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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十三章:学園~武闘祭・本戦~個人の部~
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第262話:上位クラスとの交流

「はぁ・・・」


剣を片手に、ガージュが天を仰いでいた。


あれから

「レキ様は本戦の特訓がありますから」

とルミニアがライを嗜め

「じゃあ誰でもいいから相手しろ」

というライの言葉に

「では私が」

と上位クラス一番手、すなわちライと同じクラスでライより強いミルが手を挙げ

「て、てめぇとはいつもやってっから・・・」

とライが苦虫を噛み潰したような顔で後ずさりし

「じゃあ誰ならいいのよ?」

とミームが詰め寄ったところ、とりあえず最上位クラスなら誰でもいいとライが妥協(?)したところで、白羽の矢が当たったのが最上位クラス九番手のガージュだった。


僕は頭脳担当だとか戦術論で忙しいと精いっぱい抵抗したガージュだったが、ファラスアルムを除けばガージュが一番弱く、そんなガージュにも勝てないと分かれば少しは身の程を知るのでは?というルミニアの提案に仕方なく了承したのである。


レキに負けても「レキだから」としか思わなくなっているガージュ達。

相手との実力差がありすぎる場合、負けて当然勝てなくても仕方ないという考えがどうしても浮かんでしまう。

故に、出来るだけ近しい実力の相手と戦わせ、しっかりと負けを認めさせなければ引っ込みがつかないのではと考えたのだ。


「最上位クラスの九番手であるガージュにすら勝てない奴がレキに挑むなど十年早い」という事でもある。


先程、同じような事をライに言ってしまった手前、ガージュも拒み切れなかったのだろう。

口は災いの元とは良く言ったものだ。


「仕方ない、相手をしてやろう」

「はっ、なんだ偉そうに」


最上位クラスに所属している以上実力的にはガージュが上なのだが、ライには関係なかった。

獣人にあるのは強いか弱いかだが、それを計るには実際に戦ってみる必要があるらしい。

個人戦でユミと戦い彼女を認めたミームのように、拳を交えなければ理解できないのが獣人の特徴なのかも知れない。


「それでは、始めっ!」


「そりゃあ!」


ミルの合図にライが飛び出す。

片手に持つ斧を振りかぶり、全力でガージュに叩き込もうとして


「ふんっ」

「あぁ!?」


ガージュの剣にあっさりと流された。


入学して以来、ガージュの模擬戦の相手はもっぱらカルクやユーリ、そしてガドと言った男子達だった。

レキは実力差がありすぎる為、また最初の頃はレキを目の敵にしていた為、剣を交えた回数は少ない。

フランやルミニアは身分差の為に気後れし、ミームには相手にされず、ユミは好戦的ではない為にガージュと手合わせをする事はあまり無い。

ファラスアルムは論外。


中でも実力の近いガドとの模擬戦は多く、つまりガージュは斧使いとの戦いに慣れているのだ。


「しっ!」

「うおっ!」


体制を崩しかけたライにガージュが剣を突き出す。

頭を反らし、何とかかわしたライに、ガージュがさらに追撃をかけた。

入学以降武器を細剣から一般的な剣に持ち替えたガージュ。

細剣による攻撃の技術だけは入学前からしっかり身に着けていたが、その鋭さは武器を持ち替えても失われる事は無い。

真面目に鍛錬を重ね、何より自分より強い者と模擬戦を重ねたガージュの実力は、入学前と比較にならないのだ。


何より大きいのは、レキやフラン、ミームと言った上位陣の戦いを見続けてきた事だろう。

頭脳担当を自称するガージュの、相手の動きを読みながら戦う戦法は、ライのような力押しで考え無しな相手と相性が良かった。


「く、くそっ!

