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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十二章:学園~武闘祭・予選~一年生の部~
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第245話:ファラスアルムの戦い

黄ブロックのユミと緑ブロックのカルクの試合後、赤ブロックの二戦目ではルミニアが、青ブロックではユーリが出場し、どちらも危なげなく勝利した。

続く黄ブロックの三戦目ではガドが堅実に勝利をおさめ、そして緑ブロックでも。


「・・・勝った」


ガージュが武舞台上で感慨深く呟いた。


入学直後に行われた模擬戦で、ルミニア相手に無様を晒したガージュ。

それまで自分が習ってきた武術は何だったのか?と悩んだりもしたが、その後真面目に鍛錬を積んだ結果、彼も最上位クラスにふさわしい実力を身に付けていた。

ガージュの対戦相手は上位クラス四番手のカタル=ザイン。

一年生全体で見てもそれなりに強い相手だった。

試合内容も最上位クラスの名にふさわしいものだったという。


そして四戦目。

赤ブロックでは、いよいよファラスアルムが初戦に挑む。

この学園で出会った友人と共に、今日まで武術も魔術も一生懸命頑張ってきたファラスアルム。

生来の気弱な性格も手伝ってか、どれだけ強くなろうとも戦う事は好きになれなかった。


もちろん命がかかっているような状況下では全力で抗うだろう。

友人達の命がかかっている状況なら尚更だ。

野外演習の際に見せた奮闘は偽りではない。


だが、そうでない場合は出来るだけ戦いを避けたいと思ってしまう。

そんなファラスアルムではあったが、武闘祭が全員参加であり、更には一年生の評価にも大きくかかわるとあれば、嫌でも出場しなければならなかった。


模擬戦用の杖を両手で持ち、ファラスアルムが武舞台に上がる。

彼女の膝は、戦う前から既に震えていた・・・。


「ファラさん、頑張ってください!」

「ははは、はいぃっ!」


武舞台の下から声援を送るルミニアに、ファラスアルムが緊張しつつ応える。

心の中は今すぐにでも武舞台から降りたい気持ちでいっぱいだった。


「八番、最上位クラス所属、ファラスアルム」

「はははは、はいぃ!」

「九番、上位クラス所属、ライ=ジ」

「おう!」


ファラスアルムの対戦相手は上位クラスの男子生徒。


やる気に満ちた目。

手に持つのは小型の片手斧。

何よりも特徴的なのは、頭の上に生えた三角の耳。

虎の特徴を宿した、ミーム同様獣人族の生徒である。


「あうぅ・・・」

「けっ、なんだ。

 ひょろっこい森人かよ」

「うぅ・・・」


ファラスアルムをじっと見て、獣人の少年ライ=ジはにやりと口角を挙げた。


森人と獣人。

両種族は対立こそしていないもののいろんな意味で相性が良くない。


魔術に頼らず武を磨いてきた獣人と、武よりも魔術を重んじてきた森人。

広い平原で狩りを中心に生活を営む獣人と、広大な森の中自然と共存している森人。

力が全て、国王すら武力を用いて決定する獣人と、力より知識を重んじ、争いを避ける傾向にある森人。


国や文化すら真逆と言える両種族。

当然、その戦い方も真逆となる。


そもそも魔術が不得手な獣人は、身体能力を魔力によって強化した近接戦闘を得意とし、魔術に長ける森人は距離を取った上で魔術を放つ戦いを得意としている。

もちろん例外もあるが、基本的にはそれが両種族の戦い方である。


試合は当然、どちらが己の得意とする戦いに持ち込めるかで決まるだろう。


「へっ、森人なんざ後ろで魔術撃つしか能がねぇじゃねぇか。

 オレ様の敵じゃねぇぜ」

「うぅぅ・・・」


それを理解しているらしいライ=ジがファラスアルムを挑発する。

己が得意とする戦いに持ち込む為、己のペースに相手を引き込もうとしているのだろう。

獣人の本能が、それを理解しているのかも知れない。


「ファラさん。

 落ち着いてください。

 相手は上位クラス、ミームさんより弱いですよ」

「そ、そう言われ「んだとっ!」ひぅ!」


見るからに緊張しているファラスアルムである。

これでは実力を発揮する前に倒されてしまいかねない。

そう危惧したルミニアが何とかファラスアルムを落ち着かせようと声をかけたが、その言葉にむしろライ=ジの方が強く反応した。


「おい、そこの女!」

「なんでしょう?」

「オレが誰より弱いって!?」

「私達と同じ最上位クラスのミーム=ギさんです。

 狼人族の女性で、確か同年代の方でミームさんに勝てる方はいないそうですよ?」

「ミーム・・・だと?」

「ええ」


反応し、声をかけてきたライ=ジにルミニアが平然と応えた。

同じ最上位クラスに所属するミームはライ=ジと同じ獣人であり、所属するクラスからも分かる通り実力的にはミームの方が上である。

入学試験の結果でクラス分けが行われている事と、加えてミームの魔術や座学の(残念な)成績から考えれば間違いはないはずだ。


そもそもミームが純人族の国にあるフロイオニア学園に来たのも、同年代の獣人で自分に勝てる子供がいないからという理由だった。

ミームとライ=ジの関係は分からないが、ミームの言葉が真実なら、ライ=ジはミームより弱いという事になる。


そんなルミニアの予想は当たっていたらしい、ミームの名を聞いたライ=ジが苦い物を噛んだような表情をした。


「ふふっ、その顔を見るにあなたもミームさんには勝てなかったのですね」

「う、うるせぇ!

