第257話:一年生武闘祭・チーム戦の部、二回戦終了
「行ってくるっ!」
「頑張ってください、レキ様」
「頑張るのじゃ!」
「決勝で待ってなさい!」
「頑張ってねっ!」
「が、頑張ってください」
和やかな昼食も終わり、午後からはチーム戦の二回戦が始まる。
最初に戦うのはレキ達だ。
フラン達の声援を受けて気合いっぱい。
ついでに昼食も食べてお腹もいっぱいだ。
先ほどまで一緒に昼食を取っていた上位クラスの面々は、第二試合がフラン達と上位クラス第二チームとの対戦である事からお互い離れた場所に移動していた。
戦う相手とはこれ以上慣れ合わない、という事なのだろう。
今更誰も気にしないだろうが、時にはそういった気持ちの線引きも必要なのだ。
気合もお腹も十分なレキ達と対戦するのは中位クラスの第二チーム。
先ほど、下位クラスのチームとチーム戦とは呼べない蛮族のような戦いを見せたチームである。
実力的にも連携的にも明らかに下。
先ほどの試合を見る限りでは、これと言った作戦も立てていなさそうなチームだ。
こういっては何だが、油断したところで負けはしないだろう。
「へっ、楽勝楽勝」
「おいカルク。
貴様はそういってゴブリンにも突っ込んだのではなかったか?」
「うっ、いやでもあん時は・・・」
「ホーンラビットの一刺しが時に致命傷となる事もある。
そもそも貴様だって油断出来るほど強くないだろうが」
「お、お前より強ぇぞ」
「なんだとっ!」
「まぁまぁ。
カルク、冒険者を目指す者として、いかなる時も油断してはいけないよ」
「む!」
「わ、分かったよ!」
とはいえ、相手も一応初戦を勝ち抜いたチームである。
強くは無いがそこまで弱い訳でもない。
負けないとは思うものの、万が一というのは常に存在する。
だからこそ気を引き締める必要があるのだ。
「・・・無様な姿は見せられんしな」
「ん?
何か言ったかいガージュ」
「いや、なんでもない」
ちらりと、上位クラスの方を見たガージュ。
そこには、ガージュの事を心配気に見つめる、とある少女がいた。
「始めっ!」
「よしっ!
レキは右か・・・」
「つっこめ~!」
『おぉ~!』
「なっ!」
開始直後にガージュが指示を出す・・・より先に相手チームが突っ込んできた。
相手が作戦を立てる前に攻める、というのが相手チームの作戦なのかも知れない。
もちろんそれが通用するほど最上位クラスは甘くない。
「仕方ない。
ガドとカルクで真ん中の三人を食い止めろ。
その間にレキとユーリで一人ずつ倒すんだ」
「お、おう」
「む!」
「わかった!」
「了解だっ!」
向こうが総当たりで来たからと言って、馬鹿正直に受ける理由は無い。
真正面からぶつかっても勝てるだろうが、連携の何たるかも知らない連中に合わせるのはガージュの矜持が許さなかった。
この試合は一年間の評価にも繋がる。
何より一年生の全生徒が、上位クラスの彼女が見ている。
無様な試合をするわけにはいかないのだ。
「「「うおぉ~っ!」」」
「うおっ!」
「むう!」
相手選手の内、脚の速かった三人がカルクとガドと接敵した。
カルクは剣で、ガドは斧で相手の攻撃を受け止める。
人数の不利をものともせず、むしろカルクとガドには相手を押し返す勢いすらあった。
「てやっ!」
「げっ!」
「はあっ!」
「うごっ!」
その間に、横から回り込んだレキとユーリがわずかに遅れていた相手選手二人を一人ずつ打ち倒した。
横から攻められるのに慣れていないのか、あるいは前だけしか見ていないのか、レキとユーリの攻撃をまともに受け二人がまず武舞台に沈む。
「よし、レキとユーリはそのまま後ろに回り込め。
挟み撃ちだ!」
「おおっ!」
「む!」
「うん!」
「ははっ。
了解っ!」
正直に言えば、そんな事しなくとも勝てただろう。
実力に差があり、それを覆ずような戦術も無い。
改めて考えてみても、真正面からぶつかったところで負けるはずが無かった。
それではチーム戦の意味が無く、指揮官であるガージュがいる意味もない。
相手が何も考えていない蛮族のような攻めをしてきたとしても、こちらは戦術をもって対抗するべきなのだ。
先ほど、とある少女に指揮官とはなんたるかを語ったばかり。
そんな彼女の手本となるような試合をガージュはするつもりだった。
「それまで!
