第251話:一年生武闘祭・個人の部、決勝戦
「最上位クラス所属、ミーム=ギ」
「はいっ!」
「最上位クラス所属、レキ」
「はいっ!」
一年生による武闘祭予選、決勝戦。
それぞれのブロックを勝ち抜き、さらには準決勝で他ブロックの勝者にも勝利した二人が武舞台に上がった。
二人とも最上位クラスの生徒であり、ほぼ毎日のように手合わせをしている二人である。
「手加減なんかしたら承知しないからね」
「うん」
正直に言えば、この試合の結果ほど予想出来るモノは無いのかも知れない。
少なくとも、最上位クラスの生徒達はレキが勝つと思っている。
「万に一つ」というのは、一万回やって一度あるかないかという事なのだから。
「全力で行くから」
「うん」
今までミームがレキに挑んだ回数は数えきれず、勝利した事は一度もない。
それでも、ミームの中に諦めるという気持ちは欠片も無い。
万が一しか勝利の可能性が無いなら、その万が一に賭ける。
いや、万が一を手にする為に全力で挑む。
それがミームのやり方だ。
「始めっ!」
「やあっ!」
合図の直後、ミームが全力で飛びかかった。
身体強化を施し、全力で拳を突き出した。
「ていっ!」
開始の場所から一歩も動かず、レキがミームを迎え撃つ。
突き出された全力の拳を左の剣で受け流し、すぐさま右の剣を突き出した。
「なんっのっ!」
その剣を、ミームもまた左の小手で逸らした。
先ほどのユミとの試合と同じ、受け止めるのではなく受け流す事でレキの隙を作る作戦なのだ。
「やあっ!」
「とっ!」
ミームが右の拳を繰り出し、レキが左の剣で受け流す。
毎日のように行われている手合わせにも似た流れ。
だが、これは手合わせでも模擬戦でもない。
一年生で一番強い者を決める大会、その決勝戦だ。
ミームが全力で挑む。
レキに勝つ為に。
「ややややっ、やあっ!」
拳だけでレキの防御は崩せない。
ミームが蹴りをも繰り出す。
いつもなら脚を使って相手の懐に入り、拳を繰り出す。
防がれたなら距離を取るのがミームの戦闘スタイルである。
だが、レキを相手にその戦法は悪手でしかない。
ミームの攻撃は確実に防がれる上に、距離を取ろうにもほんの僅かな隙にレキの双剣が振るわれるからだ。
今日までの手合わせでミームはそれを十分に学んだ。
レキ相手に引くのは愚か。
故にミームはその場に留まり、腕だけでなく脚をも使って連撃を繰り出し続ける。
獣人の機動力を生み出す脚力、それを攻撃に生かせば常人なら受けきれずに吹っ飛ぶだろう。
「やあっ!」
「わっとっ」
もちろんレキには通じない。
いつもと違うミームの戦い方にもレキは即座に対応する。
いつもより手数の多いミームの攻撃に、レキが剣速を上げて対処した。
「おおっ、すごい」
「さすが獣人」
「さすが最上位クラスだ」
他クラスの生徒達がミームの激しい攻撃に歓声を上げた。
一年生の中で、これほどの連撃を繰り出せる者はそうはいない。
その攻撃を二本の剣で受け流せる者も。
先ほどから、レキは開始位置から動いていない。
レキの方から手を出さず、二本の剣を用いてミームの攻撃を防ぎ続けている。
「う~ん、あのままじゃまずくね?」
「それはどっちがだい?」
「そりゃ・・・」
レキは一歩も動かずミームの攻撃を防いでいるのだ。
武舞台のほぼ中央。
試合開始からずっと、レキはその場で剣を振るい続けている。
身体強化もせず、ただ二本の剣のみで四肢を使ったミームの連撃をさばき切っている。
それに気付ける者は少ない。
最上位クラスの生徒達は、二人の実力を知っているからこそどちらが優勢なのかが分かった。
試合開始からずっと全力で攻撃を繰り出しているミームと、それを足も使わずその場で二本の剣だけでさばいているレキ。
そこにあるのは絶対的な実力差。
試合開始からずっと、ミームは手加減無しの全力でレキに挑み続けている。
だがそれも、終わる時が来てしまう。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・」
