだ。


実際、アランは強く、何より戦い方が上手かった。

身体能力で上をいく獣人に対し、技量で勝ったのだ。


アランは容姿に優れ、また人望も厚い。

王族と言う確かな身分も手伝い、学園での人気はかなり高いのだ。

そのアランが武闘祭で獣人を圧倒したという構図が、観客にとって演劇を見ていたような興奮と感動を与えていたのだ。


「あるいはそう見せたかったのかも知れませんね」


などとルミニアは思ってもいた。


――――――――――


「アランの奴・・・」

「立派になりましたね」


閲覧席では、国王ロランと王妃フィーリアが息子の成長に感激していた。


学園に入学する前のアランは、一言で言えばフラン馬鹿だった。

何をするにも妹のフランを優先し、勉強も鍛錬もそっちのけでフランを構おうとしていた。

指南役であるフィルニイリスやガレムが阻止してはいたが、お世辞にも真面目とは言えなかったのだ。


学園に入る事にも難色を示していた。

フランがいない学園に用は無いなどと言い出す始末だった。


そのアランが、あれほど立派になっていた。


下級生が相手とは言え、正々堂々と、最後は相手の得意とする方法で戦い勝利した。

上級生として胸を貸し、助言まで与える始末である。


あれは本当にアランなのか?

