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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十一章:学園~レキと学園の子供たち~
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第236話:集う貴族達

光の祝祭日、その前後十五日は学園は休みである。

祝祭日を家族で過ごす為、あるいは王都や各領地で行われる宴に参加する為、多くの生徒達が学園を出て故郷の村や街、あるいは王都で過ごす。

この前後十五日を「祝祭日の休暇」と学園では呼んでいる。


レキ達は祝祭日の休暇が始まったその日の内に学園を出ている。

フランやルミニアが急かしたというのもあるが、リーニャやミリスと言った王都からの迎えが既に来ていたというのもその理由だ。

誰もがフラン達の戻るのを待ち遠しく思っている、という事なのだろう。


アランやその友人達もそれに便乗した形だが、昨年もアランは祝祭日の休暇初日に学園を出ている為、いつもどおりとも言えた。


他の貴族の子供達も、基本的には祝祭日の休暇が始まってすぐ学園を出ている。

自領に戻って過ごす者もいるが、王都で行われる祝祭日の宴に参加する生徒も多い。

一度自領に戻り家族と再会してから王都へ向かう者、道中で合流してから共に向かう者、そしてルミニアのように王都で再会する者など様々。

レキ達のクラスメイトであるガージュとユーリの二人もまた、途中で合流し、家族と共に王都へ向かっている。


平民の子供の場合、祝祭日の休暇中に故郷へ戻る生徒は戻り、出来ない、もしくは戻らない生徒はおとなしく学園で過ごしている。

カルクやガドは後者、自らの意志で学園に残った生徒である。


あるいは友人に誘われ、その者の家に招かれるというケースも無くはない。

ユミ、ミーム、ファラスアルムなどがその例だろう。


王宮の侍女達のフォローもあり、また一緒に来た生徒達、特にアランと同じ三年生の生徒達も何かと気を使ってくれた為、ユミ達も王宮で何不自由なく過ごす事が出来ている。


レキ達が王宮に来て二日目。

宴の日まで十日というところで、王国の貴族達も王都へ集まり始めた。


宴の日まではまだ数日ある。

ユミ達のように王宮で過ごせる者など普通はおらず、大半は王都にある別宅か高級な宿にて過ごしている。

ユミがお世話になっているエラス領領主の姿は今日もなく、おそらくは宴の日ギリギリにならないと来ないだろうというのがユミの見解だった。

エラス領と王都までの距離もさることながら、領主に貴族としての自覚が足りていないと言うのがその理由だった。


そんなエラス領領主の代わりと言っては何だが、本日王宮にて顔を見せた貴族の中には、レキ達も見知った顔がちらほらといた。


「あっ、ガージュにユーリだ」

「やあ、レキ。

 遅くなったがようやく到着したよ」

「ふん。

 僕は挨拶などいらないと思ったのだが、ユーリがどうしてもというからだな」

「どうせ宴の間はろくに挨拶できないんだから、今のうちにしておいた方がいいだろう?」


デイルガ伯爵家の嫡男であるガージュは、この光の祝祭日の宴には毎年参加している。

レキ達と初めて会ったのも、この宴なのだ。


「あ、あの時はその・・・悪かったな」

「?」

「父上にはフラン様と仲良くなれとは言われていたが、レキの事は聞いていなかったんだ。

 レキがフラン様を救ったと知っていれば、当然感謝したさ」

「なんの事?」


二年前、宴の席でフランに近づこうとし、レキに追い払われたガージュ。

まだ爵位など良く分かっていなかった頃である。


伯爵家の嫡男である自分を無視する者など今までおらず、自分こそがこの世界で一番偉い存在だろうとすら思っていた。

伯爵家より貴族位の高い公爵家のルミニア、そして貴族社会のトップである王族フランに対し、勘違いしたまま尊大な態度を隠さず近づき、素気無くされた思い出。

あの頃を思い出せば、まさに顔から火が出る思いのガージュである。


幸か不幸か、レキはその事を覚えていないようだが・・・。


「くっ・・・いや、覚えていないならいい」


それはそれで思うところはあるが、忘れていてくれた方が都合が良いのも確かで、複雑な心境のガージュだった。


「ははっ、まぁ良かったじゃない。

 今はちゃんと仲良くなれたんだし」

「な、仲良くなどっ!」

「そう?

