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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十三章:学園~武闘祭・本戦~個人の部~
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第266話:武闘祭本戦・個人の部、一回戦、カム=ガ対アラン=イオニア

「ミームはアランの対戦相手知ってる?」

「さあ、知らない」


獣人の国プレータ獣国は領土だけならフロイオニア王国より広く、そこに住む獣人の数も多い。

当然、ミームが知らない者も多い。

いくらプレーター獣国からわざわざ他国の学園に行く生徒が少ないとはいえ、同じ国出身で同じ獣人という接点しかないのだから知らないのも当然だろう。

カム=ガの実力がプレーター獣国で噂になるほど高ければ、あるいはミームの耳にも届いたかも知れないが。


「いくぞ坊ちゃん!」

「来い負け熊」


王族かつ先輩のアランを坊ちゃん呼ばわりするカム=ガに、アランも挑発で応じる。

斧を持ち、前傾姿勢をとるカム=ガ。

対するアランは、剣を鞘から抜く事なく片手をカム=ガに向けてかざした。


「去年の借りぃ、まとめて返」

「"リム・ブロウ"」

「してぺっ!」


身体強化を施し、全力で突っ込んできたカム=ガに、アランが魔術を放った。

呪文を詠唱する事なく放たれたそれに、観客席から驚きの声が上がった。


「今のは無詠唱?」

「魔術名は唱えてましたよ?」

「いや、呪文を詠唱していないのだから無詠唱だろう。

 魔術名を唱えたのは、おそらくその方が使い易いからだ」


レキが魔術を放つ際「えいっ!」と言うようなものだろうか。

言わずとも放てるが、言った方が魔力を込めやすい。


「てめぇ!」

「"エド・アロー"」

「うおっ!」


不可視の風の塊を顔面に食らい、カム=ガが一瞬怯んだ。

ダメージはほとんどなかったものの、不意を突かれた事も手伝い頭に血が上ったカム=ガに向け、アランから追撃の火の矢が放たれた。

先程の魔術で距離が開いたのが幸いし、アランの火の矢をカム=ガがかわす。

まともに当たれば、魔術耐性の高い服を着ているとはいえ火傷の一つも負ったかも知れない。


「くっ、てめぇ卑怯だぞ!