 九番手相手にっ」

「「最上位クラスの」が抜けてるぞっ!」


ガージュの攻撃をライが何とかかわし続ける。

初手の攻撃以降、ライはガージュの剣をかわすので精一杯となっていた。

ライの片手斧の速度はガージュの剣より遅く、加えてライの動きを制限するかのように繰り出されるガージュの剣に、反撃する隙を見いだせずにいるのだ。


「せいっ!」

「がっ!」


ガージュの攻撃にライ=ジが足をもつれさせた。

否、そうなるようガージュが剣を振ったのだ。

今の攻撃は相手に避けさせる為。

そうして作った隙に、ガージュが横なぎの一撃をお見舞いした。


「どうだっ!」

「・・・ちっ」


模擬戦はガージュの勝利で終わった。


――――――――――


たった一度負けたくらいですんなり諦めるほど、獣人は潔くない。

むしろ負けた直後に「次は勝つ!」と言い放ち、以降事あるごとに模擬戦を挑むのが獣人という種族の特徴でもあるほどだ。


「次はガドさん、お願いできますか?」

「む?」


それを良く知るルミニアは、ライが新たなるターゲットを定めるより先に次の相手をあてがった。

最上位クラス八番手、ガド=クラマウント=ソドマイク。

ライと同じ斧使いである。


武器職人を目指し、様々な武具やそれを扱う者達を見る為、あえて他国のフロイオニア学園に来たというガド。

山人の頑強な肉体を駆使し、防御主体で斧を振るうその戦い方は、先日の武闘祭でミームと互角に渡り合ったユミの攻撃もなかなか通さない。


チーム戦では前衛を任され、カルクと共に敵の攻撃を一手に引き受けるチームの壁。


武具の扱いにも長けるガドを相手に、身体能力任せに斧を振るうライが勝てるはずもなく、勝負は実にあっさりついた。


「次はユーリさん」

「ん?」


「山人のくせに」と悪態を吐くライの言葉が聞こえたのか、ルミニアが更なる相手をあてがう。

お次はユーリ。

最上位クラス七番手、サルクト子爵家三男のユーリ=サルクト。


ガージュと同じく貴族の生まれで、ただし三男であるが故に家を継ぐ事は無い。

卒業後は自分だけの力で生きていかねばならないからと、お気楽な性格に反して授業態度は実に真面目である。

その性格から誰とでも気楽に付き合える為、最上位クラスのバランスを陰から支えている人物でもあった。


武器は一般的な剣。

元々はガージュと同じく細剣を使っていたが、将来を見据えて持ち替えたのだ。

魔術を併用した戦いを好み、チーム戦では遊撃要因として、臨機応変に戦える魔術剣士である。


力も速度もライが上。

ただし柔軟さと巧みさ、つまり技術はユーリが上。


ライの斧を巧みにさばき、隙をついたユーリの攻撃がライをとらえた。

勝負はまたしてもライの負けであった。


「こ、このっ!」

「次はカルクさん」

「あっ!?」

「おうよっ!」


身体能力では自分の方が上のはず。

にもかかわらず勝てなかったライが再び悪態をつこうとして、それより先にルミニアが言葉を放った。


次はカルク。

最上位クラスでも武術だけなら五番手「だった」少年だ。

「だった」と言うのは最近ユミに抜かされたから。

それでも、武術に限れば最上位クラスの六番手である。


カルクの故郷ラーシュ村の近くには魔物が住む森があり、村には冒険者が常駐していた。

幼い頃から冒険者の活動を見て育ったガージュは、必然的に冒険者に憧れ、実力を磨く為ここフロイオニア学園にやってきたのだ。


武器は剣。

冒険者に教えを乞い身に着けたという実戦的な剣術を身に付けている。

野外演習中、ゴブリンの脅威をその身をもって知り、より強くなる為日々鍛錬を重ねてきた。


元々強かったカルクが、己の弱さを自覚した上で更なる努力を重ねればどうなるか。

答えは簡単。


「おりゃ!」

「があっ!」


ライが再び地に沈んだ。


――――――――――


都合四戦。

その全てに敗北した上位クラス三番手のライ少年。

悪態をつく気力すら失われた彼は、先ほどから中庭で突っ伏していた。


「やりすぎじゃ・・・」

「ええっと・・・」


ルミニアに言われるままに戦ったは良いが、あれほど勝気だったライの傷心っぷりにユーリが冷や汗をかいた。

もちろん考えがあっての事だが、正直やり過ぎたのではとルミニアも少しばかり反省していたりする。


とはいえ、あのままではレキやミームの邪魔になっていたわけで・・・。


本戦に向けて特訓している二人の手を煩わせるわけにもいかず、だからと言って二人を除けば次に続くのは順位的に自分とフランになってしまう。

敬愛するフランに相手をさせるわけにもいかず、と言うかフランやルミニアが戦ってもレキやミームに負けるのと大差ない。

下手をすればレキやミームに勝つ為にはちょうど良いからと、これ以降付きまとわれる可能性すらあった。


以降の面倒ごとを避ける為、最上位クラスとの実力差をこれでもかと見せつけ、今のままではどうあがいても勝てないと本人に理解させるため、最上位クラスの下位番手であるガージュから順に分かるまで相手をしてもらったのだ。

ガージュ一人で理解してくれれば良かったのだが、試合後の反応から足りないと判断し、次から次へとあてがったルミニアだったのだが・・・確かに少々やり過ぎた気がしないでもなかった。


「ほっときゃいいのよ、あんなの」


ライと最上位クラスの男子達が模擬戦を重ねている間、思う存分レキと手合わせし、良い汗をかいたミームがさわやかな顔で冷たく突き放す。

そもそもライとレキが手合わせする理由などどこにも無く、ただライが一番強い相手と戦いたかっただけ。

いちいち相手をする必要もなかったのだ。


「ライさんには良い・・・」

「くっそ~~っ!!!」


同じく、ライの性格を理解している上位クラスのミルがミームの言葉に同意しようとした矢先、叫び声と共にライが起き上がった。

目には涙を浮かべ、悔し気に表情を歪ませながらも、自分を負かしたガージュ達を睨みつけ、そして。


「てめぇら覚えてろよっ!」


捨て台詞を吐いて、ライが中庭を去っていった。


「・・・良い薬となったようですね?」

「効き過ぎたかも知れません」


あんなライさんは初めて見ましたと、ミルが目を丸くした。

負けず嫌いなライはいつも、負けてもすぐ起き上がって再戦を挑んで来た。


ガージュに負け、ガドに負け、ユーリに負け、カルクに負けたライ。

再戦の相手は選び放題である。

自分を負かした相手が四人もいれば、一番強い相手との戦いなど二の次になるに違いない。

ガージュを始めとした最上位クラスの下位の者達にすら勝てない者が、レキと戦おうなどおこがましいとも言える。


「まずガージュさん達に勝ってから来てください」

レキの手を煩わせない為の理由を作りたかったルミニアだったが、泣いて逃げるとは思わなかった。


ただ、少なくともしばらくの間ライが突っかかってくる事は無いだろう。

何より、武闘祭でライが負けた、本来なら真っ先にリベンジ対象となるはずのファラスアルムの事は、ライの頭から綺麗さっぱり消え去ったに違いない。


レキやミームに本戦に集中してもらう為、心優しいファラスアルムが余計な争いに巻き込まれぬよう配慮したルミニア。


今後、ライがどうするかは・・・今のところは不明である。

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