第248話:一年生武闘祭・個人の部、準決勝第一試合
誤字報告感謝です。
「うにゃ~!
負けたのじゃ~!」
「ふふんっ!」
「今回はミームさんの鍛錬の成果ですね。
フラン様ももっと早起きして・・・」
全力で悔しがるフランと、そんなフランの前で思いっきり胸を張るミーム。
同じクラスの仲間で、友達で、普段は仲の良い二人ではあるが、勝負となれば話は別。
勝者は胸を張り、敗者は全力で悔しがる。
それでこそ次も真剣に戦えるというものだ。
慰めるふりして小言を言うルミニアは、どこかリーニャに似てきている。
「ファラも残念だったね」
「いえ、私は十分です」
一方、ファラスアルムは試合の結果にむしろ満足していた。
持てる力の全てを出しきったからだ。
本人的には初戦を突破できただけでも十分で、才女であり尊敬しているルミニアとブロック決勝で競えるなど思ってもいなかったのだ。
「ふん、貴様も最上位クラスなんだ。
そのくらい当然だ」
「うん、そうだよね。
最上位クラスなら、せめてブロックの決勝まで勝ち進んで当然だよね・・・」
「・・・言うな、ユーリ」
共に準決勝で敗北したガージュとユーリ。
相手が悪かったと納得してはいるものの、それでも決勝まで進めなかったのは悔しいらしい。
みっともない試合をしたつもりは無く、事実教師の間での評価はとても高い。
最上位クラスの生徒全員に言える事だが、今年の最上位クラスは例年に無く優秀と言われているのだ。
「ガドも惜しかったな」
「むぅ」
「ユミも凄ぇな」
「へへ~」
決勝でレキと戦えた事に満足したのか、それとも勝敗は二の次なのか。
ガージュやユーリとは違い、すっきりとした表情のカルクである。
表情の読めない、だがどこか悔しそうなガドを慰めつつも、そのガドに勝利したユミを讃えた。
皆全力を尽くして戦った。
卑怯な真似など誰もしていない。
試合の結果は実力によるもの。
そこに異論を付ける者は無く、あるのは勝利の喜びと敗北の悔しさだけ。
勝者は胸を張り、今後も勝ち続ける為いっそうの鍛錬を己に課し、敗者は今回の結果を胸に次は勝利する為鍛錬を重ねる。
そうして皆、強くなっていくのだ。
「さて、次は準決勝です。
レキ様、ユミさん、ミームさん。
準備はよろしいですか」
「「うんっ!」」
「ええ!」
勝利した四名は、さらなる勝負の為準決勝が行われる第一武術場の控室へと向かう。
「ルミ、頑張るのじゃぞ!
ユミもミームもじゃ。
皆頑張るのじゃ!」
「レキ、負けんなっ!」
「そうだ、男子は貴様だけだ。
意地を見せろ!」
「油断だけはしないようにね。
いや、大丈夫だろうけど」
「むっ!」
「皆さん頑張ってください!」
残った者は試合へと向かう者達に声援を送った。
四人は仲間であり友人であるが、同じ最上位クラスの代表でもある。
敗北は悔しいが負けて後悔は無く、むしろ誇らしいくらいだ。
これから行われるのは各ブロックを勝ち抜いた者達による準決勝。
そして、後日行われる武闘祭本戦の出場者を決める、一年生の代表決定戦でもある。
更に本戦に勝利した暁には、翌月行われる六学園合同大武闘祭のフロイオニア学園の代表になれるのだ。
「ふ~ん」
「へ~」
「うわぁ~」
「・・・はぁ」
事の重要さが分かっているのはユミとルミニアの二人。
レキとミームに分かるのは、なんか凄いというくらいだった。
もちろん勝負となれば負けるつもりはない。
一年生最強、学園最強、更には全学園の覇者になれるとなれば・・・。
「あたしはレキに勝てればいいけどね」
「俺も負けないよ」
あまり関係なく、それでも気合は十分のようだ。
――――――――――
そうして始まる準決勝。
これまで勝ち残ってきた四名が第一武術場に集い、くじ引きによって対戦相手を決定する。
「赤ブロック勝者、最上位クラス所属、ルミニア=イオシス」
「はい」
「青ブロック勝者、最上位クラス所属、ミーム=ギ」
「はい!」
「黄ブロック勝者、最上位クラス所属、ユミ」
「はいっ!」
「緑ブロック勝者、最上位クラス所属、レキ」
「はいっ!」
名を呼ばれ、レキ達が順にくじを引いていく。
一年生の生徒全員が見守る中、対戦相手が決まった。
「第一試合、ユミ対ミーム=ギ。
