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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十二章:学園~武闘祭・予選~一年生の部~
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第255話:他クラスの状況

「・・・これは酷い」

「まだましな方だと思います」


武舞台で行われているのはチーム戦の二試合目。

中位クラス第二チームと下位クラス第二チームの試合である。


試合開始の合図とともに、両チームは何の作戦も無くお互い真正面からぶつかり合った。

時折聞こえる叫び声は果たしてどちらの声か。

観覧席から見えるその光景は、蛮族同士が無策で突撃し、壮絶に殴り合っている様にしか見えなかった。


「ゴブリンでももう少しましな戦いするよな」

「いや、さすがにそれは・・・」


実際にゴブリンに殺されかけたカルクである。

己の実体験と目の前の乱戦を比べ、どちらがより厄介か考えていた。


「あれっ、なんか変わった?」

「そうですね・・・でもこれは」


そうこうしている内に試合の流れが変わった。

いや、実力的に劣る下位クラスが、このままでは負けてしまうと考えたのだろう。

慌てて戦術(?)を変えてきたようだ。


だが、その戦術もまた蛮族のようだった。


「さ、さすがに一人に対し五人がかりというのは・・・」

「そ、そうだな。

 レキを相手にしているわけでもあるまいし・・・」

「ん?」


名前を呼ばれたレキが反応する。


武舞台で行われている戦い。

先ほどの、全員が真正面からぶつかり合う乱戦から変わり、下位クラスの方が中位クラスの一人を五人で囲うという戦法に切り替えていた。

個々の実力で劣る下位クラスが数で補うと言うのは分からないでもない。

五人同時に襲い掛かられては、実力で上回る者とて負ける可能性が高いからだ。


彼らは誰一人としてレキではない。

下位クラスと中位クラスの実力差は、五対一を覆せるほどではないのだ。

だが・・・。


「・・・だよな」

「ああ」


下位クラスが五人いるのと同様、中位クラスも五人である。

下位クラスが五人で中位クラスの一人を襲い掛かるという事は、中位クラスの残り四人が空くという事に他ならない。


「奴らは何がしたかったのだ?」

「ん~・・・」


五人で一人を袋叩きにしていたのは最初だけ。

すぐさま残り四人が参戦した。

ただし、袋叩きにあっている一人を助けるのではなく、囮のように放置したまま周囲(背後)から攻撃を仕掛けるという方法で。

袋叩きにあっていた一人は実に可哀想だったが、試合は中位クラスの勝利で終わった。


「盾持ってる奴が突っ込んでったぜ」

「魔術士でしょうか、杖を持った方も普通に戦ってましたね」

「弓持ってる人いたよ」

「えっ、ほんと」

「うん。

 でも弓で殴ってた」


先程の試合を振り返り、レキ達が語り合う。

参考になる事は無く、むしろどうしてああなったという感想しか出てこなかった。


盾を前面に構え、そのまま敵陣に突っ込んでいった生徒。

杖を持ちつつ、魔術を放つ事なく殴りに行った魔術士らしき生徒。

弓を持ちながら距離を取る事をせず、その場で攻撃を始めた生徒。

もはや何も考えていないのではないか、と言った具合だった。


「あっ、次が始まるよ」


あ~だこ~だと話している内に、武舞台上には第三試合に出る生徒達が集まっていた。


「中位クラスの第一チームと上位クラスの第二チームですね」

「・・・うむ」

「折角ですので知ってる方にお聞きしましょう」


ルミニアの説明にガージュがこっそり頷く。

ガージュのそんなそぶりにルミニアは気付いたが、あえてそこには突っ込まず同じ上位クラスの生徒に解説をしてもらおうと、近くに座るミル=サーラに目を向けた。


「その時、ミリスの奴がじゃな」

「まぁ!」

「えっと、ご歓談中申し訳ありませんフラン様」

「うにゃ?

 なんじゃルミ。

 もう試合か?」

「いえ、今は第三試合が始まるところです。

 そうではなく、ミルさんに少しお聞きしたいことがありまして」

「私ですか?

 はい、構いませんよ」


先ほどからミリスの話題で盛り上がっていたフランとミル。

大ファンであるミリスの、己の知らない様々なことが聞けて大変上機嫌である。


「上位クラスの皆さんは、連携訓練の練度はどの程度なのでしょうか?」

「連携訓練ですか?

