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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第25話:野営の支度

「ただいまなのじゃ!」

「お疲れ様です、フラン様。

 ミリス様も、ご苦労様です」

「ああ」


そこらに落ちていた枯れ葉や枯れ枝を両手に抱え、フランがえっちらおっちら戻ってきた。


「沢山集めましたね、ご苦労様ですフラン様」

「ふっふっふ、わらわにかかればざっとこんなもんじゃ!」

「ふふっ、ありがとうございます」

「うむ!」


リーニャが作った即席の竈に枯れ枝を置き、フランが胸を張る。

実際、一晩の野営をするには十分すぎるほどの量だった。

魔の森からほど近いこの場所で野営を行う者などそうはいない為か、枯れ枝はそこら中に転がっているらしい。

薪集めなど慣れていないフランでも、短時間で集められるくらいだ。


「うにゃ?

 レキはどこじゃ?」


レキにも自慢しようと思ったのだろう。

フランが辺りを見渡すが、レキの姿はどこにもなかった。


「レキ君なら魔物を狩りに行かれましたよ」

「にゃ!?」

「はっ?」


リーニャの言葉にフランとミリスが同じように驚いた声を上げた。

ただし、その心情は違う。

フランは「いつの間に?」と「置いてかれたのじゃ!」ついでに「わらわのお手伝いよりレキの方が凄いのじゃ!」という思いが込められている。


対して、ミリスは周囲の状況から「どこに狩りへ行ったのだ?」という疑問からだった。

見渡す限りの平原。

僅かに木々や岩などはあるものの魔物の姿はどこにもなく、魔物が潜んでいそうな場所すらない。

こんな場所のどこで狩りが出来るのか?

野営の経験が豊富なミリスは、だからこそリーニャの言葉に首を傾げた。


「レキが狩りに行ったのは本当。

 どこまで行ったかは不明」

「おお、フィル」

「どこまで、とは?」

「気がついたら姿が見えなくなってた」

「ええ、さすがレキ君・・・としか言いようがありませんでしたね」

「うむ、さすがレキじゃな」

「・・・それで良いのか?」

「良い」

「気にしたほうが負けでしょう」


リーニャもフィルニイリスも、レキに関しては深く考えない事にしたようだ。

フランは疑問など抱かず素直に感心する。

レキの行動に頭を悩ませるのは、いつの間にかミリスだけになっていた。


「たっだいま~!」


そんなミリスの悩みも知らず、大量の魔物を掲げたレキが能天気な声と共に戻ってきた。


「おぉ~!」

「「「・・・えっ?」」」

「へへ~」


あの短時間にどれだけ・・・。

いや、それよりこれほどの魔物が一体どこに・・・。


「「「・・・」」」

「大量じゃな」

「へへ~、すごいでしょ~」


掲げていた魔物を地面におろし、レキが胸を張る。

そんなレキに凄いのじゃとまとわりつくフランと、大量の魔物を前に呆気に取られるリーニャ達。


ホーンラビット、ダークホーン、ブラッドホース、アースタイガー、マッドスネーク、ロックフォックス・・・。

先ほどフィルニイリスが上げた、平原に生息するであろう魔物。

それらが見事に山積みとなっていた。


「えっと、レキ君」

「ん?」

「この魔物はその・・・どこで?」

「あっち!」


レキが指差した方を見るリーニャだが、その方角には何も無かった。

見えるのはまばらな木々や岩、そして遥か彼方に見える、丘。


「もしかして、あの丘まで行ったのですか?」

「うん!」

「あの短時間で?」

「うん!」


レキの指差す方向を呆然と見るリーニャ。

丘までは、目算で丸一日はかかりそうだ。

その距離を、レキはフランとミリスが薪を集める程度の時間で往復したようだ。

普通ならそんなことを言われても素直に信じられないだろう。

だが、目の前には証拠となる魔物が山積みされている。

周囲に魔物の気配がない以上、どこか遠くまで狩りに行った事だけは確かだった。


「レキ、残念ながら半分以上の魔物が食べられない」

「えっ!?