第二試合、ルミニア=イオシス対レキ」
『お~っ!』
試合に出場した者も出来なかった者も、直接剣を交えた者はその身をもって、戦う事無く敗退した者も己を負かした者を通じてレキ達の実力は理解しているつもりだ。
ただ、誰が一番かと問われて答えられる者は少なかった。
「ふむ、ルミは苦しいのう」
「はい、ですがルミニアさんならあるいは・・・」
分かるのは、毎日手合わせしている最上位クラスの生徒だけ。
だが、そんなフラン達も確実な事は何も言えなかった。
レキは身体強化を禁止されており、実力の半分も出せない為、万が一がありうるかも知れないのだ。
「レキにゃ関係ねぇだろ」
「うん、レキは剣術だけでも十分強い。
魔術の行使速度も随一だし、簡単には負けないさ」
とはいえ、身体強化無しでも王国最強の騎士である騎士団長ガレムと互角に渡り合うレキである。
剣姫と称される王国随一の剣の使い手ミリスから指南を受けていたレキは、身体強化に頼らずとも十二分に強い。
魔術に至っては、そもそも無詠唱魔術はレキが王国にもたらしたようなもの。
膨大な魔力に任せ、呪文を詠唱する事なく魔術が放ててしまう為、発動に必要な呪文を唱える必要も、魔力を練る必要もない。
最初の頃はそれでも掛け声のようなものを発していたが、今なら思い一つで魔術を放つ事が出来る。
身体能力、剣技、魔術。
最上位クラス一番の使い手であるレキは、実力なら学園どころか王国、いやこの世界最強なのだ。
「でもルミなら・・・」
「そ、そうですよ。
ルミニアさんならきっと」
つい先ほど、赤ブロックの決勝でルミニアと戦ったファラスアルム。
負けはしたものの、本人的は満足のいく試合だった。
実力差を戦術で補う。
それこそが、格下の者が勝利する為に必要な事。
幸いにして(?)レキの頭はあまり芳しくない。
ファラスアルムと座学で競い合えるルミニアなら、あるいは一矢報いる事が出来るかも知れない。
「おっ、始まるみてぇだぜ」
「ふむ、最初はミームとユミか・・・」
レキとルミニアの試合も気にはなるが、ミームとユミの試合も大事である。
単純に考えればミームが勝つだろう。
魔術こそ使えないが、その分ミームの身体能力は高い。
無詠唱魔術が扱えるとは言え、発動速度がそれほど速くないユミとしては、魔術に頼ってしまえばその分隙を晒す事になってしまう。
距離を取って戦うという手段も無くはないが、ミームの突進力はユミより高く、距離を取るつもりが逆に追い詰められる可能性が高い。
有利な点と言えば武器のリーチ。
だがそれも、ミームにとってはいつもの事。
やはりこの試合、ユミの勝ち目は低い。
「では一年生代表決定戦第一試合、ユミ対ミーム=ギ・・・始めっ!」
「やあっ!」
「うりゃあ!」
皆の見守る中、ユミとミームの試合は長剣と小手との激しいぶつかり合いから始まった。
――――――――――
「てぇい!」
「なんっのっ!」
「うりゃあ!」
「うっく!」
ガキンッ!ガキンッ!と。
金属が激しくぶつかる音が武術場に鳴り響く。
ユミの長剣を小手で防ぎ、その隙を縫って拳や脚を繰り出すミーム。
リーチを上手く使いつつ、ユミもミームの攻撃を長剣で防ぎ続ける。
長剣を上手く生かしたユミの剣術。
大剣より軽く、それでいて威力の高い長剣による攻めをかいくぐるには、ミームの俊敏さをもってしても難しかった。
「む!」
「ん?
おお、そういや似てるな」
「うにゃ?」
二人の戦いを見守っていたガドがふと呟いた。
ユミの長剣による防御は、どことなく自分に似ていると。
言われてみれば確かに、ユミの長剣による防御はどこかガドの斧を彷彿とさせた。
入学直後の試合で敗北し、以降はガドとレキの勧めで長剣に持ち替えたユミ。
大剣が自分に合わないという事実を素直に受け入れたのは、ガドの防御を崩せなかったからだ。
だからこそ、ユミはガドの斧による防御をかいくぐる事を一つの目標に、今日まで鍛錬を続けてきた。
ガドの斧さばきは、同時にユミの手本でもあったのだ。
大剣では真似できなかった武器による防御。
長剣という、ユミが振るうに適した武器だからこそ無しえた攻防一体の剣術。
「うりゃあ!」
「なんのっ!」
ガキンッ!