 男らしく拳で勝負しやがれっ」

「これも一つの戦い方だ。

 と言うか、男らしくと言いつつ自分に有利な戦いに誘うとは、貴様こそ男らしくないな」

「んだとこのっ!」

「"ルエ・ブロウ"」

「がぷっ!?」


獣人は種族的に魔術が不得手であり、残念ながらカム=ガも使えない。

そんな獣人に対し、魔術で牽制、および攻撃するのはある意味正攻法である。


距離を詰めようとするカム=ガに対し、近づけさせないよう動きをけん制するようにアランが魔術を放つ。

言い合いの最中にも魔力を練っていたのだろうか、放たれた水球は逃げ場がないほどに大きく、カム=ガを洗い流すかのように場外へと押し流した。


「カム=ガ場外っ。

 カウントを始める。

 1、2・・・」

「うるせぇ数えんなっ!」


大きさはともかくダメージはそれほどなかったらしい。

場外に押し流されたカム=ガが、審判に悪態を吐きながらもすぐさま武舞台へと戻ってきた。


「てめぇ、さっきからちまちまと・・・」

「獣人と戦うには遠距離からの攻撃が一番有効なのでな」

「うっせぇ、てめぇの剣は飾りかっ!」

「"リム・スラスト"」

「がふっ!」


不可視の刃を喰らい、カム=ガが再び吹き飛ばされた。

試合開始から一方的にやられ、距離すら詰められないカム=ガ。

それでも戦意を失わないのは、それが獣人としての気質なのか、あるいは極度の負けず嫌いだからか。


ルエ・ブロウで水浸しになった武舞台。

ただでさえ滑り易い上でリム・スラストをまともに食らったカム=ガが、後方に飛ばされつつも何とか武舞台上に着地した。


「くそっ、近づきさえすりゃ・・・」


滑って転ばないよう、武舞台に手を付きながらカム=ガがなおも悪態も吐いた。

まさに手も足も出ない状態が、よほど歯がゆいのだろう。

一方的な展開に歯ぎしりすらし始めた。


近接戦闘ならカム=ガにも分があるのかも知れない。

だが、武闘祭には魔術を使ってはならないというルールは無い。

己の力の全てで戦う。

それこそが武闘祭であり、学園最強を決める大会なのだ。


身体能力に優れる獣人に対し、純人が武術のみで対抗するのは不利である。

故に純人は、知識や魔術を駆使して戦うのだ。


試合開始からずっと、魔術を用いてカム=ガを圧倒し続けるアラン。

このままいけばアランが勝利するだろう。

二年生代表のカム=ガは、その実力を欠片も発揮できずに終わってしまう。


「くそっ!くそっ!くそっ!!」

「悔しそうだな」

「純人族のくせにっ!」

「その純人族に良いようにやられているのは貴様だ」

「うるせぇっ!

 同じ奴に二度も負けてたまるかっ!」

「頭を冷やせ、"ルエ・ブロウ"」

「がぶっ!」


先ほどよりかなり小さい水球が、カム=ガの頭に当たった。


「どうする?

 愚直に攻め続けるだけでは私に指一本触れられんぞ」

「くそがあっ!」

「"リム・ブロウ"」

「がふっ!」

「だからそれではダメだと・・・」


いいようにやられ、それでも戦意を失わないのはさすがである。

それでも何も考えずに突っ込めば魔術で迎撃される事を学んだらしい、先程からカム=ガは一歩も動けないでいる。


「・・・このまま終わらせても良いのだがな」

「くっ」


そんなカム=ガに嘆息しつつ、魔術を放つべく前に出していた腕を、アランは何故か下した。


――――――――――


「な、何の、つもりだ」

「このまま終わらせては「離れた所から魔術を放つしかできない臆病者」とか言われかねんのでな」


事実、試合中も「拳で戦え」だの「卑怯者」だの言っていたカム=ガである。

負けても「魔術さえなければ勝てた」などと言いだしかねない。


「先輩として胸を貸してやろう」

「あ・・・?」

「お望み通り魔術抜きで勝負してやろうと言うのだ。

 かかってこい」

「て、てめぇ・・・」


困惑するカム=ガに対し、アランがこの試合初めて剣を抜く。

左手に持つ盾を前面に出し、剣を持つ右腕を後ろに引いた構えをとるアラン。

王宮にいた頃から学んでいた、フロイオニア騎士団の剣術の構えである。


そんなアランの行動に触発されたのか、あるいはそれを挑発と受け取ったのか。

カム=ガの熊耳の毛が逆立ち、全身からは怒気なのか闘気なのか良く分からない湯気が出た。

体内の魔力を全身に巡らせ、身体強化を全力で行っているのだ。


身体能力に長ける獣人が、全力で身体強化を行えばどうなるか。


「てめぇっ!!」

「来いっ!」


ズガンッ!