 そうなの!?」

「正確には美味しくない」

「そっか~・・・」


唖然とするリーニャをよそに、いち早く我に戻ったフィルニイリスが魔物を吟味した。

幸い、レキが狩ってきた魔物に食べられない物は無さそうだ。

ただ量が量だけに、選別する必要があったのだろう。


「どれが美味いのじゃ?」

「おすすめはホーンラビット。

 一般の家庭でも食される比較的安価で美味な肉」

「お~」

「ダークホーンも比較的美味。

 グラススネークもなかなか」

「蛇も食べるのか?」

「蛇美味しいよ?

 ね?」

「マッドスネークは不味い。

 泥の味」

「「うえっ」」


蛇は村にいた頃から良く食べていた為、今回も食べられると思って獲ってきたのだろう。

だが、同じ蛇の魔物でもグラススネークは表面がつやつやした魔物で、マッドスネークは表面が泥のような魔物である。

前者はガラスのように鋭い皮膚にさえ気を付ければ肉はそれなりに美味しいが、後者は皮膚も肉も泥のような魔物で、とてもではないが食べられた物ではないらしい。


フィルニイリスの説明にふんふんと聞き入るレキとフラン。

二人共、殆どが未知の魔物だったようだ。

一通り説明をしたフィルニイリスが、最後にレキに対してこう告げた。


「私達ではこんなに食べられない。

 だからホーンラビットとグラススネークを残して後は捨ててきて」

「捨てちゃうの!?」

「勿体無いのじゃっ!?」


フィルニイリスの言葉にレキが驚き、フランが反発した。

折角取って来たのにと、不満気なレキとフラン。

もちろん理由があっての事だ。


「食べきれない食材はこの場に放置する事になる。

 そうすれば、匂いに釣られて他の魔物がやってくる可能性がある。

 ・・・どうする?」

「全部やっつける!」

「うむ!」

「・・・」


本来なら、他の魔物がやってくると告げた時点で理解し、反省して欲しかった。

だが、本当に大量の魔物がやって来たところで、レキの実力なら軽く撃退してしまうだろう。

いくらこの場所が魔の森から半日ほどしか離れていない、割と危険な場所だったとしてもだ。

その魔の森で三年間暮らしていたレキにとって、どんな魔物も恐れるに値しないのである。


どう言えば分かってもらえるだろうか、とフィルニイリスが珍しく頭を悩ませた。

そんなフィルニイリスに手を差し伸べたのは、騎士団として野営の経験豊富なミリスであった。


「確かにレキの力があればどんな魔物でも倒せるかも知れん」

「うん!」

「だがその場合、倒した魔物の匂いで更に別の魔物がやってくるだろう。

 魔物を倒す音や、断末魔の悲鳴なども新たな敵をおびき寄せてしまうだろうな」

「ん?

