第256話:一年生武闘祭・チーム戦の部、一回戦終了
「ふんっ、それでいいんだ・・・」
「えっと、ガージュ?」
「・・・はっ!」
ふとガージュが周りを見渡せば、誰もがガージュを見ていた。
「あ、いやその・・・」
「ふふっ、試合に興奮するなんてガージュさんにしては珍しいですね」
「えっ、いや・・・」
「それとも同じ指揮官としていてもたってもいられなくなりましたか?」
「あ、ああ、まぁそうだな。
なというかその、あまりにも不甲斐なかったのでつい・・・」
「ふふっ、まだ不慣れなのでしょう。
もう少し温かい目で見てあげなければ」
「ああ、そう、だな・・・」
ルミニアがガージュをフォローするかのようにいち早く声をかけた。
同じ指揮官として、連携が乱れた時にどう立て直すかというのは確かに共通する悩みなのだろう。
幸い、ルミニアもガージュも連携が乱れる事はあっても仲間が好き勝手行動し始めた事はあまり無い。
女子はまとまりが良く、誰もがルミニアの指示をちゃんと聞いてくれる。
男子は・・・カルクがたまに暴走しそうになるが、ユーリの的確なフォローで事なきを得ている。
意外にもレキはガージュの指示をちゃんと聞くし、ガドはどっしりと構えている。
それでも同じ指揮官として、つい思い入れてしまったのだろう。
そう、周りは判断したようだ。
「ふふっ・・・」
「・・・くっ」
ルミニアの笑顔が、なぜか小悪魔のように見えるガージュだった。
――――――――――
「それでは行ってきますね」
「行ってくるのじゃ!」
「見てなさいよ」
「へへ~、勝つからねっ」
「が、頑張りますっ!」
一回戦第三試合が終わり、お次はいよいよフラン達の出番である。
いつもどおり落ち着いているルミニアを先頭に、気合一杯なフランとミームが続く。
ユミが笑顔で勝利宣言をし、先ほどまで緊張していたファラスアルムですら両手を握りながらふんすっ!とやる気を見せているのは、やはりみんなと一緒だからだろう。
「頑張ってね」
「負けんなっ!」
「ふん」
「ははっ、決勝で待つよ」
「む!」
見送るレキ達は、彼女達の勝利を微塵も疑っていない。
模擬戦では何度か敗北しているのだから、今更心配など不要だろう。
「私も応援しております。
頑張ってくださいね、フラン様、ルミニア様」
一緒にいたミルからの激励をも受け、フラン達が意気揚々と武舞台へ向かう。
武闘祭一回戦最後の試合。
フラン達と対戦するのは、下位クラスの第一チームである。
「・・・あ~」
試合の結果は・・・言うまでもない。
むしろ言葉にするのを憚れるくらいだった。
実力差がある為、今回はユミをファラスアルムの護衛に残し、フランとミームを遊撃要因に回した。
指揮を執りつつ前衛に立つルミニアだったが、勝負はファラスアルムが魔術を放つより先に終わってしまった。
フランとミームが左右から攻撃をしかけ、一撃で下位クラスの二名が脱落する。
簡単な指示を出したルミニアが相手チームの前衛、目の前にいた少年に槍を突き出せば、少年もまた一撃で倒れた。
残る二名もまた、引き続きフランとミームがそれぞれ倒してしまった。
「それまで。
最上位クラス第二チームの勝利」
予想どおりと言えばそれまで。
乱戦になる事もなく、フラン達はあっけなく勝利した。
――――――――――
「お疲れ~」
「ありがとうございます、レキ様」
「ふふん、どうじゃ!」
「まあ当然よね」
「えへへ~、勝てたねぇ~」
「はい、勝てました」
フラン達をレキがねぎらう。
さすがに今回は実力差がありすぎた。
連携訓練をしっかりと重ねた最上位クラスの仲良しチームと、連携訓練もろくに取っていない下位クラスとの勝負ではあったが、連携以前に実力差があり過ぎたのだ。
所属クラスを考えれば当然の結果と言えるだろう。
「さて、次はレキ様達です。
頑張ってくださいね」
「うん!」
「っと、その前にお昼じゃ」
「そうよ、腹が減っては戦いは出来ないのよ!」
チーム戦は、予定どおり進めば一日で終わる。
午前中に一回戦が、午後からは二回戦以降が行われる予定だ。
今のところは順調に消化しているが、実のところこれは珍しかったりする。
最上位クラス以外の試合を見ればわかる通り、チーム戦と言いつつ実際は十人が入り乱れての乱戦となる事が多いからだ。
二年生以上であれば、集団戦闘の大切さを理解した生徒達による正しい(?)チーム戦が行われるのだが、一年生にそれを望むのは厳しい。
さほど乱戦が見られない今年の一年生は、これでも優秀な方なのだ。
「あの、私もご一緒させて頂いてよろしいでしょうか」
「む?