 野外演習でも協力し合ったし、この間なんか一緒に鍛錬したじゃないか」

「あ、あれは・・・いや、そうだな」


野外演習は学園の行事である。

参加は強制、協力し合う事も野外演習の目的の一つだった。

野営の支度などした事のないガージュは、レキ達がいなければ食事にすらありつけなかっただろう。

もちろんガージュだって何かと協力している。

施しをただ受けるなど、ガージュのプライドが許さなかったのだ。


レキが下男や使用人であれば、あるいは学園の理念を無視し平民だと下に見ていたのなら、遠慮なく顎で使えただろう。

フランやルミニアが許すとは思えないが、ガージュのちっぽけなプライドは満たされていたかも知れない。


「学園の理念もそうだが、レキはフラン様やルミニア=イオシスの恩人なのだ。

 下に見るわけにはいかなかったんだ」


二年前のガージュなら間違いなくそうしたかも知れない。

だが、学園に来てからと言うもの、良くも悪くもガージュの価値観も変わってきている。

伯爵家より上がいる事もそうだが、それ以上にレキという存在をガージュもひそかに認めているのだ。


ガージュも強いつもりだった。


今思えば、伯爵家が雇った指南役の称賛は中身のないただのお世辞だった。

剣では勝てず、魔術に至っては無詠唱で行使するレキ達に驚愕し、最初こそ嫉妬もした。

毎日欠かさず鍛錬するレキを見て、レキ達の力が決して才能のみに頼ったものではない事を知ったガージュは、今では密かに尊敬するようにすらなっている。


「大体一人でゴブリンを殲滅するような奴に歯向かっても意味はないだろう」

「ははっ。

 まぁそういう事にしておこう」


もちろんそんな事口が裂けても言わないが。


ただ敵対するより友好を選んだだけだと言うガージュ。

ユーリには何となく見透かされているようだが。


「ふん、挨拶も済んだ。

 僕はもう戻るぞ」

「あぁそうだね。

 僕も戻ろう」

「えっ、もう行っちゃうの?」

「お前と違って僕は忙しいんだ」

「まぁ家の付き合いって奴だね。

 目的も済んだし・・・あまり良い気はしないけどね」

「?」


首をかしげるレキに手を振り、ガージュとユーリはそろって鍛錬場を出ていった。


「ああ、そういう事ですか」

「にゃ?」


遅れて鍛錬場にやってきたルミニアが、苦笑交じりに教えてくれた。


「フラン様やレキ様と仲良くやっているのを、周りに見せつける必要があったのでしょう」

「へ?」

「にゃ?」

「折角フラン様と同じ最上位クラスに入れたのですから、当主としては子供を通じてお近づきになりたいのですよ」

「さっきはフランいなかったよ?」

「レキ様だって十分お近づきになりたい相手ですよ?

 フラン様や私の恩人ですし、陛下の覚えもよく、騎士団長ガレム様よりお強いのですから」


レキとフラン、ルミニアの仲の良さはほとんどの貴族に知れ渡っている。

レキと仲良くなれば、それだけフラン、ルミニアともお近づきになれる事くらい、どの貴族も理解しているのだ。


「お二人はそれが不満だったようですけどね」

「不満?」

「はい、ユーリ様は御家とは関係なくレキ様と仲良くなりましたし、ガージュ様もどうやら御当主とは別の考えをお持ちの様ですから」

「ふ~ん」


以前、学園寮で目撃したガージュととある女生徒との逢引。

彼女がただの侍女であれば、あんな風にこそこそと会いに行く必要はないだろう。

ガージュの性格からしても、堂々と呼びつけそうなものだ。


それをしないのは、きっと二人の関係を隠しておきたいから。

学園にも、そして家にも・・・。

ルミニアはそう考えていた。


フランやルミニアと仲良くしろという家の命令は、要するに王族や公爵家と繋がりを持てという事である。

ガージュが家を継いだ時に、王族や公爵家の娘と仲が良いという事実はデイルガ伯爵家に様々な恩恵をもたらす事だろう。

三男で家を継がないユーリとてサルクト子爵家の子供である事に変わりはない。

将来家を出る事になったとしても、サルクト家の子供がフランやルミニアと仲が良いという事実があれば十分なのだ。


先ほどのレキとのやり取りは、そのフランやルミニアの恩人であるレキと上手くやっているのだと、家の者や他家の者達へのアピールだったのだろう。

本来ならそのまま仲良く歓談でもすれば良いのだが、それをしなかったのは本人達がそういった政治的なパフォーマンスを拒んだから。

家の思惑とは無関係に、自分達はレキ達と友人であると思っているからだろう。


ガージュが不機嫌だったのは、それをレキ達に悟られるのが嫌だったからだ。


「ふ~ん、まぁいいや」

「うむ、仲が良いのは良い事じゃな」


レキとフラン。

共に大きな力を持つ二人だが、その性根は実に純粋である。

将来的には汚い大人の世界に巻き込まれるだろう二人。

だからこそ、せめて学生の間は純粋に楽しんでほしい。


同い年ながら公爵家の娘としての自覚を持つルミニアは、そう願わずにはいられなかった。

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