最上位クラス第一チームの勝利!」
そんなガージュの作戦も手伝い、ただでさえ実力で上を行くレキ達はすんなり勝利をおさめた。
レキ達の決勝進出が決定した。
――――――――――
「うむ、さすがじゃな」
「ええ、ガージュさんもお見事です」
「そう?
あんな事しなくても勝ったんじゃない?」
「万が一がありますから」
挟み撃ちが上手く決まったのは、もちろん実力差があったから。
レキとユーリの速さと強さが無ければ、あれほど早く勝負はつかなかっただろう。
もちろんそれを考慮に入れた上での戦術である事に間違いなく、だからこそルミニアも素直に称賛したのだ。
「ただいま~」
「お疲れ様です、レキ様。
それに皆様も」
「おつかれ~。
凄かったね~」
「はい、素晴らしかったです」
戻ってきたレキ達をルミニア達がねぎらう。
「ふん。
あいつらが・・・いや、僕達が強かっただけだ」
照れたのか、そっぽを向きながらガージュがそんな事を言った。
実力差がありすぎた結果である事は間違いないが、相手が弱かったとは言わなかった辺り、ガージュも随分と変わったようだ。
「はっはっは!
俺たち強ぇ!」
「いや、油断は禁物だよ」
「むぅ!」
カルクが胸を張り、ユーリが嗜める。
そんなユーリも笑顔で、ガドも満足げに頷いた。
ガージュの作戦が上手くいった事に手ごたえを感じたのだろう。
女子との模擬戦では、相手の作戦にまんまとはまり負ける事が多かった。
チーム戦の醍醐味である、戦術を駆使した戦いとそれがもたらす勝利。
個人戦とは違う楽しみを、カルク達もようやく知る事が出来たのだ。
「では私達も行ってきます」
「勝ってくるぞ!」
「次はあんたたちだからねっ!」
「行ってくるっ!」
「が、頑張りますっ!」
レキ達と交代で、フラン達が武舞台へと向かう。
これが終われば次はいよいよ決勝戦。
先に待つレキ達と戦えるのはフラン達かそれとも・・・。
「頑張ってね!」
「勝てよなっ!」
「気をつけて」
「む!」
「ふん」
決勝で待つレキ達の激励を受け、フラン達の決勝進出を賭けた戦いが始まる。
――――――――――
「準決勝第二試合、始めっ!」
準決勝第二試合。
最上位クラス第二チームのフラン達と、上位クラス第二チームとの戦い。
初戦はお互い戦術を用いて戦った両チームである。
今回も、いや今回こそ、ようやくチーム戦らしい試合が行われる事だろう。
「ユミさんとミームさんは前に。
フラン様は待機をお願いします」
「うん!」
「分かった!」
「分かったのじゃ!」
「ファラさんは魔術の準備を。
合図は私が」
「お、お願いします」
「タムさんとヤンライさんは正面のお二方を。
マーチャさんは側面に回り込んでください」
「おう!」
「ふっ、仕方ない」
「分かったわ!」
「シーラルさんは魔術を!
私が援護します」
「はい」
お互い、指揮官を中心に隊列を展開する。
ユミとミーム、タム=イフィスとヤンライが接敵し、戦いが始まった。
「おらおらっ!
獣人がなんだっ!」
「はっ?
何言ってんのよ」
「ふっ、貴族である僕が平民なんぞに」
「へ~」
おそらくは上位クラスで何かあったのだろう。
獣人であるミームを目の敵にするように激しく攻め立るヤンライ少年。
一方、ユミと戦うのは準男爵なタム=イフィス。
父親が爵位を持っているものの、本人はほぼ平民な少年である。
初戦では指示を無視して行動した二人だったが、今回は一応指示どおりに動いているようだ。
「勝手な行動をされるくらいなら初めから突っ込ませた方がいいだろう」
というガージュの助言に指揮を執るライラが従っただけだったりするのだが、この作戦はある意味上手くいったようだ。
「"青にして慈愛と癒やしを司りし大いなる水よ"・・・」
「ファラさん、後衛の方に魔術を。
威力より速度重視でお願いします」
「は、はいっ!」
一方、指揮官であるライラの指示で上位クラスの後方支援担当シーラル=レイザが詠唱を始めた。
唱えるのは初戦と同じ青系統の初級魔術。
作戦としては申し分ない指揮だが、魔術に関しては覆せない圧倒的な差が最上位クラスとの間にはある。
「"我が手に集いて"・・・」
「はあっ!」
「"立ちはだかっ"、えっ、うそっ、きゃあ」
詠唱魔術と無詠唱魔術。
詠唱を必要としない魔術は、相手が呪文を唱え始めた後からでも間に合ってしまう。
上位クラスと最上位クラスの実力差、その一端がこの無詠唱魔術なのだ。
「シーラルさんっ!?