 いえ、ほとんど行ってませんよ?」

「えっ?」


ミル曰く、連携訓練が始まったのは光の祝祭日の休暇が終わった後、武術大会の話を聞かされてから。

日数にして二十日ほど前。

訓練自体、授業中に行った程度でしかない。


「チーム戦があるから仕方なく、ですか?」

「はい。

 皆さん個人戦の方に興味がありましたので」


野外演習で魔物の脅威を知った生徒達が、その脅威に打ち勝つ為それぞれが鍛錬に励むようになったのが光の祝祭日前。

光の祝祭日の休暇後に武闘祭を知らされ、鍛錬の成果を披露するにはもってこいの場でもあるからか更に鍛錬に勤しむ生徒達。

だが、それはあくまで自分の実力を披露したいというものであって、皆で頑張ろうというものではなかった。


入学して以来、皆で協力するような機会などほとんどなかったのだ。

今更チーム戦があります、皆で頑張りましょうと言われても、素直に従う生徒は少なかった。


「連携訓練に費やす時間があるなら、その分自身の鍛錬に費やしたいですから。

 一年の評価がかかっているならなおさらです。

 誰かと協力する余裕など私達にはありませんわ」

「・・・あ~」


チーム戦における評価というのは分かりづらい。

仲間同士で役割を決め、上手く連携が取れれば評価も上がるのだろうが、そこはやはりまだ子供の生徒達である。

誰かを補佐するより己が前に出たい、誰かに敵を倒してもらうより自分で倒したい、とにかく活躍したい。

そういう気持ちがどうしても出てしまう。


一試合目のミルやライ=ジやが良い例だろう。

誰かに任せるのではなく自分が・・・という気持ちがどうしても捨てきれないのだ。


ルミニア達とてその気持ちは分からなくもない。

誰だって自分が活躍したいという気持ちは捨てきれないものだからだ。

この年齢で他者のサポートに専念できる、ルミニアのような生徒の方がむしろ珍しいのである。


「一人では勝てない方がいればわかりませんけどね」

『・・・あ~』

「ん?」


そう言われ、思わずレキを見る最上位クラスの面々である。


最上クラスが纏まっているのもある意味レキがいるから。

個人戦では勝てずともチーム戦なら勝てると意気込んでいる女子と、レキ一人に活躍させまいと団結しているガージュ達。

動機としてはあまり褒められたものではないが、レキを仲間外れにしないだけマシだろう。

まぁそれも評価を気にしての事だが。


「そう言えばチーム戦の評価ってどうなるんだ?」

「・・・勝てばそれなりに評価される、はずです」

「・・・そうですね」


カルクの疑問にファラスアルムが答えた。

トーナメント方式を採用している以上、勝ったチームはそれなりに評価が上がる。

優勝すれば尚更で、それがどれほど拙い戦闘であっても負けるよりマシだろう。


「では第三試合、始めっ!」

『わぁ~!』


武舞台上では、第三試合が始まっていた。


――――――――――


「今度はなんかまともだぞ?」

「ええ、先ほどよりずいぶんマシですね」


第三試合、中位クラス第一チームと上位クラス第二チームの戦い。

試合開始の直後、我先にと駆け出した中位クラス。

対する上位クラスは、前衛後衛に分かれて隊列を組み始めた。


「ヤンライさんは正面をっ!

 マーチャさんは左をお願いしますっ!」

「おうっ!」

「はいっ!」

「シーラルさんは魔術をっ!