などと思わないでもないが、親である国王と王妃はアランの変化にも以前から気づいていた。


レキを目標に努力し、ローザ=ティリルを始めとした学友に恵まれ、いつしか王子として相応しい存在となったアラン。


フランが誇れる兄になる為。

フランが窮地の時に助けられる強さを身に付ける為。

そしてフランを救い、フランの護衛として常に傍にいるレキを目標に、レキを超える為に努力した。


そんなアランの努力の成果こそが、今日の試合なのだろう。


息子の雄姿にロランは誇らしげに笑みを浮かべ、フィーリアはそっと涙を拭った。


――――――――――


第一試合の余韻も薄れないまま、引き続き第二試合が始まろうとしていた。

控室のミームは、先ほどの試合を思い返しながら静かに闘志を燃やしていた。


今から始まる試合に勝てば、次はアランと戦える。

あんな強い人と戦えるのだと思い、ミームの全身に闘志が漲った。


ミームの初戦はティグ=ギ。

同じ獣人にして昨年度の準優勝者、そして今年の優勝候補である。

もちろん実力は随一。

最高学年の四年生である事から、試合の経験も豊富に違いない。


それでも、ミームは負ける気がしなかった。

ミームは学園どころかこの世界最強の存在を知っているからだ。

毎日のように手合わせしている彼に比べれば、たかが学園の準優勝者など彼の足下にも及ばない。


それでも強者である事は間違いはなく、そういう意味ではティグ=ギとの試合も楽しみではあった。


ティグ=ギに勝ち、アランにも勝てば最後はレキ。

優勝する為にはレキに勝たねばならず、それがどれほど遠い目標なのかはミーム自身が良く分かっている。

それでも、ミームは諦めるつもりはない。


レキに勝つ。

その為にはまず、初戦に勝つ必要があった。


「良しっ!」


両頬を叩き気合を入れたミーム。


ミームの試合が始まる。


――――――――――


「先ほどは凄かったですね」

「む~・・・」

「アラン様強かったね~」

「むむ~・・・」


ルミニアとユミの称賛の言葉に、自分の知るアランとの違いにフランが困惑していた。


ルミニアもアランと手合わせした経験は少なく、王宮にいた頃はもっぱらレキとばかり手合わせしていたアランである。

レキとばかりという点ではフランも同じだが、フランとルミニアはレキに稽古を付けてもらっていたのに対し、アランは本気で模擬戦を挑み、速攻で返り討ちにあっていた。

その印象が強いせいか、今一つアランが強いという事実に頭が追いつかないでいるのだ。


「あっ、ほらミームさんの試合が始まります」

「・・・うむ、兄上はどうでも良いがミームは応援せねばなっ!」


アランの認識を改める事を放棄し、フランはミームの試合に集中する事にした。

同じ最上位組の仲間であり、フランにとっては友達であり好敵手であるミーム。

自分達一年生の代表である彼女を全力で応援する事が、今のフランのやるべき事なのだ。


――――――――――


「これより第二試合を始める。

 選手は武舞台へ」


審判役の教師の言葉の後、控室より選手が登場する。

ミームと、四年生代表のティグ=ギだ。


「一年生代表ミーム=ギ」

「はいっ!」

「四年生代表ティグ=ギ」

「おう」


武舞台の中央、二人の獣人が並んだ。

女子と男子、一年生と四年生。

体格も違う二人は、だが同じ獣人である。

もう一つ共通点を上げるなら


「貴様もギ族か」

「ん?

 そうよ?」


獣人と一括りにしてはいるが、その種族は様々である。


一年生の上位組に所属するライ=ジは虎の獣人。

先ほどアランと戦ったカム=ガは熊の獣人である。

それぞれ種族名を持ち、同じ種族同士固まって暮らしている場合も多い。


とは言え獣人はその数も領土も広く、同じ種族と言えども顔を合わせた事が無い事もざらである。

そもそも同じ種族だからと言って同じ場所で暮らしているとは限らず、それはミームとティグ=ギも同じだった。

獣人族の王都を始めとした主要な街では、様々な種族の獣人が生活しているのだ。


「貴様は何故純人族の学園に来た?」

「そんなの、強いやつと戦いたかったからに決まってるでしょ?」


獣人の国プレーターにも学園はある。

ただ、武術と狩りを重んじる為か他種族の生徒はほとんどおらず、他種族の混合率としてはフロイオニア学園より少ない。

ほとんどが獣人の子供が占める学園であり、武術の腕を磨くならむしろプレーター学園の方が良いだろう。


ミームは入学前の時点で同じ年頃の子供は軒並み倒してしまっている為、いっそのこと他種族の学園の方が刺激があるだろうと、このフロイオニア学園に来たという経緯がある。


「そうか、貴様も同じか」


他種族の学園に行く理由はいくつかある。

ミームの様に刺激を求める者。

ファラスアルムの様に違う環境に身を置きたがった者。

中には、ライ=ジの様に(一方的な)ライバル(?)を追いかけてきた者もいる。


そんな中、ティグ=ギはミームと同じ他種族の生徒と戦ってみたかったという理由でここ、フロイオニア学園に来たらしい。


「俺と同じ年の連中は歯ごたえが無くてな。

 他種族の国なら少しは歯ごたえのある者がいるだろうと思ったのだが」


どうやら、フロイオニア学園ではティグ=ギの望みは果たされなかったようだ。


「準優勝だったんでしょ?」

「ふん、遠距離から魔術ばかり放つような奴。

 俺が拳を交える価値も無い」


昨年の優勝者は先ほどのアラン同様、遠距離から魔術を放ち続けティグ=ギを近づけさせる事無く勝利したそうだ。

アランが言った通り、それもまた一つの戦い方である。

遠距離攻撃の手段を持たない者に対する、ある意味必勝の策なのだ。


だが、獣人にとってそれは直接武器を交える度胸の無い、臆病者の戦い方であるらしい。


「先ほどのアランはまだいい。

 最後は剣で戦ったからな。

 だがあいつは最後まで距離を詰めなかった。

 あんな奴、俺が戦う価値も無い」


ティグ=ギが吐き捨てるように言った。

敗北の悔しさより、相手の戦い方に不満があるのだろう。


アランが言う通り、近距離での戦闘を有利とする獣人に確実に勝つためには、遠距離から魔術を放つのが無難である。

昨年の優勝者はそれを忠実に実行したのだろう。

内容はどうあれ試合は試合。

どのような勝ち方をしようとも、勝ちは勝ちだ。


「結局負けたんでしょ?」

「違う。

 譲ってやったんだ」

「ふ~ん」


強がりとも負け惜しみともとれる言葉に、ミームが呆れたような目を向けていた。


「そろそろいいか?

 では、始めっ!」


二人のやり取りが終わったのを見計らい、ようやく開始の合図がかかった。

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