また一つ甲高い音が響いた。
ユミの長剣による剣技。
その隙を見いだせず、ミームはむしろ押され気味だった。
フランとの戦いはお互い近い間合いによる打ち合いである。
ルミニアはユミ以上の間合いからの攻撃だが、槍の特性上どうしても直線的な攻撃が多く、攻撃を避けるのはそれなりに難しいが半年も戦っていればタイミングも掴める。
最近になって勝ち星が増えてきた理由も、単純にフランやルミニアとの模擬戦に慣れたからだ。
こと戦闘における学習能力は、獣人であるミームは他種族より高い。
強くなる事に貪欲で、相手がレキだろうとも諦めない。
実力の伸びは最上位クラスでも一番だろう。
だが、その学習能力の高さも慣れも、普段からあまり手合わせしていないユミには効果を発揮していなかった。
ユミとミームでは実力差があった。
より強い相手との戦いを望むミームとしては、ユミは、正直あまり戦っても楽しくない相手だった。
望まれれば喜んで手合わせするが、それよりも実力の近いフランやルミニア、圧倒的な強者のレキと戦った方が楽しいのである。
ユミはユミで、鍛錬こそ真面目にやってはいるものの、そこにあるのはただ強くなりたいという想い。
誰かに勝ちたいというものではない。
何もできなかった、ただ助けられるだけだった弱い自分を変えたいという想いと、それを恩人であるレキに見せたいと言う想いだ。
負けて悔しいという気持ちはある。
絶対に勝ちたいというほどではないが、負けたままでいるのは弱い自分のままでいるようなもの。
レキに会い、レキに救われた以上、せめてレキに認めてもらえるくらいには強くなりたい。
その想いが、ユミを強くしている。
「たあっ!」
「っとお!」
ギャリリッ!と。
ユミの長剣とミームの小手がこすり合い、火花を散らした。
先ほどからユミが攻め、ミームが防ぐという攻防が続いている。
「おいおい、これもしかすると・・・」
「ああ、ユミが勝つかも知れないな」
長剣のリーチを崩せず、いまいち攻めきれないミーム。
はたから見れば優勢なのはユミだろう。
だが・・・
「ん~、どうじゃろうな」
フランは違う感想を抱いていた。
そして、同じ感想を抱いたのが他にも二人。
「ん~、ミームだからなぁ・・・」
「ミームさんならきっと」
次の試合に出る為、控室で待機しているレキとルミニアである。
この三名に共通しているのは、ミームとの戦闘回数が多いという点である。
フランはライバルとして、ルミニアはレキとの対戦をかけて、そしてレキは毎朝の手合わせで。
それぞれ数えきれないほどミームと戦っており、だからこそミームの特性、学習能力の高さを知っていた。
ギャリッ!
最初こそ小手で受け止めていたユミの剣を、ミームが表面を滑らせるように受け流した。
受け止めてしまえば反動で剣を引き戻されてしまうが、受け流せば振るった者の体も流され、体勢も崩れる。
今はまだ上手く流せず、小手の表面を削るように反らすのがやっとだが、それでも振るった直後の隙が次第に大きくなっているようにレキ達には見えた。
ギリリッ!
「あっ!」
「やったっ!
今っ!」
何度目かの攻防。
ユミの振るった長剣がミームの小手を滑るように流された。
元々体全体で剣を振るっていたユミである。
受け流されればそれは大きな隙となった。
「はあっ!」
「あうっ!」
剣を受け流し、崩れた体勢の隙をついて懐に潜り込んだミームの渾身の一撃がユミの体を捉えた。
何とか剣を引き戻さんと無理な体勢で踏ん張っていたユミは、ミームの一撃を避ける事が出来ずまともに食らってしまった。
「それまで!
勝者、ミーム=ギ」
「はあっ、はあっ、はあっ・・・やったっ!」
「うぅ・・・負けちゃった」
一年生代表決定戦、その準決勝第一試合はミームが勝利した。