 タムさん、シーラルさんを守ってください」

「ええっ!」

「ふっ、仕方ない」


「おっ、なんか指揮してるぞ」

「そうですね」


武舞台では、上位クラスの一人が矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。

彼女がチームの要なのだろう。

武器を片手に迫りくる中位クラスに対し、連携をもって対処しようとしていた。


「ん~、でもよ。

 あれなら真正面からぶつかった方が早くね?」

「いえ、あくまでこれはチーム戦ですから」


相手の方が強ければ、彼女達のように連携をもって戦わなければ勝ち目は無い。

だが、今回の相手は彼女達より下、中位クラスの生徒達である。

連携を取らない、というより取れない者達を相手に堅実に戦う上位クラスの姿が、カルクにはまどろっこしく映ったようだ。


「ああいった力押しで攻めてくる相手にどう対処するかも評価のポイントだろう。

 そういう意味ではあいつらの戦いは間違ってない」

「さすがガージュ。

 よく見てるね」

「・・・ふんっ!」


ちょうど、魔の森で数を頼りに攻めてきたゴブリンの群れのように、全員でがむしゃらに挑んでくる中位クラス。

対する上位クラスは、それぞれが役割を持って戦っていた。


「・・・討ち砕けっ!"

 "ルエ・ブロウ"」

「おっ!」

「よしっ!」


仲間に守られ、詠唱し終えた生徒による魔術が放たれた。

放たれたのは初級魔術だったが、なにも考えずただ真っ直ぐ突っ込むだけの者達では避ける事も防ぐ事も出来なかったようだ。

まず一人、中位クラスの生徒が場外に飛ばされた。


「よしっ!

 一気に畳みかけろっ!」

「えっ、ちょ、待ってくだ・・・」

「ふっ、僕に任せろっ」

「タムさん、まだっ!」


形勢が決まるかと思われた一撃。

それが上位クラスの生徒達を調子づかせてしまったらしい。

前衛を担当していた男子生徒と魔術士を守っていた男子生徒。

相手の攻撃を受け続けていた鬱憤を晴らすように、二人は指示を無視して突貫を始めた。


「あぁ!

 ど、どうしましょう・・・どうすれば」


今までが上手くいっていただけに、指揮官の少女が突然崩れた連携に戸惑い始めた。


初めてのチーム戦。

訓練中は上手く出来た事も、ちょっとした事で乱れてしまう。

上位クラスの生徒はなまじ実力があるだけに癖の強い者が多い。

レキ達と戦ったライ=ジなどが良い例である。


ミルが言った通り、生徒は誰もが活躍したいと思ってしまう。

勝利が目前ともなれば、少しでも点数を稼ごうと功を焦る者が出てもおかしくはない。


「おらっ!

 さっきはよくもやってくれたなぁ!」

「ふっ。

 所詮君たちは貴族である僕の敵ではないのだよ」


その良い例、具体例が目の前の光景だった。


相手側が完全に崩れていたなら、このまま押し切れたかも知れない。

だが、倒したのはまだ一人。

残り四人は健在であり、今なお上位クラスへ攻撃を仕掛けている最中である。


それでも一人でも多く倒そうと、二人の少年ががむしゃらに攻め続ける。


「シ、シーラルさん魔術は・・・」

「えっ、でもこの状況じゃ」

「そ、そうですよね・・・。」

「ライラさん、私はどうすれば」

「えっ、あ、マーチャさんはその・・・」


想定外の状況。

突然崩れた連携に指示を出せずにいる指揮官の少女。

残った二人の少女達も、今の状況に何もできずにいた。


「落ち着けっ!!」

「うぉうっ!」


じっと見ていたガージュが、突然立ち上がり叫んだ。


ガージュの突然の行動に驚くカルクである。

カルクだけではない。

ガージュの行動に、最上位クラスの誰もが驚いていた。


「っ!

 シ、シーラルさんはもう一度魔術をお願いしますっ!

 マーチャさんはお二人の援護を。

 私はシーラルさんを守ります!」

「「は、はいっ!」」


そんなガージュの声が届いたのか、上位クラスの指揮を担当する少女が改めて指示を出し始めた。


実力的には彼女達の方が上である。

一人倒した事で、数の上でも有利となっている。

前に出た二人も一応は上位クラスの生徒。

援護に向かった少女のおかげもあり、シーラルと呼ばれた少女が呪文の詠唱を終えるまで何とか持ちこたえていた。


「"ルエ・ブロウっ!"」

「うらぁ!」

「ふっ」


後衛の魔術が再度放たれ、また一人中位クラスの生徒が場外へと飛ばされた。

三人となった中位クラスに前衛に躍り出ていた上位クラスの三人が襲い掛かる。

数で互角なら後は実力勝負。


一回戦第三試合は、上位クラス第二チームが辛くも勝利した。

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