 うん」

「うむ!」

「次から次へと魔物がやってきて、それを撃退し続ける・・・さて、いつまで戦うつもりだ?」

「いつまでって?」

「全部倒すまでじゃな」

「朝まで来続けたら?」

「えっ・・・」

「うにゃ・・・」

「は~、私達も眠れないでしょうね」

「何より危険。

 特に姫とリーニャは戦えないのだから」

「う~・・・そっか」

「なるほどのう・・・」


ミリスの説明でレキとフランがようやく理解した。


食べきれないほどの魔物。

解体するのも一苦労で、放置すればフィルニイリスの述べた通り他の魔物を呼び寄せるかも知れない。

ミリスやフィルニイリスとてある程度の魔物なら撃退できるだろう。

だが、万が一魔の森の魔物が寄ってきたら・・・。


それでなくとも数に任せて迫ってきた場合、フランやリーニャにも危険が及ぶ可能性があるのだ。

今回の目的はフランを無事に王都へ連れていく事。

その為には、危険など少ない方が良いに決まっている。


その事をようやく理解したらしい。

言われた通りホーンラビットとグラススネークを残し、後は先ほど狩りをしていた場所に置いてくる事となった。


「じゃあ捨ててくる」

「はい、行ってらっしゃい」


先ほど同様、獲ってきた魔物を両手に掲げてレキが飛んで行く。

それをフランが不満気に見送った。


「折角レキが獲ってきてくれたというのに」

「例え善意からの行動でも、相手が迷惑を被る場合はちゃんと注意しなければいけませんよ?」

「むぅ・・・」


レキの行動は間違いなく自分達の為。

リーニャとてそのくらいは分かる。

まあ、初めて見る魔物だからつい、という気持ちも少なからずあったのだろう。

それでもフィルニイリスが指摘した通り、余分な魔物の死骸は他の魔物を呼び寄せる餌となってしまうのだ。

他ならぬフランの安全の為にも、レキには申し訳ないが捨ててきてもらうしかなかった。


「干し肉にすれば良いのではないか?」

「干し肉を作るのは時間と手間、何より設備が必要。

 ここでは無理」

「街に持って行けば・・・」

「誰がですか?」

「うにゃ」


だが、そういった事情はフランには分からない話。

他の魔物が寄ってくるかも知れないというのは理解したが、それでもレキが折角取ってきた獲物を無駄にするのは気が引けるのだろう。

折角、自分達の為に、あんな遠くの丘まで行って取ってきてくれたのだ。

捨ててしまうなど勿体なさすぎる。


そう思ったのだろうフランが、何とかレキの獲ってきた魔物を無駄にしない用、頑張って意見を述べていた。

そして、そのどれもが即行で却下された。


「レキだって獲り過ぎだと分かっているから、ああして素直に捨てに行ったのです」

「む~・・・」

「レキの事を思うなら、レキが戻ってくる前に料理を済ませ暖かく迎えるべき」

「う~・・・分かったのじゃ」


ようやく納得したフランが、ミリスの指導の下魔物の解体を始めた。


「まずはこの蛇からじゃな」

「グラススネークです。

 硬く艷やかな皮膚が特徴ですが、毒もなく、腹の方は柔らかいのでそちらから解体していけば・・・」

「分かったのじゃ!」


魔物の解体には慣れているミリスがフランに解体の指示を出す。

その間にリーニャが薪を並べ、フィルニイリスが火を点けた。


皆、レキの厚意に報いるべく手分けして作業を進めている。

あれほど大量の魔物。

狩ってくるのも一苦労だっただろう。

魔物の強さ的な話ではなく、主に数と距離に関してだが。


「流石に獲り過ぎ」


フィルニイリスが呟く。


「ええ、そうですね」


それに応えつつ、リーニャが食事の支度を進める。


「普段から狩りをしているレキなら、適量くらい大体分かるはず」

「ふふっ、そうですね」

「・・・リーニャ?」


フィルニイリスの疑問に、リーニャが笑みを浮かべた。


「リーニャ?」

「はい」

「何かおかしかった?」

「いえ、フィルニイリス様の疑問はもっともですが、その答えはフラン様を見ればわかりますよ?」

「姫?」


リーニャの返答を受け、フィルニイリスがフランの方を向いた。

そんなフランは、ミリス指導の下一生懸命頑張って解体していた。


「そのまま真っすぐ」

「うにゃ~・・・」

「最後まで切れたら皮と肉を切り離します。

 後は適当な大きさに切り分けましょう」

「うむ」


「・・・なるほど」

「ええ、レキ君や私達の為に、一生懸命頑張って下さっていますね」

「レキも私達のために張り切った」

「はい。

 ただ少し張り切り過ぎたみたいですけどね」

「レキのは少しじゃない」

「それはまぁ・・・レキ君ですし」


レキの異常さに、リーニャとフィルニイリスもようやく慣れてきたところである。

レキの行動は間違いなく善意であり、自分達の為。

ただ少しだけ加減を間違えただけ。

その辺りはおいおい教えていこう、リーニャとフィルニイリスはそう思った。


なお、実際は父親に聞かされた野営時の狩りへの憧れに加え、初めて見る魔物が珍しくてつい狩り過ぎただけだったりする。

全て持ち帰ったのは褒めてもらいたかっただけで、もちろんみんなの為というのも間違いではないが、その他の要因の方が多かった。

張り切りすぎた、というのは正解である。

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