マーチャさん、シーラルさんをっ!」
「えっ、わ、分かった」
指揮官として、何より大事なのは常に冷静でいる事。
それもまたガージュに教わったライラは、一瞬取り乱すもすぐに立て直そうとして・・・。
「そんな時間はあげませんっ!
フラン様行きましょう!」
「うにゃ!
分かったのじゃ!」
その間を与えるものかと、ルミニアとフランが攻めに出た。
「やあっ!」
「きゃあっ!」
「うにゃにゃ!」
「きゃうっ!」
最上位クラスでも上位に位置するフランとルミニア。
二人のコンビネーションは身体強化をしていないレキと何度か打ち合えるほどに高い。
上位クラスのライラとマーチャが敵うはずも無く、二人はあっけなく武舞台に沈んだ。
「たあっ!」
「がっ」
「え~い」
「ふぐっ」
それと前後して、前衛のミームとユミも相手を倒したようだ。
「それまで!
最上位クラス第二チームの勝利」
準決勝第二試合はフラン達が勝利した。
チーム戦の決勝は、レキ達最上位クラスの第一チームと、フラン達最上位クラスの第二チームとで行われる事となった。
――――――――――
「負けました・・・」
「ありがとうございました」
試合後。
チームの指揮官として、互いの健闘を讃え合うライラとルミニア。
終えたばかりの、それも負けた試合を笑顔で振り返る事が出来る者など一年生では特に少ないだろう。
「くっそ!
獣人の癖にっ!!」
「き、貴族である僕がまた・・・」
特に、負けが続いていたり、あるいは根拠のない自信を持っていたりする者ほどその傾向は強かった。
「あの、無詠唱のコツを教えて頂けませんか?」
「えっ、私ですか?」
「はい、ぜひ」
「速すぎます。
私では追いつけません」
「ふっふっふ、鍛錬あるのみじゃな」
「何よ、朝起きられないくせに」
「なっ、それは言わぬ約束じゃぞ」
「何が約束よ」
「あはは~」
この年頃では、男子より女子の方が精神的に大人なのだろうか。
同じ魔術士として無詠唱のコツをファラスアルムに教わろうとするシーラル=レイザ。
フランの速度に翻弄され、何もできずに終わったマーチャ。
敗因は純粋な実力差。
だが、それは日々の研鑽の成果でもある。
「わ、私もまだ二つしか無詠唱では・・・」
「二つも出来るなんて凄いです。
私なんて詠唱ありでも三つしか・・・」
「次はわらわの番じゃからな!」
「なんでよ、次は私でしょ!」
「え~、ミームは朝も手合わせしたんでしょ?
次はわたしじゃない?」
「ちょ、なんでよ!」
「なるほど、こうやって日々競い合っているのですね」
「ふふっ、皆さん仲良くなれそうですね」
「はい、良かったです」
落ち込んでいる男子二人をよそに、女子達は仲良く交流を始めた。
「ライラさんはよろしいのですか?」
「えっと、私はその・・・」
試合前、ガージュにも簡単な手ほどきを受けたライラだが、指揮能力ではルミニアの方が上。
教わりたい事は山ほどあった。
「でしたらガージュさんも交えてお話ししましょうか」
「えっ!?」
「ふふっ、一年生の生徒でまともに指揮が出来る方は少ないですからね。
二人より三人です」
「で、でもそれは・・・」
「あっ、ミルさんもいましたね。
では三人より四人という事で、ねっ?」
「えっ、あ・・・はい」
「ふふっ」
珍しく強引なルミニアの誘いに、ライラも思わず頷いた。