最後まで防御が崩せず、大振りの蹴りを防がれた反動でミームが距離を取った。
息を荒げているのはもちろんミームの方で、レキの呼吸は乱れていない。
「どうする?」
「ま・・・まだまだぁ~!」
膝に手を置き、必死に呼吸を整えるミームに審判が声をかけた。
今の状況を見れば、どちらが真に優勢なのか嫌でも分かっただろう。
怪我こそ無いものの体力をほぼ使い切ったミームと、平然と構えるレキ。
一目瞭然な実力の差が、そこにはあった。
――――――――――
「お、おい・・・」
「そんな・・・」
先ほどまでミームの方が優勢だと思っていた他クラスの生徒も、己の考えが違っていた事に気付いた。
ミームが一方的に攻めていたのではない。
攻め続けなければ負けてしまうから、全力で攻撃し続けるしかなかった。
体力の配分など考えている余裕は無く、ただただひたすらに攻め続けるしかミームには出来なかったのだ。
それでも、レキの防御を崩せる可能性は低かった。
それでも、そのわずかな可能性に賭けるしか無かった。
ルミニアのように戦略を駆使する事はミームには出来ない。
ユミのように、ただひたすらに攻撃する事しかミームには出来ない。
それでも崩せないほどの実力差が、そこにはあった。
「やあぁっ~~~!」
呼吸を整え、ミームが渾身の一撃を繰り出した。
全力で繰り出される大振りの一撃は、レキなら容易くかわせるはずだった。
だが、レキはその攻撃を真っ向から受け止めた。
「やあっ!」
防がれた拳をそのままに、今度は蹴りを繰り出す。
双剣を十時に構えて拳を受け止めていたレキは、その場で頭を下げる事で蹴りをかわした。
「まだっ、まだあっ!」
ミームの攻撃は終わらない。
蹴り上げた足の勢いを利用して、もう片方の足で追撃する。
一瞬、レキに無防備な背中を晒しながらも、頭を下げた分低くなったレキに全力の蹴りを見舞う。
残り少ない力を注ぎ、繰り出された蹴りを、レキは再び両の剣で受け止めた。
「てやっ!」
「あぐっ」
その際ほんの少し剣をずらしていたレキが、ミームの体制が崩れた隙に剣を突き出す。
防ぐ事も出来ず、ミームはその一撃をまともに食らってしまった。
決定的な一撃に見えた。
刃引きされていなければ致命傷であっただろうその一撃。
体力がほぼ尽きている今のミームが耐え切れるものでは無い。
・・・はずだった。
「まだっ・・・まだあっ!」
それでもミームは倒れなかった。
試合前、ミームはレキに手加減するなと言った。
その言葉に応えたのか、レキはミームの攻撃を真っ向から受け止め続けた。
おかげで、試合が始まってからずっと全力でぶつかる事が出来た。
まだ、試合を終わらせたくなかった。
自分より弱いと思っていたユミが、あんなにも強く、そして全力でぶつかってきた。
そんなユミに勝ったミームが、こんなところで諦めるわけにはいかなかった。
その想いとは裏腹に、足は動いてはくれなかった。
レキとの距離はだいぶ離れていた。
普段のミームなら一足飛びで詰められる距離。
今のミームにはその最初の一歩を踏み出す力が残っていなかった。
試合開始から全力で攻め続け、空っぽになった体力。
残っていた気力すら、先ほどの一撃で無くなっていた。
意識を保っているだけで、精一杯だった。
立っているのは、獣人であるミームの闘争本能とでもいうべき意思の力だった。
そんなミームに、レキがしてあげられる事は一つだろう。
「・・・えいっ」
「あっ・・・」
ミーム以上の速度で接近し、ミームが反応できない一撃で意識を刈り取った。
「それまでっ!
勝者、レキ!」
「ふぃ~・・・」
時間にすれば一時間にも満たなかった。
だが、それを短いと感じた者はいないだろう。
ミームの猛攻、それを受け続け、一撃も食らわなかったレキの強さを見誤る者ももはやいない。
一年生による武闘祭予選。
その優勝者にして一年生最強の生徒、その名は・・・レキ。
キリも良いので本年の更新はここまでとさせて頂きます。
再開は2021年1月7日を予定しております。
皆様良いお年を