一瞬で距離を詰め、カム=ガが全力で斧を振り下ろす。

この試合初めて、カム=ガの武器がアランを捉えた。

獣人の、それも力に優れる熊の獣人の全力の一撃。

いくら刃引きされた斧とはいえ、下手をすれば盾ごと潰されてもおかしくないその一撃を、アランは真正面から盾で受け止めた。


「なにっ!?」

「甘いっ!」

「がはっ!」


吹き飛ばされる事も無く盾で防がれた事が予想外だったのか、あるいは全力で振るったが故の隙なのか。

無防備なカム=ガの腹に横なぎの剣が振るわれ、カム=ガが再び吹き飛ばされた。


「く、くそっ・・・」

「その程度か」

「ぐっ・・・がぁっ!」


アランの言葉に、再びカム=ガが全力で突っ込む。

先ほど同様斧を振るうが、その一撃は再びアランの盾に阻まれる。


「ふんっ!」

「くそっ!」


そして振るわれるアランの剣。

さすがにカム=ガも同じ攻撃は喰らわなかったようだが、カム=ガの攻撃もまたアランに届かなかった。

近接戦闘は獣人の専売特許だが、アランも王宮で騎士剣術を学んでいる。

王国最強の騎士ガレムを師に、レキが来てからは時間を見つけてはレキとも模擬戦を重ねてきたアランである。

実力なら既に並の騎士を超えているのだ。


相手は身体能力に任せた戦いをするだけの獣人。

アランが負ける道理はない。


「どうした。

 その距離からでは攻撃も届くまい」

「くっ・・・」

「森人や純人が魔術を使うのは卑怯だからでも臆病だからでもない。

 この距離からでも攻撃できるから使っているのだ」

「なっ・・・」

「悔しければお前も魔術を習うんだな」

「だ、誰がっ!」

「ならお前は私に一生勝てん」


距離を詰めても盾で防がれ、開ければ一方的に魔術で攻撃される。

現時点でカム=ガに勝機は無い。

だが、それでも諦めないのがカム=ガであり、獣人と言う種族である。


「こうなりゃ・・・うがっ~!」

「ほう」


武器である斧を、まるで盾の様に前面にかざしながらカム=ガが突っ込んで行く。

一か八かの特攻、あるいは先程のアランの言葉を受けた魔術対策なのだろうか。

魔術抜きで戦うと言ったアランに対し、使って見せろと言わんばかりの構えとも言えるだろう。

盾より守れる面積は少ないが、少々の被弾は覚悟の上に違いない。


受けるダメージより与えるダメージが上回れば、すなわち勝ちなのだ。


「何というか・・・」

「くたばれごらぁ!」

「ここだっ!」

「がふっ!」


斧の届く距離まで達したカム=ガが、勢いそのままにアランへと体当たりを仕掛けた。

構えた斧をそのままに、アランの構える盾に体ごと突っ込むカム=ガに対し、アランはもまた盾を構えた状態で前へと踏み出した。


鎧より頑丈で面積も広い盾を前面に出せば、相手は嫌でも警戒する。

どんな攻撃も盾に阻まれてしまえば意味をなさない。

相手にダメージを与えるには、まず盾をかいくぐらねばならない。


カム=ガもそう考えていた。

アランの盾をかいくぐるべく直前でしゃがみこみ、足元目掛けて斧を振るうつもりだった。

だが、それより先にアランが盾を構えたまま前へと踏み出した。


タイミングが遅ければカム=ガの斧が当たっていたかも知れない。

逆に早ければ、カム=ガとてアランの攻撃をかわせたに違いない。

しゃがみこむその一瞬を狙いすまし、盾を前面にかざしたまま体当たりを仕掛けるのは、口で言うより難しいのだ。


「どうだ。

 お前が私に勝つため努力したように、私もこの一年努力をしてきた。

 魔術も盾による攻撃もその成果だ」

「がっ・・・」

「武術で勝てないなら魔術を、魔術でも勝てないなら戦術を。

 身に着けた全ての力で戦う。

 それが純人の戦い方だ」


カム=ガにだけではない。

まるでここにいる全ての者に向けるようにアランが言葉を放った。


カム=ガはアランに対し「純人族のくせに」と言っていた。

別に侮蔑を込めて言ったわけではない。

だがそれは、種族差別に繋がりかねない言葉でもあった。


純人族のくせに。


純人族は他の種族に比べ秀でたものが無い。

身体能力は獣人に、魔力は森人に、鍛冶や細工は山人に劣る。

才能や種族特性という、生まれ持ったモノが違うのだ。

どれだけ鍛錬や努力を重ねようと、その半分も努力していない他種族に容易に追い抜かれてしまう。

死ぬ気で、一生かけて努力して、それでも他種族に勝てない者も多い。


その事実に打ちのめされ、挫折し努力を放棄する純人もまた世の中には多いのだ。

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