もちろん構わぬぞ」
「ありがとうございます」
先ほどまで一緒に試合を見たり、ミリスについて語り合っていたミルも一緒に食事をする事になった。
他の上位クラスの面々も集まりだし、いつもより賑やかな食事となった。
食堂ではなく観覧席でのお弁当という事もあってか、何となく野外演習を思い出すレキ達である。
「あん時ゃ大変だったんだぜ」
「大変だったのはレキだろうが。
貴様は迷惑をかけた事をもう忘れたのか」
「あははっ」
野外演習の思い出といえば、やはりゴブリンとの戦闘である。
抜け駆けしつつ逆にやられそうになったカルクが、何故か武勇伝の様に語り始めた。
「ミルさん達はどうだったのですか?」
「それがその・・・怖くて」
「まぁ仕方ないのじゃ」
「初めてだったんだよね?
うん、しょうがないよ」
もちろん、上位クラスの生徒もゴブリンと対峙した。
最上位クラスと違い、他のクラスは三十人いる為とりあえず五人ずつ六つのチームに分かれて森に入ったのだ。
それぞれに護衛の騎士が付き、何も知らない彼らは意気揚々と方々から森へ入って行く。
レキのような探知能力を持つ者はおらず、野外演習の目的地としか知らされていない森の湖へと向かって行くミル達。
もう一時間も歩けば湖に辿り着く、そんな折に襲ってきたゴブリンの群れに驚き、慌てふためく生徒達。
あの好戦的なライ=ジですら、突然の事に斧を構える事も出来ず、ただ湖の方へと駆け出したそうだ。
「獣人のくせに情けないわね・・・」
「なっ、う、うっせぇ」
「突っ込めばいいという話しではありませんけどね」
「う・・・」
立ち向かうのが正解というわけではない。
ミームに劣る実力のライ=ジでは、一匹仕留めるので精いっぱい。
群れで襲ってくるゴブリンを相手にしたなら、確実に返り討ちにあってしまうだろう。
反面、ミルは立ち向かう事は出来なかったものの、ライ=ジのように逃げだすこともしなかった。
逃げ遅れた生徒や、恐怖で脚がすくんだり腰を抜かした生徒を何とか立たせようと、恐怖をこらえつつ必死になって声をかけていたそうだ。
「おお、それは凄いのじゃ!」
「い、いえ、私はその・・・」
「ふふっ、さすが騎士を目指す方は違いますね」
「そ、そんなっ!
私なんて全然・・・」
守るべき者の前に立つのが騎士である。
だが、ただ前に立てば良いというわけではない。
時に騎士は、守るべき者の為、敵に背を向ける事も必要なのだ。
騎士とは、守るべき存在を最後まで守り通す者を言うのだ。
「ミリスはそう言うておったぞ」
「ミリス様が・・・」
「そういう意味では仲間を守ろうとしたミルは立派な騎士じゃな」
「あ・・・ありがとうございますっ!」
「「・・・」」
「ふん、奴の爪の垢でも貰ってこい」
ガージュの言葉に、そっぽを向くカルクとミームであった。
――――――――――
「あの、ガージュ様」
「ん?
どうしたラ・・・お前は?」
「あ、はい。
上位クラスのライラ=イラと申します。
あの、先ほどの戦術、指揮はお見事でした。
それでその・・・同じ指揮官としてお話出来たらと思いまして」
「ふん、そういう事なら仕方ない。
ああ、お前の指揮もなかなかだったぞ。
ただ、途中で焦ったな、あれは減点だ。
指揮官は常に冷静でなければな」
「はい、分かってはいるのですが・・・」
「ふん。
まぁこちらにも問題児はいるからな。
お前の気持ちも分からなくはない」
「あらっ?」
「ん?
どうしたのじゃルミ?」
「いえ、ガージュさんとあれは確か・・・」
「ライラさんですね。
イラ男爵家の次女で、実力もさることながら広い視野をお持ちの方です」
「そうですか・・・ライラさん」
ガージュと同じく、ライラも先ほど上位クラス第二チームの指揮を執っていた。
同じ指揮官として語り合いたい事は多いのかも知れないと、そんな二人をルミニアがこっそり見守る。
初対面のように自己紹介から入った二人であるが・・・。
「ふふっ、なるほどそういう・・・」
「んにゃ?」
なんにせよ、これまでほとんど交流の無かった他クラスの生徒と仲良くなるのは悪い事ではない。
ルミニア自身、レキやフランを通じてミルとだいぶ打ち解けている事だし、他にも。
「くそっ、次は絶対負けねぇかんなっ!
いいな、ミーム!」
「はいはい、そういうセリフはせめてファラに勝ってからにしなさい」
「えっ、そんなっ」
個人戦では当たらず、チーム戦でもミームのいないレキ達に負けたライ=ジが再戦を勝手に誓い。
「レキ様は毎日鍛錬をなさっているのですよね?」
「うん。
一日休んだらその分訛るってミリスが」
「騎士団の皆は鍛錬馬鹿じゃからな」
「な、なるほど・・・」
尊敬するミリスの弟子という事で仲良くなったレキとミル、それとフラン。
「いいかい、貴族という者はだね」
「いや、貴族と言っても僕は三男だし」
同じ貴族という事で打ち解けた(?)ユーリとタム=イフィスなど。
そこかしこで交流が行われていた。
試合に出ていない生徒も、同じクラスの代表であったチーム戦の選手の周りに集まっており、交流は和やかに行われていた。