 それはココに来る前の話だ!

 今ならオレの方が強ぇ!」

「そうでしょうか?」


この半年でライ=ジも強くなったのだろう。

だが、ミームはそれ以上に強くなった。

何故なら。


「ミームさんはもっと強くなりましたよ。

 だって私やフラン様、それにレキ様と毎日のように鍛錬しているのですから」

「あん?」

「それに、ファラさんだって」

「あうぅ・・・」


強くなったのはライ=ジだけではない。

ミームやフラン、ルミニアはもとより、ユミやカルク、ガドやユーリ、ガージュまでもが入学当初よりはるかに実力を伸ばしている。

それはファラスアルムも同じだ。


「へっ、所詮は森人だろうが。

 森人はおとなしく森に籠ってりゃいいんだ」


それでもライ=ジからすれば森人は所詮森人。

どれほど鍛錬を重ねようと、身体能力で勝る獣人の敵ではない。

そんな固定観念があるのだろう。


例えば、同じく森人である宮廷魔術士長フィルニイリスが、身体強化と杖術の組み合わせでミームを圧倒した事があったとしても。

それを知らないライ=ジは、こと武術で森人に負けるはずがないと、そう思い込んでいるのだ。


「いいか、こいつに勝ったら次はてめぇだ。

 首を洗って待ってろ!」

「ええ、その時は全力でお相手します」


そう笑顔で応えたルミニアに、ライ=ジはケッと顔を反らした。


「ということでファラさん。

 彼はミームさんより弱いそうですよ」

「は、はい」

「でしたら、レキ様や私達と手合わせしているファラさんなら勝てます。

 自信を持ってください」

「は、はい」


返事はしたものの、ファラスアルムに自信など欠片も無い。

武術の模擬戦では、今のところ最上位クラスの誰にも勝った事が無いからだ。


レキ、ルミニア、フラン、ミーム。

最上位クラスの中でもこの四名の実力は抜きんでている。

武器を変えたユミがそれに続き、カルクとユーリがしのぎを削り、ガドとガージュが追いかける形である。

ファラスアルムはその遥か後方、皆の走りをヒーヒー言いながら必死でついて行っているようなものだ。


「大丈夫です。

 どれほど強くともレキ様より強い方などおりません。

 レキ様の攻撃を防いだ事のあるファラさんなら、彼の攻撃を避けるくらい造作もありませんよ」

「で、でも・・・」


レキの攻撃を避けたのは偶然である。

手加減に手加減を重ねたレキの攻撃が、ファラスアルムが付きだした杖によって軌道が変わり、結果当たらなかっただけの話。

だが、ファラスアルムがレキの攻撃に合わせて杖を突きだしたのは事実で、それが正しくレキの方へ向けられたのも事実。

その攻撃をファラスアルムが狙ってやった事もまた、事実である。


「もういいか?

 では、始めっ!」

「うっしゃ!

 行くぞコラッ!」

「は、はいっ!」


手に持った斧を振りかぶり、ライ=ジがファラスアルムに飛び掛かる。

一年生の中ではそれなりに速いが、レキやミーム、フランと比べれば圧倒的に遅い。


「・・・はっ!」

「なにっ!」


だからこそ、ファラスアルムの魔術が間に合う。

一瞬の溜めの後、無詠唱で放たれたルエ・ボールがライ=ジの足に当たった。

上位クラスではまだ誰も扱えない無詠唱魔術に、無防備に接近していたライ=ジは驚きと衝撃でその動きを止める。


「やあっ!」

「うぐあっ!」


そこにファラスアルムの追撃の魔術が迫る。

殺傷力こそ低いルエ・ボールだが、まともに当たれは衝撃はそれなりに大きい。

油断もあったのだろう、ライ=ジが衝撃に持っていた斧を落とした。


その隙を逃さず、ファラスアルムが距離を詰める。

身体強化を施し、一足飛びで距離を詰め、構えた杖を突きだした。


「やあっ!」


毎日の鍛錬で身に着けた杖での攻撃。

魔術で隙を作り、魔力で身体を強化しての一撃は、フランですらかわすのが精一杯だった程。

ライ=ジに避けられるはずもない。


「がふっ!」


ファラスアルムの杖を腹に受け、ライ=ジはその場で膝を着いた。


「それまで!

 勝者、ファラスアルム」


審判が宣言する。

ファラスアルムは、見事初戦を突破した。

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